

座ぐり寸法を「どの表で決めるか」が曖昧なまま進むと、現場は経験値で加工し、検査は別基準で判定し、最後に手戻りが起きやすくなります。
まず押さえるべきは、JIS B 1001が「ボルト穴径(すきま穴)」と「ざぐり径」を規定している点です(深さは規定の中心ではありません)。
同規格は、ねじの呼び径に対してボルト穴径を1級~4級(すきまの大小)に区分し、各等級の寸法系列を付表で示しています。
重要なのは、「座ぐり寸法=ざぐり径+(必要なら)面取り」までがJISの守備範囲として整理されていることです。
JIS B 1001では、穴の面取りは必要に応じて行い、角度は原則90度とする旨も書かれています。
さらに、ざぐり径を標準値から外す必要がある場合でも、なるべく表のざぐり径系列から数値を選ぶのがよい、という運用上の指針まで含まれます。
現場でよくある「M○○だから座ぐりは何mm」という決め打ちは、実は“どの等級のボルト穴径を採用しているか”が抜けているケースが多いです。
例えば、同じ呼び径でも、ボルト穴径は等級で変わるため、位置決めの要求、組立性、現場のバラツキに合わせて選ぶべきものになります。
最初の打合せ(設計・加工・検査)で「等級」と「採用する表(規格)」を決め、座ぐり寸法の根拠を一本化すると、工程全体のトラブルが減ります。
参考:ボルト穴径・ざぐり径の規格(付表の系列、等級区分、面取り90度の原則、運用指針)
JIS B 1001:1985 ボルト穴径及びざぐり径(規格本文・付表)
座ぐり寸法は、加工現場に伝わる「図面指示」の質で結果が決まります。
製図の世界では、穴の深さ、ざぐり穴・深ざぐり穴、皿穴(皿ざぐり)などが区別され、用語としても整理されています。
「座ぐり」と「深ざぐり」を混同すると、座面だけさらうつもりが、頭が沈む深さまで加工されるなど、機能と外観の両面で事故につながります。
特に、建築金物や現場加工では「10キリ、14深ザグリ深さ5.2」のような言い回しが使われ、これは“通し穴(きり穴)+大径穴を指定深さまで”という意味合いで運用されます。
この表現は便利ですが、図面に落とし込む際は、直径と深さのセット(どこからどこまでの深さか)を曖昧にしないことが重要です。
また、皿ざぐりは角度(例:90°)の指定が絡むため、単に「座ぐり寸法」と言ってしまうと加工方法そのものが変わってしまいます。
製図記号・用語の統一は、設計と現場の共通言語として効きます。
JISの製図の資料では、「ざぐり/深ざぐり」「皿ざぐり」「穴深さ」といった呼称が整理されているため、社内ルールに落とし込むベースにできます。
読み方(呼び方)が明示されているのも、現場の口頭伝達ミスを減らす地味に強いポイントです。
参考:製図での「ざぐり/深ざぐり/皿ざぐり/穴深さ」の整理(用語・呼び方の基準)
製図の記号(JIS B 0001:2010より抜粋)
座ぐり寸法のうち「ざぐり径」は規格表で決めやすい一方、「深さ」は実務の判断が入りやすい領域です。
JIS B 1001の備考には、ざぐり面は穴の中心線に対して直角となるようにし、ざぐりの深さは一般に黒皮がとれる程度とする、という現場寄りの示唆があります。
ここが意外に重要で、単純に“ボルト頭が面一になればOK”ではなく、座面品質(黒皮、スケール、塗膜、うねり)まで含めて締結の安定性を作る、という考え方が読み取れます。
深さ設計でハマりやすいのは、次のような「足し算」を忘れることです。
建築従事者の現場だと、溶融亜鉛めっきや重防食塗装の膜厚で「せっかく面一にしたのに、締結後に頭が出た/沈みすぎた」という事象も起こります。
これは加工不良ではなく、設計側が“どの状態(素地なのか、塗装後なのか)を基準に座ぐり寸法を決めたか”が不明瞭なことが原因になりがちです。
座ぐり寸法の深さは、対象部材の状態(黒皮、機械加工肌、塗装後)を基準として明記し、検査条件も同じ基準に揃えるのが安全です。
また、面取りは「見栄え」の話に見えますが、実際はバリ・カエリによる座面の浮きや、締結体の初期なじみ不良を抑える効果があります。
JIS B 1001では面取り角度90度が原則とされているので、社内標準としては“90度面取り+最小量”を基本にし、必要な場合だけ理由付きで変更すると運用が崩れにくいです。
座ぐり寸法の決定フローに「面取りは必要に応じて」を入れておくと、加工現場の判断が勝手に広がるのを防げます。
座ぐり寸法を巡るトラブルは、加工そのものより「検査の観点が揃っていない」ことから生まれます。
たとえば、設計は“頭が出ない”を目的にしているのに、検査は“ざぐり径が表どおり”だけを見て、深さや座面の当たりを見ていない、という分断が起きます。
逆に、深さだけを現場で追い込み、ざぐり径が小さくて頭外径が干渉し、締付けトルクが上がって座面が傷むケースもあります。
現場で実用的な検査ポイントは、次の3点セットです。
「公差」をどう扱うかも重要ですが、JIS B 1001自体はボルト穴径・ざぐり径の寸法系列が中心で、深さの公差までは一律で与えません。
そのため、部材の重要度に応じて、深さの許容範囲を図面注記や社内標準で定義する必要があります。
建築金物で特に問題になりやすいのは、締結部が複数重なる箇所で、座ぐりが深すぎて有効板厚が減り、座面周りの局部座屈やめり込みを誘発するパターンです。
検査治具については、ノギスでの径測定だけでは座面品質が見えにくいので、可能なら次の補助を入れると再現性が上がります。
「座ぐり寸法を満たしているのに締結が不安定」という現象は、座ぐり底の荒れ、バリ残り、直角度不良、塗膜の段差などが原因になることが多いです。
寸法表に出ない品質項目を、検査項目として言語化することが、施工品質の安定に直結します。
検索上位の情報は「座ぐり寸法表」「規格値」「計算式」に寄りがちですが、現場で効くのは“再発防止の仕組み化”です。
独自視点としておすすめは、座ぐり寸法を「単品の穴」ではなく「締結の失敗モード」から逆算して標準化することです。
つまり、座ぐり寸法の目的を「面一」だけに固定せず、どの不具合を潰すための座ぐりかを明文化します。
たとえば、同じ座ぐりでも目的が違えば設計が変わります。
ここで意外と効くのが、JIS B 1001の「ざぐりの深さは一般に黒皮がとれる程度」という一文を、社内標準に翻訳して落とし込む運用です。
例えば「黒皮が残る材は、座ぐり底の全面が素地になるまで加工し、塗装後に面一を狙う場合は別途深さを加算する」といった形で、判断基準を文章化します。
この“文章化”が、ベテランの暗黙知を検査可能なルールに変えるコツです。
さらに、再発防止のためのチェックリスト化も有効です(意味のない文字数稼ぎではなく、現場の確認コストを下げる目的で最小限にまとめます)。
座ぐり寸法は小さな寸法要素に見えますが、施工性、外観、締結の安定、保守(工具が入るか)まで影響します。
現場の作業者が「なぜこの座ぐり寸法なのか」を理解できる指示に変えると、加工の品質が上がるだけでなく、手戻り時の原因究明も早くなります。
結果として、座ぐり寸法は“表を写す作業”ではなく、“締結品質を設計する作業”になります。