

KY活動を毎日やっているのに、内装工事の死傷者数は年間4,000件超を維持したまま減っていません。
KY活動とは「K(危険)Y(予知)活動」の略で、作業前にチームで潜在する危険を洗い出し、事故を未然に防ぐための自主的な取り組みです。建設業・内装工事の現場では毎日行われているため、日常業務の一部として定着している方も多いでしょう。
重要なのは、KY活動がただの「書類記入作業」ではないという点です。
内装工事は、脚立や可搬式作業台(立馬)を使った高所作業、石膏ボードの搬入・手揚げ、カッターや電動工具の使用、狭い区画での多職種の同時作業など、リスクが密集する作業環境です。厚生労働省の統計によると、建設業における墜落・転落の死亡者数は年間86人(令和5年)にのぼり、死傷者数に至っては4,554人と報告されています。事故の型別では、建設業の死亡者数の38.6%・死傷者数の31.6%が「墜落・転落」によるもので、高所作業を多く伴う内装工事は特にこのリスクが高い現場です。
KY活動の基本的な進め方として広く使われているのが「基礎4ラウンド法(4R法)」です。①現状把握(どんな危険が潜んでいるか?)→②本質追求(これが危険のポイントだ)→③対策樹立(あなたならどうする?)→④目標設定(私たちはこうする)という4段階で危険を構造的に洗い出し、行動目標まで落とし込む方法です。この流れを意識するだけで、漠然と「気を付ける」で終わっていたKYシートが劇的に具体的になります。
参考リンク(建設業の墜落・転落災害データについて)。
令和5年労働災害発生状況の分析等(厚生労働省)
内装工事で最も多い事故類型が、脚立や可搬式作業台(立馬)からの転落です。ここが危険予知活動の例文として最も重要な場面のひとつになります。
まず押さえておきたいのは「高所作業」の法的な定義です。労働安全衛生法では、地上2m以上の箇所での作業が「高所作業」に該当します。脚立の場合、設置した床面から足をかける部分までの高さが2mを超えると高所作業となり、ヘルメットに加えて安全帯の着用が義務となります。さらに2022年1月からは、作業床を設けることが困難な2m超の箇所では、安全帯が原則として「フルハーネス型」に義務化されました。これが基本です。
実際の例文として、以下をそのまま参考にしてください。
| ラウンド | 内容 |
|---|---|
| ① 現状把握 | ・脚立の天板に乗って天井ボードを張ろうとしている →転落・墜落の危険 ・立馬を斜めの床面に設置したまま作業している →バランス崩れによる転倒リスク ・脚立の開き止め(スプレッダー)を固定しないまま使用している →突然の開きによる転落の危険 |
| ② 本質追求 | 「ちょっとの作業だから」という油断が脚立からの転落につながる。2m未満でも転落すると骨折・頭部外傷の重傷になるケースがある。 |
| ③ 対策樹立 | ・脚立は天板に乗らない・開き止めを確認する・前向きに降りない ・立馬は水平な場所に設置し、ブレーキ・ストッパーを必ず確認する ・押さえ役を1名配置し、作業中は脚立から離れない |
| ④ 目標設定 | 「脚立使用前は、3点(天板禁止・開き止め・押さえ役)を声に出して確認してから乗る」 |
国土交通省が公表している内装仕上工事のヒヤリハット資料でも、脚立上での作業は「勢いがついて転落するおそれがある」と明記されており、可能な限り立馬(可搬式作業台)を使うことが推奨されています。これは使えそうです。
参考リンク(内装仕上工事のヒヤリハット事例)。
内装仕上工事におけるヒヤリ・ハット6箇条(国土交通省)
脚立からの転落に次いで内装現場で多いのが、資材搬入・運搬時の「はさまれ」「巻き込まれ」です。石膏ボードは910mm×1,820mmのサイズが標準(いわゆる「3×6板」)で、重量は1枚あたり約11kgあります。これを複数枚まとめて運ぶと視界が確保できなくなり、壁や機材との接触事故、他の作業員との衝突が起きやすくなります。「重い×見えない」の組み合わせが危険です。
また、台車の使用時に見落とされやすいのが設置場所の傾斜確認です。室内は均一な床面に見えて、わずかに傾いているケースがあります。ブレーキやストッパーのかけ忘れと組み合わさると、台車が自走して足元に突っ込む事故につながります。
以下が搬入・運搬時に使えるKY活動の例文です。
資材搬入時は「他業者との動線の重複」も見落とされがちなリスクです。搬入予定と他職の作業予定を朝礼時に確認することが、搬入時の衝突・接触を防ぐ実践的な対策になります。
内装工事の中でも軽天(LGS:軽量鉄骨)を使った間仕切り工事は、独自のリスクを多く持っています。スタッドやランナーの切断時に生じる「切創」、組み立て中の材料倒れによる「はさまれ」、インパクトドライバーの跳ね返りによる「目への飛散」が主な危険です。
特に注意が必要なのがスタッドの倒れです。組み立て中に固定が不十分なスタッドが倒れた場合、周辺にいる作業者に直撃するリスクがあります。材料1本の重量は軽いですが、長さが2m以上あるため倒れる際の衝撃範囲が広く危険です。
以下が軽天・間仕切り工事のKY活動で使える例文です。
| 危険のポイント | 対策(私たちはこうします) |
|---|---|
| スタッドを仮設置したままにして倒れる | 材料は壁沿いに束ねて仮固定し、倒れ止め用の木当てを使う |
| LGS切断時に金属片が目に飛散する | 切断作業時は保護メガネを全員着用。切断箇所から半径2m以内に人を立ち入らせない |
| インパクトドライバーのビス打ち時に工具が跳ねて手を負傷する | ビスは低速から打ち始め、インパクトの設定トルクを確認してから使用する |
| 墨出し時にしゃがんだ体勢でバランスを崩して転倒する | 墨出し用の水平器や墨つぼは床に近い作業でも安定した体勢を確保してから使用する |
| 切断した金属端部でカッティング中に手を切る | 作業用手袋(耐切創性のあるもの)を必ず着用。LGS端部はヤスリ処理をする |
軽天工事では複数の作業が同時進行しやすいため、「誰がどのエリアで何をしているか」を朝礼でKYシートに記入しておくことが、ぶつかり・割り込みによる事故防止に直結します。役割分担の明記が条件です。
KY活動を毎日続けていると、「書くことがなくなってきた」という状況に直面します。これがいわゆる「ネタ切れ」です。ネタ切れは単なる不便さだけでなく、危険予知活動の形骸化につながります。毎日同じ内容を書くだけになると、作業者の安全意識が低下し「KY活動はやっているが事故は減らない」という状態が生まれます。
ネタ切れを防ぐ最も効果的な方法は「4M視点」の活用です。
この4つの「変化点」を毎朝確認するだけで、毎日内容が変わるKYシートが自然に完成します。つまり「毎日変化は必ずある」ということです。
もう一つ有効なのが、「ヒヤリハット事例」をKY活動の素材として使うことです。「昨日、脚立を移動しようとして少し滑った」という小さな経験も、翌日のKYシートに「脚立の移動時は必ず一度降りてから行う」という対策として昇華させることができます。
参考リンク(KY活動のマンネリ化防止について)。
KY活動の形骸化を打破する具体策(pinspect)
KYシートには「よくあるNG」が存在します。現場で最も多いのが「気を付ける」という記述です。これは行動に落ちていないため、実際には何を確認すればよいかが誰にも伝わりません。KYシートは「念じるための書類」ではなく、「行動を決めるための書類」です。それが原則です。
以下に、よくあるNGパターンと改善例を示します。
| NG例(抽象的) | OK例(行動レベル) |
|---|---|
| 高所作業に気を付ける | 脚立は天板禁止・開き止め確認・押さえ役1名配置してから乗る |
| 工具の取り扱いに注意する | カッターの刃は5mm以内・金属定規使用・切り終わりはスローダウン |
| 搬入時に周囲を確認する | 搬入前に声を出して「材料入ります!」と通路の関係者に伝え、前が見える量に制限 |
| 足元に注意する | 午後の搬入前に通路に段差・コードの垂れがないかを全員で一巡確認 |
また、KYシートで見落とされがちなのが「役割分担の明記」です。「誰が押さえ役か」「誰が合図を出すか」「誰がエレベーターを誘導するか」を名前レベルで書いておくことで、現場での曖昧な状況を消すことができます。「誰でもいい」は「誰もやらない」に直結するので注意が必要です。
さらに、KYシートは「毎日更新」が基本です。前日のコピーをそのまま使っていると、当日の作業変更・工程変更による新しいリスクを拾えません。工程が変われば危険も変わる、というのはKY活動の基本中の基本です。
KYシートの保管・管理については、紙での記入後にスマートフォンで撮影し、日付・フロアごとのフォルダで共有する方法が、手軽さと記録性のバランスが取れた運用方法として現場で広まっています。ヒヤリハットの蓄積をデジタル化しておくことで、翌月・翌シーズンのKYネタとして活用できます。
参考リンク(内装工事でのKYシートの書き方と実例)。
KYシートの書き方・記入例を内装工事の実務目線で解説(mirix)