シラン系含浸材とひび割れ対策を徹底解説

シラン系含浸材とひび割れ対策を徹底解説

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シラン系含浸材とひび割れへの正しい対処法

ひび割れにシラン系を塗っても、透水量が塗る前より増えることがある。


この記事の3ポイント要約
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シラン系含浸材はひび割れ部に「効果なし」どころか逆効果になることも

土木学会の試験データでは、ひび割れ部にシラン系を塗布すると、無塗布より透水量が増加するケースが確認されています。ひび割れの閉塞ができないため、塩害・凍害対策として使う前に適用条件の確認が必須です。

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ひび割れ幅0.2mm超・ひび割れ発生後は適用基準が変わる

北海道開発局の道路設計要領では、ひび割れ発生後のシラン系表面含浸材について「効果を期待するのは困難な場合がある」と明記。ひび割れ幅・深さと発生タイミングによって工法選定が根本から変わります。

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冬期施工は水分管理を怠ると含浸深さが数mmにとどまる

寒地土木研究所の研究では、冬期に適切な加温なしでシラン系含浸材を塗布すると、本来6mm以上必要な含浸深さが数mm程度にとどまる施工事例が報告されています。塗布前後の温度管理が品質確保の鍵です。


シラン系含浸材がひび割れに効かない理由と適用条件


シラン系含浸材は、コンクリート表層部の細孔に含浸して疎水性(撥水性)の保護層を形成する工法です。塩化物イオンや水分の侵入を抑制する効果が高く、土木・建築分野を問わず広く使われています。しかし現場では「ひび割れが見えたらシラン系を塗ればいい」という誤解が根強く残っています。


実はこれが大きな落とし穴です。


土木学会の試験規準JSCE-K 572に基づくひび割れ透水性試験では、シラン系含浸材を塗布した試験体の透水量が、なにも塗らない無塗布の試験体よりも多くなる結果が複数報告されています。なぜこうなるかというと、シラン系含浸材の作用はあくまで「コンクリート表層の空隙壁面を疎水化する」ことであり、ひび割れそのものを閉塞する能力はありません。ひび割れ内壁が撥水性に変化すると、表面張力の低下によってかえって水が流れやすくなる方向に働くことがあるのです。


つまり水の通り道そのものをふさがない、ということです。


北海道開発局の「道路設計要領」(2023年版)には、シラン系表面含浸材の期待効果を新設・既設・ひび割れ発生前後に分けた評価表が掲載されており、ひび割れ発生後の既設構造物への塩害対策については「△〜×(効果を期待するのは困難な場合がある、または効果が期待できない)」と明記されています。これは官公庁の公式設計要領に明示されている事実であり、見落とすと補修工事全体の効果に関わります。


工法選定の前提として「ひび割れが発生しているか否か」「発生前か後か」を必ず確認することが原則です。


参考情報:シラン系・けい酸塩系の各試験比較データ(株式会社リナックオズモ)
https://www.linack.jp/datalibrary/004/


シラン系含浸材が有効なひび割れ幅の目安と選定フロー

「ひび割れにはシラン系が効かない」と言い切れるわけでもありません。ここが選定判断の難しいところです。


金沢大学と東亜建設工業が共同で行った実験(土木学会第71回年次学術講演会、2016年)では、ひび割れ幅0.2mm・0.4mmのコンクリート供試体にシラン・シロキサン系含浸材(塗布量200g/m²)をスプレー塗布したところ、吸水試験においては無処理の平均吸水量5.8mLに対して、含浸処理済みでは0.1mL未満という大幅な抑制効果が確認されました。ただしこれは水頭が小さい条件での結果です。


水頭が高くなる(水圧がかかる)環境では話が変わります。


同研究において透水試験(水頭250mm)での結果では、含浸処理のあるものの方が無処理より透水量は小さくなる傾向は見られたものの、ひび割れ深さが大きくなるほど透水量は増加しており、含浸が届かない部分からの透水が継続することが確認されています。このことから、深いひび割れや水圧がかかる箇所では、シラン系含浸材だけでの対応では不十分になります。


選定の目安は以下のように整理できます。


































条件 シラン系の適用評価 推奨対応
新設・ひび割れ発生前 ◎ 効果が高い シラン・シロキサン系を標準適用
既設・ひび割れ発生前(塩害前) ◎〜○ 効果が期待できる 内在塩分量を確認してから適用
既設・ひび割れ発生後(軽微) △ 困難な場合あり けい酸塩系またはひび割れ注入との併用を検討
ひび割れ発生後・腐食進行中 × 効果が期待できない 断面修復工法または亜硝酸リチウム系工法へ
水掛かり・水圧環境下 × 使用を避けること けい酸塩系(緻密化型)を選定


農林水産省の「農業水利施設の補修・補強工事に関するマニュアル【開水路編】」(2023年)では、シラン系含浸材の適用不可条件として「接水部」が明示されており、水と常時接する箇所への適用は公式に禁止されています。これは知らないと現場での手戻りや補修費用の二重発生につながるため、特に水利施設の補修に携わる方は必ず確認しておく情報です。


参考情報:シラン系表面含浸材について(日本コンクリート工学会)


シラン系含浸材のひび割れ補修における施工手順と塗布量の管理

工法選定が正しくても、施工管理が不十分では期待どおりの効果が得られません。特に「塗布量」と「下地の水分状態」は、現場で最も見落とされやすいポイントです。


まず塗布量についてです。シラン・シロキサン系含浸材の標準塗布量は200g/m²程度とされていますが、ひび割れ部に対してはひび割れ面からの含浸を別途確保するため、通常面より多めの塗布が必要になります。また、ひび割れが深い場合(50mm以上)は、ひび割れ開口部に直接スプレーで集中的に塗布することが推奨されています。


次に下地の水分状態です。これが最も影響が大きいポイントです。


シラン系含浸材の主成分であるアルコキシ基は、含浸しながらコンクリート内の水酸基と反応して疎水性のアルキル基を固着させる仕組みです。コンクリート表層に水分が多すぎると、塗布直後にアルコキシ基が表面付近で瞬時に加水分解してしまい、深部まで含浸する前に固着が終了してしまいます。


表面が湿潤だと含浸が止まる、ということです。


実際、国土交通省北海道開発局・寒地土木研究所の研究(2023年度発表)では、冬期施工において適切な乾燥管理を行わなかった場合、含浸深さが数mm程度にとどまる施工事例が報告されています。北海道開発局の道路設計要領では含浸深さ6mm以上の製品選定を基準としており、それだけの深さが確保できなければ、凍害による劣化抑制効果の持続期間が短くなるリスクがあります。


施工前の水分管理には電気抵抗式水分計が有効です。寒地土木研究所の研究成果では、カウント値60〜132(乾燥状態)を確認したうえで塗布を開始することが推奨されています。冬期の施工では、塗布前に1日間・塗布後に1日間、作業空間を40℃程度に加温し続けることが、6mm以上の含浸深さを確保するための実績あるアプローチです。


施工後は必ず撥水確認(水かけ試験)を行い、テストピースの割裂による含浸深さ測定もあわせて実施することが品質管理の基本です。


参考情報:冬期シラン系表面含浸材の施工留意点(北海道開発技術研究発表会論文)
https://www.hkd.mlit.go.jp/ky/jg/gijyutu/slo5pa000001a5ry-att/slo5pa000001a614.pdf


シラン系含浸材とけい酸塩系の使い分け——ひび割れ部での逆転現象

同じ「表面含浸材」でも、シラン系と「けい酸塩系(緻密化型)」はまったく異なる作用機構を持っています。この違いを正しく理解しないと、現場での材料選定ミスが起きます。


シラン系含浸材は「撥水型」とも呼ばれ、コンクリート表層の空隙壁面を疎水化することで水分の侵入を防ぎます。健全なコンクリートに対する透水抑制率は90〜94%と非常に高い数値を示しており、ひび割れのない新設構造物の予防保全には最適です。


一方、けい酸塩系含浸材(緻密化型)は、コンクリート中の水酸化カルシウムと反応してC-S-Hゲルを生成し、コンクリート表層部の空隙構造を物理的に緻密化する工法です。この緻密化によって0.2mm以下の微細ひび割れを閉塞する効果があります。


ひび割れ部では逆転現象が起きます。


株式会社リナックオズモが実施した比較試験(土木学会JSCE-K 572準拠)では、けい酸塩系含浸材を塗布した試験体の透水量は無塗布より大幅に減少したのに対して、シラン系含浸材を塗布した試験体の透水量は無塗布より多くなるという結果が確認されています。


































評価項目 シラン系(撥水型) けい酸塩系(緻密化型)
劣化因子の侵入抑制(健全面) 高い(透水抑制率90%以上) 普通
ひび割れ部への適用性 低い(閉塞不可) 高い(0.2mm以下を閉塞)
水掛かりへの適用性 低い(水圧に弱い) 高い(水圧に強い)
下地改質工としての適用性 低い(撥水で付着強度が低下) 高い(付着性に影響なし)
凍害リスク(水圧環境下) 劣化が促進される場合あり スケーリングに有効


この「下地改質工としての適用性」もよく見落とされる点です。シラン系含浸材を塗布した面は撥水性が付与されるため、その上に塗装材や被覆材を施工しようとすると付着強度が大きく低下します。付着試験の結果では、無塗布面の付着強さ2.7N/mm²に対し、シラン系塗布面では0.5〜0.6N/mm²という測定値が報告されており、ほぼ接着しない状態になります。


表面保護工法の設計においてシラン系を先に施工する計画は、後の工程に影響します。特にひび割れ注入工法やポリマーセメントモルタルによる断面修復との組み合わせで計画する場合、シラン系含浸材の施工順序は最後に置くのが原則です。これも覚えておくべき知識です。


既設構造物のひび割れ状態でシラン系含浸材が生む思わぬリスク——現場事例に学ぶ逆効果の実態

ここからはあまり語られない視点です。「シラン系含浸材を塗った結果、劣化が加速する」という逆効果の現象は、特定条件下では現実に起こります。


凍害環境に置かれた構造物でのシラン系含浸材の挙動が、その代表例です。


リナックオズモが行った凍結融解試験(JIS A 1148準拠、300サイクル)では、けい酸塩系含浸材塗布の試験体が質量変化も少なくコンクリート表面を維持したのに対して、シラン系含浸材塗布の試験体は無塗布試験体よりも早期に剥離が進行し、劣化が促進されるという結果が出ています。これは試験体を水中に浸漬する試験形式、すなわち水圧を受ける環境での試験であったことが原因とされており、水が強制的に圧入されるような環境ではシラン系は期待どおりの効果を発揮しないどころか、有害になりうることを示しています。


さらにスケーリング量試験(RILEM CDF法、56サイクル)でも、シラン系含浸材①の塗布体は無塗布の0.99kg/m²に対して1.79kg/m²と約1.8倍のスケーリング量を示し、「劣化が逆に促進された」事例が数値として残っています。これはハガキ1枚分(約100cm²)のエリアで0.18gのコンクリート表層がはがれ落ちる計算になり、何十平方メートルもの橋梁壁面に適用していた場合は無視できない損傷量です。


この現象は見えにくいリスクです。


塗布直後は表面が撥水し、施工者も発注者も「うまくできた」と感じます。しかし水圧がかかる環境・凍結融解を繰り返す環境では、塗布後2〜3年の間に無塗布の状態より劣化が速く進んでいくリスクがあります。現場の補修記録と定期的な外観検査(5〜10年スパン)での追跡確認が、このリスクを早期に把握する上で有効なアプローチです。


施工する前に環境条件を確認するのが条件です。


水掛かり・水圧環境下では農林水産省マニュアルが「接水部への適用は不可」と明示しており、凍害を受ける環境下でも「アルカリシリカ反応性骨材が含まれる場合や凍害を受ける環境では劣化を助長させる場合がある」と農林水産省マニュアルが注意喚起しています。使い方を間違えると費用と時間を無駄にするだけでなく、構造物の寿命を縮める原因にもなりかねません。


参考情報:コンクリート構造物の補修対策施工マニュアル2022年版(国立研究開発法人 土木研究所)


シラン系含浸材とひび割れ対策を現場で正しく組み合わせるポイント

ここまでの内容を踏まえると、「シラン系含浸材は使えない」という話ではないことが分かります。使う場面と使ってはいけない場面を明確に判断できることが重要です。


現場での実用的な判断フローを整理すると、まず「ひび割れが発生しているかどうか」を確認します。発生前なら新設・既設を問わずシラン系含浸材は予防保全として非常に有効です。特に塩害・凍害の複合劣化を受けやすい道路橋の地覆や壁高欄では、北海道開発局の道路設計要領でも積極的な適用が推奨されており、実績が多い工法です。


ひび割れが発生している場合は、そのひび割れ幅と水圧環境の有無によって判断が分かれます。


幅0.2mm以下の微細ひび割れでも水圧がかからない環境なら、シラン系含浸材のスプレー塗布による補修効果が一定程度期待できます。金沢大学の実験では吸水量を5.8mLから0.1mL未満に抑制した結果が出ており、補修対象外とされる微細ひび割れに対して予防的に塗布する意義はあります。一方で水圧がかかる環境、または0.2mmを超えるひび割れに対しては、けい酸塩系含浸材との併用か、ひび割れ注入工法との組み合わせが必要になります。


ひび割れ発生後・腐食が始まっている状態ならシラン系は効果がないと判断です。


このような複合的な補修ニーズに対応する製品として、近年ではシラン系とけい酸塩系の両方の特長を持つハイブリッド型表面含浸材も登場しています。水や塩水に対する遮蔽性(シラン系の強み)と微細ひび割れの閉塞性・中性化抑制効果(けい酸塩系の強み)を組み合わせたもので、工法選定の選択肢として把握しておくと役立ちます。


最後に、施工後の品質確認として「含浸深さの測定」を省略しないことが大切です。国土交通省・土木研究所の補修対策施工マニュアル2022年版では、シラン系表面含浸材の含浸状況を非破壊で確認する方法が提案されており、現場コアの採取なしでも施工品質の管理ができる手段として普及が進んでいます。


適切な工法選定と施工管理の徹底が、構造物の長寿命化につながります。それがライフサイクルコストの削減と、安全なインフラの維持に直結しています。




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