毒物及び劇物取締法厚生労働省による建築業者の取扱責任者

毒物及び劇物取締法厚生労働省による建築業者の取扱責任者

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毒物及び劇物取締法厚生労働省の概要と建築業者の義務

毒物及び劇物取締法の重要ポイント
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法律の目的

急性毒性による健康被害を防ぐため、有害化学物質を規制し保健衛生を確保する

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建築業との関連

塗料・シンナー・洗浄剤などの取扱いで毒劇物の保管管理責任が発生する

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責任者の配置義務

毒物劇物を扱う施設ごとに毒物劇物取扱責任者を設置する必要がある

毒物及び劇物取締法における厚生労働省の役割と法的枠組み

毒物及び劇物取締法は、昭和25年に制定された法律で、一般に流通する化学物質のうち急性毒性による健康被害が発生するおそれが高い物質を毒物または劇物に指定し、保健衛生上の見地から必要な規制を行っています。厚生労働省は、この法律の主管官庁として、毒物劇物の指定、施行規則の制定、技術基準の設定など、法律の運用全般を担当しています。具体的には、毒物及び劇物取締法施行規則や毒物及び劇物指定令などの厚生労働省令・政令により、詳細な規制内容が定められています。
参考)エラー

法律の目的は、毒物及び劇物について保健衛生上の見地から必要な取締を行うことであり、第1条で明確に規定されています。この法律では、化学物質を毒性の強さに応じて「特定毒物」「毒物」「劇物」の3段階に区分し、それぞれに異なる規制を設けています。特に特定毒物は毒性が極めて強く、オクタメチルピロホスホルアミドや四アルキル鉛など13種が指定されており、最も厳格な管理が求められます。
参考)毒物及び劇物取締法(毒劇法)とは?有機溶剤との関係を中心にわ…

建築業界においては、塗料に含まれるトルエンキシレン、メタノール、酢酸エチル、MEK(メチルエチルケトン)などの有機溶剤が劇物に指定されており、これらの物質を取り扱う際には法律の適用を受けます。塗装材が毒物や劇物に指定されるケースが多く、塗装材の製造工場や建築現場では毒物劇物取扱責任者の設置が重要となります。
参考)毒物劇物取扱者

建築業における毒物劇物取扱責任者の資格要件と配置義務

毒物及び劇物取締法第8条により、毒物や劇物を取り扱う施設ごとに毒物劇物取扱責任者を置くことが義務付けられています。建築業では、ビルやマンションの管理における衛生管理や害虫駆除、建築廃棄物の処理などで毒物劇物取扱者の知識が活かされます。特に塗装業においては、塗料に含まれる劇物の適切な管理のため、責任者の配置が不可欠です。
参考)https://toryo.or.jp/jp/event/seminar/texts/2019forum2chemicals.pdf

毒物劇物取扱責任者になるには、以下のいずれかの資格が必要です。第一に薬剤師の資格を持つ者、第二に厚生労働省令で定める学校で応用化学に関する学科を修了した者、第三に都道府県知事が行う毒物劇物取扱者試験に合格した者です。これらの資格のうちいずれかを満たせば、毒物劇物取扱責任者として業務を行うことができます。
参考)毒物劇物取扱責任者の資格とは

ただし、18歳未満の者、心身の障害により業務を適正に行えない者、麻薬・大麻・あへん・覚せい剤の中毒者、毒物劇物または薬事に関する罪で罰金以上の刑に処せられ3年を経過していない者は、資格があっても責任者になることができません。毒物劇物取扱者試験には「一般」「農業用品目」「特定品目」の3区分があり、一般試験の合格者のみが製造業・輸入業・販売業すべての責任者になることができます。建築業で幅広く毒劇物を扱う場合は、一般試験の合格が推奨されます。
参考)毒物劇物取扱責任者の資格について - 高崎市公式ホームページ

毒物劇物の保管管理における厚生労働省基準と建築現場での実践

厚生労働省が定める毒物及び劇物取締法施行規則第4条の4では、製造所等の設備について技術上の基準を規定しており、建築現場でも遵守が必要です。毒物劇物を保管する際の基本原則として、毒物劇物以外のものと区別して保管し、貯蔵設備は鍵のかかる堅固なものとし、必ず施錠することが求められます。鍵の管理は徹底し、管理者を決め、鍵の数量を定期的にチェックし、使用時のチェック表を作成して運用する必要があります。
参考)毒物劇物の保管管理を徹底しましょう/大阪府(おおさかふ)ホー…

保管場所の設置にあたっては、敷地境界線から離れた場所か、一般の人が容易に近づけない場所とし、管理者の目の届くところに設置することが重要です。保管場所には「医薬用外毒物」「医薬用外劇物」の文字を表示しなければならず、この表示義務は法第12条第3項で定められています。管理簿を作成し、在庫量の点検と使用量の把握を定期的に行うことも義務付けられており、盗難・紛失の早期発見に役立ちます。
参考)https://www.hokeniryo.metro.tokyo.lg.jp/documents/d/hokeniryo/2023dokutebiki

塗料の保管については、2018年の毒物及び劇物取締法改正により一部の塗料が新たに劇物指定されたことを受け、施錠できる場所での保管と「劇物もしくは毒物」の表示が必要となりました。毒物劇物を保管または使用する床は、毒物劇物が染み込まないような構造にし、タンク貯蔵設備のまわりには防液堤を設置するなど、構造設備面での対策も求められます。建築現場では、作業終了後の塗料缶の施錠保管や、使用量の記録管理など、日常的な安全管理の徹底が事故防止につながります。
参考)毒物及び劇物取締法の改正に伴う製品の配合変更について

毒物劇物の販売譲渡手続きと建築資材調達での注意点

毒物及び劇物取締法第14条により、毒物劇物の販売または授与の際には、厳格な手続きが定められています。毒物劇物営業者に販売授与する場合、販売側は毒物または劇物の名称及び数量、販売または授与の年月日、譲受人の氏名・職業・住所(法人の場合は名称及び主たる事務所の所在地)を書面に記載し、5年間保存する必要があります。この場合、譲受人の印は必ずしも必要ではありませんが、譲受人が毒物劇物営業者であるか否かについて定期的に確認を行わなければなりません。
参考)https://www.nihs.go.jp/mhlw/chemical/doku/gaiyou/kisei/zyoubun/pdf/14amp;15.pdf

毒物劇物営業者以外に販売する場合は、より厳格な手続きが求められます。譲受人によって押印された譲受書の提出を受けなければ販売できず、この譲受書も5年間保存する義務があります。特に譲受人が18歳未満でないこと、購入目的に不審な点がないこと、安全な取扱いであることを確認する必要があります。引火性、発火性または爆発性のある毒物劇物であって政令で定めるもの(ナトリウム、ピクリン酸等)については、身分証明書等で氏名及び住所を確認しなければ販売できません。
参考)毒物劇物の取扱いについて|宇都宮市公式Webサイト

オンライン販売では、譲受書を必ず事前に提出させなければならず、18歳未満の者、心身の障がいにより必要な認知・判断・意思疎通を適切に行えない者、麻薬等の中毒者には交付してはならないため、身分証の提示を求めるなど厳格な確認が必要です。建築業者が塗料や洗浄剤を購入する際には、これらの手続きを理解し、必要な書類を適切に準備することで、スムーズな資材調達が可能となります。また、自社で毒劇物を販売する場合は、都道府県等への登録が必要であり、無登録での販売は法律違反となります。
参考)毒物劇物対策|厚生労働省

毒物劇物の運搬基準と建築現場での輸送管理体制

毒物劇物の運搬については、毒物及び劇物取締法第22条により、特定の場合に運送業の届出が義務付けられています。法令で定められた23品目を運送する者が、最大積載量5,000kg以上の大型自動車に固定された容器(タンクローリー)を用いて運送する場合、または内容積1,000リットル以上の容器(四アルキル鉛の場合は200リットル以上)を最大積載量5,000kg以上の大型自動車に積載して運送する場合は、事業場ごとに事業場の所在地を管轄する保健所等に毒物劇物運送業の届出が必要です。
参考)https://www.kta.or.jp/pub/upload/20201209dokubutuyusou.pdf

毒物劇物を運搬する際は、容器や包装材に収納し、しっかり蓋や弁で密閉することが基本です。1回につき1,000kg以上運搬する場合には、容器または包装材の外部に名称および成分を表示しなければなりません。他の業者に運搬を委託する場合で、1回の運搬につき毒物劇物の量が1,000kgを超える際、荷送人は運送人に対し事前に「イエローカード」と呼ばれる書面を交付する義務があります。イエローカードには、毒物劇物の名称、成分及びその含有量、数量、事故の際の応急措置の内容を記載します。
参考)毒物・劇物の輸送について

表に示す毒物劇物を1回に5,000kg以上運搬する場合には、特別な規定があります。事故時の応急措置に必要な保護具を2人分以上備え、連続運転時間が4時間を超える場合や1日あたりの運転時間が9時間を超える場合は交替運転者を同乗させ、イエローカードを携帯し、30cm角の板に黒地白文字で「毒」と表示した標識を車両の前後の見えやすい箇所に掲げる必要があります。建築現場への塗料等の搬入においても、これらの基準に該当する場合は遵守が必要であり、運搬業者との契約時に確認することが重要です。​
建築資材の輸送を委託する際の参考資料として、運搬基準の詳細が記載されたガイドラインが公開されています

毒物劇物の廃棄方法と建築廃棄物処理における法令順守

毒物及び劇物取締法第15条の2により、毒物劇物は廃棄の方法について政令で定める技術上の基準に従わなければ廃棄してはならないと規定されています。廃棄の基本的な方法として、中和・加水分解・酸化・還元・希釈等により毒物劇物に該当しないものにすることが求められます。ガス体または揮発性の物については、保健衛生上の危害を生ずるおそれがない場所で少量ずつ廃棄することが定められています。
参考)京都市:毒物劇物の廃棄

毒物劇物の廃棄にあたっては、毒物及び劇物取締法だけでなく、水質汚濁防止法大気汚染防止法、下水道法など他法令の規定する基準にも適合していなければなりません。自分で処理できないものは、都道府県知事の許可を受けている産業廃棄物処理業者に委託するか、購入先等に相談するなどし、適切に廃棄する必要があります。自治体では毒劇物の収集及び回収は行っていないため、事業者自身が責任を持って処理方法を確保しなければなりません。​
建築現場で使用した塗料の残りや洗浄剤の廃液については、毒物劇物に該当しないものにしてから廃棄することが原則です。無機シアン化合物たる毒物を含有する液体状の物、塩化水素・硝酸・硫酸・水酸化カリウム・水酸化ナトリウムを含有する液体状の物など、毒物及び劇物取締法施行令第38条に定める物については、特に厳格な廃棄基準が適用されます。建築廃棄物の処理では、毒物劇物取扱責任者を設置している業者に委託する事例があり、適切な処理業者の選定が法令順守の要となります。
参考)https://www.nihs.go.jp/mhlw/chemical/doku/gaiyou/kisei/zyoubun/kizyun/haiki/haiki.pdf

毒物劇物の容器表示義務と建築資材の適切な管理表示

毒物及び劇物取締法第12条により、毒物劇物の容器及び被包への表示が義務付けられています。毒物劇物営業者及び特定毒物研究者は、毒物の容器に「医薬用外」の文字及び赤地に白色をもって「毒物」の文字を、劇物の容器には「医薬用外」の文字及び白地に赤色をもって「劇物」の文字を表示しなければなりません。この表示がない容器での販売または授与は法律で禁止されています。
参考)https://www.nihs.go.jp/mhlw/chemical/doku/gaiyou/kisei/zyoubun/pdf/12.pdf

容器及び被包には、毒物または劇物の名称、成分及びその含量を表示しなければ販売または授与できません。厚生労働省令で定める毒物または劇物については、それぞれ厚生労働省令で定める解毒剤の名称の表示も必要です。毒物劇物を貯蔵・陳列する場所にも、「医薬用外」の文字と毒物については「毒物」、劇物については「劇物」の文字を表示しなければなりません。
参考)「毒物及び劇物取締法」概要 その5 表示

建築現場では、塗料や洗浄剤の容器に適切な表示がされているか確認し、保管場所にも法令に従った表示を行うことが重要です。特に元の容器から別の容器に移し替える場合は、移し替え先の容器にも同様の表示を行う必要があります。表示義務の違反は法律違反となり、罰則の対象となるため、作業員への教育も含めた表示管理体制の構築が求められます。建築業者は、毒劇物の製造、輸入、販売または授与を行う製造業者、輸入業者、販売業者から購入する際に、適切な表示がされた製品を受け取ることを確認し、使用時まで表示を保持することが法令順守の基本となります。
参考)https://h-crisis.niph.go.jp/wp-content/uploads/2018/08/20180816130426_new-info_kobetu_roudou_gyousei_anzen_dl_130813-01-04.pdf

毒物劇物の事故時対応と建築現場での緊急時措置計画

毒物及び劇物取締法第17条(現在は第16条の2)により、毒物劇物営業者及び特定毒物研究者は、取扱いに係る毒物劇物が飛散、漏洩、流出、染み出し、または地下に染み込んだ場合において、不特定または多数の者について保健衛生上の危害が生ずるおそれがあるときは、直ちにその旨を保健所、警察署または消防機関に届け出るとともに、保健衛生上の危害を防止するために必要な応急の措置を講じなければなりません。「直ちに」という文言が示すとおり、事故発覚後速やかな対応が法的に義務付けられています。
参考)「毒物及び劇物取締法」概要 その8 事故時の措置

毒物または劇物が盗難にあい、または紛失したときは、直ちにその旨を警察署に届け出なければなりません。この規定は、法第22条第5項により毒物劇物営業者以外の業務上取扱者にも適用されるため、建築現場で毒劇物を使用する事業者も対象となります。盗難・紛失の届出義務違反には罰則が定められており、厳格な在庫管理と鍵の管理が事故防止の基本となります。
参考)毒物劇物による事件・事故を防止するために - 埼玉県

建築現場では、塗料や洗浄剤の漏洩事故に備えた緊急時措置計画の策定が重要です。具体的には、事故発生時の連絡体制(保健所・警察署・消防機関への通報担当者の指定)、応急措置の内容(漏洩物の拡散防止、中和剤の準備、保護具の配備)、作業員への教育訓練などを含む計画を作成し、定期的に見直すことが推奨されます。1回につき1,000kg以上の毒劇物を運搬する際に必要となるイエローカードには、事故の際の応急措置の内容が記載されており、これを参考に現場での対応マニュアルを整備することができます。事故時の迅速な対応は、法令順守だけでなく、周辺住民や作業員の安全確保、企業の社会的責任の観点からも極めて重要です。​
厚生労働省の毒物劇物対策ページでは、登録・許可・届出の手続きや最新の通知情報が確認できます
国立医薬品食品衛生研究所が公開する毒物及び劇物取締法Q&Aでは、具体的な該当性判断や手続きの詳細が解説されています