

溝を刻んだだけのガラス板が、橋梁崩落の予兆を察知して工事損失を防ぐことがあります。
グレーティング(回折格子)とは、ガラスや金属などの基板表面に、1mmあたり数百本から数千本という非常に細かく平行な溝を等間隔に刻んだ光学素子のことです。日本語では「回折格子」と呼ばれ、英語の"Gratings"をそのままカタカナにしたものが"グレーティング"です。どちらも完全に同じものを指しており、区別はありません。
この素子に白色光(複数の波長が混ざった光)を当てると、溝と溝の間のわずかな隙間(スリット)を通じた光が「回折」と呼ばれる現象で広がり、互いに干渉し合います。特定の方向では波の山と山が重なって強め合い、別の方向では山と谷が打ち消し合って暗くなります。強め合う方向は波長によって微妙に異なるため、結果的に虹のように光が色ごと(波長ごと)に分かれます。これが分光の原理です。
この関係は「格子方程式」で記述されます。
$$d(\sin\alpha + \sin\beta) = m\lambda$$
ここで d は溝と溝の間隔(格子定数)、α は入射角、β は回折角、m は回折次数(整数)、λ は光の波長を示します。この式は、どんな材質・配置でも成立する普遍的な関係式です。
特に注意したいのが「回折次数 m」という概念です。m=0 の光は「0次光」と呼ばれ、どの波長でも同じ方向に進むため分光されません。実際に分光として使われるのは m=1、m=2 などの次数です。次数が大きくなるほど分散は大きくなりますが、その分だけ回折効率が下がる傾向もあります。
また、溝の本数が多いほど分解能(近い波長どうしを分離する能力)が上がります。例えば 1200 本/mm の格子と 600 本/mm の格子では、同じ面積を照らしたとき前者の方が理論分解能が 2 倍になります。プリズムが材質の屈折率の違いで光を分けるのに対し、グレーティングは純粋に光の干渉だけで分光できる点が最大の特徴です。
島津製作所が公開する回折格子の技術解説(格子方程式の導出を詳しく説明):
島津製作所:回折格子(グレーティング)とは ― 格子方程式と波長分解の指標
回折格子は構造と製法によっていくつかに分類されます。これを理解しておかないと、現場で使う計測器のスペックを正しく読み解けません。
まず大きく「透過型」と「反射型」の2種類があります。透過型は透明なガラス基板に溝を刻み、光を基板越しに通すことで分光します。構造がシンプルで教育用途にも多く使われます。反射型はアルミや金などの金属反射膜を表面に蒸着した上に溝を刻み、入射した光を反射させながら分光します。分光器・分析機器・産業機器では反射型が主流です。コンパクトな光路設計ができることが大きな理由です。
次に製法の違いとして、「機械刻線(ルールド)」と「ホログラフィック」があります。
| 種類 | 製法 | 長所 | 短所 |
|---|---|---|---|
| 機械刻線(ブレーズド) | ダイヤモンド刃で溝を1本ずつ物理的に刻む | 特定波長で高い回折効率を実現 | 迷光・ゴーストが発生しやすい |
| ホログラフィック | 2本のレーザーの干渉縞を感光材料に焼き付ける | 迷光・ゴーストがほぼ皆無 | 回折効率が機械刻線より低い傾向 |
| ブレーズドホログラフィック | ホログラフィック法+イオンビーム後加工 | 低迷光と高効率を両立 | 製造コストが高め |
「ブレーズド回折格子」とは、溝の断面を非対称な鋸歯状に加工して、特定の波長(ブレーズ波長)で効率が最大になるように設計したものです。例えばブレーズ波長が 500nm の格子は、緑色光の近傍で最も効率よく分光します。これはちょうど「ベストな波長帯域に向けて坂道を作ってやる」イメージで、光のエネルギーをその坂方向に集中させる構造です。
さらに形状の違いとして、平らな「平面型」と曲面の「凹面型」があります。凹面型は集光と分光を一枚でこなせるため、光学系の部品点数を減らしてシステムの小型化に貢献します。建設現場に設置する携帯型計測器に向いている特性です。
つまり用途別の選択基準が条件です。ラマン分光のように微弱な信号を扱う場合はホログラフィック型を選び、蛍光測定など光量が重要な場面ではブレーズド型を選ぶのが基本です。
エドモンド・オプティクスの回折格子技術解説(各種類の効率曲線・選び方を詳しく説明):
Edmund Optics:回折格子に関するすべて ― 種類・選定ポイント・効率曲線の読み方
「グレーティングや回折格子は光学実験室だけの話」と思っている建築業従事者は少なくありません。しかし実際は違います。
FBG(Fiber Bragg Grating:ファイバー・ブラッグ・グレーティング)という技術がその証拠です。FBGとは、光ファイバーの内部にある「コア」と呼ばれる光の通り道に、紫外線レーザーで屈折率の変化を書き込んで作った、ごく小さな回折格子です。この「書き込まれた回折格子」こそが、FBGの"G"——グレーティング(Grating)を意味します。
FBGセンサーの仕組みは次のとおりです。
要するに「反射光の波長が変化した → 構造体に力や熱が加わった」という情報を、非接触・非破壊で拾い上げられるわけです。これは使えそうです。
FBGセンサーの大きな強みは電磁ノイズに強いことです。一般的なひずみゲージは金属製なので電磁誘導の影響を受けますが、光ファイバーは電気を使わないため、溶接作業中や大型重機の近傍でも安定して計測できます。さらに、1本の光ファイバーに最小間隔1mm で複数のFBGを連装できるため、橋梁の橋脚から桁まで1本のケーブルで多点同時計測が可能です。これは距離にして数十〜数百メートルにわたる広域の状態を「一括監視できる」という意味で、従来の電気式センサー網とは根本的に異なります。
FBGセンサーの基本原理をわかりやすく図解した専門解説(ブラッグ波長シフトのメカニズムを詳述):
ケイエルブイ:FBGセンサーとは ― ファイバー内の回折格子が温度・ひずみを検出する仕組み
実際の建設現場でFBGセンサーがどのように使われているか、具体的な事例に触れておきます。
飛島建設はPCコンクリート橋梁(プレストレスト・コンクリート橋)にFBGひずみセンサーを埋設し、施工中の管理と完成後の長期モニタリングを同時に行う体制を構築しました。1本の光ファイバーに複数のFBGを刻んで橋梁全体をカバーし、ひずみ分布をリアルタイムで可視化することに成功しています。
三井住友建設も同様に、コンクリート構造物の表面に光ファイバーセンサーを固定してひずみ分布を測定するモニタリングシステムを開発し、実証を進めています。
このような構造ヘルスモニタリング(SHM)のメリットは数字でも明らかです。橋梁の定期点検は法律(道路法施行規則の改正)により5年に1度の近接目視が義務付けられており、全橋梁対応では毎年約2,000万円規模の予算が必要とも試算されています。FBGセンサーによる常時モニタリングを併用すれば、異常検知を早期化できるため、大規模修繕工事に発展する前に対処でき、1件あたり数百万〜数千万円規模の補修コスト削減が見込めます。
FBGセンサーのもう一つの強みが耐久性です。光ファイバー自体は化学的に安定したガラス素材なので、コンクリートに埋設しても腐食・劣化しません。金属系センサーは10〜20年でサビによる信頼性低下が問題になりますが、FBGセンサーは構造物の供用期間(50〜100年)にわたって計測を続けられる点が大きな差別化要素です。
一方で注意点もあります。FBGセンサーは温度変化とひずみ変化を同時に受けると、両方の影響がブラッグ波長シフトに重なって現れます。温度補償が適切に行われていないと、実際にはひずみが発生していないのに「ひずみあり」と誤判定するリスクがあります。温度補償用の専用センサーを別途設置するか、温度補償機能付きのFBGを使うかを設計段階で検討することが必要です。FBGが条件です。
飛島建設によるFBG光ファイバーセンシングの実橋適用事例(格子間隔・施工方法まで詳細に記載):
飛島建設:FBG光ファイバーセンシングによるPC上部工の計測管理(技術報告書PDF)
建築業従事者が計測機器を選定・調達する際に、グレーティングの仕様を正しく読める知識を持っていると、発注ミスや精度不足を防げます。
🔍 分解能(Resolution)
回折格子の理論分解能 R は次の式で示されます。
$$R = mN$$
m は回折次数、N は光が照射されている溝の総数です。たとえば 1200 本/mm の格子で、照射幅が 50mm であれば N = 60,000 本となり、1次光(m=1)の分解能は R = 60,000 です。これは「500nm の光と 500.008nm の光を分けられる」ほどの精度を意味します。
🔍 迷光(Stray Light)
迷光とは、分光器内部で意図せず散乱・反射して検出器に届いてしまう余計な光です。測定のノイズになります。機械刻線格子は表面の微細な傷から迷光が生じやすく、ホログラフィック格子のほうが格段に少ない特徴があります。ラマン散乱計測のように微弱な信号を扱う場面では、迷光の多少が測定の可否を左右します。
🔍 ゴースト(Ghost)
ゴーストとは、溝間隔の周期的な加工誤差によって、本来存在しないはずの偽のスペクトル線が現れる現象です。微量成分の分析で「あるはずのないピーク」が出てしまうため、定性分析を誤らせる原因になります。ホログラフィック格子は光学的手法で溝を形成するため、ゴーストが原理的に発生しない点が大きなメリットです。ゴーストなら問題ありません。
🔍 ブレーズ波長(Blaze Wavelength)
回折効率が最大になる波長のことです。カタログには「BLZ=500nm」などと記載されています。使用波長域の中心付近にブレーズ波長がある製品を選ぶと、光量ロスを最小化できます。NIR(近赤外)領域で使うなら 800〜1600nm 帯のブレーズ波長を持つ格子を選ぶことが基本です。
🔍 溝本数(Groove Density)
溝本数が多いほど分解能が上がりますが、カバーできる波長範囲が狭くなります。たとえば 600 本/mm なら広帯域をカバーしやすく、1800 本/mm なら狭い帯域で高精度を発揮します。目的に応じてバランスを選ぶ必要があります。
FBGセンサーを用いた構造モニタリングシステムを発注する際は、計測器メーカーに「どんな種類のグレーティングを内蔵しているか」「迷光レベルはどれくらいか」「ブラッグ波長域はどこか」を確認することで、想定通りの計測精度が得られるかどうかを事前に判断できます。
回折格子の性能指標・分解能・溝形状の詳細を解説した技術資料:
evort(エボルト):回折格子とは?種類・性能指標・選び方のポイントを解説

アップグレード 回折格子 教育ツール 回折格子 広いスペクトル範囲を提供 デモンストレーション用に強化 ポータブルグレーティング