酸性ガス一覧と種類と対策と腐食防止

酸性ガス一覧と種類と対策と腐食防止

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酸性ガス種類と対策

酸性ガスの基礎知識
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酸性ガスとは

水に溶解してイオン化し酸性を示すガス状物質の総称で、建築現場では多様な種類が発生します

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主な危険性

建材の腐食促進、作業者の呼吸器への健康被害、設備機器の劣化など複合的な影響を及ぼします

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対策の重要性

適切な換気と防毒マスクの使用により、作業環境の安全性を確保し建材の長寿命化を実現します

酸性ガス主要種類一覧と特性

建築現場で遭遇する酸性ガスには複数の種類があり、それぞれ異なる特性と危険性を持っています。代表的な酸性ガスとして、塩化水素ガス(HCl)、亜硫酸ガス(SO2)、三酸化硫黄ガス(SO3)、炭酸ガス(CO2)などが挙げられます。これらは水に溶解するとイオン化して酸性を示すガス状物質の総称です。
参考)酸性ガス(ごみ処理編・ごみ焼却施設) - 環境衛生施設維持管…

塩化水素は建築現場において特に注意が必要な酸性ガスの一つで、防毒マスクの吸収缶選定時には酸性ガス用(AG)またはハロゲン/酸性ガス用を使用する必要があります。硫化水素も酸性ガスに分類され、亜硫酸ガス/硫化水素用の吸収缶で対応可能です。二酸化硫黄(亜硫酸ガス)は短時間対応ガスとして塩化水素や二酸化窒素、フッ化水素などと共に管理されます。
参考)https://www.mask.co.jp/bodoku/bodoku001.htm

建築現場では、これらの酸性ガスが単独ではなく複合的に発生するケースも多く見られます。例えば、ハロゲン/酸性/亜硫酸ガス/硫化水素用の複合吸収缶が製品化されている事実からも、実際の現場で複数種類のガスが同時に発生する状況が一般的であることがわかります。酸性ガスの種類を正確に把握することは、適切な保護具の選択と作業環境の安全管理において極めて重要です。
参考)https://www.sts-japan.com/products/book/pdf/24.pdf

酸性ガス発生源と建築現場での発生メカニズム

建築現場における酸性ガスの発生源は多岐にわたり、作業内容や使用材料によって異なります。研究施設や実験室では塩酸、硫酸、酢酸などの酸性ガスが日常的に発生しますが、建築現場でも同様の状況が発生する可能性があります。
参考)酸性ガス除去・中和フィルター - TOGA

酸性雨や酸性雪の形成メカニズムは、建築現場での酸性ガス発生を理解する上で重要な参考になります。窒素酸化物や硫黄酸化物が積雪や降雨中に含まれると酸性雨や酸性雪になり、これらが亜鉛系めっき材料と直接接触すると腐食を引き起こします。特に北陸地区では過去に塗装鋼板を使用した屋根の腐食問題が顕在化し、酸性雨による被害が確認されています。
参考)http://www.kinzoku-yane.or.jp/technical/pdf/2017-06.pdf

建材の種類によっても酸性ガスへの耐性は大きく異なります。チタン建材は腐食性ガスに対して優れた耐食性能を持ち、海水に対しても白金並みの耐食性を示すため、海岸地帯での使用に最適です。一方、亜鉛系めっき鋼板は低pH領域で腐食量が増加する傾向があるため、酸性環境での使用には注意が必要です。建築事業者は、使用する建材の特性と現場環境を総合的に判断し、適切な材料選定を行う必要があります。
参考)https://www.nipponsteel.com/product/catalog_download/pdf/T003.pdf

酸性ガス対策における換気システムの設計と運用

酸性ガス対策において換気は最も基本的かつ効果的な方法です。換気の方法は自然換気と機械換気に分けられますが、建築現場では送風機などを使用する機械換気が主流となっています。機械換気には給気式、排気式、給排気式の三種類があり、それぞれ異なる特性を持ちます。
参考)【第3章】第1節 換気装置の使用方法等|(一財)中小建設業特…

給気式は密閉性の高いタンクなどで使用され、内部を常に陽圧(外気より気圧が高い状態)に保つことで、給気とほぼ同量が開口部より排気される仕組みです。ただし、ダクトの位置によって既存の空気との混合度が変わるため、換気効果にムラが生じる恐れがあります。排気式は給気式とは逆に排気のみを行い、内部を常に陰圧に保つ方式で、換気効果を高めるためダクトの位置は可能な限り最深部に設置することが推奨されます。​
給排気式は密閉性に乏しい場所で吸気と排気の両方を行う方式で、換気効果や継続作業時の安全性が高いという利点があります。作業中の換気では、作業者一人当たり10㎥/min以上を目安とし、作業している間20回/時以上の割合で内部を均一に換気できるように送気を継続する必要があります。2003年7月以降に建てられた建物では、24時間換気システムの設置が建築基準法改正により義務付けられており、これにより窓を開けなくても機械の力で効率よく部屋の空気を入れ替えることが可能です。
参考)部屋を閉めっぱなしにすると酸欠になる?危険性と安全な換気方法…

酸性ガス用防毒マスクの種類と選定基準

建築現場で作業者の安全を確保するには、適切な防毒マスクの選択が不可欠です。防毒マスクは面体と吸収缶から構成され、使用できる有毒ガス等の濃度の上限によって、直結式小型、直結式、隔離式の3種類に分類されます。
参考)https://www.koken-ltd.co.jp/catalog/pdf/gas202002.pdf

国家検定規格ではハロゲンガス用、有機ガス用、一酸化炭素用、アンモニア用、亜硫酸ガス用の5種類とそれぞれのろ過材を含めた10種類が規定されています。これに加えて、日本産業規格により酸性ガス用、硫化水素用などの吸収缶も規定されています。酸性ガス用(AG)の吸収缶は、フッ化水素や塩化水素に対応し、短時間であれば硝酸や臭素などにも対応可能です。
参考)https://www.koken-ltd.co.jp/catalog/pdf/gas.pdf

複合的なガス環境に対応するため、ハロゲン/酸性ガス用やハロゲン/酸性/亜硫酸ガス/硫化水素用などの複合吸収缶も製品化されています。吸収缶の選定では、対象となる化学物質の種類を正確に把握し、それに適合する吸収缶を選ぶことが重要です。例えば、塩化水素を扱う場合は有機/酸性ガス用またはハロゲン/酸性ガス用を選択し、二酸化硫黄(亜硫酸ガス)の場合は亜硫酸ガス/硫化水素用を選択します。防毒マスクの吸収缶には使用可能時間(破過時間)が設定されており、定期的な交換が必要です。
参考)https://aimg.as-1.co.jp/c/61/0473/88/61047387cats.pdf

酸性ガスによる建材腐食メカニズムと長期耐久性評価

酸性ガスは建材に対して深刻な腐食被害をもたらし、建築物の長期耐久性に大きな影響を与えます。金属材料の腐食は、水中に溶けている酸素(溶存酸素)により生じることが基本ですが、pH4以下の酸性領域では水素イオン濃度が溶存酸素濃度より高くなるため水素発生型腐食が生じ、腐食速度が著しく増大します。
参考)https://www.maff.go.jp/j/nousin/mizu/sutomane/koukan/attach/pdf/koukan-8.pdf

亜鉛系めっき鋼板や塗装亜鉛系めっき鋼板は種々のpH(水素イオン指数)環境に暴露されます。海岸からの飛来塩分や融雪塩などが付着すると酸性物質と複合して腐食を加速させる特性があります。興味深いことに、55%アルミ-亜鉛合金めっき鋼板(GL)は低pH領域で腐食量が少ないという特性を持ち、酸性環境下での使用に適しています。​
腐食速度に影響を与える要因として、流速と温度が挙げられます。流速の増加により酸素供給速度が増加し、鋼材表面への酸素供給量が増大するため腐食速度は増加します。温度上昇に伴い鋼材表面への酸素の供給速度が増大し、鋼材表面におけるアノード反応とカソード反応の速度も増大するため、腐食速度は増加します。建築事業者は、これらのメカニズムを理解した上で、使用環境に応じた適切な建材選択と防食対策を講じることが、建築物の長期耐久性確保において極めて重要です。​

酸性ガス除去技術の最新動向とフィルター性能

近年、ダクトレスのフィルターを使用した酸性ガスの中和・除去技術が注目を集めています。この方法は、従来のドラフトチャンバーやスクラバーなどの対策では難しかった、排気能力不足や設置スペースの制約といった課題を解決する新しいアプローチです。​
従来のフィルターは活性炭などの吸着剤を用いて酸性ガスを物理的に吸着するものが主流でしたが、高濃度の酸性ガスや長時間の使用には対応できないという限界がありました。最新のフィルター技術では、物理吸着だけでなく中和反応も利用することで、酸性ガスを効率的に除去できる仕組みが開発されています。​
ケミカルフィルターの分野では、対象物質に応じて専用の吸着剤が開発されています。アルカリ性物質(アンモニア、アミン類など)や酸性物質(塩化水素、硫化水素、二酸化硫黄など)に対して、それぞれ最適化されたフィルター材が利用可能です。例えば、二酸化硫黄にはギガコールC/ピュラフィルギガソーブC、硫化水素にはギガコールC/ピュラフィルギガソーブC、アンモニアにはギガコールAギガソーブA/ギガソーブRが使用されます。
参考)https://www.nitta.co.jp/resources/catalog/airclean/Chemical_Filters(2F-39-P).pdf

最新の有害ガス浄化装置では、揮発性有機化合物(VOC)や塩酸、硫酸、酢酸などの酸性ガスなど、幅広い種類の有害ガスを除去できる製品が開発されています。フィルター寿命は約1年と長持ちするため、ランニングコストを抑えることが可能であり、ダクト工事などの大掛かりなコストや手間をかけずに酸性ガス問題を解消できる利点があります。建築事業者にとって、これらの最新技術を活用することで、作業環境の安全性向上と建材の腐食防止を同時に実現できる可能性が広がっています。​