

鉄筋防錆混和剤は、コンクリート中の鉄筋を腐食させる塩化物イオンや中性化の影響を抑え、受動皮膜を維持・再生することを狙った材料群の総称です。
代表的な系統として、亜硝酸ナトリウムなどの亜硝酸塩系、亜硝酸リチウムを用いるリチウム塩系、浸透移行型防錆剤、ポリマーセメントモルタル(PCM)やエポキシ樹脂を主体とした防錆ペーストなどが挙げられます。
亜硝酸塩系防錆混和剤は、鉄筋表面で鉄イオンを安定な酸化物に変え、腐食電位を貴側にシフトさせることで錆の進行を抑制します。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/coj1975/21/3/21_8/_pdf
浸透移行型防錆剤は、コンクリート表面から浸透し鉄筋近傍に到達することで、既設構造物の耐久性向上に使える点が大きな特徴です。
参考)302 Found
リチウム塩系の防錆混和剤は、中性化や塩害だけでなく、アルカリシリカ反応(ASR)の膨張抑制効果もあわせ持つ製品が知られており、複合劣化が懸念される構造物で採用が進んでいます。
参考)Q&A
一方、エポキシ系やPCM系防錆材は、主に露出鉄筋に対する被覆・局部補修用として位置づけられ、付着性能や作業性が製品ごとに大きく異なる点に注意が必要です。library.jsce+1
鉄筋防錆混和剤の性能比較を行う際には、防錆効果だけでなく、鉄筋とコンクリートの付着強度や長期暴露後の性能保持をセットで評価することが重要です。
例えば、各種防錆剤を塗布した鉄筋を用いた付着試験では、圧縮強度が同程度でも防錆層の種類によって付着応力度やすべり量が異なることが報告されており、設計耐力に影響し得ることが示されています。
エポキシ系防錆剤は一般に防錆効果は高いものの、一部製品では伸びが小さく塗りにくいことや、塗布量が過多になるとダレ・ムラを生じやすいといった実験結果があります。
参考)http://library.jsce.or.jp/jsce/open/00035/2010/65-06/65-06-0305.pdf
PCM系防錆材についても、標準塗布量を守らないと同様の問題が起こりやすく、結果として付着性能が低下したり、はく離のリスクが増大することが指摘されています。futaseyogyo+1
浸透移行型防錆剤では、炭酸化や塩化物の侵入を受けた既設構造物に対し、表面からの塗布だけで鉄筋周辺の腐食速度低減が確認された事例があり、新設よりも補修・補強での採用が増えています。
ただし浸透深さや有効成分濃度はコンクリートの水セメント比や緻密さに依存するため、事前試験による適用性確認を行ったうえで仕様を決定することが望ましいとされています。j-cma+1
露出鉄筋に防錆ペーストや防錆剤を適用する場合、下地処理が不十分だと浮きや剥落の原因になるだけでなく、防錆成分が錆層や汚れに阻まれて効果を十分発揮できません。
施工要領書では、劣化したコンクリートや浮き部、油分を徹底的に除去し、健全な素地を出したうえで、規定の調合比と攪拌時間を守って塗布することが繰り返し強調されています。
例えばNC防錆ペーストでは、混和液A・Bと水道水を混合し、その後主材を投入して2〜3分間ダマが出ないように練り上げることが推奨されており、この手順を省略すると強度低下や付着不良の恐れがあると注意喚起されています。
参考)https://www.futaseyogyo.co.jp/wp-content/uploads/2025/01/8651c006f641e5e8c03f00f68c5382c0.pdf
また標準塗布量を下回ると防錆成分が不足し、逆に厚塗りし過ぎると乾燥収縮やひび割れの要因となるため、1回あたりの塗布量と回数を守ることが品質確保の鍵となります。library.jsce+1
浸透性防錆剤の施工では、コンクリート表層の汚れやレイタンスを除去したうえで、規定量を2回塗布または噴霧する仕様が多く、海水や雨水環境で長期的な発錆抑制効果が確認された製品もあります。
参考)http://www.sunhit.co.jp/pdf/sabisutoppa.pdf
このような材料では、塗布面の中性化進行を防ぐと同時に、中性化したコンクリートにアルカリを付与して再アルカリ化させる機能を持つものもあり、単なる「防錆スプレー」とは一線を画する設計になっています。sunhit+1
実務で鉄筋防錆混和剤を選定する際には、構造物のライフサイクルと想定環境(飛来塩分、凍結防止剤散布、工業地帯の大気など)を前提に、初期コストだけでなく将来の補修頻度を含めて総合的に評価する必要があります。
例えば、新設橋梁や港湾構造物では、塩害が強く予想される場合に亜硝酸塩系混和剤や浸透移行型防錆剤を組み合わせることで、設計耐久年数を延ばし、ライフサイクルコストを下げる事例が紹介されています。
一方、補修工事では、表面被覆工法だけでは鉄筋防錆効果が限定的であるため、亜硝酸リチウム含有ポリマーセメントペーストを併用したシステム工法が用いられ、従来工法よりも鉄筋防錆とASR抑制に優れた性能を示したとするQ&Aもあります。
ただし、このようなシステム工法は材料コストが高くなるため、劣化範囲や残存断面、供用期間の要求性能を踏まえて、部分適用と全面適用を使い分ける設計判断が求められます。
現場調達品としての鉄筋用防錆スプレーや簡易防錆剤も流通しており、小規模補修や沿岸部での応急的な塩害対策に使われていますが、これらは基本的に構造設計に織り込まれた耐久性向上策ではありません。
参考)https://www.monotaro.com/s/q-%E9%89%84%E7%AD%8B%20%E9%98%B2%E9%8C%86%E5%89%A4/
本格的な鉄筋防錆混和剤の採用時には、メーカーの技術資料や性能評価試験結果を確認し、必要に応じて試験施工を行ってから標準仕様として採用するのが安全です。nexus-ct+1
鉄筋防錆混和剤の効果は、しばしば「万能薬」と誤解されがちですが、かぶり不足やクラックの未処理を放置したまま混和剤に頼ると、局部的な腐食が進行し、結果的に劣化を見えにくくしてしまうケースがあります。
現場コラムでは、組み立て済み鉄筋の錆防止やコンクリートのもらい錆の対処が紹介されており、従来のようにセメントペーストを塗る「昔ながらの方法」と、浸透性防錆剤を併用する新しい考え方を状況に応じて選ぶことが提案されています。
また、浸透移行型防錆剤を新設時から計画的に使うことで、将来の補修工事における「追い打ち防錆」を容易にする、いわば長期メンテナンスを見据えた仕込みとして活用する発想もあります。nexus-ct+1
こうした戦略的な使い方をする場合、竣工時から記録を残し、どの部位にどの種別の鉄筋防錆混和剤を用いたかを維持管理台帳に明示しておくと、数十年後の点検・補修設計で大きな武器になります。
さらに、鉄筋防錆混和剤を「塩害対策」だけでなく「施工自由度の確保」として位置付け、やむを得ないかぶり不足部や後施工アンカー周りなど、局部的にリスクが高い位置に集中的に使う方法も考えられます。futaseyogyo+1
このように、材料単体の性能比較にとどまらず、構造ディテールや維持管理計画とセットで鉄筋防錆混和剤の使いどころを設計することで、同じ材料でも現場にもたらす価値が大きく変わってきます。j-cma+1
鉄筋防錆剤の性能評価実験や付着試験の詳細なデータの参考リンク(性能比較と付着強度・施工性の検討に関する部分)
各種鉄筋防錆剤の性能評価実験(土木学会論文)
浸透移行型防錆剤と混和剤の概要、炭酸化・塩害に対する耐久性向上策の参考リンク(浸透移行型防錆剤の説明に対応)
コンクリート構造物の耐久性向上のための浸透移行型防錆剤(技術資料)
鉄筋防錆材の施工要領書の参考リンク(下地処理と施工方法の勘所に対応)
鉄筋防錆材施工要領書(NC防錆ペースト)
亜硝酸リチウムを用いた表面被覆・防錆システム工法に関するQ&A(リチウム塩系とシステム工法の説明に対応)
コンクリートメンテナンス協会 Q&A(亜硝酸リチウム系工法)