STKN規格完全解説:建築構造用炭素鋼鋼管の基礎知識

STKN規格完全解説:建築構造用炭素鋼鋼管の基礎知識

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STKN規格の基礎知識

STKN規格の重要ポイント
🏗️
建築構造専用規格

JIS G 3475で規定された建築構造物専用の炭素鋼鋼管規格

優れた溶接性

従来のSTK材と比較して溶接性能と塑性変形能力が大幅改善

📐
厳格な寸法精度

建築用途に特化した厳しい寸法許容差を規定

STKN規格の概要と建築構造用途での特徴

STKN規格は、JIS G 3475「建築構造用炭素鋼鋼管」で規定される建築構造物専用の鋼管規格です。従来の一般構造用炭素鋼管(STK)と比較して、建築鉄骨固有の要求性能である塑性変形能力や溶接性能が大幅に改善されており、建築鉄骨用鋼材としてより適した性能を有しています。

 

STKNの名称は「Steel Tube for Kouzou-N」の略称とされ、建築構造物の柱材等の主要構造部位に使用される鋼管として位置づけられています。この規格の最大の特徴は、SN材(JIS G 3136)と同様に、鋼材が保有すべき建築特有の性能を規定した「建築構造専用」の鋼材である点です。

 

建築構造用鋼管として求められる性能要件は以下の通りです。

  • 耐震性能の向上 - 地震時の塑性変形に対する優れた靭性
  • 溶接施工性の改善 - 現場溶接時の作業性向上
  • 寸法精度の厳格化 - 建築施工時の精度要求への対応
  • 時効硬化の抑制 - 長期使用時の特性安定性

特に注目すべきは、SN材での耐震性に関する規定に加えて、冷間成形ままの管に対して時効硬化を抑制するために、窒素(N)の規定が新たに設けられている点です。これにより、冷間成形後の特性劣化を防止し、長期間にわたって安定した性能を維持できます。

 

STKN規格の種類と機械的性質の詳細

STKN規格には、強度レベルと用途に応じて3つの種類が規定されています。
STKN400W(W種)

  • 引張強さ:400~540 N/mm²
  • 降伏点:235 N/mm²以上
  • 用途:塑性変形を生じない部材または部位に使用

STKN400B(B種400級)

  • 引張強さ:400~540 N/mm²
  • 降伏点:235~385 N/mm²(厚さ12mm未満)、215~365 N/mm²(厚さ12~40mm)
  • 降伏比:80%以下(継目無)、85%以下(溶接管)
  • 用途:一般の構造部材または部位

STKN490B(B種490級)

  • 引張強さ:490~640 N/mm²
  • 降伏点:325~475 N/mm²(厚さ12~40mm)、295~445 N/mm²(厚さ40mm超)
  • 降伏比:80%以下(継目無)、85%以下(溶接管)
  • 用途:一般の構造部材または部位

機械的性質の特徴として、STKN材のB種では降伏比(YR)の上限値が継目無鋼管では80%、溶接鋼管では85%と規定されています。これは溶接鋼管が製造技術上冷間成形加工によるためで、冷間加工による影響を考慮した設定となっています。

 

また、引張強さとYPの上限値については、鋼板(原材)からの冷間成形加工による変動を考慮して、SN材B種よりも30N/mm²程度広いレンジが設定されています。

 

シャルピー吸収エネルギーについては、管の外径400mm以上で厚さ12mm超えの鋼管について、0℃で23J以上(外径400mm以上では27J以上)が要求されます。

 

STKN規格とSTK材の性能比較と選定基準

STKN規格と従来のSTK材との主な違いを詳細に比較すると、建築用途での優位性が明確になります。

 

性能比較表

項目 STK材 STKN材
規格 JIS G 3444 JIS G 3475
用途 一般構造用 建築構造専用
ΔYP規定 なし あり(B種のみ)
YR規定 なし あり(B種のみ)
窒素規定 なし あり
Ceq規定 なし あり(溶接性向上)

厚さ許容差の比較
STK材と比べて、STKN材では厚さのマイナス側許容差が厳しく規定されています。これは建築構造物で要求される高い寸法精度に対応するためです。

 

継目無鋼管の場合。

  • 厚さ50mm未満:±0.5mm
  • 厚さ50mm以上:±1%

継目無鋼管以外の場合も同様の厳格な許容差が適用されます。

 

選定基準のポイント
建築用途でSTKN材を選定する際の基準は以下の通りです。

  • W種の選定基準 - 塑性変形を生じない部材で、経済性を重視する場合
  • B種の選定基準 - 耐震性が要求される主要構造部材で、溶接施工を伴う場合

特に、B種については耐震性と溶接性が要求される部材に使用され、SN材B種と同様の性能要件を満たしています。

 

製造方法による特性の違い
STKN規格には継目無鋼管、電気抵抗溶接鋼管、鍛接鋼管、自動アーク溶接鋼管が含まれますが、各製造方法による特性の違いも重要な選定要素となります。

 

継目無鋼管は原材料の特性をそのまま反映しやすい一方、溶接鋼管は冷間成形による影響で降伏比が高くなる傾向があります。ただし、SR処理(600~650℃程度の熱処理)により、原材である鋼板の特性に近づけることが可能です。

 

STKN規格の化学成分と製造方法の技術的要点

STKN規格の化学成分は、建築用途での性能要求に特化して設定されています。

 

化学成分の詳細規定
STKN400W。

  • C:0.25%以下
  • P:0.030%以下
  • S:0.030%以下
  • N:0.006%以下

STKN400B。

  • C:0.25%以下
  • Si:0.35%以下
  • Mn:1.40%以下
  • P:0.030%以下
  • S:0.015%以下
  • N:0.006%以下

STKN490B。

  • C:0.22%以下
  • Si:0.55%以下
  • Mn:1.60%以下
  • P:0.030%以下
  • S:0.015%以下
  • N:0.006%以下

窒素(N)規定の重要性
STKN規格で新たに追加された窒素規定(0.006%以下)は、冷間成形の鋼管において固溶型窒素による時効硬化の特性劣化を防ぐために設けられています。この規定により、長期使用時の特性安定性が大幅に向上します。

 

炭素当量(Ceq)による溶接性管理
STKN材では炭素当量(Ceq)が規定されており、溶接性の向上が図られています。これにより現場溶接時の作業性が改善され、溶接欠陥のリスクが低減されます。

 

製造方法と品質管理
STKN材の機械的性質は鋼管最終製品について規定されており、引張試験は全ての鋼管外径・厚さについて管の軸方向から試験片を採取して行います。これはSTK材と異なる点で、より厳格な品質管理が実施されています。

 

衝撃試験については、鋼管外径400mm以上で厚さ12mm超えの鋼管について、管の軸方向から試験片を採取して実施されます。

 

寸法精度の技術的背景
STKN規格では外径許容差も厳格に規定されています。
外径区分別許容差。

  • 外径6mm未満:+0.9mm/-0.5mm
  • 外径6mm以上:+20%/-0.5mm(6mm未満の場合)、+15%/-0.5mm(6mm以上の場合)

この厳格な寸法管理により、建築施工時の精度要求に対応可能となっています。

 

STKN規格活用時の実務上の注意点とコスト最適化のコツ

STKN規格を実際の建築プロジェクトで活用する際には、いくつかの重要な実務上のポイントがあります。

 

調達時の注意点
STKN規格品は建築構造専用材のため、STK材と比較して価格が高くなる傾向があります。ただし、以下の点でコスト最適化が可能です。

  • W種とB種の適切な使い分け - 塑性変形を生じない部材にはW種を選定
  • 製造方法による価格差の活用 - 用途に応じて継目無管と溶接管を選択
  • 寸法標準化によるコスト削減 - 標準寸法での調達による単価削減

設計時の考慮事項
建築設計においてSTKN材を指定する際は、以下の技術的配慮が必要です。
🔧 接合部の設計配慮

  • 溶接継手の設計では、STKN材の優れた溶接性を活かした継手形状を採用
  • 母材の機械的性質を考慮した溶接材料の選定

📏 寸法計画の最適化

  • 標準寸法表に基づく部材寸法の計画
  • 製造可能範囲を事前確認(強度と寸法、製造方法により異なる)

品質管理のポイント

  • 納入材料の試験成績書による化学成分・機械的性質の確認
  • 特に窒素含有量とCeq値の確認

施工上の技術的優位性の活用
STKN材の特性を最大限活用するための施工のコツは以下の通りです。

  • 予熱温度の最適化 - 優れた溶接性により予熱温度を低減可能
  • 溶接材料の選定 - 母材の特性に適合した溶接材料により品質向上
  • 施工効率の改善 - 良好な溶接性により施工速度向上

長期使用時のメンテナンス優位性
STKN材は時効硬化が抑制されているため、長期使用時においても以下のメリットがあります。

  • 経年変化による脆化の抑制
  • メンテナンス時の溶接補修作業性の維持
  • 構造物の長寿命化への貢献

規格適合性の確保
STKN規格に適合する製品を調達する際は、JIS認定工場での製造品であることを確認し、試験成績書による規格適合性の確認が重要です。特に建築基準法に基づく構造計算において、指定材料としてSTKN材を使用する場合は、規格適合性の証明が必須となります。

 

これらの実務的な配慮により、STKN規格品の性能を最大限活用し、建築構造物の品質向上とコスト最適化の両立が可能となります。金属加工従事者として、これらの技術的特徴を理解し、適切な材料選定と加工技術の適用により、高品質な建築構造用鋼管の供給に貢献することが期待されます。