昇降機とエレベーターの違いと設置基準及び保守管理

昇降機とエレベーターの違いと設置基準及び保守管理

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昇降機とエレベーターの違い

本記事のポイント
📋
定義の違い

建築基準法と労働安全衛生法における昇降機とエレベーターの明確な区分

⚖️
設置基準

高さ31m以上の建物における設置義務と各種昇降機の規定

🔧
維持管理

法定検査と保守点検の義務、契約形態別の費用相場

昇降機の法的定義と種類

 

昇降機は建築基準法において、一定の昇降路や経路を介して動力を用いて人や物を建築物のある階から他の階へ移動・運搬するための設備全体を指す包括的な呼称です。建築基準法施行令では、昇降機をエレベーター、エスカレーター、小荷物専用昇降機の3つに分類しています。労働安全衛生法においても独自の定義があり、建築基準法とは一部異なる基準で区分されています。
参考)https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/build/jutakukentiku_house_tk_000105.html

建築基準法における昇降機は、工場や作業場の生産設備として専ら使用され、人が乗り込んだ状態で運転されるおそれがない構造の垂直搬送機や、機械式駐車場、立体自動倉庫などの物品保管施設は昇降機に該当しないものとして取り扱われます。この区分は不動産従事者が設備の法的位置づけを理解する上で重要な知識となります。
参考)https://www.city.osaka.lg.jp/toshikeikaku/page/0000465198.html

昇降機とエレベーターのサイズ規定による区分

エレベーターは昇降機の一種であり、建築基準法では「かごの床面積が1平方メートルを超えるもの」または「かごの天井の高さが1.2メートルを超えるもの」と定義されています。一方、労働安全衛生法では「かごの床面積が1平方メートルを超え」かつ「天井の高さが1.2メートルを超えるもの」と、より厳格な基準で定義されています。
参考)https://mercuryelevator.co.jp/mercury-report/useful-info/971/

この定義の違いにより、同じ設備でも法律によって分類が異なるケースが生じます。不動産従事者は物件の設備を管理する際、両方の法律に基づく適切な対応が求められます。特に設置や改修の際には、どちらの基準が適用されるかを正確に把握する必要があります。
参考)https://aiwaok.jp/law

小荷物専用昇降機(ダムウェーター)の特徴

小荷物専用昇降機は、人が乗れない荷物専用の昇降設備です。かごの面積が1㎡以内、高さ1.2m以内と小さく設計されており、飲食店や学校、病院、オフィスビルなどで料理・食器、書類、医療品といった比較的軽量な物品を上下階に運ぶ用途で広く利用されています。
参考)https://konimotsusenyou-syoukouki.com/column/729

人が乗れるエレベーターと比べて安全装置の規定が緩和されており、荷物輸送に特化した設備として位置づけられています。小中学校では給食の運搬、飲食店では食膳の運搬、図書館や倉庫では物品の運搬など、設置先によって用途が異なります。小型ゆえ設置スペースや構造要件が抑えられ、新築時だけでなく後付け導入もしやすい利点があります。
参考)https://smart-shuzen.jp/media/whvcnqqhm4

昇降機とエレベーターの点検制度における違い

昇降機全般には建築基準法第8条により、所有者または管理者に常時適法な状態に維持する義務が課せられています。エレベーターについては、建築基準法第12条第3項により、1級建築士などの国家資格保有者による検査を年1回実施し、特定行政庁に報告する義務があります。
参考)https://biz.homes.jp/column/topics-00152

検査結果は「定期検査報告済証」として交付され、エレベーターのかご内に貼付する必要があります。提出した報告書は3年以上の保管が義務づけられており、物件の所有者や管理者が変更になる場合は後継者への引き継ぎが必要です。小荷物専用昇降機も同様の定期検査義務がありますが、検査項目や基準は人が乗るエレベーターとは異なります。
参考)https://www.elemake.com/laws.html

昇降機における非常用エレベーターの独自規定

建築基準法では、高さ31m以上の建物に非常用エレベーターの設置が義務付けられており、これは一般的に7~10階建てに相当します。高さ31m以上の階の床面積が1500㎡の場合は1基、1500㎡以上4500㎡以下の場合は2基、4500㎡以上7500㎡以下の場合は3基、7500㎡以上10500㎡以下の場合は4基の設置が必要です。
参考)https://aiwaok.jp/articles/emergency-elevator-standards

非常用エレベーターは災害時の避難経路確保と消防活動のために設けられる特殊な昇降機です。建築基準法施行令第129条の13の2「非常用の昇降機の設置を要しない建築物」に規定される条件に該当する場合は、高さ31m以上でも設置が不要となる緩和規定があります。不動産開発や管理において、この設置基準を正確に理解することは法令遵守の観点から極めて重要です。
参考)https://aiwaok.jp/articles/apartment-elevator

昇降機エレベーターの保守点検と維持管理

昇降機の法定検査制度と報告義務

建築基準法第12条第3項に基づく定期検査は、エレベーターが国土交通大臣が定める基準に適合しているかを調べる法定義務です。検査はおおむね6ヶ月から1年の間隔で特定行政庁が定める時期に実施し、その結果を報告する必要があります。検査を実施できるのは一級建築士、二級建築士、または昇降機等検査員(旧:昇降機検査資格者)の国家資格保有者に限られます。
参考)https://mercuryelevator.co.jp/mercury-report/useful-info/%E3%82%A8%E3%83%AC%E3%83%99%E3%83%BC%E3%82%BF%E3%83%BC%E4%BF%9D%E5%AE%88%E3%81%AB%E9%96%A2%E9%80%A3%E3%81%99%E3%82%8B%E6%B3%95%E5%BE%8B%E3%82%92%E7%9F%A5%E3%82%8D%E3%81%86%EF%BD%9C%E6%A4%9C%E6%9F%BB/

定期検査とは別に、建築基準法第8条に基づく保守点検も重要です。保守点検の目的は昇降機の「性能維持」と「安全保持」であり、法定義務ではありませんが、定期検査で「要是正」の判断を受けないためにも定期的な実施が推奨されます。検査記録に関する資料は3年以上保管する義務があります。
参考)https://elevator-lab.net/cate01/871/

エレベーター保守契約の種類と費用相場

エレベーターの保守契約には大きく分けてPOG契約とフルメンテナンス契約の2種類があります。POG契約は毎月の点検費用を抑えて、修理や部品交換が発生した時に別途費用を支払う契約で、メーカー系保守業者の場合は月額25,000円(年間300,000円)、独立系保守業者の場合は月額15,000円(年間180,000円)が相場です。
参考)https://owners.sumaity.com/cat_knowledge/press_625/

フルメンテナンス契約は清掃・点検・調整・オイル補給に加えて、劣化した部品の交換と修理代金も含まれる契約形態で、メーカー系の場合は月額50,000円(年間600,000円)、独立系の場合は月額35,000円(年間420,000円)が相場です。独立系保守業者を選択することで、POG契約では月額10,000円(年間120,000円)、フルメンテナンス契約では月額15,000円(年間180,000円)のコスト削減が可能です。
参考)https://nihon-ev.jp/support/8910/

昇降機の耐用年数とリニューアル費用

エレベーターの法定耐用年数は17年ですが、定期的に保守点検を実施していれば25年~30年使用できます。リニューアル費用は工事の規模によって異なり、小規模な工事であれば400万円~700万円前後、全撤去新設リニューアルなどの大規模な工事であれば1,200万円~1,500万円が相場です。
参考)https://nexus-agent.com/ierpicks/elevator-kaishu-construction-repair-costs/

リニューアル方式には全撤去新設リニューアル、準撤去リニューアル、制御部品リニューアルなどがあり、それぞれ工事期間や費用が異なります。一般的なマンションのエレベーターリニューアルでは、1基あたり500万円~1,000万円が目安となりますが、昇降速度105m以上の高速エレベーターなどの特殊品はより高額となります。計画的な修繕積立金の設定が重要です。
参考)https://smart-shuzen.jp/media/k-r9tf4_u

昇降機の維持管理に関する指針とガイドライン

国土交通省は「昇降機の適切な維持管理に関する指針」を策定しており、所有者が昇降機を常時適法な状態に維持するために必要な事項を定めています。この指針は第1~第17の項目で構成され、定期的な保守・点検、不具合発生時の対応、事故・災害発生時の対応、安全な利用を促すための措置、定期検査等、文書等の保存・引継ぎ等について詳細に規定しています。
参考)https://aiwaok.jp/articles/lift-management-guideline

保守点検業者の選定に当たっては、業者の知識・技術力等を評価し、適切な情報提供を行うことが求められます。保守点検契約には、点検の頻度、作業内容、緊急時の対応、費用の内訳などを明確に盛り込む必要があります。不動産従事者は、この指針に基づいた適切な維持管理体制を構築することで、建築基準法第8条の維持保全義務を確実に遵守できます。
参考)https://www.mlit.go.jp/common/001119799.pdf

エレベーター設置基準における階数と高さの関係

建築基準法第34条では、高さ31mを超える建物にエレベーターの設置が義務付けられていますが、これは階数ではなく建物の高さで判断されます。高さ31mは一般的なマンションでおよそ7階~10階建てに相当しますが、各階の床から天井までの高さ(階高)によって多少前後します。
参考)https://miyabi-toki.jp/column/%EF%BC%94%E9%9A%8E%E5%BB%BA%E3%81%A6%E3%83%9E%E3%83%B3%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%B3%E3%81%AF%E3%82%A8%E3%83%AC%E3%83%99%E3%83%BC%E3%82%BF%E3%83%BC%E3%81%8C%E3%81%AA%E3%81%84%EF%BC%9F%E3%83%9E%E3%83%B3

例えば、階高が高いマンションであれば6階建てでも31mを超える場合があり、逆に階高が低いマンションであれば10階建てでも31mに満たない場合があります。つまり、6階建て以下程度のビルやマンションにはエレベーターの設置義務はありませんが、居住者の利便性を考えて任意で設置されているケースが多いです。不動産従事者は物件を評価する際、階数だけでなく建物の実際の高さを確認する必要があります。
参考)https://maruto-ev.co.jp/information/information-6183/

<参考リンク>
建築基準法における昇降機の構造基準や設置規定の詳細については、国土交通省の「昇降機(エレベーター、エスカレーター等)について」ページに、法令の最新情報と各種告示が掲載されています。

 

国土交通省:昇降機(エレベーター、エスカレーター等)について
昇降機の適切な維持管理のための具体的な手順と所有者の義務については、国土交通省が策定した「昇降機の適切な維持管理に関する指針」の全文を参照してください。

 

国土交通省:昇降機の適切な維持管理に関する指針(PDF)
エレベーターの定期検査と保守点検の違い、検査員の資格要件については、一般財団法人日本建築設備・昇降機センターのウェブサイトに詳細な説明があります。

 

日本建築設備・昇降機センター:昇降機技術基準