テレフタル酸の分子量の求め方!構造式とFRP防水の関係性

テレフタル酸の分子量の求め方!構造式とFRP防水の関係性

記事内に広告を含む場合があります。
テレフタル酸の分子量の求め方
🧪
化学式からの計算

C8H6O4の原子量を合計して約166.13を導出

🏗️
建築現場での応用

FRP防水や不飽和ポリエステル樹脂の原料として活躍

🛡️
耐久性への影響

分子構造が樹脂の耐水性や強度を決定づける

テレフタル酸の分子量の求め方

建設業界や化学プラントの現場において、材料の特性を理解することは施工品質を担保する上で非常に重要です。特にFRP防水や高性能な塗料の主原料となる「テレフタル酸」は、その分子量や構造が最終的な樹脂の性能に直結します 。ここでは、基礎的な化学知識としての分子量の求め方から、なぜその数値になるのかという構造的な理由までを詳しく解説します。
参考)FRPとは?FRPの概要と特徴について - FRPのことなら…

テレフタル酸の化学式から原子量を使う計算手順

テレフタル酸の分子量を求めるには、まずその化学式(分子式)を正しく把握する必要があります。テレフタル酸の化学式はC₈H₆O₄です 。これは、炭素(C)が8個、水素(H)が6個、酸素(O)が4個で構成されていることを意味します。
参考)テレフタル酸 CAS#: 100-21-0

分子量とは、物質を構成する原子の原子量の総和です。一般的な原子量は以下の通りです(計算を簡略化するため、通常用いられる概数値と精密な値を併記します)。


  • 炭素(C): 約 12.01

  • 水素(H): 約 1.008

  • 酸素(O): 約 16.00

これらを基に、計算式を組み立てます。


  1. 炭素部分の質量計算:
    炭素原子は8個あります。
    12.01×8=96.0812.01 \times 8 = 96.0812.01×8=96.08


  2. 水素部分の質量計算:
    水素原子は6個あります。
    1.008×6=6.0481.008 \times 6 = 6.0481.008×6=6.048


  3. 酸素部分の質量計算:
    酸素原子は4個あります。
    16.00×4=64.0016.00 \times 4 = 64.0016.00×4=64.00


  4. 総和(分子量)の計算:
    これらをすべて足し合わせます。
    96.08+6.048+64.00=166.12896.08 + 6.048 + 64.00 = 166.12896.08+6.048+64.00=166.128


一般的には、小数点以下を適当な桁で四捨五入し、約166.13 または単純に 166 として扱われます 。youtube​
参考)テレフタル酸


現場での実務においては、厳密な小数点以下の数値よりも「約166」という整数値を覚えておくだけでも、配合比率の確認や、反応等量(どれだけの樹脂を作るのにどれだけの酸が必要か)の概算に役立ちます。例えば、1トンの製品を作る際に必要な原料の重量比を計算する際、この分子量の比率がそのまま重量の比率計算のベースとなります。

テレフタル酸の構造式にあるベンゼン環とカルボキシ基

分子量が166となる理由を、より深く理解するために構造式を見ていきましょう。単に原子を足し算するだけでなく、どのような形状をしているかを知ることは、材料の「硬さ」や「強さ」を理解する助けになります。
テレフタル酸は、芳香族ジカルボン酸の一種です。その構造は以下の2つの要素から成り立っています。


  • ベンゼン環(C₆H₄):
    分子の中心にある六角形の亀の甲のような構造です。これが物質に「剛直さ(硬さ)」と「耐熱性」を与えます。ベンゼン環自体はC₆H₆ですが、テレフタル酸では水素が2つ置換されているため、C₆H₄という構成になります 。
    参考)テレフタル酸 - Wikipedia


  • カルボキシ基(-COOH):
    酸としての性質を持つ官能基です。これがベンゼン環の「パラ位(正反対の位置)」に2つ付いています。化学式で書くと、C₆H₄(COOH)₂ と表現されることもあります。

構造式による原子のカウント確認:


  • ベンゼン環部分:炭素6個、水素4個

  • カルボキシ基(2つ分):炭素2個、水素2個、酸素4個

  • 合計: 炭素(6+2)=8個、水素(4+2)=6個、酸素4個

この「パラ位」に結合しているという点が非常に重要です。直線的な構造になりやすいため、分子同士がきれいに並びやすく(結晶性が高い)、これがプラスチックや繊維にした時の高い強度耐熱性につながります 。一方、異性体であるフタル酸(オルソ位)やイソフタル酸(メタ位)は構造が折れ曲がっているため、性質が異なります。建築現場で求められる「強靭な防水層」や「熱に強い部材」には、この直線的なテレフタル酸の構造が大きく寄与しているのです。
参考)PET(ポリエチレンテレフタレート) 樹脂の特徴とは?原料、…

テレフタル酸とPETの関係:重合度と分子量

建築現場でも養生シートや繊維補強材としてなじみ深い「PET(ポリエチレンテレフタレート)」。このPETも、テレフタル酸の分子量計算の延長線上にあります。PETは、テレフタル酸とエチレングリコールが脱水縮合してできた高分子(ポリマー)です 。
参考)ポリエチレンテレフタラート - Wikipedia

PETの繰り返し単位(モノマー単位)の分子量の求め方は以下のようになります。


  1. テレフタル酸: C8H6O4\text{C}_8\text{H}_6\text{O}_4C8H6O4 (分子量 166)


  2. エチレングリコール: C2H6O2\text{C}_2\text{H}_6\text{O}_2C2H6O2 (分子量 62)


  3. 脱水反応: 結合する際に水分子(H2O\text{H}_2\text{O}H2O、分子量18)が2つ抜けます。


PET単位分子量=166+62(18×2)=192\text{PET単位分子量} = 166 + 62 - (18 \times 2) = 192PET単位分子量=166+62−(18×2)=192
つまり、PET樹脂の分子量は、この「192」に**重合度(n)**を掛けた値になります(厳密には末端基の重さが加わりますが、高分子では無視できる誤差範囲です)。
参考)有機化学について。 - PETの質量を求める際にテレフタル酸…

youtube​
PETの分子量192×n\text{PETの分子量} \approx 192 \times nPETの分子量≈192×n
例えば、分子量約20,000のPET樹脂であれば、重合度nは約100程度ということになります。この計算は、リサイクル材の品質管理や、特定の強度を持つ繊維を選定する際の基礎データとして活用されます。建築用メッシュや不織布において、どの程度の分子量のPETが使われているかを知ることは、長期的な加水分解耐性(ボロボロにならないか)を予測する指標の一つとなり得ます。

テレフタル酸系不飽和ポリエステル樹脂の建築用途

ここからは、より実践的な建築現場での「テレフタル酸」の役割について解説します。テレフタル酸は単にPETボトルの原料であるだけでなく、不飽和ポリエステル樹脂の重要な成分として、防水工事やライニング工事で使用されています 。
参考)不飽和ポリエステル樹脂について

不飽和ポリエステル樹脂は、多塩基酸(テレフタル酸など)と多価アルコール(グリコール類)を反応させて作られます。このとき、酸の選び方によって樹脂のグレードが変わります。
参考リンク:FRPとは?FRPの概要と特徴(樹脂のタイプによる耐食性の違いについて)
一般的に建築用のFRP防水で使われる樹脂には、主に以下の2種類があります。


  • オルソ系(一般用):
    無水フタル酸(オルソフタル酸)を主原料としたもの。安価で使いやすいが、耐水性や耐薬品性は標準的。住宅のベランダ防水などで広く使われます。

  • イソ系・テレ系(高機能用):
    イソフタル酸やテレフタル酸を使用したもの。オルソ系に比べて分子構造が強固で、耐水性、耐熱性、機械的強度に優れます 。
    参考)https://www.hinkakukyo.jp/rensai/pdf/2-200901-02.pdf

特にテレフタル酸を導入した樹脂は、その直線的な分子構造により樹脂全体の密度が高まり、水分の侵入を防ぐ性能が向上します。これは、屋上の防水層や、下水道管の更生(ライニング)、工場の耐薬品床など、過酷な環境に晒される部位でその真価を発揮します 。
参考)https://patents.google.com/patent/JP2010235777A/ja

現場で「高耐久仕様」や「耐食仕様」のFRPライニングを行う場合、仕様書に「イソ系」や「テレフタル酸変性」といった記載があるかを確認することは、施工後のトラブルを防ぐための重要なポイントです。

[独自視点] テレフタル酸の分子構造が支えるFRP防水の長期耐久性

最後に、検索上位の記事ではあまり触れられていない、建築実務者視点での「分子構造と長期耐久性」の関係について深掘りします。なぜ、わざわざ計算してまで分子量や構造を知る必要があるのでしょうか。それは、「加水分解」への抵抗力を理解するためです。
FRP防水層の劣化原因の一つに、水によるポリエステルの加水分解があります。樹脂のエステル結合部分が水と反応して切断され、分子量が低下し、強度が失われていく現象です。
ここで、テレフタル酸の構造的特徴である「ベンゼン環のパラ位配置」が効いてきます。


  1. 立体障害による保護:
    テレフタル酸を用いたポリエステル樹脂は、分子鎖が直線的で密に配列しやすくなります。この「詰まった」構造(高い架橋密度や結晶性)が物理的なバリアとなり、水分子がエステル結合部分に侵入するのを防ぎます 。
    参考)https://www.perstorp.com/-/media/files/perstorp/pb/unsaturated%20polyesters_japan.pdf


  2. 疎水性の向上:
    ベンゼン環は水を弾く性質(疎水性)を持っています。テレフタル酸を多く含む樹脂は、全体として吸水率が低くなる傾向があり、結果として加水分解の起点を作らせません。

参考リンク:不飽和ポリエステル樹脂の耐水性・耐熱水性に関する詳細
「分子量を求める」という行為は、単なる計算練習ではありません。それは、**「この樹脂は水分子の攻撃に対して、どれだけ密な防御壁(分子の鎖)を構築できる材料なのか?」**を見極める第一歩なのです。
例えば、安価なオルソ系樹脂は分子構造的に隙間ができやすく(立体障害が少ない)、長期間水に浸かると白化したり膨れが生じたりするリスクが相対的に高くなります。一方、テレフタル酸系の樹脂は、初期コストは高いものの、10年、20年というスパンで見た時の防水層の信頼性が圧倒的に異なります。
建築従事者が「テレフタル酸=166=直線的で強い」というイメージを持っていれば、資材選定の会議や施主への説明において、「なぜこちらの高い材料を使う必要があるのか」を、分子レベルの根拠を持って説明できるようになります。これが、プロフェッショナルとしての付加価値につながるのです。