水性高分子イソシアネート系接着剤と集成材の耐久性向上

水性高分子イソシアネート系接着剤と集成材の耐久性向上

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水性高分子イソシアネート系接着剤の特徴と活用法

水性高分子イソシアネート系接着剤の基本情報
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環境配慮型接着剤

ホルムアルデヒドを放散せず、中性で木材を汚染しない環境にやさしい接着剤です

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高い接着強度

従来の木材用接着剤と比較して優れた接着性能と耐水性を持ち、難着木材にも対応

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作業性の特徴

2液混合型で速乾性があり、堆積時間の管理が重要な接着剤です

水性高分子イソシアネート系接着剤の化学的構造と原理

高分子イソシアネート系接着剤(通称「水ビ」)は、ポリビニルアルコール(PVA)を含む水性エマルジョンを主剤に、イソシアネート系化合物を架橋剤とする複合系接着剤です。この接着剤の特徴的な点は、イソシアネートが水と反応する性質を利用している点にあります。

 

と硬化剤を混合すると、PVAとイソシアネートの間に架橋反応が起こります。さらに重要なのは、木材繊維とイソシアネートの間にもウレタン結合が形成される点です。この二重の結合メカニズムにより、非常に高い接着性能が得られます。

 

のメカニズムを簡単に説明すると、接着剤が木材の繊維に浸透し、いわゆる「投錨効果」によって木材同士をつなぎ止めます。これは海底に落とした錨(イカリ)で船を固定する様子に例えられるもので、時間の経過とともに水分が抜けて固化することで接着力を発揮します。

 

接着剤は中性であるため、酸性やアルカリ性の接着剤のように長年の使用で木材組織を傷める心配がありません。また、主剤が熱可塑性樹脂のため、接着層は熱硬化性樹脂のように硬くならず、加工時に刃物を傷めにくいという利点もあります。

 

水性高分子イソシアネート系接着剤と集成材製造の関係性

材の製造において、水性高分子イソシアネート系接着剤は非常に重要な役割を果たしています。集成材とは、複数の木材(ラミナ)を接着剤で貼り合わせた建築材料で、その強度や安定性は使用する接着剤の品質に大きく依存します。

 

接着剤は1970年代に開発されて以来、高く評価され続けており、特許が切れた現代では多くの集成材製造に用いられています。従来の構造用集成材用接着剤としては、JASの使用環境Bの対象であるレゾルシノール樹脂系接着剤およびレゾルシノール・フェノール樹脂系接着剤が使用されてきましたが、水性高分子イソシアネート系接着剤もそれらと同等の性能が確認されています。

 

材製造における具体的な利点として、低温下(5℃)でも短時間で高い接着強度を発揮する点が挙げられます。これは特に冬季の作業性向上に貢献します。また、揮発性有機化合物を使わない水系タイプのため、作業環境の改善にも役立ちます。

 

では、堆積時間(接着剤塗布から圧締開始までの時間)が延長された改良型の水性高分子イソシアネート系接着剤も開発されており、1プレスあたりの製造量を増やすことが可能になっています。これにより、CLT(直交集成板)などの生産効率向上にも貢献しています。

 

アイカ工業の集成材用水性高分子-イソシアネート系木材接着剤の開発情報

水性高分子イソシアネート系接着剤の使用上の注意点と適切な施工方法

高分子イソシアネート系接着剤を効果的に使用するためには、いくつかの重要な注意点と適切な施工方法を理解する必要があります。

 

、この接着剤は2液性であるため、使用直前に主剤と硬化剤を混合する必要があります。混合後は硬化が始まるため、すぐに使用を開始しなければなりません。混合した状態での保存はできないので、必要な分だけその都度混合する必要があります。これは一液性の接着剤と比較すると手間がかかり、使い切れなかった分は処分しなければならないためロスが生じることがあります。

 

時間(ポットライフ)は温度によって変動し、一般的に夏場で約30分、冬場で約1時間程度です。また、堆積時間(接着剤を塗布し始めてから圧締まで)は15分以内(できれば10分以内)に抑える必要があります。この時間を超えると接着剤の流動性がなくなり、均一な皮膜ができなくなる可能性があります。

 

時間については、夏場で40~50分、冬場で1時間程度が目安です。室温が5度以下の場合は圧締時間を長く取る必要があります。また、最高強度に達するまでの養生時間は、できれば2日程度取ることが推奨されています。

 

剤の塗布量も重要なポイントです。この接着剤は乾きが速いため、塗布量は多めにすることが無難です。接着剤の層が厚すぎると接着強度は落ちますが、少なすぎると接着不良を起こす可能性があります。適切に塗布し、圧力をかけて余分な接着剤をはみ出させることが重要です。

 

、接着する木材の含水率は10~15%程度が適切です。含水率が高すぎると接着力低下の原因となります。これは硬化剤のイソシアネートが水分と反応するためです。

 

水性高分子イソシアネート系接着剤の耐久性と経年変化の特性

高分子イソシアネート系接着剤の耐久性と経年変化については、いくつかの特徴的な点があります。

 

、この接着剤は従来の木材用接着剤と比較して高い耐水性を持っていますが、完全に防水というわけではありません。長期間の湿気や水分にさらされると、接着層の劣化が進む可能性があります。特に構造躯体として使用する場合は注意が必要です。

 

に、2002年にドイツから、2005年に中国から輸入された集成材で、日本のJAS認定工場で製造されたものであっても、建物を建てた後に剥離が見つかるという事例が報告されています。これは水性の接着剤であるため、湿気があると剥離が起きやすいという特性によるものです。

 

、実験によると、水性高分子イソシアネート系接着剤を使用した集成材を屋外に3年間放置すると、無垢材と比較して早く劣化することが確認されています。これは木と木を貼っていた接着剤が徐々に溶け、その隙間に水分が入ることで木材の腐食が進むためです。

 

の外側の壁など、湿気にさらされる可能性がある場所では、内部結露(壁内結露)が起きると壁の中に湿気がたまり、接着能力の低下や木材の腐食につながる可能性があります。そのため、力のかかる構造部分には使用を避けるか、適切な防湿・防水対策を講じる必要があります。

 

で、家具などの比較的湿気の少ない環境で使用する場合は、非常に優れた接着性能を発揮します。接着層が徐々に茶色に変色していくことがありますが、これはイソシアネート(硬化剤)が酸化していくためであり、接着強度に大きな影響はありません。

 

、板を接着すると接着部分が水分で膨張し、圧締解除後すぐに加工すると、後日接着部分が収縮して凹むことがあります。このトラブルを完全に防ぐには、3ヶ月程度の養生期間を設けることが理想的です。

 

水性高分子イソシアネート系接着剤と難着木材への対応技術

高分子イソシアネート系接着剤の大きな特長の一つに、難着木材への優れた接着性能があります。チーク、ローズウッド、カリン、コクタンなどの油分やヤニを多く含む木材は、一般的な接着剤では十分な接着強度を得ることが難しいとされていますが、水性高分子イソシアネート系接着剤はこれらの難着材にも良好な接着性を示します。

 

し、これらの油分の多い木材に対しては、いくつかの前処理が推奨されています。具体的には、サンドペーパーなどを用いて接着面を荒らしたり、シンナー、ベンゼン、アルコールなどを用いて油分を取り除いたりすることが効果的です。これにより接着剤の浸透性が向上し、より強固な接着が可能になります。

 

、高比重材(硬い木材)に対しては、高比重用に改質されたタイプ(例えばPI-127など)を使用するとより良い結果が得られます。これらの専用タイプは、硬い木材の特性に合わせて調整されており、通常のタイプよりも浸透性や接着強度が向上しています。

 

方法についても、難着木材の場合は特に注意が必要です。板矧ぎ(はぎ)の場合、一般的には接着面はツルツルの状態が理想とされますが、接着強度試験ではペーパーで表面を荒らした方が良い結果が得られることがあります。これは表面積の増加と接着剤の機械的な係合力の向上によるものです。

 

に、水性高分子イソシアネート系接着剤は塗装面や無機材料、金属材料など様々な材料を接着することも可能です。ただし、この接着剤は水性であるため、被着材料の片面が水を吸収できることが条件となります。

 

木材を使用した高級家具の製作においては、「イモ矧ぎ」(バットジョイント)でも十分な強度が得られることが特徴です。フィンガージョイントのような複雑な加工が必要なく、正確に加工されたイモ矧ぎの方が広い接触面を持つため、かえって接着強度が高くなることもあります。

 

ように、水性高分子イソシアネート系接着剤は難着木材への対応力が高く、適切な前処理と施工方法を組み合わせることで、高品質な木製品の製作を可能にします。特に高級家具や特殊な木材を使用した建築部材の製作において、その価値を発揮します。

 

水性高分子イソシアネート系接着剤の環境性能と持続可能な建築への貢献

高分子イソシアネート系接着剤は、その環境性能の高さから持続可能な建築に大きく貢献しています。この接着剤の最も重要な環境的特性は、ホルムアルデヒドを放散しないことです。従来のレゾルシノール系接着剤と異なり、水性であるため有害な揮発性有機化合物(VOC)の放出が少なく、室内環境の質の向上に寄与します。

 

、中性の接着剤であるため木材を汚染せず、長期間使用しても木材組織を傷めることがありません。これは建築物の長寿命化という観点からも重要なポイントです。強酸や強アルカリの接着剤を使用した場合、長年の間に木材組織が徐々に劣化する可能性がありますが、水性高分子イソシアネート系接着剤ではその心配がありません。

 

に、この接着剤は木材のリサイクルや再利用の観点からも注目されています。例えば、使用済み型枠用合板をチップ化することなく、合板の心板として再利用する際にも活用されています。これらの合板を研削して接合し、表裏面に新たな単板を接着することによる再生合板の製造において、水性高分子・イソシアネート系接着剤は合板のJASに規定される1類の基準を満たす接着性能を発揮します。

 

T(直交集成板)などの新しい木質建材の製造においても、改良された水性高分子-イソシアネート系接着剤が生産性向上に貢献しています。堆積時間が延長された改良型の接着剤を使用することで、1プレスあたりの製造量を増やすことが可能になり、生産効率の向上につながっています。

 

ように、水性高分子イソシアネート系接着剤は、その環境性能の高さと優れた接着性能により、木質建材の品質向上と環境負荷の低減を両立させています。特に近年の環境配慮型建築の需要増加に伴い、その重要性はますます高まっています。

 

を活用した持続可能な建築を推進する上で、接着剤の選択は非常に重要です。水性高分子イソシアネート系接着剤は、環境性能と接着性能のバランスが取れた選択肢として、今後も木造建築の発展に貢献していくでしょう。

 

北海道立総合研究機構による改良された水性高分子-イソシアネート系接着剤を用いたCLTの生産性向上に関する研究