エンジニアリング・ウッド集成材の特徴と建築活用

エンジニアリング・ウッド集成材の特徴と建築活用

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エンジニアリング・ウッド集成材の基本知識

エンジニアリング・ウッド集成材の概要
🏗️
高強度化技術

科学的手法により木材の強度を無垢材の1.5倍まで向上

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寸法安定性

含水率15%以下の管理により反り・割れを防止

🌿
環境配慮

廃材活用により森林資源の有効利用を実現

エンジニアリング・ウッド集成材の定義と製造工程

エンジニアリング・ウッド集成材は、木材を原材料として工場で二次加工された木質材料のうち、設計段階で所定の要求水準を満たすように強度特性が計算され、完成した製品が所定の試験によって要求水準を満たしていることが保証された木材製品です。構造用木質材料やエンジニアードウッド(EWP)とも呼ばれます。

 

製造工程では、まず丸太をカットして「ひき板(ラミナ)」を作成します。この工程が集成材の品質を決定する重要な要素となります。ひき板は50~60日かけて天日乾燥を行い、含水率を半分に下げた後、人工乾燥により11~14%まで乾燥させます。この徹底した乾燥管理により、従来の無垢材で問題となっていた反りや狂い、割れの発生を大幅に抑制できます。

 

乾燥後のひき板は、大節や割れ、腐れといった欠点を除去し、1枚1枚の剛性を測定します。この品質管理プロセスにより、強度が大きくなる張り合わせ方で接着されます。接着には特別な接着剤(レゾルシノールイソシアネート)を用い、JAS(日本農林規格)で厳格にチェックされた製品のみが構造用集成材として認定を受けます。

 

集成材の歴史は古く、1901年にスイスで製造特許が取られ、構造材としてヨーロッパに広まりました。日本では1960年代から本格的な普及が始まり、1987年に「燃えにくい木」として認定を受け、エンジニアリング・ウッドとして復活しています。

 

エンジニアリング・ウッド集成材の強度特性と性能

エンジニアリング・ウッドの主たる特長は、非常に安定性が高く、通常の製材に比べて構造強度が非常に高いことです。集成材は平均して無垢材の1.5倍の強度を発揮し、木材の欠点を除去して工業的に作られるため、強さや寸法精度、狂い等の品質にバラツキがありません。

 

耐火性能においても優れた特性を示します。表面の木材は燃えますが、断面が大きくなると表面は焦げて炭化層ができ、内側への酸素の供給が絶たれるため、内部は燃えにくくなります。この特性により、内部の強度は維持され、構造上の必要な強度を保持できます。建築基準法令でも集成材の防火性能が認められています。

 

興味深いことに、無垢の杉材でも引っ張り強度で鉄の4倍、圧縮強度でコンクリートの約5倍もあることから、エンジニアリング・ウッドの建築物は鉄骨造RC造に比べ大幅に軽量化できます。地震による破壊力は建物の重量に比例するため、軽量化は耐震性という面でも大きな効果を発揮します。

 

さらに、熱伝導率の低さによる断熱保温性や抜群の音響効果、空中湿度の高い時には水分を吸収し乾燥期に蓄えていた水分を放出する「調湿機能」を持っており、これらの特性は無垢の木と変わりません。

 

エンジニアリング・ウッド集成材の種類と用途分類

エンジニアリング・ウッドには多様な種類があり、それぞれ異なる特性と用途を持ちます。主要な種類として以下が挙げられます。
構造用集成材
挽き板を繊維方向を平行に重ね合わせたもので、柱や梁などの構造材として使用されます。見目の美しさを持ち、内装材としても活用できます。

 

LVL(単板積層材)
単板(ベニヤ)材料を全て並行に接着したもので、集成材に比べ強度が高く、構造材などに用いられます。一枚板の木材の節や割れ、反りなどの欠点を補うために開発された素材です。

 

CLT(直交集成材)
繊維方向を交互に重ね合わせて強度を保った材料で、比較的新しい材質であり、従来型のものよりも費用が高い傾向にあります。

 

合板
単板材料を直交方向に接着したもので、層によって繊維方向が異なるため、寸法安定性が高まり、反りを抑えます。

 

OSB(配向性ストランドボード
木片が大きく密度が荒く見えますが、強度の出る方向性に沿って圧縮されているため耐久性を誇ります。

 

これらのエンジニアリング・ウッドの用途は多岐にわたり、橋や高層ビルといった耐久の要される場面でも昨今では用いられるようになってきました。

 

エンジニアリング・ウッド集成材の施工メリット

大規模木造建築におけるエンジニアリング・ウッド集成材の施工メリットは数多く存在します。まず、断面の形状と寸法を自由に作れることが大きな特徴です。長大材やアーチ材など任意のデザインでも施工しやすく、アメリカのワシントン州タコマにある多目的ドームは、高さが45.7m、直径が161.5mにもなる大規模な木造建築物として実現されています。

 

集成材構法では、梁受金物やホールダウンパイプなどをプレカット会社で取付け、現場搬入するのが一般的です。現場では躯体を組み上げ、ドリフトピン等を打つだけの作業なので、躯体施工の工期を短縮できます。この工法により、従来の木造建築と比較して大幅な工期短縮が可能となります。

 

施工精度の向上も重要なメリットです。集成材構法では、柱脚金物と接合するアンカーボルトの施工精度が求められますが、基礎とアンカーボルトが柱脚金物としっかりと固定されることで、構造躯体も精度よく施工でき、施工品質が向上します。

 

大規模木造を計画する際に、建物規模やスパンにより部材断面が大きくなると、構造材の乾燥による割れや収縮が顕著になります。そのため寸法安定性に優れた構造用集成材やLVL(単板積層材)などのエンジニアリング・ウッドを用いることが基本となっており、これにより長期間にわたって安定した構造性能を維持できます。

 

環境面でのメリットも見逃せません。廃材などが材料として用いられ、エコであるとも言えます。製造過程で排出される廃棄物も少なく、再利用が可能であり、森林資源の保護や環境負荷の低減に貢献します。

 

エンジニアリング・ウッド集成材のコスト効率性分析

エンジニアリング・ウッド集成材のコスト効率性は、従来の建築材料と比較して独特の特徴を持ちます。初期投資の観点では、CLTなどの新しい材質は従来型のものよりも費用が高い傾向にありますが、ライフサイクルコストを考慮すると異なる評価となります。

 

製造段階でのコスト効率性は、原材料の有効活用にあります。無垢木材の場合、節や割れのある個所があると出荷できない、または値段に影響がありますが、加工木材はチップ状、ベニヤ状になったものを組み合わせるため、廃材や端材を用いての製造も行われています。これにより、木材資源の利用効率が大幅に向上し、原材料コストの削減につながります。

 

施工段階でのコスト削減効果は顕著です。プレカット加工により現場での加工作業が大幅に削減され、熟練工の必要性が減少します。また、工期短縮により人件費や仮設費用の削減が可能となります。特に大規模建築物では、この効果が顕著に現れます。

 

維持管理コストの面では、エンジニアリング・ウッド集成材の寸法安定性により、建物の歪みや変形による補修費用を削減できます。従来の無垢材では季節変化による収縮・膨張で発生していた問題が大幅に軽減されるため、長期的な維持管理費用の削減効果は無視できません。

 

興味深い分析として、エンジニアリング・ウッドの調湿機能による空調費用の削減効果があります。空中湿度の高い時には水分を吸収し、乾燥期に蓄えていた水分を放出する特性により、室内環境の快適性が向上し、空調設備の稼働時間短縮につながります。これは従来のコスト分析では見落とされがちな隠れたメリットといえるでしょう。

 

総合的には、初期投資が高くても、施工効率性、維持管理性、環境性能を含めたトータルコストでは、エンジニアリング・ウッド集成材は極めて競争力の高い建築材料として評価できます。