
簡易リフト構造規格は、労働安全衛生法第42条に基づき「平成十二・十二・二十五労働省告示第一二〇号」として定められており、工場や倉庫などの事業場における荷物専用昇降機の安全基準を規定しています。
労働安全衛生法施行令第1条第9項では、簡易リフトを「エレベーターのうち、荷のみを運搬することを目的とするエレベーターで、搬器の床面積が一平方メートル以下又はその天井高さが一・二メートル以下のものをいう」と明確に定義しています。
この規格の適用対象となるのは、積載荷重が0.25トン以上の簡易リフトです。逆に言えば、積載荷重が0.25トン未満の簡易リフトは、クレーン等安全規則第2条により適用除外となります。しかし、適用除外であっても安全上の配慮は必要であり、事業者は自主的な安全対策を講じることが求められています。
💡 意外な事実:積載荷重の測定基準
簡易リフトの積載荷重は、搬器の構造的な耐荷重ではなく、実際に運搬する荷物の重量で判断されます。そのため、設計上は1トンまで運搬可能でも、実際の使用が0.2トンであれば適用除外となる場合があります。この判断基準を正確に理解せずに違法運用している事業場が少なくありません。
昇降路は簡易リフトの安全性を左右する最重要構造部分です。構造規格第1条では、昇降路の要件を以下の3つの観点から定めています。
壁・囲いの設置義務
荷の積卸口の部分を除き、昇降路全体に壁又は囲いが設けられていなければなりません。この規定により、昇降中の搬器と人体の接触や、昇降路内への転落事故を防止します。壁の材質については特段の規定がありませんが、十分な強度を有する材料を使用することが必要です。
荷の積卸口の戸設置
荷の積卸口には必ず戸が設けられていることが義務付けられています。ただし、搬器としてバケツトを使用する場合は、この規定は適用されません。戸の構造や開閉方式についての詳細規定はありませんが、安全な荷の積卸しが可能な構造である必要があります。
内部設備の制限
運転のため必要でないワイヤロープ、配線、パイプ等が昇降路内部に設けられていてはいけません。この規定は、昇降中の搬器がこれらの設備に接触することによる故障や事故を防止するためのものです。
📊 実務データ:昇降路関連事故の統計
厚生労働省の労働災害統計によると、簡易リフトによる労働災害の約60%が昇降路関連で発生しており、特に戸の設置不備や壁面の不適切な構造が原因となっているケースが多く報告されています。
支持はりは簡易リフト全体の荷重を支える基幹構造部分であり、その材質要件は非常に厳格に定められています。
支持はりの材質要件
構造規格第2条により、支持はりは鉄骨造又は鉄筋コンクリート造のものでなければなりません。ただし、積載荷重が0.5トン未満かつ揚程が10メートル以下の簡易リフトについては、この材質制限は適用されません。この例外規定により、小規模な簡易リフトでは木材等の使用も可能となっています。
ガイドレールの構造基準
ガイドレールは鋼製のものでなければならないと第3条で規定されています。支持はりと同様、積載荷重が0.5トン未満かつ揚程が10メートル以下の場合は例外となりますが、実際の運用では安全性を考慮して鋼製ガイドレールを採用する事業者が多いのが実情です。
ガイドレールは取付金具により昇降路に確実に取り付けられている必要があり、取付方法の不備は重大な事故につながる可能性があります。
材料の許容応力基準
構造規格第6条では、各部分に使用する材料の許容応力値を詳細に規定しています。搬器部分では破壊強度の値を6で除した値以下、支持はりの鋼材部分では4で除した値以下など、部位別に安全率が設定されています。
🔧 技術的ポイント:ガイドレール接続部の課題
ガイドレールの継ぎ目部分は、搬器の昇降時に振動や衝撃が発生しやすい箇所です。継ぎ目の段差は1mm以下に抑える必要があり、この精度を確保するために専用の測定器具を用いた施工管理が不可欠です。
搬器は荷物を直接搭載する部分であり、その安全設計は労働者の安全に直結します。
荷台を用いる搬器の要件
構造規格第4条では、搬器として荷台を用いる場合の詳細要件を定めています。荷の積卸しをする部分を除き、周囲に囲いが設けられていること、内部に運転をするための装置が設けられていないことが必須条件です。
特に重要なのは、昇降路の荷の積卸口の床先と荷台の床先との間隔が4センチメートル以下でなければならないという規定です。この間隔が大きすぎると、荷物の落下や作業者の挟まれ事故の原因となります。
制御装置と原動機の要件
構造規格第8条により、簡易リフトは搬器ごとに原動機、制御装置及び巻上機を備える必要があります。これらの機械部分は、搬器の安全な昇降を確保するための基本装備です。
搬器への乗車禁止
クレーン等安全規則第207条では、使用者は簡易リフトの搬器に労働者を乗せてはならず、労働者も乗ってはならないことが明確に規定されています。この規定に違反した場合、労働安全衛生法違反として罰則の対象となります。
⚡ 実務上の注意点:非常時の安全装置
簡易リフトには、停電時や機械故障時の安全装置として、手動降下装置の設置が推奨されています。法的義務ではありませんが、荷物の取り出しや緊急時の対応を考慮すると、設置しておくことが実務上重要です。
簡易リフトの設置には、適切な行政手続きが必要であり、手続きの不備は重大な法令違反となります。
設置報告書の提出義務
クレーン等安全規則第202条により、簡易リフトを設置しようとする事業者は、あらかじめ簡易リフト設置報告書(様式第29号)を所轄労働基準監督署長に提出しなければなりません。この手続きは設置前に行う必要があり、設置後の事後報告は認められません。
計画届出の詳細要件
労働安全衛生法第88条第1項では、機械等の設置計画を工事開始の30日前までに労働基準監督署長に届け出ることを義務付けています。この届出には、簡易リフトの仕様、設置場所、構造図面等の詳細資料を添付する必要があります。
違法設置のリスクと対策
構造規格を満たさない簡易リフトの使用は、労働安全衛生法違反となり、事業者には停止命令や改善命令が発せられる可能性があります。佐賀県では令和6年に構造規格を満たさない昇降機の使用中に死亡災害が発生しており、違法な簡易リフトの使用は人命に関わる重大な問題となっています。
適法性確保のチェックポイント
既設の簡易リフトについては、以下の項目を定期的にチェックすることが重要です。
🚨 緊急対応:違法状態発覚時の対処法
既設の簡易リフトが違法状態であることが判明した場合、即座に使用を停止し、労働基準監督署に相談することが必要です。改修工事による適法化が困難な場合は、撤去も含めた抜本的な対策を検討しなければなりません。違法状態での継続使用は、労働災害発生時の企業責任を重大化させる要因となります。