炭素当量計算式JIS規格における溶接性と硬度予測方法

炭素当量計算式JIS規格における溶接性と硬度予測方法

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炭素当量計算式JIS規格

炭素当量の重要性
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溶接性の評価指標

炭素当量は鋼材の溶接適性を数値化し、低温割れリスクを予測する重要な指標です

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硬度予測への応用

溶接熱影響部の最高硬度を推定し、施工条件を決定する根拠となります

予熱温度の判断基準

炭素当量が0.4%を超えると予熱が必要となり、適切な施工管理が求められます

炭素当量のJIS規格計算式と構成元素

炭素当量(Ceq)は、鉄鋼材料における炭素以外の合金元素の影響を炭素量に換算した指標です。JISで規定されている炭素当量の計算式は以下の通りです。
参考)炭素当量 - Wikipedia

Ceq (%) = C + Si/24 + Mn/6 + Ni/40 + Cr/5 + Mo/4 + V/14
この計算式における各元素記号は、その元素の含有率(重量%)を表しています。計算式の分母の数値は、各元素が炭素に対してどの程度の影響力を持つかを示しており、分母が小さいほど影響力が大きいことを意味します。
参考)https://www.toishi.info/faq/question-ten/tanso.html

例えば、マンガン(Mn)は分母が6なので、炭素の1/6の影響力を持ち、クロム(Cr)は分母が5なので炭素の1/5の影響力を持つことになります。一方、ケイ素(Si)は分母が24と大きく、炭素に対する影響は相対的に小さいです。​
この計算式により、異なる成分組成を持つ鋼材同士でも、溶接性や焼入れ性を統一的に比較評価することが可能になります。
参考)炭素当量とは何ですか?

炭素当量と溶接性の関係性

炭素当量は溶接における最も重要な評価指標の一つで、特に低温割れの発生リスクを予測するために使用されます。炭素当量が高いほど、溶接熱影響部が硬化しやすくなり、溶接性は劣化します。
参考)炭素 当量とは何? わかりやすく解説 Weblio辞書

一般的な目安として、炭素当量が0.4%以下であれば溶接割れは発生しにくいとされています。しかし、0.4%程度を超えると急激に低温割れが生じやすくなるため、予熱や後熱などの特別な施工管理が必要になります。
参考)https://www.goodweld.com.tw/upload/product/th-27.pdf

低温割れの要因は主に4つに分類されます:
参考)GMAW,FCAWにおける拡散性水素に及ぼす溶接ワイヤ関連因…

  • 母材の化学成分(炭素当量など)
  • 水素に関する要因(拡散性水素量)
  • 残留応力などの力学的要因
  • 溶接部の熱履歴(冷却速度など)

炭素当量が高い材料を溶接する場合、低水素系溶接棒の使用や適切な予熱温度の設定が不可欠です。予熱を行うことで100℃以上の温度に滞留する時間が長くなり、水素の拡散が促進されて割れの発生を防ぐことができます。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjws/75/4/75_4_238/_pdf

建築業における鉄骨構造物では、溶接性の確保が重要であり、炭素当量の管理は施工品質に直結します。
参考)炭素鋼と建築の構造材料における利点と用途

炭素当量から予測される硬度計算

炭素当量は溶接熱影響部の最高硬度を予測するための重要な指標として活用されます。溶接熱影響部の最高硬度(HVmax)と炭素当量の関係は、以下の実験式で表されます。
参考)https://www-it.jwes.or.jp/weld_simulator/cal1.jsp

HVmax = 1200 × Ceq - 200
この計算式により、鋼材の化学成分から溶接後の硬度を事前に推定することが可能です。一般的に、硬度がHV350以下であれば割れは発生しにくいとされています。​
炭素含有量と焼入れ硬度の関係を見ると、炭素量が増加するほど焼入れ時の硬さは上昇しますが、約0.6%以上ではほぼ横ばいになります。ロックウェル硬さで表すと、58HRC程度以上あれば刃物として使用できる硬さであり、カミソリの刃先が63HRC程度と鋼の最高硬さの部類に入ります。
参考)鋼の熱処理 焼入れ3 炭素量から鉄鋼の最高焼入硬さが推定でき…

硬度が過度に高くなると、材料の延性や靭性が低下し、脆性破壊に対する感受性が増加します。そのため、建築用鉄骨材料では強度と靭性のバランスを考慮した炭素当量の管理が求められます。
参考)炭素当量式とは何ですか? - LongMa

<参考リンク>
溶接情報センターによる炭素当量の詳細な計算式と変態温度の関係について
炭素当量と変態温度の計算式 - 溶接情報センター

炭素当量計算における各元素の役割

炭素当量の計算式に含まれる各合金元素は、それぞれ鋼材の特性に異なる影響を与えます。​
**マンガン(Mn)**は、鋼の強度と硬さを向上させる重要な元素で、炭素当量計算式では分母が6となっています。マンガンは脱酸剤としても機能し、鋼の品質向上に寄与しますが、過剰に添加すると溶接性を低下させます。​
**ケイ素(Si)**は、分母が24と最も大きく、炭素当量への影響は比較的小さい元素です。ケイ素は脱酸剤として使用され、鋼の強度を向上させる効果があります。​
クロム(Cr)モリブデン(Mo)、**バナジウム(V)**は、それぞれ分母が5、4、14となっており、特にモリブデンは炭素に対して強い影響力を持ちます。これらの元素は焼入れ性を向上させ、高温での強度保持に貢献しますが、溶接性には注意が必要です。​
**ニッケル(Ni)**は分母が40と大きく、炭素当量への影響は限定的ですが、靭性の向上に効果があります。​
<表による元素の影響度比較>

元素 計算式の分母 影響度 主な効果
C(炭素) - 基準 硬度・強度向上
Mo(モリブデン) 4 最大 焼入れ性向上
Cr(クロム) 5 耐食性・硬度向上
Mn(マンガン) 6 強度・硬さ向上
V(バナジウム) 14 結晶粒微細化
Si(ケイ素) 24 脱酸・強度向上
Ni(ニッケル) 40 微小 靭性向上

これらの元素の総合的な影響を炭素当量として一つの数値で表すことにより、複雑な成分組成を持つ鋼材の溶接性を簡便に評価できます。
参考)オンライン炭素当量計算ツール

炭素当量の実務的な活用方法と予熱判断

建築業における鉄骨溶接では、炭素当量を基に予熱温度や施工条件を決定します。炭素当量が0.4%以下の場合、通常は予熱なしでも溶接可能ですが、0.4%を超える場合は低温割れ防止のための予熱が必要になります。
参考)https://www-it.jwes.or.jp/qa/details.jsp?pg_no=0050020120

予熱温度の設定には、炭素当量以外にも板厚、入熱量、使用する溶接材料の拡散性水素量などを考慮する必要があります。予熱の目的は、溶接部を100℃以上の温度に保持することで水素の拡散を促進し、同時に冷却速度を緩やかにして硬化組織の形成を抑制することにあります。​
国際溶接学会(IIW)の計算式も実務でよく使用されます:​
CE(IIW) = C + Mn/6 + (Cu+Ni)/15 + (Cr+Mo+V)/5
この計算式はJIS規格の式と若干異なり、銅(Cu)も考慮されています。また、溶接割れ感受性を評価するPcmという指標もあります:​
Pcm = C + Si/30 + Mn/20 + Cu/20 + Ni/60 + Cr/20 + Mo/15 + V/10 + 5B
Pcmは特に高張力鋼厚板材の溶接で使用され、より精度の高い割れ感受性評価が可能です。​
実際の建築現場では、鋼材のミルシートに記載された化学成分から炭素当量を計算し、その値に応じて以下のような判断を行います:​

  • Ceq ≦ 0.4%:予熱不要、通常の溶接施工可能
  • 0.4% < Ceq ≦ 0.6%:予熱推奨、低水素系溶接材料使用
  • Ceq > 0.6%:予熱必須、厳格な施工管理が必要

溶接材料の選択も重要で、炭素当量が高い材料には拡散性水素量が少ない低水素系溶接棒やTIG溶接が適しています。被覆アーク溶接棒の場合、使用前の乾燥管理も低温割れ防止に不可欠です。​
大型建築構造物や橋梁などでは、鋼材の厚板化・高張力化が進んでおり、炭素当量の管理がますます重要になっています。東京スカイツリーのような超大型建築構造物では、溶接品質の確保のために炭素当量に基づく綿密な施工計画が立てられています。​
<参考リンク>
鋼材の溶接性と炭素当量の関係について詳しい解説
炭素当量とは何ですか? - 城北伸鉄株式会社

炭素当量と鉄骨建築における品質管理の実践

建築基準法では、鉄骨造の建築物の構造耐力上主要な部分の材料として炭素鋼が使用されることが定められており、溶接品質の確保が構造安全性に直結します。炭素当量は、この品質管理の中核となる指標です。​
高層ビルや大規模構造物では、炭素当量の低い鋼材を選定することで溶接性を確保し、施工効率を向上させることができます。一方で、海洋構造物用鋼など特殊な用途では、低い炭素当量(Ceq)と溶接割れ感受性組成(Pcm)を両立させた低合金鋼が開発されています。
参考)Cu含有低合金鋼における二相域焼入れによる機械的特性改善の発…

炭素当量を活用した品質管理のポイントは以下の通りです。
施工前の確認事項として、鋼材のミルシート記載の化学成分から炭素当量を計算し、予熱の要否を判断します。板厚が厚くなるほど拘束度が高まり、低温割れのリスクが増加するため、板厚と炭素当量の両方を考慮した施工計画が必要です。​
溶接施工中の管理では、予熱温度の測定と維持、層間温度の管理、適切な入熱量の設定が重要です。多層盛溶接では、各パスの熱履歴が累積するため、特に初層部の施工管理が重要になります。​
施工後の検査として、溶接部の硬度測定を行い、計算値と実測値を比較検証します。硬度がHV350を超える場合は、低温割れのリスクがあるため注意が必要です。​
低炭素鋼(C含有量0.3%以下)は溶接性に優れており、建築構造材として最も一般的に使用されています。低炭素鋼は延性と靭性が高く、加工がしやすいため、自動車の車体部品や建築構造材に適しています。
参考)炭素量の違いで何が変わる?低炭素鋼から高炭素鋼までの特性比較…

中炭素鋼(C含有量0.3~0.6%)は強度が高い反面、溶接性が低下するため、機械部品や工具などに使用されますが、建築構造材としての使用には注意が必要です。高炭素鋼(C含有量0.6%以上)は硬度が非常に高く、延性や靭性が低いため、刃物や工具に使用され、溶接は困難です。​
近年では、建設分野におけるカーボンニュートラルへの対応として、高機能鋼材の開発が進められており、溶接性を維持しながら強度を向上させた鋼材が注目されています。
参考)https://www.nipponsteel.com/common/secure/tech/report/pdf/420-03.pdf

炭素当量の適切な理解と活用により、建築業における鉄骨溶接の品質向上と効率化が実現できます。溶接割れを防止し、安全で信頼性の高い構造物を建設するために、炭素当量に基づく科学的な施工管理が今後ますます重要になっていくでしょう。​