
電気事業法に基づく技術基準は、正式には「電気設備に関する技術基準を定める省令」として制定されており、電気工作物の安全性確保を目的とした重要な規制です。この技術基準は、発電所から一般家庭や工場などの電気使用場所に至るまで、あらゆる電気設備に適用される包括的な安全基準となっています。
技術基準の核心となる規制内容は、主に3つの柱で構成されています。第一に、電気工作物が人体に危険を及ぼさないこと、または物件に損傷を与えないようにすることです。第二に、他の電気的設備や物件の機能に電気的・磁気的な障害を与えないことが求められます。第三に、電気工作物の損壊により電気供給に著しい支障を及ぼさないことが定められています。
日本電気協会による技術基準の詳細解説(電気事業法の保安体制と技術基準の位置づけについて詳述)
具体的な取扱いについては「電気設備の技術基準の解釈」という文書によって詳細に規定されており、この解釈は経済産業省大臣官房技術総括・保安審議官によって定められています。重要なポイントとして、解釈に示された技術的内容は一例であり、同等以上の保安水準を確保できる技術的根拠があれば、解釈と異なる方法でも技術基準に適合すると判断される柔軟性を持っています。
建築業従事者にとって特に重要なのが、建設現場で使用する電気設備がどのように規制されるかという点です。建設現場等で使用される可搬型の発電設備等の中には、「自家用電気工作物」として電気事業法の規制を受け、国への手続き等が必要なものがあります。
自家用電気工作物に該当する主な基準は以下の通りです。
これらの設備を建設現場で使用する場合、電気事業法第39条に基づく技術基準維持義務が発生します。設置者は電気工作物を技術基準に適合するよう維持しなければならず、違反が判明すれば国から修理、改造、使用の一時停止などの命令を受ける可能性があります。
経済産業省による建設現場等で使用する自家用電気工作物に係る手続きのご案内(PDF)
一般用電気工作物については、電気工事士法の対象となり、工事の段階での安全確保が求められます。500kW未満の需要設備については電気工事士による工事が義務付けられており、技術基準の遵守が確実に求められます。
事業用電気工作物を設置する者は、保安規程を作成し、経済産業大臣(実際には産業保安監督部)に届け出る義務があります。保安規程には以下の事項を含める必要があります。
電気主任技術者は、事業用電気工作物の工事、維持、運用に関する保安の監督を行う重要な役割を担います。この責任者は電気設備の安全管理の最終責任者として位置づけられ、人命や財産の保護という重大な責務を負っています。電気主任技術者の主な業務である電気設備の保守・点検は、安全のための重要な立場であり、事故が発生した場合の責任は極めて重いものとなります。
建設業における電気工事業の専任技術者要件としては、1級電気工事施工管理技士や技術士(電気電子部門)などの資格が必要とされ、これらの技術者が技術基準の遵守を確実にする体制が求められています。
電気事業法の技術基準に違反した場合、段階的に厳しいペナルティが科せられます。違反の程度に応じて、以下の3つの措置が取られる可能性があります。
技術基準適合命令
一般用電気工作物や事業用電気工作物が技術基準を満たしていない場合、その所有者や占有者に対して経済産業大臣が修理や改造、移転、使用の一時停止を命令するか、使用の制限を加えることができます。この命令には法的拘束力があり、従わない場合は更に重い罰則が科せられます。
登録・許可の取り消し
電気事業者が電気事業法違反を犯し、それによって公共の利益が侵害されていると判断された場合、登録や許可が取り消される可能性があります。小売電気事業者の場合は登録の取り消し、一般送配電事業や送電事業、配電事業、特定供給を行っている事業者は許可の取り消し処分が行われます。
刑事罰
悪質な違反に対しては、以下の刑事罰が科せられます。
建設現場において技術基準違反が発見された実例としては、電気室に扉がなくキュービクルの鍵を扉のノブに吊している事例や、適切な接地工事が施されていない事例などが報告されています。
電気設備の安全点検である「電気保安点検」は、法的義務のある点検として定期的に実施する必要があります。点検の種類と頻度は以下の通りです。
月次点検
毎月1回実施される基本的な点検で、目視による外観検査や計器類の確認を行います。異常な音や臭い、温度上昇などを確認し、初期段階での問題発見に努めます。
年次点検(停電年次点検)
年に1回行われる最も重要な点検です。電気工作物を停電状態にして絶縁抵抗の測定を行うほか、機器内部の点検、部分放電の確認、機器温度の測定などを実施します。点検時には通常、クリーニングも同時に行われ、機器の性能維持と事故防止に寄与しています。
ただし、一定の条件を満たす場合には、年次点検の頻度を3年に1回まで延長することが可能です。その条件には、設備が特定の安全要件を満たしていることや、無停電点検を適切に実施していることなどが含まれます。
点検の結果、法的基準に達していない場合は、速やかな状況改善措置が必要となります。また、重大な事故が発生した際は、関連部署への迅速な報告義務が生じます。信頼できる専門業者による適切な保守が強く推奨され、点検報告書の作成と保管は依然として義務付けられています。
電気設備の技術基準の解釈は定期的に改正されており、最新の令和6年(2024年)10月22日改正では、主にJIS規格等の引用規格を最新のものに更新する改正が行われました。民間規格評価機関として日本電気技術規格委員会が承認した規格については、同機関のホームページに掲載されるリストを参照する必要があります。
経済産業省による電気設備の技術基準の解釈の一部改正について(令和6年10月)
近年の重要な改正としては、2023年に小規模な太陽電池発電設備と風力発電設備に係る保安規制が義務化されました。これにより、従来は規制対象外だった小規模設備についても技術基準適合維持義務の対象が拡大され、建設現場で使用する再生可能エネルギー設備にも注意が必要となっています。
令和4年度の改正では、分散型電源における系統連系要件の見直しが行われ、低圧連系を行う分散型電源の施設における逆潮流を生じる場合の逆変換装置の設置要件が変更されました。建設現場で太陽光発電設備などを使用する際には、これらの最新要件を確認する必要があります。
建築業従事者が特に注意すべきポイントとして、建設現場の仮設電気設備であっても、自家用電気工作物に該当する場合は、電気主任技術者の選任、保安規程の作成・届出、定期的な自主検査の実施など、事業用電気工作物としての全ての義務が適用されることを理解しておく必要があります。工事期間が短期間であっても、これらの手続きを省略することはできません。
また、電気用品安全法との関係にも注意が必要です。電気設備工事で使用する機器や部品については、電気用品安全法に適合したPSEマークのある製品を使用し、技術基準を満たしていることの確認、適合性検査の実施、自主検査の実施と検査記録の保存を行うことが求められます。これらの手続きを怠ると、別途、電気用品安全法違反として処罰される可能性もあります。