

電力ケーブルと電線の最も大きな違いは、シース(外皮)と呼ばれる保護被覆の有無にあります。電線は電気を通す導体を絶縁体で覆っただけのシンプルな構造ですが、電力ケーブルは複数の絶縁電線を束ねて、さらにシースで全体を保護した構造になっています。このシースは絶縁体が濡れたり傷んだりすることを防ぐ重要な役割を果たしており、ケーブルの機械的強度と絶縁性能を大幅に向上させています。
参考)https://www.yonashin-home.net/blog/electrical-wire/cable-densen-chigai/
シースの材質はケーブルの種類や用途に応じて適切に選択する必要があり、一般的にはポリ塩化ビニルやポリエチレンが使用されています。興味深いことに、電気設備に関する技術基準を定める省令では「電線」の定義は明確にされていますが、ケーブルについては光ファイバケーブル以外の定義がないため、実務上はケーブルも電線の一部として扱われることが一般的です。
参考)https://www.sakuraelec.co.jp/column/820/
不動産や建築の現場では、この構造の違いを理解することが安全な施工計画を立てる上で極めて重要です。特に配線ルートの設計段階で、ケーブルの外径やシースの保護性能を考慮しないと、後から配管に収まらないといった問題が発生する可能性があります。
参考)https://tohohome.jp/column/5459/
電力ケーブルと電線は用途によって明確に使い分けられており、それぞれに適した種類が存在します。電線は主に屋内配線に使用され、代表的なものとして600Vビニル絶縁電線(IV)、電気機器用ビニル絶縁電線(KIV)、引込用ビニル絶縁電線(DV)などがあります。これらは電気を通すことに特化しており、用途が比較的限定されているため種類も少なくなっています。
参考)https://re-tool.net/column/powercable-difference-cable/
一方、電力ケーブルは電気を通すだけでなく、電気信号の伝送にも使用されるため種類が非常に豊富です。電力供給用としてはVVF(ビニル絶縁ビニルシースケーブル平形)、VVR(ビニル絶縁ビニルシースケーブル丸形)、CV(架橋ポリエチレン絶縁ビニルシースケーブル)などがあり、住宅の電灯コンセントから幹線動力用まで幅広く使用されています。通信用としてはLANケーブル(UTP)や警報用ケーブル(AE)、制御用ケーブル(CVV)などがあり、それぞれ特定の目的に最適化された構造になっています。
参考)https://www.yonashin-home.net/blog/electrical-wire/heavy-current-wire/cable-sentei/
不動産開発や建築プロジェクトにおいては、建物の用途や規模に応じて適切なケーブルを選定することが必須です。特に新築住宅では上棟後1~2週間以内に電気配線計画に基づいてケーブルやボックスを設置するため、事前の計画が極めて重要になります。
電力ケーブルと電線に使用される導体材質は、主に銅とアルミニウムの2種類です。銅は金属の中で最も電気伝導率が高く(銀に次いで2番目)、一般的な建築物の内線用ケーブルにはほぼすべて銅導体が使用されています。銅の電気伝導率を100%とした場合、アルミニウムは約61.7%の伝導率を持ちますが、重量が銅の約3分の1と軽量であるため、送電線などの長距離配線に広く採用されています。
興味深いことに、電気伝導率が最も高いのは銀(106.4%)ですが、価格が銅の約80倍以上になるため、実用的には銅が最適な選択となっています。2022年7月時点での価格比較では、銀が87,400円/kgに対して銅は1,080円/kgと大きな差があり、コストパフォーマンスの観点から銅が圧倒的に多く使用される理由が明確です。
電気伝導率は導体の長さと断面積に依存し、導体が長くなるほど抵抗が大きくなり電気が流れにくくなる一方、断面積が大きくなるほど抵抗が小さくなり電気が流れやすくなります。この原理は電圧降下の計算に直結しており、建築現場でのケーブル選定において極めて重要な知識となります。
参考)https://www.makoto-elec.com/voltage-drop/
電力ケーブルの太さは日本のJIS規格によってSQ(スケア)という単位で定められており、0.2sqから38sqまで全12種類の規格があります。SQは導体の断面積を表す単位で、「square mili-meter(平方ミリメートル)」の英語読みが語源となっています。現場では「ニスケ(2sq)」「サンテンゴ(3.5sq)」「ハチスケ(8sq)」といった略称が頻繁に使用されています。
許容電流はケーブルの太さによって厳密に定められており、これを超える電流が流れると導体が発熱し、絶縁体が燃焼して火災につながる危険性があります。例えば単線の場合、直径1.6mmで許容電流27A、直径2.6mmで48Aとなっており、より線の場合は断面積2.0mm²で27A、8.0mm²で61Aとなっています。同じ太さでも単線とより線では許容電流に差があるため、施工時には注意が必要です。
不動産開発や建築プロジェクトでは、電圧降下を過剰に気にして必要以上に太いケーブルを選定すると、接続先の端子台の仕様と合わなかったり、既存の配管やケーブルラックに収まらなかったりするトラブルが発生します。実際の現場では、計算上8sqで十分なところを14sqのケーブルを選定したところ、端子台が8sqまでしか受け入れられず作業が中断した事例も報告されています。
不動産開発や建築現場における電力ケーブルの施工では、計画段階での綿密な調査と適切なルート設計が成功の鍵となります。特に既設建物の増設工事では、既存の配管やケーブルラックのサイズ、曲がり具合、ケーブルの充填率などを現場で詳細にチェックする必要があります。ケーブル選定とルート設計を同時に進めることで、太さに見合ったルートを確保でき、後からのルート変更や壁への穴あけといった大掛かりな追加工事を回避できます。
新築住宅の場合、電気配線工事は上棟後に開始され、約1~2週間後までにケーブルやスイッチボックス、コンセントボックスを設置します。壁を作った際にコンセントの配置予定場所に正しく配線がくるように事前準備が必要であり、建築段階に入ってからコンセントやスイッチの位置を変更したり追加したりすることは極めて困難です。このため電気配線計画は建築計画と同時並行で慎重に検討する必要があります。
高圧電線下地の物件では建築制限が存在し、高圧電線の種類が高圧であれば建物の建築は可能ですが、離隔距離の制限により建物の高さを送電線から3m以上低くしなければなりません。不動産の現地調査では上空の確認も忘れてはならず、対象地の上空に高圧電線が通っている場合、建築制限やその他の理由により土地評価額が大きく変わる可能性があります。実際に鹿児島市では電線地中化工事において、川をまたぐ管路橋の設計ミスにより架設不可能となり、設計委託費の返還と工事費用の請求に至った事例も報告されています。