

炭酸ガスと二酸化炭素は、化学式CO2で表される全く同じ物質です。地球大気中に存在する最も代表的な炭素の酸化物であり、無色無臭の気体として常温常圧で存在しています。両者の違いは化学的な性質ではなく、呼び方や使われる場面の違いに過ぎません。
参考)https://shinko-airtech.com/gasliquid_CO2.html
この物質は私たちの身近な存在で、人間が吐き出す息にも含まれ、物を燃やした後には必ず発生します。また、植物の光合成に利用されるなど、地球上の生命活動に欠かせない役割を果たしています。日本では高圧ガス保安法により、液化炭酸ガスの容器(ボンベ)の色は緑色と定められています。
参考)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BA%8C%E9%85%B8%E5%8C%96%E7%82%AD%E7%B4%A0
化学的な性質として、二酸化炭素は不燃性で空気より重く、水に溶けやすい特徴があります。空気の約1.5倍の比重を持ち、水に溶けると弱い酸性を示すことから炭酸水となります。
参考)https://www.okayasanso.co.jp/faqb/gas/3276
「炭酸ガス」という呼び方は、主に気体の状態を指す場合や工業・産業分野で多く使用されます。特にアーク溶接の分野では「炭酸ガスアーク溶接」という専門用語が確立しており、炭酸ガスで溶接部を覆い空気を除去して酸化・窒化を防ぐ方法として広く知られています。
参考)https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1155866531
消火設備の分野でも「炭酸ガス消火器」という用語が一般的で、不活性ガスとしての性質を利用した消火設備として、電気設備や重要施設で使用されています。炭酸ガス消火器は、消火後に何も残らず二次被害がないという利点から、水が使えない場所での消火に適しています。
参考)https://www.awgd.co.jp/library/inert
飲料業界でも「炭酸ガス」が頻繁に使われ、炭酸飲料やビール製造において炭酸ガスを加圧下で水に溶解させる技術として活用されています。このように、炭酸ガスという用語は実用的・工業的な文脈で好まれる傾向があります。
参考)https://www.awgd.co.jp/library/lcd_use
「二酸化炭素」という呼び方は、科学的・学術的な文脈や環境問題、気候変動に関する議論で主に使用されます。特に地球温暖化対策の文脈では、温室効果ガスの排出量を示す指標として「二酸化炭素」が標準的な用語となっています。
参考)https://www.tansomiru.jp/media/basic/mag_1031/
不動産業界においては、建築物の脱炭素化やライフサイクルCO2(LCCO2)の算定において「二酸化炭素」という用語が使われることが一般的です。建築物が建設される前の資材製造段階から解体処理まで、すべての過程で発生するCO2排出量の計測には「二酸化炭素排出量」という表現が用いられます。
参考)https://www.mlit.go.jp/common/001898948.pdf
環境法規制の分野でも「二酸化炭素」が正式用語として採用されており、都市の低炭素化の促進に関する法律では「二酸化炭素の排出を抑えた建物(低炭素建築物)」という表現が使われています。このように、二酸化炭素という用語は公式文書や政策、環境評価で標準化された表現となっています。
参考)https://iqrafudosan.com/channel/urban-low-carbon-law
不動産業界では、炭酸ガスが建築材料の製造過程でも重要な役割を果たしています。特にコンクリート製造において、炭酸ガスを活用した養生技術が注目されており、従来の水養生と比較してCO2を削減できる可能性があります。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10074390/
さらに、建物の解体時に発生するアルカリ性廃水の中和処理に炭酸ガスが効果的に利用されています。ガラス瓶の洗浄、セメント工業、魚肉のサラシ工程などから出るアルカリ廃水の中和には、取扱いが簡単で安全性が高い炭酸ガスが最適です。
また、中和用に万一CO2を過剰に用いても、硫酸などと違ってpHは急激に下がらず、廃水pH規制の下限を容易に下回らないという安全性の高さが評価されています。このような意外な用途は、不動産業界における環境配慮型の施工プロセスとして重要性を増しています。
温室効果ガスとしての二酸化炭素の管理だけでなく、工業的な炭酸ガスの適切な活用が、建設現場における環境負荷低減に貢献している事実は、不動産従事者にとって知っておくべき重要な知識です。
参考)https://tanso-man.com/media/%E4%B8%8D%E5%8B%95%E7%94%A3%E6%A5%AD%E7%95%8C%E3%81%A8%E8%84%B1%E7%82%AD%E7%B4%A0gx%E3%81%AE%E9%96%A2%E4%BF%82%E6%80%A7%E3%81%AF%EF%BC%9F%E6%8C%81%E7%B6%9A%E5%8F%AF%E8%83%BD%E3%81%AA%E3%82%AB/
炭酸ガスと二酸化炭素の使い分けには、物質の状態が関係していることがあります。気体の状態を特に「炭酸ガス」と呼び、固体や液体を含むすべての状態を指す場合は「二酸化炭素」と表現する傾向があります。
参考)https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q11242231286
二酸化炭素には、気体(炭酸ガス)、液体(液化炭酸ガス)、固体(ドライアイス)の3つの状態があります。温度と圧力条件によって状態が変化し、圧縮して冷却すると気体は液体になり、さらに液体は固体のドライアイスに変わります。
参考)https://www.dryice.ne.jp/product/howtomake/
液体から気体になると容積は約500倍に膨らみ、固体(ドライアイス)が気体になると約750倍に膨らむという劇的な体積変化が起こります。ドライアイスは-79℃で昇華し、冷やす力は氷の約3.3倍という強力な冷却効果を持っています。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/kakyoshi/67/11/67_560/_pdf
また、液体の炭酸ガスは臨界点(圧力7.68MPaA、温度+31.1℃)と三重点(圧力0.54MPaA、温度-56.6℃)の範囲内でしか存在しないという特殊な性質があります。このような物理的特性の理解は、不動産設備における炭酸ガス利用設備の設計に重要です。
参考)https://www.jsrae.or.jp/annai/yougo/194.html
不動産業界における二酸化炭素排出量の削減は、日本の脱炭素化戦略において極めて重要な位置を占めています。建築分野におけるCO2排出量は、日本全体の排出量の約3割から4割を占めるとされており、カーボンニュートラル実現には不可欠な取り組みです。
参考)https://news.build-app.jp/article/35327/
2025年度までに、住宅及び小規模建築物の省エネルギー基準への適合が義務化されることになり、建築物省エネ法が改正されました。これにより、原則としてすべての新築住宅・建築物に省エネ基準適合が求められるようになっています。
参考)https://pfa21.jp/wp2018/wp-content/uploads/1_1_maeda.pdf
建築物のライフサイクル全体でのCO2排出量を評価する「ライフサイクルカーボン(LCC)」の概念が重要視されており、建設から解体までの全工程でのCO2削減が求められています。国土交通省は2024年10月に「J-CAT(建築物ホールライフカーボン算定ツール)」を公開し、建築物の生涯CO2排出量を正確に算定できるようになりました。
参考)https://www.mlit.go.jp/report/press/house04_hh_001248.html
不動産業界では、グリーンビルディングの導入、再生可能エネルギーの活用、エネルギー効率の改善など、多角的な脱炭素化の取り組みが進められています。既存建物についても、躯体を活かしたリノベーションによってCO2排出量と産業廃棄物を大幅削減する事例が増えており、循環型社会の実現に貢献しています。
参考)https://www.tokyu-land.co.jp/news/2022/000735.html
建築設備において、炭酸ガスの物理的・化学的性質を活かした利用が広がっています。特に消火設備では、炭酸ガスの不燃性と高い電気絶縁性を活かした「二酸化炭素消火器」が電気設備の火災対策として重要な役割を果たしています。
参考)https://www.moritamiyata.com/products/ext01/subext10/e-12.html
炭酸ガス消火器は、温度の低い固体(粉末ドライアイス)と不活性な気体である炭酸ガスを放出し、酸素を火源から断つことで消火します。消火後はドライアイスも炭酸ガスも完全に空気中に飛散し、何も残らないため、他の消火剤のような二次被害がありません。
参考)http://www.fire-city.kurume.fukuoka.jp/media/001/202003/%E7%AC%AC06%20%20%20%E4%B8%8D%E6%B4%BB%E6%80%A7%E3%82%AC%E3%82%B9%E6%B6%88%E7%81%AB%E8%A8%AD%E5%82%99.pdf
このため、サーバールーム、重要施設、船舶、自動車車庫など、消火に水が使えない場所での利用が広がっています。不動産物件における火災対策設備として、炭酸ガス消火システムの設置は資産価値向上にも寄与します。
また、タンクやタンカーのパージガスとして、炭酸ガスが窒素よりも重い比重を活かして効率的に使用される事例もあります。可燃性液体用のタンクの定期点検や修理時に、炭酸ガスで可燃性の蒸気やガスを置換する用途は、不動産施設の安全管理において重要です。
不動産従事者にとって、低炭素建築物の認定制度は重要な知識です。「認定低炭素住宅」や「低炭素建築物」に該当すると、購入者は税金が安くなるメリットがあります。
参考)https://iqrafudosan.com/channel/teitansokenchikubutsu
低炭素住宅とは、二酸化炭素(CO2)の排出量を抑制する仕組みのある住宅で、一般的な住宅に比べて地球温暖化の原因となるCO2の排出を抑えられるため環境に優しい住宅です。都市の低炭素化の促進に関する法律に基づき、市町村で低炭素まちづくり計画を作成し、二酸化炭素の排出を抑えた建物の建築が促進されています。
参考)https://www.sbi-efinance.co.jp/contents/approved_low-carbon_housing/
LCCM住宅(ライフサイクルカーボンマイナス住宅)は、建設時、運用時、廃棄時において可能な限り二酸化炭素排出削減に取り組み、さらに太陽光発電などの再生可能エネルギー創出により、住宅建設時のCO2排出量も含め、ライフサイクルを通じてのCO2排出量をマイナスにする住宅です。
参考)https://www.mlit.go.jp/hakusyo/mlit/r03/hakusho/r04/html/n1211000.html
不動産業界では、CASBEE(建築環境総合性能評価システム)によるライフサイクルCO2(LCCO2)の評価も重要です。LCCO2とは、建築物を新築してから運用、解体するまでの一連の活動において使われた資材やエネルギーをCO2に換算し合計したもので、環境性能の総合評価に用いられます。
参考)https://www.ceec.jp/column/casbee-kenchiku-shinchiku/
建築物における二酸化炭素排出量の正確な計測技術は、不動産業界の脱炭素化推進において欠かせない要素となっています。5000㎡以上のオフィスビルではCO2算定が義務化される動きがあり、ライフサイクルアセスメント(LCA)制度の整備が進んでいます。
参考)https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00154/02604/
AIを活用した建物のライフサイクル全体のCO2排出量算定システムも開発されており、工事見積内訳書などの既存データを取り込むことで、建物を構成する建築部材や設備機器の一つ一つをAIが自動で分類し、所定のCO2排出原単位と紐付けることができます。
参考)https://www.kajima.co.jp/news/press/202408/29e1-j.htm
大手建設会社では、建物の計画初期段階で施工段階のCO2排出量を容易に試算できる予測システムを開発し、2050年のカーボンニュートラル実現に向けた取り組みを強化しています。不動産業界では、これらの算定ツールを活用したCO2排出量の「見える化」が進んでおり、投資判断や資産評価にも影響を与えています。
参考)https://www.obayashi.co.jp/news/detail/news20231102_1.html
国際規格に準拠した精緻なエンボディドカーボン(建てるときのCO2)算定ソフトウェアも導入が進んでおり、日本市場に合わせた算定がクラウドソフトで効率化できるようになっています。不動産従事者がこれらの計測技術を理解することは、環境配慮型不動産の提案力向上につながります。
参考)https://sfc.jp/treecycle/value/oneclicklca/
炭酸ガス(二酸化炭素)は、濃度が高くなると人体に深刻な影響を及ぼすため、不動産施設の管理において安全面での知識が不可欠です。衛生学的に見た空気中に含まれるCO2量の許容限度は室内で0.1%とされています。
参考)https://chintai-keiei.com/dictionary/ta/ta132.php
| 空気中のCO2濃度 | 人体への影響 |
|---|---|
| 3~4% | 頭痛から脳貧血を起こす |
| 15%以上 | 致命的仮死状態を起こす |
| 30%以上 | 致死量となる |
高濃度の二酸化炭素を吸入すると、意識不明、昏睡という障害を引き起こす危険性があります。また、ドライアイスや液化炭酸ガスは低温により凍傷を引き起こす恐れがあるため、取扱いには十分な注意が必要です。
参考)https://www.hydroshop.jp/view/page/000027
建築物における換気設備の設計では、室内CO2濃度を適切に管理することが重要であり、建築基準法でも換気基準が定められています。不動産従事者は、これらの安全基準を理解した上で、物件の換気性能を評価し、入居者の健康と安全を確保する責任があります。
炭酸ガスは空気より重いため(空気の約1.5倍の比重)、地下室や低い場所に滞留しやすい性質があります。不動産管理においては、特に地下駐車場や地下室などの換気管理に注意が必要です。
参考)https://www.jimga.or.jp/gas/world_co2/