

施行地区内で76条許可を取らずに建築すると、あなたの工事が原状回復命令で全やり直しになります。
土地区画整理事業とは、道路・公園などの公共施設が未整備な区域において、地権者から少しずつ土地を提供してもらい(これを「減歩(げんぶ)」といいます)、その土地を公共用地の整備や事業資金に充てる都市整備の手法です。根拠法令は土地区画整理法(昭和29年法律第119号)であり、国土交通省が所管しています。
用地買収方式と大きく異なる点は、土地の所有者を地区外に追い出さないことです。換地という仕組みによって、地権者は整備後の街区内に新たな土地(換地)を割り当てられ、同じ地域で生活・事業を継続できます。道路計画線にかかった土地の所有者も、換地が定められるため立ち退きを強制されません。これが用地買収にはない最大の利点です。
つまり、地権者全員が事業に参加して街ごとつくり直す仕組みです。
事業の施行実績は2020年3月末時点で約37万haにのぼります。これは東京23区(面積約6.3万ha)の約6倍に相当する広大なエリアです。建築業に従事するなら、施行地区内の案件に関わる可能性は決して低くありません。
施行者になれるのは、個人・組合・会社・地方公共団体・国土交通大臣・都市再生機構・地方住宅供給公社の7者です。民間の個人や組合でも事業を起こせますが、知事の認可が必要になります。組合施行では、施行地区内の土地所有者・借地権者それぞれ3分の2以上の同意が要件です。
公益社団法人 街づくり区画整理協会「土地区画整理事業とは」|施行者の種類・換地・減歩の仕組みが網羅的に解説されています
事業の最初のフェーズは「企画・調査」です。自治体や事業主体が、まちづくりの必要性を調査し、構想・方針を定めます。住民参加の説明会を開いて地元の意見を聴取し、地区界測量や現況調査が行われます。
次が「都市計画決定」です。
公共団体施行の場合、または組合施行で国費導入を予定する場合は、施行区域を都市計画として定めることが必要です。都市計画決定の手続きでは、案の縦覧(2週間)→意見書の受付→都市計画審議会の審議→告示という流れをたどります。
その後、「事業計画の決定」に進みます。事業計画には、施行地区の範囲・設計の概要・施行期間・資金計画が記載されます。組合施行の場合は定款と事業計画を合わせて知事の認可を受けます。事業計画が公告されると、この時点から建築制限(76条許可)が始まります。建築業従事者にとって、この公告日は必ず確認すべき起点です。
事業計画の認可を受けるためには、組合施行であれば土地所有者・借地権者のそれぞれ3分の2以上、さらに土地・借地の総地積の合計でも3分の2以上の同意が求められます(土地区画整理法第18条)。近年の目標同意率は9割とする地区も多く、合意形成だけで相当な時間がかかるのが現状です。
事業計画の公告と同時に「土地区画整理審議会」が設置されます。審議会は施行地区内の地権者の選挙で選ばれた代表と学識経験者で構成され、換地計画・仮換地指定・清算金の額などについて意見を述べる役割を担います。
国土交通省「土地区画整理事業の流れ」|公式フロー図と各ステップの概要が確認できます
施行地区内で最も見落としやすいのが、76条許可の存在です。事業計画が公告された時点から換地処分の公告日まで、施行地区内で以下の行為を行う者は、都道府県知事等の許可を事前に取得しなければなりません(土地区画整理法第76条第1項)。
76条許可が必要です。
建築確認申請よりも前に76条許可を取得するのがルールで、順序を逆にすることはできません。申請手数料は地域によって異なりますが、3万円前後が一般的です。無許可で建築行為を行った場合、施行者から原状回復を命じられるリスクがあります。撤去費用を全額自己負担で負う可能性が出てきます。
続いて「仮換地指定」です。換地設計に基づき、施行者は地権者に新たな仮換地の位置・地積・形状を通知します。仮換地が指定されると、元の土地(従前の宅地)の使用収益権は停止し、仮換地側に移行します(土地区画整理法第99条)。
ここが実務で特に誤解されやすい点です。
登記簿上は従前地の所有者であり続けますが、仮換地指定後はその土地に立ち入ることも使用することも法律上できなくなります。施工業者が元の土地に資材を置いたり、整地したりすることは認められません。案件を受注する際は、仮換地指定通知書を必ず確認しましょう。
仮換地上では、76条許可を取得したうえで建築が可能です。ただし、将来の換地処分後に土地の面積・位置が微妙にズレる(清算金が発生する)可能性もあるため、施行者が定める壁面後退ルールや建築条件に従う必要があります。
「土地区画整理法とは?仮換地と76条許可をわかりやすく解説」|76条許可の対象行為・仮換地の権利移行・取引チェックポイントが詳しく整理されています
仮換地の指定を受けた後、施行者は建物所有者に「移転・除却開始の期日通知」を送ります(土地区画整理法第77条)。この通知が届いたら、期日までに建物を仮換地先へ移転するか、除却するかを選択します。
移転に必要な費用は「移転補償金」として施行者から支払われます。補償金は、契約後おおむね1か月以内に約8割、建物解体・立ち退き完了後に残りの約2割が支払われるケースが一般的です。建築業者として解体・移転工事を受ける場合、この支払いタイミングを発注者に確認しておくことが重要です。
注意が必要なのは、増改築を伴う移転の場合です。
移転に伴って増改築をする場合、増改築分の費用は移転補償金の対象外となります(土地区画整理法第78条)。つまり、「移転ついでに増築しよう」と考えていると、増築部分は全額自己負担になります。建て主からの追加要望があった際は、補償対象範囲をあらかじめ施行者に確認することをお勧めします。
移転補償金は確定申告との関係も整理が必要です。
移転補償金を目的通りの移転費用に使った場合は総収入金額に算入されません(非課税扱い)が、使途が異なる場合には一時所得として課税される可能性があります。建て主がこの点を知らないまま工事を進めると、後から税務上のトラブルが生じる恐れがあります。
建物移転が完了した後、施行者は道路の築造工事・公園整備・ライフラインの新設移設・宅地の整地工事を実施します。この工事フェーズに建築業者として参入する場合、事業認可番号・施行者・工事区域が書かれた仕様書を正確に把握し、76条許可の取得状況を施行者と共有しながら進めることが求められます。
東京都都市整備局「土地区画整理事業における移転・補償について」|補償金の支払いタイミング・自分で移転する場合の手続きが確認できます
地区全体の工事が完了したら、出来形確認測量が行われ、その測量成果をもとに「換地計画」が作成されます。換地計画の内容は、換地設計・各筆換地明細・各筆各権利別清算金明細です(土地区画整理法第87条)。
換地計画も2週間縦覧に供され、意見書が提出された場合は土地区画整理審議会が審議します。縦覧後に換地計画が確定し、関係権利者への通知が完了すると、「換地処分」が実施されます(土地区画整理法第103条第1項)。
換地処分の公告の翌日から、仮換地は正式な換地となり、従前地の権利関係が換地へ移行します。この時点で76条の建築制限も解除されます。事業の完了が確定するのです。
換地処分後、施行者が一括して全宅地の土地区画整理登記を申請します(土地区画整理法第107条)。これにより登記簿が書き換えられ、換地後の土地が正式に記録されます。施行者が一括申請するため、個々の地権者が登記手続きを別途行う必要はありません。
最後のステップが「清算」です。
換地について従前地と換地の価額に不均衡が生じた場合、施算金の徴収または交付で調整されます(土地区画整理法第94条・第110条)。整理前より整理後の評価が高くなった地権者は清算金を「徴収」され、低くなった地権者は「交付」されます。清算金の価格水準は時価ではなく、固定資産税または相続税の課税水準を参考に定められるのが一般的です。
事業全体の完了期間は、近年の実績で組合施行が平均5〜6年、公共団体施行が平均8〜9年とされています(成田市Q&A)。東京ドームのグラウンド(面積約1.3ha)と比べると、大規模地区では東京ドーム数十個分の区域を、10年近いスパンで整備していく大事業です。長期にわたるプロジェクトであることを前提に、関わるタイミングと担当工程を正確に把握しておくことが重要です。
成田市「区画整理はどのくらいの期間かかるのですか」|組合施行・公共団体施行別の平均施行期間が確認できます
建築業の現場では、「区画整理地区=制限が多くて面倒」というイメージを持つ方が少なくありません。しかし、実は事業の後半フェーズに入ると、新規の建築需要が一気に集中するタイミングが訪れます。
事業の仕組みを理解した上で施行者・組合側と良好な関係を築いておくと、移転工事・造成工事・換地後の新築工事と、複数の工程で継続的に仕事を受注できる可能性があります。
減歩について整理しておきます。
減歩とは、地権者が公共施設用地や保留地用地として無償提供する土地のことです。平均減歩率はおおむね20〜30%程度になるケースが多く、100㎡の土地が70〜80㎡の換地になるイメージです(地区によって大きく異なります)。ただし、土地の形状が整い、道路付けが良くなることで地価水準(㎡あたり単価)は上昇するため、総価額は事業前を上回るケースが一般的です(公益社団法人 街づくり区画整理協会のデータでは、施行後に地価水準が40%上昇した事例が示されています)。
保留地は施行者が売却して事業資金に充てる土地で、換地処分の公告後に公募・入札で取得できます。
建て主候補のいるエリアで区画整理が進行中の場合、保留地の取得は整形地を市場価格以下で手に入れられる可能性があります。ただし、住宅ローンの取り扱いについては金融機関によって慎重な判断を示すところもあるため、事前に融資可否を確認する必要があります。
換地処分前の土地に建物を建てる場合には76条許可が必要で、建築確認申請の前に取得しなければなりません。手順を間違えると工事着工が遅延するだけでなく、最悪の場合は原状回復命令が下ります。受注前に施行者のウェブサイトや窓口で「76条許可申請の手引き」を入手し、申請書類・審査期間・手数料を確認する習慣をつけると、こうしたリスクを確実に回避できます。
一般社団法人 全日本土地区画整理士会「Q&A」|実務上の疑問(施行期間・換地計画・清算金等)が専門家の視点で回答されています