

孔径0.1µmを選んでも、建設排水の濁質は除去しきれず再処理コストが2倍になることがあります。
精密ろ過膜(MF膜)とは、膜の表面に均一な細孔(孔径)を持ち、水中の粒子・微生物・コロイドなどを物理的にふるい分けるろ過技術です。孔径の範囲はおよそ0.1〜10µmとされており、この数値が処理性能を大きく左右します。
1µm(マイクロメートル)とは1mmの1,000分の1。つまり0.1µmというのは、人間の髪の毛(約60〜80µm)の約600〜800分の1という極めて小さなサイズです。これだけ小さな孔で水を通すため、肉眼では全く判別できない粒子でも確実に除去できます。
精密ろ過膜は「精密ろ過(MF)」「限外ろ過(UF)」「ナノろ過(NF)」「逆浸透(RO)」という4段階のメンブレンろ過技術の中で、最も孔径が大きいカテゴリーに位置します。つまり透過流量(フラックス)が高く、低圧での運転が可能という特性があります。
| ろ過方式 | 孔径の目安 | 除去対象 | 運転圧力 |
|---|---|---|---|
| 精密ろ過(MF) | 0.1〜10µm | 懸濁粒子・細菌・原虫 | 0.01〜0.2 MPa |
| 限外ろ過(UF) | 0.001〜0.1µm | ウイルス・高分子 | 0.1〜0.5 MPa |
| ナノろ過(NF) | 0.0005〜0.005µm | 2価イオン・農薬 | 0.5〜1.5 MPa |
| 逆浸透(RO) | 0.0001µm以下 | 1価イオン・溶解塩類 | 1.0〜8.0 MPa |
建築現場で扱う排水や工程水には、土砂・セメント粒子・鉄粉・細菌などが含まれます。これらの粒径は一般的に1〜100µmの範囲に広く分布しているため、精密ろ過膜は一次処理段階で非常に有効なツールです。
MF膜の材料としては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)・ポリエチレン(PE)・セラミック(アルミナ・ジルコニア)などが主流です。それぞれ耐薬品性・耐熱性・機械強度が異なり、建築現場の排水性状によって使い分ける必要があります。
これが基本です。
孔径を選ぶ際に最も重要なのは「何を除去したいのか」という目的の明確化です。精密ろ過膜の孔径帯ごとに除去できる対象が異なるため、ここを曖昧にすると処理水が基準を満たさず、やり直しが発生します。
0.1µm孔径の膜は、クリプトスポリジウムやジアルジアなどの原虫(サイズ:3〜20µm)を99.9%以上除去できます。また一般細菌(0.5〜5µm)も捕捉できるため、飲料水・工業用純水・建設現場での再利用水として処理する際に活用されます。
一方、0.4〜0.45µmの孔径は微生物学的な評価に使われる「標準孔径」として知られており、細菌培養フィルターでも採用されています。これは除去対象が細菌以上の粒子に限定されるため、ウイルスは通過してしまう点に注意が必要です。
| 除去対象 | 粒径の目安 | 必要な孔径 |
|---|---|---|
| 粗大懸濁粒子(土砂等) | 10µm以上 | 5〜10µm以下 |
| 一般細菌 | 0.5〜5µm | 0.2〜0.45µm以下 |
| クリプトスポリジウム | 3〜6µm | 0.1〜1µm以下 |
| コロイド状シリカ | 0.1〜1µm | 0.1µm以下が有効 |
| ウイルス | 0.02〜0.3µm | UF膜(0.01µm以下)が必要 |
建築排水に含まれるセメント系粒子は0.5〜100µmと幅広く、粗大粒子は沈殿処理で先に落とし、残留コロイド成分をMF膜で除去するという2段階アプローチが現場では有効です。
孔径選定の目安は除去対象粒径の「1/10以下」が原則です。
たとえば5µmの粒子を確実に除去したいなら、孔径0.45〜0.5µm以下の膜を選ぶことが推奨されます。これより大きい孔径を使うと、圧力変動や膜の劣化により粒子が通り抜けるリスクが高まります。
精密ろ過膜の孔径に関する技術的な詳細や規格については、日本膜学会の資料や各メーカーの技術カタログを確認すると信頼性の高い情報が得られます。
日本膜学会 公式サイト(膜技術の基礎・分類・規格に関する情報)
建築現場の排水処理でMF膜を導入する際、最も多い失敗が「孔径だけを見て膜を選ぶ」というケースです。孔径はあくまで除去性能の一要素に過ぎず、実際の運用では膜材質・流量・ファウリング(目詰まり)への対応も含めた総合判断が必要です。
典型的な失敗パターンを見てみましょう。
これは痛いですね。
対策として重要なのは前処理工程の設計です。建設排水であれば、まず沈殿槽や砂ろ過器でSS濃度を50mg/L以下に落としてからMF膜に送ることで、膜の負担を大幅に軽減できます。
MF膜の運用では「膜間差圧(TMP:Trans-Membrane Pressure)」の管理が目詰まりの早期発見に役立ちます。TMPが設計値の1.5倍を超えてきたら逆洗・薬品洗浄のサインと判断し、膜の交換時期を適切に見極めることが維持管理コスト削減の鍵です。
孔径選定と前処理設計の組み合わせが条件です。
建築現場での膜ろ過システムの設計・選定については、専門メーカー(例:東レ、旭化成、日東電工など)のエンジニアリング部門への事前相談が有効です。多くのメーカーが無償でパイロット試験の提案を行っており、現場水質に合った最適孔径を実データで検証できます。
孔径の大きさは除去性能だけでなく、膜を通過する水の流れやすさ(透過流束=フラックス)にも直結します。これは建築現場での処理能力・運転コスト・設備サイズの決定に関わる重要な指標です。
透過流束(フラックス)とは、単位面積・単位時間あたりに膜を通過する水の量を表します。単位は L/(m²・h) または m/s で表記されます。孔径が大きいほど水が通りやすくフラックスは高くなりますが、その分除去できる粒子のサイズが制限されるというトレードオフがあります。
たとえば孔径0.1µmのPVDF製MF膜の標準フラックスは50〜150 L/(m²・h) 程度ですが、前処理不良や高SS濃度の排水を流すと30 L/(m²・h) 以下に低下することがあります。この場合、目標処理量を確保するには膜面積を増やすか、運転圧力を上げるしか選択肢がなく、いずれも設備コスト・エネルギーコストの増大につながります。
孔径とフラックスのバランスが核心です。
| 孔径 | 標準フラックス目安 | 主な用途(建築現場) |
|---|---|---|
| 1〜10µm | 300〜1000 L/(m²・h) | 粗大粒子の一次除去 |
| 0.45〜1µm | 100〜300 L/(m²・h) | 細菌・懸濁物の除去 |
| 0.1〜0.45µm | 50〜150 L/(m²・h) | 原虫除去・再利用水処理 |
建築現場では処理水量の変動が大きいことが多く、ピーク時の流量(例:重機洗浄・型枠洗浄が集中する時間帯)に対応できる膜面積の余裕を持たせた設計が推奨されます。一般的に設計フラックスは標準フラックスの70〜80%で設定するのが安全な考え方です。
フラックスを維持するためには、定期的な逆洗(バックウォッシュ)と薬品洗浄が不可欠です。逆洗は通常15〜60分に1回、30〜60秒程度行い、薬品洗浄は週1回〜月1回程度の頻度で次亜塩素酸ナトリウムやクエン酸を使って実施します。これらのメンテナンスサイクルを自動化できるシステムを選ぶと、建築現場での人的負担を大幅に減らせます。
建築工事現場から発生する排水は「建設工事に係る資材の再資源化等に関する法律」や「水質汚濁防止法」による規制を受けます。精密ろ過膜の孔径選定は、こうした法令上の水質基準を満たすためにも重要な技術的判断となります。
水質汚濁防止法に基づく特定施設からの排水では、pH・SS・BOD・COD・重金属類などの排水基準が定められています。建設現場で問題になりやすいのはpHとSSで、特にコンクリート打設工程ではアルカリ性廃水(pH11〜13)が発生することがあります。
意外ですね。
精密ろ過膜はSS除去に非常に有効ですが、pHの中和・重金属除去には対応していません。これが重要な盲点です。建設排水の処理では、MF膜の前にpH調整槽(中和処理)を設置し、アルカリ排水を中和してからMF膜に送るフローが標準的です。pH11以上の強アルカリ排水を直接MF膜に通すと、膜材質(特にポリエステル系)が加水分解劣化するリスクがあります。
建設排水の処理後の用途によっても必要な孔径が変わります。現場内で再利用(散水・型枠洗浄など)する場合はSS5mg/L以下・濁度5NTU以下が目安となり、公共水域への放流の場合はSS100mg/L以下(河川・湖沼によってはSS50mg/L以下)が基準となります。
建設排水処理の法的基準や届出手続きについては国土交通省の資料が参考になります。
国土交通省 水環境・水質保全に関する情報(建設工事における排水基準・届出の参考)
処理目的と放流先の基準を最初に確認するのが原則です。建設現場の排水処理計画を立てる際は、施工前に管轄の都道府県・市区町村の水質担当部署へ相談し、必要な水質基準の確認と届出の要否を把握しておくことで、竣工後の是正指導や罰則リスクを回避できます。
環境省 水質汚濁防止法に関するページ(特定施設・排水基準・届出手続きの詳細)