
i型鋼は、その名前が示すとおり断面がローマ字の「I」の形状をした鋼材です。この特殊な断面形状は、中央の垂直部分である「ウェブ」と、上下の水平部分である「フランジ」の2つの主要構成要素から成り立っています。
フランジ内部の両端から中央へ向かってテーパーが付いているのがi型鋼最大の特徴で、これにより梁幅が狭くなっています。このテーパー構造により、材料の無駄を最小限に抑えながら必要な強度を確保することが可能です。
ウェブは主に垂直方向の荷重を支える役割を担い、フランジは曲げモーメントに対する抵抗力を提供します。この機能分離により、i型鋼は効率的な構造性能を発揮します。
フランジの幅が比較的狭く、ウェブの厚みや高さが大きいため、狭いフランジ部に応力を集中しやすい構造となっていますが、その分重量が軽く抑えられるので経済的な面も考慮して使われることが多いです。
金属加工業界でよく混同されがちなi型鋼とH型鋼ですが、決定的な違いはフランジの内側形状にあります。i型鋼はフランジの内側にテーパーが付いているのに対し、H型鋼はフランジの内側がフラットな状態です。
この違いが製造工程や用途に大きな影響を与えます。i型鋼のテーパー形状は、圧延加工時により複雑な工程を必要とし、専用の圧延設備が必要になります。
構造的性能面では、i型鋼は曲げに対して非常に高い強度を発揮する一方、せん断力や軸方向力などには形状によってはやや弱い部分が出る場合もあります。これに対しH型鋼は、より均等な応力分散が可能で、建築構造材として汎用性が高くなっています。
重量比較では、i型鋼の方が軽量で、施工性や運搬性に優れているというメリットがあります。しかし、その反面、設計時には細かな補強リブの設計調整が必要になるケースも見られます。
i型鋼最大の特長は、同じ重量の材料で提供できる曲げ強度が高いという特性です。これは、材料が断面の外縁部に配置されることで、断面二次モーメントが最大化されるためです。
具体的には、中央のウェブが軸方向の圧縮や引張に抵抗し、上下のフランジが曲げモーメントによる圧縮と引張を分担します。この力学的な役割分担により、効率的な構造性能を実現しています。
荷重特性において、i型鋼は点荷重や集中荷重に対して優れた性能を発揮します。特に、長いスパンを持つ構造において、その性能が最大限に活かされます。
ただし、横座屈に対してはH型鋼と比較して注意が必要です。フランジ幅が狭いため、横方向の安定性確保には適切な支持間隔の設定や補剛材の配置が重要になります。
東京製鐵などの製造メーカーでは、JIS規格に基づいた厳格な品質管理のもと、引張強さや炭素当量などの機械的性質を管理しています。
i型鋼の最も重要な用途は、ホイスト式クレーンのレール材です。一般の建築物の構造部材として使用されることはほとんどなく、この専門用途に特化した鋼材と言えます。
クレーンレール用途では、車輪との接触面であるフランジ上面の平滑性と耐摩耗性が重要です。テーパー形状により、車輪の横ずれを防止する効果もあり、安全な走行を実現します。
設計時には、クレーンの最大荷重、走行速度、使用頻度を考慮した断面選定が必要です。また、レール継手部の設計や支持構造の剛性確保も重要な要素です。
意外な事実として、i型鋼は橋梁や機械、車両の部品として使用されることもありますが、使用頻度は極めて低いです。これは、その特殊な形状特性がクレーンレール用途に最適化されているためです。
最近では、中国などで型鋼の弯曲加工技術も発達しており、特殊な形状要求にも対応可能になっています。
i型鋼の製造は、電気炉での溶解から始まります。国内で発生する鉄スクラップを原料として、電気炉で溶解し、炉外精錬炉で成分調整を行います。
連続鋳造でビームブランクを製造後、加熱炉で再加熱し、粗圧延から仕上圧延まで複数段階の圧延工程を経てi型鋼の形状に成形されます。この際、フランジ内側のテーパー加工が重要な工程となります。
品質管理では、化学成分として炭素、マンガン、ケイ素などの含有量を厳格に管理し、炭素当量Ceqや溶接割れ感受性組成Pcmなどの指標で溶接性を評価します。
機械的性質では、引張強さ、降伏点、伸びなどをJIS規格に基づいて管理しています。厚さ12mmを超える鋼材には衝撃試験も実施され、3個の試験片の平均値で評価されます。
寸法精度では、ウェブ厚、フランジ厚、高さ、フランジ幅などの寸法許容差が規定されており、ウェブ面中央部に約500mmの間隔でマーキングが施されます。
最終検査では、鋼材検査証明書が発行され、化学成分分析結果と機械試験結果が記載されます。
東京製鐵株式会社の製品資料では、製造工程の詳細と品質管理基準が公開されています。
https://www.tokyosteel.co.jp/assets/docs/products/building/ibeam.pdf