

リリーフ弁を「ただの安全部品」と思って設定圧力をそのままにすると、ある日突然、配管が破裂して工事が数日止まります。
リリーフ弁(Relief Valve)は、油圧回路の中で「圧力の上限を守る番人」として機能する圧力制御弁です。建設機械・土木機械の油圧ショベルや移動式クレーン、プレス機など、建築・建設の現場で使われる多くの機器に搭載されています。
油圧ポンプは回転している限り油を押し出し続けます。しかし、シリンダが動作端に達したり、回路のどこかが詰まったりすると、行き場を失った圧油の圧力がどんどん上昇します。何もしなければ配管や機器が破損します。そこでリリーフ弁が「設定圧力を超えたら油をタンクへ逃がす」という役割を担います。
リリーフ弁は油圧制御弁の一種です。油圧制御弁には大きく分けて3種類あります。
| 種類 | 役割 | 代表的な弁 |
|---|---|---|
| 圧力制御弁 | 油の力(圧力)を調整する | リリーフ弁、減圧弁、シーケンス弁 |
| 流量制御弁 | 油の量(流量)を調整する | 絞り弁、流量調整弁 |
| 方向制御弁 | 油の流れる方向を切り換える | 電磁弁、逆止弁 |
リリーフ弁はこの中の「圧力制御弁」に分類されます。圧力制御弁の中でも、リリーフ弁は「回路全体の最高圧力を設定する」という最も基本的かつ重要な役割を持っています。
移動式クレーンの油圧回路にはリリーフ弁が必ず使われており、設定圧はスプールを押し付けているスプリングの力を調整ねじで変えることで設定します。つまり構造を理解していれば、現場での簡単な圧力調整も自分でできるということですね。
参考:移動式クレーンの油圧回路とリリーフ弁の役割について詳しく解説されています。
油圧の豆知識(油圧装置の構成と作動の仕組み)| 盛和工業株式会社
直動型リリーフ弁は、最も基本的なリリーフ弁です。構造がシンプルで、ポペット(弁体)とスプリング(ばね)の2つが核となります。
通常状態では、スプリングの力がポペットを弁座に押し付けており、油の流れを完全に遮断しています。ポンプからの油圧がスプリングの設定力を下回っている間は、弁は閉じたままです。
圧力が上昇してスプリングの力を上回ると、ポペットが押し開かれます。油はOUT側(タンク側)へ逃げていき、回路圧力は設定値以上に上がらなくなります。圧力が下がれば、再びスプリングの力でポペットが閉じます。これがリリーフ弁の基本動作です。
設定圧力を変えたいときは、調整ハンドルを回してスプリングの縮み量(バネ荷重)を変えます。スプリングをより強く圧縮するほど、弁が開く圧力(設定圧)は高くなります。調整できるということが大切です。
直動型リリーフ弁の主な特徴をまとめると次のとおりです。
「チャタリング」とは、弁が高速でON・OFFを繰り返す現象です。ボールやシート面が摩耗して生じることもあり、「ガタガタ」と異音が出るのが特徴です。建設機械で異音が出たらリリーフ弁のチャタリングを疑う価値があります。
もう一点、「圧力オーバーライド」も注意が必要です。例えば7MPaに設定したつもりでも、流量を多くすると8MPaまで上がることがあります。直動型ではこの現象が出やすく、精密な圧力管理が必要な回路では課題になります。大流量回路には不向きということですね。
このため、直動型は主に少流量の回路や、他の弁(減圧弁・カウンターバランス弁)のパイロット部として使われることが多いです。
参考:直動型リリーフ弁の構造図解と圧力オーバーライドについて詳しく掲載されています。
【図解あり】リリーフ弁とは?直動型とパイロット作動型の違いと構造を解説|油圧基礎
パイロット作動型リリーフ弁(パイロット操作型とも呼ばれる)は、直動型を内包した二重構造になっています。大流量の回路でも安定した圧力制御ができるため、建設機械や油圧プレスなど本格的な設備に広く使われます。
構造は「主弁(メインバルブ)」と「パイロット部(直動型リリーフ弁)」の組み合わせです。パイロットという言葉は「操作する」という意味で使われています。つまり、「パイロット部が設定圧になったことを感知して、主弁を動かす」という二段構えの仕組みです。
動作の流れは以下のとおりです。
パイロット作動型の最大の強みは、圧力オーバーライド特性が直動型に比べて大幅に改善されていることです。大量の油を逃がしながらも、設定圧を安定的に保ちやすい構造になっています。
さらに「ベントポート」という外部操作用のポートが設けられており、ここを電磁弁などで制御することで2段階の圧力設定が可能になります。例えば、通常作業時は低圧、強力な掘削が必要な時は高圧という使い方ができます。これは使えそうです。
パイロット作動型リリーフ弁の特徴をまとめます。
なお、最近の建設機械では可変ポンプ(吐出量を自在に変えられるポンプ)が主流になってきており、その場合はリリーフ弁が不要なケースも増えています。ただし、固定ポンプ(回転中は常に一定量の油を吐き出すポンプ)を使う設備では、パイロット作動型リリーフ弁は依然として必須です。固定ポンプとリリーフ弁はセットで考えるのが原則です。
参考:ダイキン工業の油機事業部による圧力制御弁全般の解説ページ。直動型・パイロット型の動作図解が豊富です。
圧力制御弁 | よくわかる油圧講座 | ダイキン工業株式会社 油機事業部
現場では「安全弁」「逃し弁」「リリーフ弁」という言葉が混在して使われています。建築設備の担当者として、この3つの違いを正確に理解しておくことが重要です。意外ですね。
これらはいずれも「過圧保護装置」という点で共通していますが、厳密には用途や動作条件が異なります。
| 名称 | 対象流体 | 作動の特徴 | 主な用途 |
|---|---|---|---|
| 安全弁(Safety Valve) | 気体・蒸気 | 設定圧で瞬時に全開する「ポップ動作」 | ボイラー、高圧ガス設備、圧力容器 |
| 逃し弁(Relief Valve) | 主に液体 | 圧力上昇に比例してゆるやかに開く | 油圧回路、給水設備、温水設備 |
| リリーフ弁(Pressure Relief Valve) | 液体・気体両方 | 逃し弁と同義で使われることが多い | 油圧回路全般、建設機械、プレス機 |
ポイントは開弁動作の違いです。安全弁はいったん圧力が設定値に達すると急激に全開し、圧力が下がるまで開き続けます。一方、逃し弁・リリーフ弁は圧力変化に比例して開き、過剰分だけを逃がす動作をします。
建築設備の給湯器や給水装置に付いている「逃し弁」もこの原理で動作します。温水や給水圧が上がりすぎたとき、少量ずつ圧力を逃がして設備を守ります。それだけ守備範囲が広いということです。
現場で「安全弁が作動した」という場合、蒸気系統のトラブルを示すことが多く、「リリーフ弁が作動した」という場合は油圧系統や給水系統の過圧を示すことが多いです。言葉の違いが状況の違いを示すので、現場での報告にも正確な用語を使う意識が大切です。
参考:安全弁・逃し弁・リリーフ弁の違いが体系的に整理されています。
安全弁の仕組みを図解で解説!逃し弁・リリーフ弁との違いもまるわかり
リリーフ弁は「作動してはじめて異常を知る」装置ですが、実は日常的なメンテナンスを怠ると、いざというときに正しく動かないことがあります。これは見落とされがちな事実です。
現場で起きやすい代表的なトラブルとその原因・対策を整理しておきます。
| 症状 | 主な原因 | 対処法 |
|---|---|---|
| チャタリング(異音・振動) | 弁体・弁座の摩耗、スプリング疲労、設定圧が低すぎる | 弁体・スプリングの交換、設定圧の見直し |
| 常時リークする(油が漏れ続ける) | 弁座面の傷・異物噛み込み、スプリング弱化 | 分解清掃、シート研磨または部品交換 |
| 設定圧に達しても作動しない | スプリングの固着、ポペット固着、作動油の汚染 | 分解点検、作動油・フィルターの交換 |
| 設定圧を超えて圧力が上昇する | 圧力オーバーライド(直動型特有)、弁の選定ミス | パイロット作動型への変更、流量の見直し |
特に注意したいのが「作動油の汚染」です。作動油(油圧オイル)にゴミや水分が混入すると、チョーク(細孔)やポペット周りに異物が詰まり、正常な開閉ができなくなります。建設現場では土ぼこりや雨水が作動油タンクに混入するリスクがあります。フィルターの定期交換は必須です。
また、リリーフ弁の設定圧力を「ちょっと高めにすれば力が出るだろう」と安易に上げるのは危険です。設定圧力を機器の定格以上に上げると、配管や油圧シリンダ、ポンプそのものへの負荷が許容値を超え、最悪の場合は配管破裂につながります。設定圧の変更は仕様書の確認が条件です。
現場でできる簡易チェックとして、「圧力計を見ながら機器を動作端まで動かす」という方法があります。シリンダが動作端に達した際、油が行き場をなくしてリリーフ弁が作動するはずです。そのときの圧力計の読みが設定圧と合致しているか確認することで、弁の動作を間接的に検証できます。この確認方法は覚えておくと便利です。
なお、リリーフ弁の本格的な点検・交換にあたっては、住友精密工業など油圧機器メーカーが提供しているトラブルシューティングガイドや、機器ごとのサービスマニュアルを必ず参照してください。独自の判断だけで分解調整を行うと、設定が崩れてむしろ安全性が下がるリスクがあります。
参考:リリーフ弁の一般的な故障原因と対策が詳しくまとめられています。