避難はしご設置基準とは|消防法・建築基準法の違い

避難はしご設置基準とは|消防法・建築基準法の違い

記事内に広告を含む場合があります。

避難はしご設置基準

📋 この記事のポイント
⚖️
消防法と建築基準法の二重基準

避難はしごは消防法の収容人員基準と建築基準法の二方向避難の2つの観点から設置義務が生じます

👥
収容人員と建物用途で変わる設置義務

共同住宅は30人以上、病院は20人以上など用途ごとに異なる基準が定められています

🔢
階数による設置可能な種類の制限

3階まではつり下げ式、4階以上はハッチ式と階層ごとに設置可能な避難はしごの種類が異なります

避難はしご設置を定める消防法の基準

 

避難はしごの設置基準は、消防法施行令第25条第1項の第1号から第5号に明確に規定されています。設置義務の判断には「建物の用途」「収容人員」「階数」の3要素が必要です。消防法施行令別表第一に掲げられる防火対象物の2階以上の階または地階(避難階及び11階以上を除く)が対象となります。

 

設置基準は防火対象物の用途によって異なり、例えば別表第一(五)項ロの共同住宅では収容人員30人以上で設置義務が生じます。一方、別表第一(六)項の病院や保育所では収容人員20人以上と、より厳しい基準が適用されます。収容人員の算定方法は消防法施行規則第一条の三で定められており、用途ごとに計算式が異なる点に注意が必要です。

 

階数による制限も重要で、地階と2階にはすべての防火対象物で避難はしごを設置できます。しかし3階から10階では、別表第一(六)項に含まれる病院・保育所などでは避難はしごの設置が認められていません。これらの施設では避難の難しい方が多いため、救助袋などの別の避難器具を選択する必要があります。

 

消防庁告示による避難器具の詳細な技術基準が確認できます(避難器具の基準 昭和53年消防庁告示1号)

避難はしご設置における建築基準法の役割

建築基準法施行令第121条では、一定規模以上の建物に二方向避難の確保を義務付けています。この規定により、避難階段を2つ設置することが困難な中規模マンションやオフィスビルでは、ベランダにハッチ式の避難はしごを設置することで直通階段の設置を緩和できます。

 

建築基準法に基づく避難はしごは、消防法の収容人員基準を満たしていなくても設置義務が生じるケースがあります。例えば収容人員が20人以下の小規模共同住宅であっても、建築基準法上の二方向避難確保のために避難はしごが必要となる場合があります。このため「収容人員が少ないから避難器具は不要」と安易に判断して撤去すると、建築基準法違反となる可能性があります。

 

建築基準法施行令第121条には「避難上有効なバルコニー」という概念も定められており、これが二方向避難の一つとして認められます。ただし具体的な構造基準は各自治体の特定行政庁が規定しており、地域によって解釈が異なる点に注意が必要です。日本建築行政会議が発行する「建築物の防火避難規定の解説2016(第2版)」に目安が記載されています。

 

建築基準法施行令第121条の二方向避難に関する詳細な規定が確認できます(電子政府の総合窓口e-Gov)

避難はしご設置義務が生じる収容人員基準

消防法施行令第25条では、収容人員に応じた避難器具の設置個数が定められています。第1号・第2号・第5号に該当する建物では、収容人員100人以下で避難器具1個、以降100人超えるごとに1個ずつ増加します。第3号では200人ごと、第4号では300人ごとに1個追加される計算です。

 

具体的な収容人員基準を用途別に見ると、以下のようになります。別表第一(六)項の病院・福祉施設では収容人員20人以上(下階に特定用途があれば10人以上)で設置義務が発生します。別表第一(五)項の共同住宅・ホテルでは30人以上(下階に特定用途があれば10人以上)です。別表第一(一)から(四)項の劇場・店舗・学校などでは50人以上が基準となります。

 

工場や事務所などの別表第一(十二)項・(十五)項では、3階以上の無窓階または地階で100人以上、その他の階では150人以上が基準です。また階段が2つない3階以上の階で収容人員10人以上の場合も設置義務が生じます。収容人員の算定は消防法施行規則第一条の三に基づき、床面積を用途別の数値で除して計算します。

 

これらの基準は消防法施行規則第26条により緩和される場合があり、耐火構造で避難階段が2つ以上ある場合は収容人員を2倍として読み替えることができます。ただし自治体条例で独自の基準を設けているケースもあるため、所轄消防署への確認が必須です。

 

避難はしごの種類と階数による設置制限

金属製避難はしごは使用形態により「固定はしご」「立てかけはしご」「つり下げはしご」「ハッチ用つり下げはしご」の4種類に分類されます。固定はしごはさらに横桟収納式・折りたたみ式・伸縮式の3つの形式があり、防火対象物に常時固定されて使用されます。つり下げはしごには折りたたみ式とワイヤーロープ式があります。

 

設置できる階数には明確な制限があります。地階と2階には用途・収容人員に関わらずすべての種類の避難はしごを設置可能です。3階では別表第一(六)項の病院・保育所を除く防火対象物でつり下げ式避難はしごが設置できます。4階と5階では、同じく(六)項以外でハッチ式避難はしごの設置が可能です。6階から10階でも同様の制限が適用されます。

 

重要な点として、4階以上で設置できる避難はしごは「ハッチ式」のみとなります。窓枠に引掛けて展張するつり下げ式避難はしごは3階までしか設置できません。これは高層階からの避難時の安全性を考慮した規制です。11階以上の階は避難はしごの設置自体が不要とされており、代わりに救助袋や避難橋などの器具が使用されます。

 

材質については、金属製(スチール製・アルミ製)のものが国家検定の対象となり、防火対象物への設置が義務付けられています。一方、非金属製の避難はしごは一般住宅での備蓄用として使用されますが、消防法上の避難器具としては認められていません。

 

金属製避難はしごの構造と種類に関する詳細な技術資料が確認できます(日本消防検定協会)

避難はしご点検と交換時期の管理実務

消防法により避難器具は年2回の機器点検と年1回の総合点検が義務付けられています。機器点検は外観確認と簡易な操作による点検で、共用部分が対象のため立ち会いは不要です。総合点検は実際に避難器具を使用して機能を確認する点検で、住戸内の設備も対象となるため区分所有者の立ち会いが必要となります。

 

避難ハッチの法定耐用年数は税法上8年とされていますが、これはあくまで会計上の減価償却期間です。物理的耐用年数は25年から30年使用可能とされており、点検結果に基づいて交換時期を判断する必要があります。外観の劣化だけでなく、開閉機構の不具合やはしごの錆・変形なども交換の判断材料となります。

 

点検では降下地点周辺の障害物確認も重要です。マンションのベランダでは避難ハッチの真下に物干し竿やエアコン室外機が設置されているケースが多く、これらが展開を阻害すると非常時に使用できません。管理組合による定期的な確認と居住者への周知が必要です。

 

交換費用は避難ハッチの場合13万円から30万円の範囲が相場です。大規模修繕工事の一環として実施する管理組合もあれば、別のタイミングで交換を進めるところもあります。交換後は所轄消防署への届出が必要な場合があるため、工事業者と事前に確認することが重要です。

 

避難ハッチの交換時期と大規模修繕での実施タイミングに関する実務情報が確認できます

避難はしご設置基準の緩和規定と特例措置

消防法施行規則第26条には避難器具設置の緩和規定が定められています。防火対象物の主要構造部が耐火構造で、かつ避難階段が2つ以上設置されている場合、収容人員を2倍にして読み替えることが可能です。例えば収容人員100人以下で避難器具1個が義務付けられる建物では、この条件を満たせば「収容人員200人以下」と読み替えられ、避難器具の設置個数を減らせます。

 

避難階段や特別避難階段が設置されている場合、その数に応じて避難器具の減免が認められます。条件を満たす避難階段であれば、避難器具の設置が完全に免除されるケースもあります。ただし屋内避難階段については消防法施行令で定める構造基準を満たすもののみがカウント対象です。

 

渡り廊下や屋上避難橋が設置されている場合、その数を2倍した数だけ避難器具の設置を減免できます。また面積1500㎡以上の屋上広場があり、防火戸付きの開口部と避難設備が整備されている場合は避難器具の設置が不要となります。小規模特定用途複合防火対象物で条件を満たす場合も設置免除の対象です。

 

ただし消防法第17条第2項では、気候風土を考慮した基準設定を認めているため、自治体の条例により緩和規定が適用されない場合があります。東京都や大阪府など大都市圏では、消防法施行規則の緩和条件を満たしていても条例で設置を義務付けているケースが見られます。設計段階で所轄消防署と事前協議を行い、地域特性を考慮した計画を立てることが不可欠です。