ウェットフィルムシックネスゲージの種類と正しい使い方

ウェットフィルムシックネスゲージの種類と正しい使い方

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ウェットフィルムシックネスゲージの種類と正しい使い方

目標DRY膜厚を達成しているつもりでも、測定タイミングを誤ると実際の乾燥後膜厚が仕様の70%を下回り、やり直し費用が数十万円になることがあります。


この記事でわかること
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ウェットフィルムシックネスゲージの基本

塗装直後のWET膜厚を測定し、乾燥後のDRY膜厚を推定する仕組みと、くし形・ロータリー式の違いを解説します。

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正確な測定手順と読み方

垂直に押し当てるだけで膜厚がわかるくし形ゲージの操作手順と、数値の正しい読み取り方を図解で説明します。

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WET→DRY換算と品質管理

体積固形分(SV)を使ったDRY膜厚の計算式と、管理基準値(平均90%以上・最小値70%以上)を現場ですぐ使える形でまとめています。


ウェットフィルムシックネスゲージとは何か:役割と測定原理


ウェットフィルムシックネスゲージ(湿潤塗膜厚測定ゲージ)とは、塗装直後の乾燥していない塗膜(ウェット塗膜)の厚さを測定する工具です。英語ではWet Film Thickness Gauge、略してWFTゲージとも呼ばれます。現場では「ウェットゲージ」「くし形ゲージ」「コームゲージ」といった呼び方も一般的です。


なぜ乾燥前に測定するのか、疑問に思う方もいるかもしれません。理由はシンプルで、乾燥後にDRY膜厚が不足していても後から取り戻しにくいからです。塗装作業中にリアルタイムで膜厚を確認し、厚みが足りなければ追い塗りで修正できる――これがウェットフィルムシックネスゲージの最大のメリットです。


測定の仕組みは直感的でわかりやすいです。ゲージの両端が同じ高さの基準辺(ランドポイント)になっており、中間の歯が少しずつ異なる高さに刻まれています。塗膜に対して垂直に押し当てると、ある歯は塗料に触れ、別の歯は触れない状態になります。触れた最も短い歯と触れなかった隣の歯の間に書かれた数値が、そのときのウェット膜厚となります。


対応規格はJIS K 5600-1-7(塗料一般試験方法)、ISO 2808(塗膜厚の測定)、ASTM D 1212、BS 3900など国際的に広く整備されています。規格が定められているということは、それだけ品質管理上の重要度が高いツールだと覚えておきましょう。


また、電磁式DRY膜厚計と異なり、ウェットフィルムシックネスゲージは金属下地以外でも使用できます。コンクリート、木材、プラスチックなど素地の種類を選ばない点も、現場向けの強みです。これは便利ですね。




塗装工事での塗膜厚の基礎知識・測定方法について詳しく解説された参考情報はこちら:

塗膜厚の基礎知識と測定方法|失敗しない塗装・現場管理のポイント(MIRIX)


ウェットフィルムシックネスゲージの種類:くし形とロータリー式の違い

現場で使われるウェットフィルムシックネスゲージには、大きく分けて「くし形(コーム形)」と「ロータリー式(ホイール式)」の2種類があります。どちらを選ぶかで測定の手間と精度が変わります。


くし形ゲージは最もポピュラーなタイプです。六角形・四角形の金属板の各辺にくし状の歯が刻まれていて、塗面に垂直に押し当てるだけで測定できます。操作がシンプルで塗膜との接触面積が最小限で済むため、測定跡が目立ちにくいのが特徴です。一般的な製品はステンレス製で、ケツト科学研究所やサンコウ電子研究所などのメーカーから市販されています。測定範囲は製品によって異なりますが、ケツト科学研究所の「ウェットゲージ」の場合、1型が25〜700μm、2型が100〜1500μmと幅広く対応しています。価格帯は数千円〜15,000円程度が目安です。


ロータリー式ゲージは、偏心輪(中央輪)を持つホイール型で、塗膜上を転がしながら測定するタイプです。精度は±5%程度とくし形よりも高く、より正確な膜厚管理が必要な現場で使われます。ただし、塗膜との接触面積が大きくなるため、測定跡が残りやすいというデメリットもあります。


| タイプ | 精度 | 接触面積 | 価格目安 | 向いている用途 |
|---|---|---|---|---|
| くし形(コーム形) | 標準 | 小 | 数千円〜15,000円 | 日常的な現場管理・速度優先 |
| ロータリー式 | ±5%(高精度) | 大 | 15,000円〜 | 精密な品質検査・橋梁・鋼構造物 |


つまり精度よりスピードを優先する日常的な現場管理にはくし形、橋梁・鋼構造物など精密な品質記録が求められる場合にはロータリー式が向いています。


なお、国土交通省の機械工事塗装要領(案)でも、くし形のウェットフィルムゲージとロータリーゲージの2種類が明記されており、用途に応じて使い分けることが推奨されています。




ウェット膜厚計の種類・特徴・使用方法を詳しく解説した専門情報はこちら:

不良ゼロを目指して…使える膜厚管理を考える(コーテック株式会社)


ウェットフィルムシックネスゲージの正しい使い方と測定手順

ゲージを持っていても、正しい手順で使わなければ意味がありません。間違った使い方は膜厚不良を見逃す直接の原因になります。ここでは正確な測定のための手順を整理します。


🔵 測定の基本手順(くし形ゲージの場合)


1. 予想膜厚の確認 :事前に使用塗料の仕様書でWET膜厚の目標値を確認する。


2. 測定範囲の選択 :予想膜厚に最も近い測定範囲の面を選んで使用する。


3. 押し当てる :塗装直後(溶剤が揮発する前)に、ゲージを塗膜に対して垂直に素地まで届くように押し当てる。


4. ゲージを外す :塗膜からゆっくりとまっすぐ引き抜く。横にずらすと読み取り誤差の原因になる。


5. 数値を読む :塗料が付着した最も短い歯と、付着していなかった隣の歯の間の数値がWET膜厚。


6. 複数箇所で測定 :同じ面で2〜3箇所、場所を変えて測定し、代表値を求める。


7. 使用後の清掃 :塗料が固まる前に速やかに水またはシンナーで拭き取る。乾くと精度が落ちる。


特に重要なのが測定タイミングです。塗装直後から溶剤が揮発し始めるため、時間が経つと測定値が実際より小さく出てしまいます。速乾型の塗料では塗装後1〜2分以内に測定することが推奨されます。これが条件です。


また、ゲージを押し当てる際に傾くと誤差が生じます。鉄骨の縦面や天井面など、水平でない面での測定では特に注意が必要です。塗膜に対して正確に垂直を意識することで、測定精度が安定します。


ロータリー式の場合は、最大の数値が下になるようにして塗膜に当て、ゆっくりほぼ360°回転させます。偏心輪(中央輪)に塗料が付いた最初の箇所と切れ目の数値の平均値が測定値です。


⚠️ よくある測定ミスのポイント


- 測定が遅すぎる(溶剤揮発後)→ 実際より薄い値が出る
- ゲージが傾いて当たっている→ 誤差が拡大する
- 測定後の清掃を忘れる→ 次回の測定精度が低下する
- 1箇所だけで判定する→ 偶然値に引きずられる


WET膜厚からDRY膜厚を計算する方法:固形分換算の実務

ウェットフィルムシックネスゲージで読み取れるのはWET膜厚(湿潤塗膜厚)だけです。しかし品質管理の合否基準はほとんどの場合DRY膜厚(乾燥塗膜厚)で規定されています。そのため、WET膜厚からDRY膜厚を推定する計算が現場では必須です。


計算式はシンプルです。


> DRY膜厚(μm)= WET膜厚(μm)× 体積固形分(SV:%)÷ 100


体積固形分(Solids by Volume)とは、塗料が乾燥した後に残る体積の割合を示す数値で、各塗料の製品仕様書やカタログに記載されています。


🔢 計算例


たとえば、カーボマスチック15Jを刷毛塗で施工した場合、WET膜厚が100μmのとき、DRY膜厚は約70μmとなります(体積固形分70%相当)。一方、目標DRY膜厚が60μmで、使用塗料の体積固形分が50%の場合、必要なWET膜厚は以下の通りです。


> 必要WET膜厚 = 60μm ÷ 0.50 = 120μm


つまり、120μmのWET膜厚が確認できれば、乾燥後に60μmのDRY膜厚が得られると推定できます。これは現場での目安として非常に実用的な計算です。


注意すべき点として、ウェット膜厚には溶剤分も含まれており、塗装後すぐから溶剤は揮発し始めます。そのためウェットフィルムシックネスゲージは必ず塗装直後に使うことが原則です。時間が経過してからの測定値は溶剤が抜けた分だけ実際より小さく出て、DRY膜厚の推定値も不正確になってしまいます。


📊 管理基準の考え方(国土交通省・大分県等の基準を参考)


| 管理項目 | 基準値 |
|---|---|
| ロット平均値 | 目標塗膜厚合計値の90%以上 |
| 最小値 | 目標塗膜厚合計値の70%以上 |
| 標準偏差 | 目標塗膜厚合計値の20%を超えないこと |


この基準は「平均が90%以上、どの測定点も最低70%以上」というイメージです。目標の90%以上が条件です。平均だけ見ていても部分的に薄い箇所を見逃すことがあるため、最小値の管理も欠かせません。




塗料の理論塗付量・膜厚計算に関する公式資料はこちら:

理論塗付量と標準塗付量(日本ペイント株式会社 技術資料)


ウェットフィルムシックネスゲージが特に重要な現場:防錆塗装と厚膜塗装

すべての塗装工事でウェットフィルムシックネスゲージが必須というわけではありません。しかし、使うべき現場を見極めることが、品質トラブルを防ぐうえで重要です。


特に重要性が高いのは防錆塗装の現場です。鉄骨造の建築物では、防錆塗装の膜厚不足が錆の発生→腐食→強度低下という連鎖につながります。防錆塗装では多くの場合、一層あたりDRY膜厚30〜60μm以上の確保が求められ、複数層の合計膜厚が120μm以上になる仕様も珍しくありません。この確保が原則です。膜厚不足が後から発覚した場合、塗膜を除去して再塗装する費用は材料費・工賃・工期延長を含め数十万円規模になることもあります。


次に重要なのが床塗り・防水塗装の現場です。エポキシ・ウレタン系の床塗装は1層のDRY膜厚が150〜300μm程度、ウレタン塗膜防水では仕上がりの総膜厚が1,000〜2,000μm(1〜2mm)という厚膜仕様が求められます。1mmを超える厚さの防水層では、膜厚の過不足がそのまま防水性能・耐久性に直結するため、ウェット膜厚計による施工中の管理がとりわけ重要です。


一方で、ロータリー式ゲージは精度が高い反面、塗膜との接触面積が大きく傷跡が残りやすいため、美観を重視する仕上げ塗りには向きません。くし形で十分な日常管理と、ロータリー式を使う精密検査の場面を分けて考えることが実務的なアプローチです。


コーテック社の技術情報によれば、「乾燥まで時間を要する現場塗装では、ウェット膜厚計が効果的に利用されている」と明記されています。現場塗装では乾燥後に全品を電磁式で検査する条件を標準化しにくいケースが多く、そのぶんウェット膜厚での管理が品質の最前線になるということです。


🏗️ 特にウェットフィルムシックネスゲージの管理が重要な工種


- 鉄骨・鋼構造物への防錆塗装(下塗り・中塗り・上塗りの各工程)
- コンクリート構造物の断面修復後の仕上げ塗装
- 床の防塵・防滑・耐薬品塗装(エポキシ・ウレタン系)
- 橋梁・港湾・水門など腐食環境の厳しい構造物の塗装
- ウレタン・FRP系塗膜防水(厚膜管理が必要な防水層)




国土交通省が定めた機械工事塗装要領(ウェットフィルムゲージの使用規定を含む)はこちら:

機械工事塗装要領(案)・同解説(国土交通省)


ウェットフィルムシックネスゲージ活用の盲点:「乾燥前なら正確」は思い込み

多くの建築業従事者が「乾燥前に測れば正確なウェット膜厚がわかる」と思っています。しかし現場ではいくつかの落とし穴があり、正確な値を出すためには意識すべきポイントが存在します。


まず「ゲージの汚れ」の問題です。使用後に清掃せず塗料が固まったゲージを再使用すると、くしの歯の高さが変わって正確な値が出なくなります。WFTゲージは「精密機器」として扱う意識が必要です。測定後は水やシンナーでその場ですぐ拭き取ることが基本です。


次に「希釈率によるズレ」です。体積固形分の換算はメーカー標準の希釈率を前提とした値であり、シンナーを多く加えて薄くした塗料では固形分の割合が低下します。過希釈した塗料ではWET膜厚が同じでも、乾燥後のDRY膜厚が期待値より薄くなります。ローバル社の技術資料にも「シンナーによる薄めすぎで十分な膜厚が得られなかった場合は、塗り延ばさずシンナーで薄めずに塗ることで塗装膜厚が保たれる」と記述されています。


そして、あまり知られていないのが「素地の粗さによる影響」です。ブラスト処理や研磨によって素地表面が粗くなっている場合、くし形ゲージの歯が凹凸の谷に届いてしまい、実際の平均膜厚よりも厚く読まれることがあります。鉄骨のブラスト処理面などでは、この点を意識したうえで複数点の平均を採ることが重要です。


意外ですね。使うだけでなく「正しく使う」ための知識が精度を左右します。


また、ゲージそのものの劣化にも注意が必要です。ステンレス製のゲージでも、繰り返し使用と清掃によって歯の先端が摩耗することがあります。定期的に既知の厚さの標準シム等と照合して、ゲージ自体の精度を確認する習慣を持つことで、長く信頼できるツールとして使い続けることができます。これだけ覚えておけばOKです。


✅ 正確な測定値を出すためのチェックポイント


- ゲージは使用前後に清掃し、歯が正常な高さか目視確認する
- 使用塗料の体積固形分を仕様書で必ず確認してからDRY換算する
- 希釈率が標準から外れている場合は換算値に補正を加える
- ブラスト処理面など粗い素地での測定は複数点の平均で判断する
- 疑わしい値が出た場合は乾燥後にDRY膜厚計で実測して確認する




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