低温硬化型塗料で省エネ焼付と環境配慮を実現

低温硬化型塗料で省エネ焼付と環境配慮を実現

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低温硬化型塗料の特徴と活用法

低温硬化型塗料の基本情報
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低温硬化のメカニズム

通常の塗料より低い温度(100~140℃)で硬化する特殊な塗料。特殊な硬化剤や触媒技術により実現。

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環境メリット

焼付温度の低減によりCO2排出量とエネルギー消費量を大幅削減。省エネルギーに貢献。

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主な用途

工業用塗料、自動車塗装、建材、金属製品、電気機器など幅広い分野で活用されている。

低温硬化型塗料の仕組みと焼付温度の特性

低温硬化型塗料は、通常の熱硬化型塗料と比較して大幅に低い温度で硬化する特殊な塗料です。一般的な熱硬化型塗料が160~180℃の高温で焼き付けられるのに対し、低温硬化型塗料は100~140℃という低温域で十分な硬化が可能となります。

 

この低温硬化を実現する技術的なポイントは以下の通りです。

  • 特殊な硬化剤の採用: 低温でも活性化する高活性な硬化剤を使用
  • 触媒技術の革新: 包接触媒技術など、低温でも効率的に反応を促進する触媒の開発
  • 樹脂設計の最適化: 低温でも架橋反応が進行するよう分子設計された特殊樹脂の使用

例えば、関西ペイントが開発した低温硬化型粉体塗料では、特殊な包接触媒技術を採用しています。この技術では、高活性な触媒を特殊な化合物で包み込み(包接化)、常温では触媒活性を抑制しながら、加熱時に活性化させることで、低温でも効率的な硬化を実現しています。

焼付温度の低減は単なる技術的な進歩にとどまらず、製造工程全体のエネルギー消費量とCO2排出量の大幅な削減につながる重要な環境対策となっています。

関西ペイントの包接触媒技術に関する詳細情報

低温硬化型塗料の種類と樹脂別の特徴比較


低温硬化型塗料は使用される樹脂の種類によって、性能や特性が大きく異なります。主な種類と特徴を比較してみましょう。

1. アクリル系低温硬化型塗料
アクリル樹脂を主成分とした低温硬化型塗料は、優れた耐候性と美観性を特徴としています。例えば、関西ペイントの「マジクロンLTC」は、熱硬化形アクリル樹脂塗料の低温焼付タイプで、従来の160℃から140℃への低温化を実現しました。耐候性に優れ、金属製品や電気機器、建材内外装部品などに広く使用されています。

2. エポキシ系低温硬化型塗料
エポキシ樹脂を基材とした低温硬化型塗料は、優れた密着性と耐薬品性を持ちます。関西ペイントの「エポマリンJW 低温形」などが代表例で、水処理施設などの過酷な環境下でも使用可能です。低温での乾燥性に優れ、強靭で堅く、耐摩耗性にも優れています。

3. 粉体低温硬化型塗料
粉体塗料の低温硬化タイプは、VOC(揮発性有機化合物)を含まないため環境負荷が極めて低いという特長があります。通常の粉体塗料が180~200℃の高温で焼き付けられるのに対し、低温硬化型は130~150℃程度で硬化します。

4. カチオン系低温硬化型電着塗料
清水塗料の「エレコートCXS-LT」のようなカチオン系低温硬化型電着塗料は、100~120℃という低温で硬化します。銅や銅合金、銀めっき製品への光沢カラー電着に適しており、特にダイカスト製品や熱変色しやすいめっき素材のトップコートとして最適です。

5. 紫外線硬化型塗料
最新の技術として、紫外線(UV)を利用した硬化システムも注目されています。熱エネルギーではなく光エネルギーを使用するため、さらなる省エネルギー効果が期待できます。バイオペイントの「VITA ULTRAVIN EA-NUV80-」のような製品は、植物由来原材料を使用した環境配慮型の紫外線硬化型塗料です。



 

 

 


 


 

 

 


 


 

 

 


 


 

 

 


 


 

 

 


 


 

 

 



塗料タイプ

硬化温度

主な特徴

代表的な用途

アクリル系

140℃前後

耐候性に優れる

建材、金属製品

エポキシ系

120~140℃

密着性・耐薬品性が高い

水処理施設、防食用途

粉体塗料

130~150℃

VOCフリー、環境負荷低減

自動車部品、家電製品

カチオン系電着塗料

100~120℃

複雑形状に均一塗装可能

眼鏡フレーム、建築金物

UV硬化型

常温(UV照射)

瞬間硬化、省エネ性最大

木工製品、プラスチック

低温硬化型塗料の環境メリットとCO2削減効果


低温硬化型塗料の最大の特長は、その環境負荷低減効果にあります。従来の高温焼付型塗料と比較して、様々な環境メリットをもたらします。

1. エネルギー消費量の大幅削減
塗装工程における焼付温度を160~180℃から100~140℃に下げることで、必要な熱エネルギーを20~40%削減できます。これは工業塗装における最大のエネルギー消費工程である焼付乾燥工程の効率化を意味します。

例えば、自動車塗装ラインでは、フェラーリが導入した低温硬化クリアコート技術により、焼付温度を150℃から100℃に下げることに成功しました。この技術革新により、塗装工程のエネルギーコストが大幅に削減され、製造プロセス全体のサステナビリティが向上しています。

2. CO2排出量の削減効果
焼付温度の低減は直接的にCO2排出量の削減につながります。工業塗装工程は製造業における主要なCO2排出源の一つであり、低温硬化型塗料の導入によって、一工場あたり年間数百トンのCO2排出削減が可能になるケースもあります。

3. 塗装対象の拡大と工程短縮
低温硬化型塗料は、熱に弱い素材(プラスチックや複合材料など)への塗装を可能にします。これにより、従来は別工程で塗装する必要があった異素材部品を同時に塗装できるようになり、工程の簡略化と省エネ化が実現します。

フェラーリの例では、カーボンファイバーや複合素材を用いたコンポーネントをボディシェルと一緒に焼付塗装できるようになり、製造効率の向上とともに、各種ボディコンポーネントのカラー統一感がもたらされました。

4. VOC(揮発性有機化合物)排出削減
多くの低温硬化型塗料は水性塗料や粉体塗料との組み合わせで開発されており、VOC排出量の削減にも貢献しています。特に粉体タイプの低温硬化型塗料は、溶剤を全く含まないため、VOCゼロを実現しています。

5. 具体的な環境負荷低減効果の例
ある自動車部品メーカーの事例では、低温硬化型粉体塗料の導入により、以下のような効果が報告されています。

  • 年間エネルギー消費量:約30%削減
  • CO2排出量:年間約420トン削減
  • 塗装ライン全体の電力使用量:約25%削減

このように、低温硬化型塗料の導入は単なる塗料の変更にとどまらず、製造プロセス全体の環境負荷低減に大きく貢献する戦略的な取り組みとなっています。

低温硬化型塗料の実用例と導入事例


低温硬化型塗料は様々な産業分野で実用化が進んでおり、その導入事例から具体的なメリットを見ることができます。

自動車産業での活用
自動車産業は低温硬化型塗料の最も先進的な活用事例を提供しています。2018年、フェラーリはPPGとの協働で世界初となる低温硬化クリアコート技術を導入しました。この革新的な塗装システムでは、特別な配合のクリアコートを採用し、従来の150℃ではなく100℃での焼付けを実現しました。

この技術導入により。

  • エネルギーコストの大幅削減
  • 化学的・機械的耐性の向上
  • カーボンファイバーや複合素材部品との同時塗装が可能に
  • 61種類以上のベースコートカラーの実現

建材・金属製品分野での活用
建材や金属製品分野でも低温硬化型塗料の採用が進んでいます。ナトコ株式会社の「アクリストDX」は、低温硬化性をそのままに耐候性を強化したアクリル焼付塗料として、2024年8月に発売されました。この製品は、従来のメラミン焼付塗料と同じ温度帯で焼付が可能でありながら、優れた耐候性を発揮します。

特に屋外使用時の変色、退色、光沢低下、チョーキングを抑制する効果があり、建材外装部品などに適しています。

精密部品・眼鏡フレーム分野での活用
清水塗料の「エレコートCXS-LT」は、カチオン系低温硬化型光沢カラー電着塗料として、銅または銅合金、銀めっき製品への塗装に使用されています。100~120℃という低温焼付が可能なため、特にダイカスト製品や熱変色しやすいめっき素材に最適です。

この製品の特徴として。

  • 塗装膜の優れた耐食性と指紋防止効果
  • 複雑な凹部への均一塗装が可能
  • 熱エネルギーの削減
  • 有害な鉛を含まない環境配慮型設計
  • 水溶性塗料による作業環境負荷の低減

水処理施設での活用
関西ペイントの「エポマリンJW 低温形」は、水処理用イソシアネート硬化エポキシ樹脂塗料として、低温での乾燥性に優れています。水処理施設という過酷な環境下でも優れた耐水性と耐摩耗性を発揮し、強靭で堅い塗膜を形成します。

今後の展開が期待される分野
今後、低温硬化型塗料の活用が期待される分野として。

  • 家電製品(省エネ製造プロセスの一環として)
  • 医療機器(熱に弱い素材への塗装)
  • 再生可能エネルギー設備(耐候性と環境配慮の両立)

などが挙げられます。特に環境規制の厳しい欧州市場では、低温硬化型塗料の需要が急速に拡大しており、日本国内でも今後の成長が期待されています。

低温硬化型塗料の貯蔵安定性と包接触媒技術の革新


低温硬化型塗料の開発における最大の技術的課題の一つが、「低温硬化性」と「貯蔵安定性」の両立です。一般的に、硬化温度を下げるためには高活性な触媒や硬化剤を使用する必要がありますが、これらは常温でも反応が進みやすく、塗料の貯蔵中に固相反応を引き起こし、品質劣化や使用不能につながる問題がありました。

この課題を解決する革新的な技術として注目されているのが「包接触媒技術」です。この技術は、関西ペイントなどが開発した低温硬化型粉体塗料に応用されています。

包接触媒技術のメカニズム
包接触媒技術とは、高活性な触媒を特殊な化合物(ホスト分子)で包み込み(包接化)、常温では触媒活性を抑制しながら、加熱時に活性化させる技術です。

具体的には、TEP(トリエチルホスフェート)などのホスト分子が、2E4MZ(2-エチル-4-メチルイミダゾール)などの高活性触媒を包接します。この包接複合体(TEP-2E4MZ)は常温では安定しており、触媒活性が抑えられているため、塗料の貯蔵中に固相反応が進行しません。

しかし、低温焼付硬化時(130℃程度)には、包接複合体の水素結合が切れて触媒が解離し、エポキシ樹脂と反応することで効率的な硬化が進行します。これにより、低温硬化性と貯蔵安定性を両立した塗料が実現しました。

包接触媒技術のメリット