
日本国内では2018年頃からグリーンビルディングの取り組みが加速し、LEED認証取得率が大幅に増加しています。大阪梅田ツインタワーズ・サウスは、DBJ Green Building認証で最高評価の5つ星を取得した代表的な事例です。この38階建てのオフィスビルは、屋上や壁面の緑化、Low-Eガラスの採用、最新LED照明、コージェネレーションシステムの導入により、省エネ性を飛躍的に高めました。日本ロレアル株式会社の新宿本社オフィス「ビューティーバレー」は、2022年のリニューアルでLEED認証ゴールドランクを取得し、水の使用量削減で満点評価を獲得しています。廃棄予定の化粧品をリサイクルした建材を使用するなど、循環型社会の実現にも貢献しています。
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大阪大学箕面キャンパスは、日本の大学として初めてLEEDゴールド認証を取得した画期的な事例です。省エネ設備、節水型衛生器具、雨水利用システムなど、多角的な環境配慮技術を導入しています。築30年以上の既存ビルでは、恵比寿ガーデンプレイスタワーがDBJ Green Building認証で5つ星を取得し、国内初の快挙を達成しました。久留米市環境部庁舎は、既存公共建築物として日本初のZEB認証を取得し、改修後のエネルギー削減率106%を実現しています。埼玉県の介護老人保健施設グリーンピアでは、高効率空調設備への改修と窓ガラスの高断熱化により、入所者の快適性向上とランニングコスト削減を両立させました。
参考)グリーンビルディングの認証基準とは?大阪の事例を紹介
日本国内で取得可能なグリーンビルディング認証には複数の種類があり、それぞれ異なる評価基準と目的を持っています。CASBEE(建築環境総合性能評価システム)は、2001年に国土交通省主導で開発された日本独自の評価システムです。エネルギー消費、資源循環、地域環境、室内環境の4分野を総合的に評価し、Cランクから最高のSランクまで5段階で建築物をランキングします。評価結果は建築物の環境性能を客観的に示すため、設計者や建設事業者に改善の方向を明確に指し示す役割を果たしています。
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LEED認証はアメリカの非営利団体USGBCが開発した世界で最も広く利用されるグリーンビルディング評価システムであり、日本でも導入事例が増加しています。統合的プロセス、立地と交通、水の利用、エネルギーと大気、材料と資源、室内環境、革新性など9つの評価項目があり、ポイント制で評価されます。DBJ Green Building認証は2011年に日本政策投資銀行が創設した制度で、2023年3月時点で認証物件数1799件、認証事業者数501社に達しています。環境・社会への配慮を総合的に評価し、5段階の星マークで認証レベルを表示します。BELS(建築物省エネルギー性能表示制度)は、一次エネルギー消費量をもとに省エネ性能を5段階の星マークで表示する制度で、新築・既存を問わず全ての建築物が対象となります。
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グリーンビルディングでは環境負荷を低減する持続可能な建設材料の使用が重視されています。リサイクル材として、解体現場のコンクリートや製材工場の木材、廃瓶のガラスなどが活用され、天然資源の採掘削減と廃棄物量の削減に貢献します。地域産の木材、石材、土砂などの地元産材は、地域経済の活性化と地域文化の保全という二重の効果をもたらします。竹、麻、コルクなどの再生可能素材は、石油依存度の低減とCO2排出量削減を実現し、健康に優しい室内環境を創出します。
参考)グリーンビルディングとは?持続可能な建築物の特徴とメリット …
高性能断熱材や低VOC塗料などの環境性能の高い素材は、エネルギー効率の向上と室内環境の改善、健康リスクの低減を同時に達成できます。バイオベース素材として、植物由来のバイオプラスチックやバクテリア製コンクリートが注目されています。従来のセメント製造は1トンあたり約600kgのCO2を排出し、世界の排出量の8%を占めていますが、バイオベース素材への転換により大幅な削減が可能になります。レンガ製造も1トンあたり258kgのCO2を排出するため、代替材料の開発が進められています。電子スマートガラス(ESG)は微細な電気信号で窓ガラスの日射反射量を調整できる省エネ技術として商業化が近づいています。
参考)ネットゼロ目標の実現を叶えるグリーンビルディング
グリーンビルディングの導入には太陽光パネルや省エネ設備の設置が必要なため、一般的なビルよりも初期コストが高くなる傾向があります。しかし、米国のデータによれば、2015年から2018年の間にLEED認定建築物は12億米ドルのエネルギーコスト節約、1億4950万米ドルの水節約、7億1520万米ドルの維持費節約を実現しています。LEED認証取得済みグリーンビルディングは、一般的な商業用建築物と比較して施設運営コストが約20%低く、1年間で運転コストを約10%削減できるというデータもあります。グリーンビルディングへの改修投資の回収期間は平均7年と非常に短く、経済的メリットが明確です。
参考)グリーンビルディングとは・意味
エネルギー効率の高い設備やシステムの導入により、長期的な視点では初期投資を上回る経済的メリットが得られます。グリーンビルディングの不動産評価額は平均して4%高く、資産価値の向上も期待できます。東京のオフィス賃貸市場では、グリーンラベルを持つ物件が契約賃料で平均約6.5%のプレミアムを獲得しているというデータもあります。維持管理においては、設備図面や維持管理記録などのデータ整備が必要ですが、新築時から計画的に導入することで手間を大幅に削減できます。ZEB化を視野に入れた徹底的な調査により、設備を単体でとらえるのではなく施設全体の最適化を検討することで、ランニングコストをさらに抑える方法を選択できます。
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ZEB(Net Zero Energy Building)は、快適な室内環境を維持しながら年間の一次エネルギー消費量の収支をゼロにすることを目指す建物です。環境省は「先進的な建築設計、パッシブ技術、高効率設備システムにより大幅な省エネを実現し、再生可能エネルギーの導入でエネルギー自立度を高め、年間一次エネルギー消費量の収支ゼロをめざす建築物」と定義しています。ZEBには4つの段階があり、最高レベルのZEBは年間の一次エネルギー消費量が正味ゼロまたはマイナスで、基準から再生可能エネルギーを除いて50%以上、含めて100%以上の削減を達成した建築物です。Nearly ZEBは75~100%の削減、ZEB Readyは50%以上の削減、ZEB Orientedは用途別に30~40%以上の削減を実現した建築物を指します。
参考)ZEB認証を取得するために知っておきたいこと:基準、手順、メ…
日本政府は2020年10月に2050年までにカーボンニュートラルの実現を宣言し、2021年の地球温暖化対策計画では2030年度までに新築建築物のCO2排出量を2013年度比51%削減する目標を設定しました。日本全体のCO2排出量の3分の1が建築分野からのものであるため、建築物の省エネ化が急務の課題となっています。外皮の高断熱化、高効率な省エネルギー設備の導入、太陽光発電などの再生可能エネルギーの活用が主な技術的アプローチです。ZEB化により、CASBEE、LEED、BELSといった環境性能評価・認証で高評価を得やすくなり、建物の価値向上につながります。スマートエネルギー管理システムの導入により、居住者の省エネ意識向上とコスト削減を同時に実現する事例も報告されています。
参考)https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fenrg.2022.915088/pdf
環境省 ZEBリーディングテナント行動方針
ZEBの概念や目標、具体的な取り組み事例について詳しく解説されています。グリーンビルディングとZEBの関係を理解する上で有用な情報源です。
日本のLEED認証プロジェクトリスト
国内でLEED認証を取得した建築物の最新リストが確認できます。認証取得を検討している建築事業者にとって参考となる事例が多数掲載されています。
グリーンビルディングの導入は、環境保護だけでなく経済的メリット、資産価値向上、企業ブランディングの強化など、建築事業者に多面的な利益をもたらします。初期投資は必要ですが、7年程度で回収可能であり、長期的には大幅なコスト削減を実現できます。日本国内では複数の認証制度が利用可能で、新築だけでなく既存建築物の改修においても高い評価を得ることが可能です。2050年カーボンニュートラル実現に向けて、グリーンビルディングとZEB技術の普及は建築業界全体の重要な課題となっています。持続可能な建築材料の活用、省エネ設備の導入、再生可能エネルギーの活用により、環境負荷を最小限に抑えながら快適な室内環境を実現する技術が確立されつつあります。建築事業者は認証取得を通じて市場競争力を強化し、社会的責任を果たすことができます。