耐火被覆材のアスベスト含有・除去と法的対応の全知識

耐火被覆材のアスベスト含有・除去と法的対応の全知識

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耐火被覆材のアスベスト含有・除去と法的対応の全知識

事前調査をせずに工事を始めると、懲役6ヶ月または罰金50万円のリスクを負います。


この記事のポイント3つ
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耐火被覆材にはレベル1・2の2種類が存在する

吹付けアスベストはレベル1(最高危険度)、石綿含有耐火被覆板はレベル2に分類され、レベルによって必要な工事手順・費用・届出内容が大きく変わります。

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2023年10月から事前調査は有資格者のみに限定

石綿障害予防規則の改正により、無資格者による事前調査は法令違反となります。違反が発覚すると50万円以下の罰金が科せられます。

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除去費用は最大8.5万円/㎡に達することがある

アスベストのレベルや処理面積によって単価が大きく変動します。特にレベル2の耐火被覆材は1〜6万円/㎡が相場であり、工事前に費用の見通しを持つことが重要です。


耐火被覆材とは何か、アスベストが使われた背景


耐火被覆材とは、鉄骨造建築物の梁・柱などを高温から守るために施工される建材のことです。鉄骨は約600℃以上になると急激に強度が低下する性質を持つため、建築基準法では一定の耐火被覆が義務付けられています。つまり、耐火被覆材は建物が火災時に崩壊しないための「生命線」とも言える存在です。


かつてアスベスト(石綿)は、その卓越した耐火性・断熱性・耐久性から「奇跡の鉱物」と呼ばれていました。コストも比較的低く、施工しやすかったため、高度経済成長期の建設ラッシュにおいて広く普及しました。代表的な商品名としては「スプレエース(1968〜1977年製造)」「マキベエ」などがあり、現在も国土交通省・経済産業省が運営する「石綿(アスベスト)含有建材データベース」で商品名から含有情報を確認できます。


アスベストが耐火被覆材として特に多用されたのは、昭和38年(1963年)頃から昭和50年代初頭にかけてです。その後、健康被害が明らかになるにつれて段階的に規制が強化され、2006年(平成18年)に製造・使用が全面禁止となりました。全面禁止以前に着工した建物には、今なおアスベスト含有耐火被覆材が残存している可能性があります。これが重要です。


建設業で働くみなさんが解体・改修の現場で向き合う「古い鉄骨造の建物」には、アスベストが潜んでいるリスクが常にあることを念頭に置く必要があります。


以下に、アスベストが耐火被覆材として使用されていた年代の目安をまとめます。


| 建材の種類 | 主な使用年代 |
|---|---|
| 吹付け石綿(レベル1) | 1963年〜1975年頃 |
| スプレエース(吹付け) | 1968年〜1977年 |
| 石綿含有耐火被覆板(レベル2) | 1965年〜1990年頃 |
| 吹付けロックウール(石綿混入品) | 1975年〜1987年頃 |


アスベスト含有の有無は商品名と製造年で確認するのが基本です。


参考:国土交通省・経済産業省が運営する石綿含有建材データベース(商品名で含有情報を検索可能)
石綿(アスベスト)含有建材データベース|国土交通省・経済産業省


耐火被覆材のアスベスト種類とレベル分類の基本

建設現場でアスベスト含有耐火被覆材を扱う際、最初に理解しなければならないのが「レベル分類」です。レベルは1〜3の3段階があり、数字が小さいほど飛散しやすく、危険性が高い建材として分類されます。


レベル1:吹付け石綿(発じん性が著しく高い)


吹付けアスベストは、アスベストとセメントを水で混合し、鉄骨の梁・柱・天井などに直接吹き付けた建材です。繊維が固定されておらず、振動や経年劣化でも粉じんが飛散しやすい構造になっています。見た目は白〜灰色の綿状で、表面がボロボロしているのが特徴です。除去作業には完全密閉の養生、負圧状態の維持、特別管理産業廃棄物としての処理が必要となります。


レベル2:石綿含有耐火被覆板・ケイ酸カルシウム板第2種(発じん性が高い)


石綿含有耐火被覆板は、吹付け材と同様の配合で工場において型枠で成形された板材です。アスベストの含有率は最大70%以下とされており、鉄骨の梁・柱・エレベーター昇降路などに板状で取り付けられています。平常時は飛散しにくいものの、切断・破壊・劣化が進むと高濃度の粉じんが飛散するリスクがあります。


| 分類 | 建材の種類 | 主な使用箇所 | 費用相場(除去) |
|---|---|---|---|
| レベル1 | 吹付け石綿 | 鉄骨梁・柱・天井 | 1.5万〜8.5万円/㎡ |
| レベル2 | 石綿含有耐火被覆板 | 鉄骨梁・柱・EV周辺 | 1万〜6万円/㎡ |
| レベル2 | ケイ酸カルシウム板第2種 | 天井・壁・間仕切り | 1万〜6万円/㎡ |


レベル2が基本です。耐火被覆材の多くはレベル2に分類されますが、「吹付けアスベスト」が確認された場合はレベル1として扱われます。レベルの違いは工事の手順・費用・届出義務の全てに影響するため、現場で最初に確認すべき情報の一つです。


また、「吹付けロックウール」には注意が必要です。ロックウール自体はアスベストの代替材として安全とされていますが、1975〜1987年頃の製品にはアスベストが混入したものが存在します。外見からはほぼ判別不可能であり、この時期に建てられた建物の吹付け材は必ず分析調査に出すことが原則です。


参考:アスベスト含有建材のレベル分類について(厚生労働省)
石綿含有建材のレベル分類(PDF)|厚生労働省


耐火被覆材のアスベスト含有を見分ける3つの方法

「この建物にアスベストが含まれているかどうか」を判断することは、現場に入る前に必ず行わなければならない作業です。見た目だけで断定することは専門家でも難しく、不確かな判断が後々の法令違反や健康被害につながります。ここでは、現場で使える3つの確認方法を解説します。


設計図書・仕様書で確認する


もっとも確実な一次情報は設計図書です。建物に使用された建材の名称・メーカー・型番が記載されていれば、「石綿(アスベスト)含有建材データベース」で検索することで、石綿の含有有無と製造年を確認できます。設計図書が手元にない場合は、発注者・施主に問い合わせるか、建物の登記情報や確認申請書類から入手する方法が現実的です。


② 建築年数から推定する


建物の完工年がわかれば、アスベスト使用の可能性を大まかに絞り込めます。2006年以前に建設された鉄骨造建築物は、耐火被覆材にアスベストが使用されていた可能性があります。特に1970年代以前の建物では確率が高く、1963〜1975年頃に建設された建物の鉄骨部分は、吹付けアスベスト(レベル1)が施工されている可能性を念頭に置く必要があります。


③ サンプル採取による分析調査(最も確実)


2023年10月1日以降、建築物のアスベスト事前調査は「建築物石綿含有建材調査者」などの有資格者が行うことが法律で義務付けられています。有資格者がサンプルを採取し、専門の分析機関で顕微鏡分析を行うことで、石綿の種類・含有率まで確定できます。定性分析は最短1営業日で結果が出る業者もあり、1検体あたり数千〜数万円程度が相場です。


見た目での確認は参考程度に留めましょう。吹付けアスベストとロックウールは外観がほぼ同じで、素人目には区別がつきません。確定判断は必ず分析調査で行うことが条件です。


なお、2022年4月からは一定規模以上の工事(解体:床面積80㎡以上、改修・補修:請負代金100万円以上)で事前調査結果の行政への報告が義務化されています。この規定を知らないまま工事を進めると、法令違反となります。


参考:国土交通省によるアスベスト対策のQ&A(建築物への吹付けアスベストの規制内容などを解説)
アスベスト対策Q&A|国土交通省


耐火被覆材のアスベスト除去工事に必要な法的手続き

アスベスト含有の耐火被覆材が確認された場合、工事を始める前に複数の法的手続きを踏む必要があります。これを怠ると工事停止命令・罰金・場合によっては懲役刑の対象になります。厳しいところですね。


石綿障害予防規則(厚生労働省管轄)に基づく手続き


石綿障害予防規則は、作業者の健康を守ることを目的とした規則で、主に以下の義務を事業者に課しています。


- 事前調査の実施と記録保存(3年間)
- 石綿作業主任者の選任(技能講習修了者)
- 特別教育の実施(作業員全員)
- 作業計画の策定と周知
- 保護具(防じんマスクなど)の着用管理
- 石綿作業の記録・健康診断の実施(30年間保存)


石綿作業主任者を選任せずに作業を行った場合、6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられます。


大気汚染防止法(環境省・都道府県管轄)に基づく手続き


大気汚染防止法は、アスベスト繊維が大気中に飛散して周辺住民に悪影響を与えないことを目的としています。特定建築材料(吹付けアスベスト・アスベスト含有耐火被覆材など)を使用した建築物の解体・改修を行う場合、工事開始の14日前までに都道府県知事への届出が必要です。


この届出を行わなかった場合は30万円以下の罰金、作業基準に違反した場合は3ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられます。2022年の法改正により、違反時には勧告・命令を経ることなく「直接罰」が適用されるようになりました。これが原則です。


「みなし含有」という重要な制度


設計図書や分析調査によってアスベスト含有の可能性が高い場合、実際に分析せずに「アスベストを含有しているものとみなす(みなし含有)」として工事を進めることが可能です。この場合、分析にかかる費用と時間を節約できますが、工事そのものはレベル1・2に準じた高水準の管理が必要です。みなし含有は費用削減にはなりません。むしろ、含有が確定した場合と同等のコスト・工期が必要になる点を見落とさないようにしましょう。


以下に違反時の罰則一覧をまとめます。


| 違反の内容 | 適用法令 | 罰則 |
|---|---|---|
| 事前調査の不実施 | 石綿障害予防規則 | 6ヶ月以下の懲役 or 50万円以下の罰金 |
| 作業主任者の未選任 | 石綿障害予防規則 | 6ヶ月以下の懲役 or 50万円以下の罰金 |
| 都道府県知事への未届出 | 大気汚染防止法 | 30万円以下の罰金 |
| 作業基準違反(直接罰) | 大気汚染防止法 | 3ヶ月以下の懲役 or 30万円以下の罰金 |


参考:石綿障害予防規則の概要と罰則に関する詳細(厚生労働省)
石綿障害予防規則の概要(PDF)|厚生労働省


耐火被覆材のアスベスト除去費用と健康リスクの正確な把握

費用の見積もりを誤ると、工事途中で予算が枯渇するという深刻な問題が発生します。また、健康リスクについても正しく理解することで、作業者の安全を守れます。


除去費用の相場と変動要因


アスベスト除去費用の単価は、レベル・処理面積・工法によって大きく変動します。国土交通省が示している目安は以下のとおりです。


| 処理面積 | 費用目安 |
|---|---|
| 300㎡以下 | 2.0万〜8.5万円/㎡ |
| 300〜1,000㎡ | 1.5万〜4.5万円/㎡ |
| 1,000㎡以上 | 1.0万〜3.0万円/㎡ |


例えば、50㎡のレベル2耐火被覆材(単価3万円/㎡で計算)を除去する場合、工事費だけで150万円に達します。これは平均的な乗用車1台分に相当する金額です。さらに、事前調査費用・廃棄物処理費用(特別管理産業廃棄物として高額)・養生費・届出手数料なども加算されるため、建物全体の解体計画に組み込む段階でアスベスト費用を算出しておく必要があります。


費用が高くなる主な要因は工法の選択です。除去工法(完全撤去)は最も確実ですが費用も最大です。封じ込め工法(薬剤で繊維を固定)や囲い込み工法(覆いで飛散を防止)はコストを抑えられますが、将来の改修・解体時に再対応が必要になります。どの工法が適切かは、建物の用途・劣化状況・将来の利用計画によって異なります。これは問題ありません。


建設業従事者が直面する健康リスク


アスベストの怖さは、吸い込んだ直後には何も症状が出ない点にあります。中皮腫(肺を包む胸膜などに発生する悪性腫瘍)の潜伏期間は平均35〜40年とされており、厚生労働省の調査では平均41.1年という数値も示されています。40年以上も症状が出ないということですね。


若い頃に建設現場でアスベスト粉じんを吸い込んだ労働者が、60〜70代になってから中皮腫・肺がん・石綿肺などを発症するケースが今も後を絶ちません。中皮腫の治療は非常に難しく、5年生存率は一般的に10〜20%程度とされています。適切な防じんマスク(DS2規格以上)の着用と、工事後の健康診断(石綿健康診断)の受診が不可欠です。


なお、アスベストを扱う工事に従事した記録は、事業者が30年間保存する義務があります。将来の労災認定に必要な証拠となるため、記録の保存は必須です。


参考:アスベストによる健康被害・労災制度の詳細(環境再生保全機構)
アスベストはどのような場所に使用されていたか|環境再生保全機構


建設業従事者だけが知っておくべき耐火被覆材の独自視点

ここからは、検索上位の記事にはあまり書かれていない実務的な観点を紹介します。これは使えそうです。


エレベーター昇降路は見落とされやすいアスベスト危険区域


耐火被覆材のアスベスト対策と言えば、鉄骨の梁・柱が注目されがちです。しかし、エレベーターの昇降路・機械室にも耐火被覆材が施工されていたケースが多くあります。エレベーター周辺は熱が集中しやすいため、防火目的で耐火被覆材が多用されました。改修工事でエレベーターを更新する際や、昇降路内の配管作業を行う際に、アスベスト含有建材を見落として無意識に粉じんを飛散させてしまうリスクがあります。


昇降路内は狭く換気が悪い空間であるため、粉じん濃度が上昇しやすい点も問題です。エレベーター関連の工事では、必ず昇降路と機械室のアスベスト事前調査を別途実施することを習慣にしましょう。


「1987年以降だから安全」という思い込みは危険


「1987年以降に建てられた建物ならアスベストはない」という認識が現場に広まっています。しかし、これは完全に正確ではありません。吹付けロックウール(石綿混入品)は1975〜1987年頃まで製造されていた一方で、「石綿含有耐火被覆板(ケイ酸カルシウム板第2種を含む)」は条件によっては1990年頃まで製造されていた製品も存在します。また、在庫品が使用された可能性もゼロではありません。


さらに、1987〜2006年の間に建設された建物でも、レベル3(成形板など)のアスベスト含有建材が使われているケースは多く、これらも2022年の大気汚染防止法改正後は適切な作業計画と飛散防止措置が義務化されています。「古くないから大丈夫」という判断は禁物です。


分析調査を自社でコントロールできる体制を作る


元請け・施工管理の立場にある人にとって、アスベスト事前調査の段取りは工程管理の要になりつつあります。有資格の調査者に依頼してから結果が出るまでの期間(最短1営業日〜数日程度)を工程に組み込まないと、工期全体が遅延します。調査結果によってはレベル認定が変わり、工程・費用が大幅に変更となることもあります。


工事受注の段階で概算的なアスベスト調査費用・除去費用を見積もりに含める仕組みを作ることが、トラブル防止の観点から非常に重要です。後から費用が膨らんで発注者とトラブルになるケースが実際に発生しています。アスベスト費用の見積もりは必須です。


補助金制度を活用することで費用負担を軽減できる


自治体によっては、アスベスト含有建材の調査や除去工事に対して補助金を交付している場合があります。国土交通省の案内では、アスベスト含有調査費用に対して原則25万円を上限とする補助が存在する例が示されています。補助金の有無・上限・申請手続きは自治体によって異なるため、工事前に発注者を通じて地元の自治体窓口に確認することを強くおすすめします。補助金活用は有料です、無料ではありませんが、知らずに見逃すのはもったいないですね。


参考:環境省によるアスベスト飛散防止対策マニュアル(解体等作業時の実務的手順を解説)
建築物等の解体等に係る石綿ばく露防止及び石綿飛散漏えい防止対策徹底マニュアル(PDF)|環境省




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