固体酸化物形燃料電池の反応式と仕組み!発電効率や水素の移動

固体酸化物形燃料電池の反応式と仕組み!発電効率や水素の移動

記事内に広告を含む場合があります。

固体酸化物形燃料電池の反応式

固体酸化物形燃料電池の反応式
発電原理

酸素イオンが電解質を移動して反応

🔥
作動温度

700℃~1000℃の高温で作動

🏭
主な用途

オフィスビルや工場のベース電源

固体酸化物形燃料電池の反応式と酸素イオンの移動メカニズム

 

固体酸化物形燃料電池(SOFC:Solid Oxide Fuel Cell)は、セラミックスを電解質として用いる燃料電池であり、その最大の特徴は「酸素イオン(O2O^{2-}O2−)」が電解質中を移動するという点にあります。固体高分子形燃料電池(PEFC)が水素イオン(H+H^{+}H+)を移動させるのに対し、SOFCの反応プロセスは根本的に異なります。この違いこそが、SOFCが高い発電効率と燃料の柔軟性を持つ理由です。
具体的な反応メカニズムを、空気極(カソード)から燃料極(アノード)への流れに沿って詳細に見ていきましょう。



  • 空気極(カソード)での反応
    空気極には空気が供給されます。ここで空気中の酸素分子(O2O_2O2)は、外部回路から流れてきた電子(ee^-e−)を受け取り、酸素イオン(O2O^{2-}O2−)になります。この反応には、多孔質の導電性セラミックス(一般的にランタンマンガナイトなどが使用される)が触媒として機能します。
    12O2+2eO2\frac{1}{2}O_2 + 2e^- \rightarrow O^{2-}21O2+2e−→O2−


  • 電解質中の移動
    生成された酸素イオンは、固体電解質(イットリア安定化ジルコニア:YSZなど)の中を通り抜けます。ここがSOFCの技術的な肝です。通常の物質ではイオンは容易に移動できませんが、高温環境下の特殊なセラミックス内では、酸素イオンが結晶格子間をホッピングするように移動できるのです。


  • 燃料極(アノード)での反応
    電解質を通り抜けて燃料極に到達した酸素イオンは、供給された燃料(水素:H2H_2H2)と反応します。この時、水(H2OH_2OH2O)が生成されると同時に電子(ee^-e−)が放出されます。この放出された電子が外部回路を通ることで電流が発生します。
    H2+O2H2O+2eH_2 + O^{2-} \rightarrow H_2O + 2e^-H2+O2−→H2O+2e−


  • 全体反応
    これらをまとめると、全体の化学反応式は水素と酸素が反応して水ができるという、非常にシンプルな式になります。
    H2+12O2H2OH_2 + \frac{1}{2}O_2 \rightarrow H_2OH2+21O2→H2O


このプロセスにおいて重要なのは、反応生成物である「水」が燃料極側(アノード側)で生成されるという事実です。PEFCでは空気極側で水が生成されるため、生成水による電極の閉塞(フラッディング)が課題となりますが、SOFCでは高温で作動するため水は即座に水蒸気となり、フラッディングのリスクが構造的に低いという利点があります。

NEDO:固体酸化物形燃料電池(SOFC)の耐久性と信頼性向上に関する技術開発
※NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)による、SOFCの劣化メカニズム解明と長寿命化に向けた技術開発の詳細が記載されています。

固体酸化物形燃料電池の反応式におけるアノードとカソードの役割

建築設備の設計・施工において、燃料電池のスペックを選定する際、アノードとカソードの材質や特性を理解しておくことは、システムの寿命やメンテナンス性を判断する上で役立ちます。SOFCは700℃〜1000℃という極めて高温で作動するため、各電極には耐熱性だけでなく、熱膨張係数の整合性や化学的安定性が求められます。
アノード(燃料極)の役割と特徴:
アノードは燃料ガス(水素や都市ガス)が供給される場所です。ここでは、以下の2つの重要な機能が求められます。


  1. 高い触媒活性: 燃料ガスと酸素イオンの反応を促進する能力。

  2. 電子伝導性: 反応で生じた電子をスムーズに外部回路へ送り出す能力。

一般的に、アノード材料には「ニッケル(Ni)」と電解質材料である「イットリア安定化ジルコニア(YSZ)」を混合したサーメット(金属とセラミックスの複合材料)が使用されます。Niは触媒活性と電子伝導性が高く、YSZは電解質との熱膨張差を緩和し、多孔質の構造を維持する骨格の役割を果たします。
特筆すべきは、SOFCのアノードは一酸化炭素(CO)も燃料として利用できる点です。
CO+O2CO2+2eCO + O^{2-} \rightarrow CO_2 + 2e^-CO+O2−→CO2+2e−
PEFCではCOは触媒(白金)を被毒させてしまう「毒」ですが、SOFCでは高温動作のおかげでCOも直接電気化学反応に関与し、エネルギー源となります。これにより、都市ガスやバイオガスなどを改質する際に、高度なCO除去装置が不要となり、システム全体の簡素化に寄与します。
カソード(空気極)の役割と特徴:
カソードは高温の酸化雰囲気(酸素が多い状態)にさらされます。ここには以下の特性が必要です。


  1. 高い酸化耐性: 高温でも酸化して劣化しないこと。

  2. 高い電子伝導性: 外部から戻ってきた電子を酸素分子に渡す能力。

  3. 多孔質性: 空気中の酸素を電解質界面までスムーズに拡散させる構造。

カソード材料には、ランタンストロンチウムマンガナイト(LSM)などのペロブスカイト型酸化物が広く採用されています。これらの材料は、高温酸化雰囲気下でも安定して電子を導通させることができます。最近では、より低温(700℃付近)での作動を可能にするため、イオン伝導性と電子伝導性の両方を持つ混合導電体(LSCFなど)の研究も進んでいます。
建築設備としての視点:
これらの電極材料はセラミックスであるため、急激な温度変化(ヒートショック)に弱いという弱点があります。これが、SOFCが「24時間連続運転」を基本とし、頻繁な起動停止(DSS運転)を苦手とする理由です。設計時には、ベースロード電源としての運用計画が必須となります。
資源エネルギー庁:定置用燃料電池(SOFC)の普及拡大に向けて
経済産業省資源エネルギー庁による、SOFCの市場動向や政策的な位置づけ、技術的なロードマップが解説されています。

固体酸化物形燃料電池の反応式とPEFCとの違いや導入メリット

建設プロジェクトにおいて、顧客から「エネファームを入れたい」と相談された際、SOFC(固体酸化物形)とPEFC(固体高分子形)のどちらを提案すべきか迷うことがあるかもしれません。この判断基準は、それぞれの反応式の違いに起因する「発電効率」と「熱利用」のバランスにあります。
以下の表は、建築設備士が押さえておくべき主要な違いです。






項目 SOFC(固体酸化物形) PEFC(固体高分子形)
電解質 セラミックス(酸化物) 高分子膜(プラスチック)
移動イオン 酸素イオン (O2O^{2-}O2−)
水素イオン (H+H^{+}H+)

作動温度

700℃~1000℃

70℃~90℃

発電効率(LHV)

45%~60% (非常に高い)

35%~40%

排熱温度

高温(給湯などに利用可)

低温(60℃程度の温水)

起動時間

長い(数時間かかる)

短い(すぐに発電可能)

主な用途

ベース電源、電力需要大

変動対応、熱需要大


SOFC導入のメリット:



  1. 圧倒的な発電効率:
    SOFCの最大の武器は、反応式に基づくギブス自由エネルギーの変換ロスが少なく、かつ高温動作により反応活性化過電圧が小さいことです。これにより、小規模な分散型電源でありながら、火力発電所並みかそれ以上の発電効率(LHV基準で50%超)を実現します。
    電力消費量が多いオフィスビルや、日中の電力負荷が高い商業施設においては、省エネ効果がPEFCよりも顕著に出ます。

  2. 内部改質によるシステム効率向上:
    都市ガス(メタン:CH4CH_4CH4)を燃料とする場合、水素を取り出すための「改質」が必要です。
    CH4+H2O3H2+COCH_4 + H_2O \rightarrow 3H_2 + COCH4+H2O→3H2+CO
    この反応は吸熱反応であり、熱が必要です。PEFCではバーナーで燃料を燃やして熱を供給しますが、SOFCは発電に伴う自己発熱(ジュール熱や反応熱)が高温であるため、その熱を改質反応に直接利用できます(内部改質)。これにより、「外部から熱を加えるロス」がなくなり、システム全体の効率が劇的に向上します。


  3. 設置スペースの縮小化:
    SOFCは反応効率が良いため、同じ出力を得るためのセルスタック(電池の積層部分)をコンパクトにできます。また、前述の通りCO除去装置が簡素で済むため、補機類も含めた設置フットプリントを小さく抑えられる傾向にあります。都市部の狭小地や屋上スペースが限られる現場では大きな利点となります。


違いを理解した提案:


  • PEFC提案のケース: お湯を大量に使う美容室、温水プール、大家族の住宅。熱主電従。


  • SOFC提案のケース: お湯はあまり使わないが電気代を下げたいオフィス、共働き世帯のマンション、コンビニ。電主熱従。


Panasonic:燃料電池の仕組みと種類(PEFCとSOFCの比較)

※大手メーカーによるPEFCとSOFCの具体的な製品特性の違いや、各方式の適性についての解説ページです。

固体酸化物形燃料電池の反応式に基づく施工時の排熱処理と注意点

このセクションでは、一般的なカタログスペックの比較ではなく、実際に現場で施工管理や設計を行うプロフェッショナルな視点から、SOFC特有の「熱」に関する注意点を解説します。SOFCの反応式が高い発電効率を生む一方で、その高温動作は施工上の重要な管理ポイントとなります。
排気・排熱設備の耐熱グレード:
SOFCのスタック温度は約700℃以上です。もちろん、製品の筐体から出る排気は熱交換されて低温化されていますが、異常時やメンテナンス時を考慮した離隔距離の確保は、PEFCよりもシビアに考える必要があります。
特に、排気筒(煙突)の取り回しにおいて、結露水(ドレン)の処理は化学反応式の生成物である「水」の管理そのものです。
H2+12O2H2OH_2 + \frac{1}{2}O_2 \rightarrow H_2OH2+21O2→H2O
この反応で生じた水蒸気は、排気管内で冷やされると凝縮水となります。SOFCの排気には微量の未反応ガスが含まれる可能性があるため、ドレン配管のトラップ管理や、中和処理装置(必要な場合)の点検スペース確保は必須です。また、寒冷地ではこのドレン水が凍結し、排気閉塞によるシステム停止を招く事例があるため、凍結防止ヒーターの施工品質が稼働率に直結します。
換気計画と空気供給:
反応式 12O2+2eO2\frac{1}{2}O_2 + 2e^- \rightarrow O^{2-}21O2+2e−→O2− を見ればわかるように、SOFCは大量の酸素(空気)を消費します。
密閉された機械室やパイプシャフト内に設置する場合、燃焼用空気の取り入れ口(ガラリ)の有効開口面積が不足すると、酸素不足による不完全燃焼や出力低下を招きます。
建築基準法消防法に基づく換気量の計算において、単なる発熱機器としての換気量だけでなく、「反応に必要な空気量」を考慮した給気設計が必要です。特に高気密高断熱の建物では、室内負圧によって給気不足に陥るケースがあるため、差圧給気口の設置や強制給気の検討が求められます。
意外な盲点:設置場所の微振動とクリープ変形
SOFCの心臓部はセラミックスです。施工時に見落とされがちなのが、設置架台の水平精度と振動対策です。セラミックスは硬い反面、脆性材料です。長期間の高温動作中、配管の熱膨張による応力がスタックにかかり続けると、接続部が微細な損傷を受けるリスクがあります。
これを防ぐため、ガス配管や水道配管の接続には、メーカー指定のフレキシブル管を必ず使用し、かつ「遊び」を持たせた配管ルートを設計することが重要です。コンクリート基礎の不同沈下もセラミックスセルに致命的な応力を与える可能性があるため、基礎工事の品質管理は通常の設備機器以上に厳格に行うべきです。

固体酸化物形燃料電池の反応式から見る脱炭素社会への貢献

最後に、SOFCがなぜ次世代のエネルギーシステムとして期待されているのか、その将来性を反応式から紐解きます。
カーボンニュートラル燃料への対応力:
現在のSOFCは主に都市ガス(メタン)を使用していますが、SOFCのアノード反応は水素(H2H_2H2)だけでなく、様々な炭化水素燃料に対して柔軟性を持っています。
将来的に供給が期待される「グリーン水素」や、下水処理場から得られる「消化ガス(バイオガス)」、さらには「合成メタン(e-methane)」などを、大きな機器改造なしに燃料として受け入れるポテンシャルがあります。
特にアンモニア(NH3NH_3NH3)を燃料とする「アンモニアSOFC」の研究が進んでいます。アンモニアは炭素を含まないため、究極の脱炭素燃料ですが、難燃性であることが課題でした。しかし、SOFCの高温環境下であれば、アンモニアを直接分解して水素を取り出し、発電することが可能です。
2NH3N2+3H22NH_3 \rightarrow N_2 + 3H_22NH3→N2+3H2
この分解反応で吸熱するため、SOFCの発熱を冷却に利用でき、熱マネジメントの観点からも非常に相性が良いのです。
トリプルコンバインドサイクルへの応用:
大規模発電の分野では、SOFCをガスタービンの「前段」に設置するシステムが実用化されつつあります。



  1. SOFCで発電: 加圧した燃料と空気で発電(約700℃〜1000℃)。


  2. ガスタービンで発電: SOFCからの高温排ガスと未反応燃料を燃焼させてタービンを回す。


  3. 蒸気タービンで発電: ガスタービンの排熱で蒸気を作ってタービンを回す。


この3段階の発電(トリプルコンバインドサイクル)により、発電効率は驚異の70%(LHV)に達すると予測されています。従来の火力発電が50%前後であることを考えると、これはエネルギー業界における革命です。建築分野においても、大型再開発エリアの地域冷暖房プラント(DHC)などで、この高効率システムが導入される日が近づいています。
建設業界に身を置く私たちは、単に図面通りに機器を据え付けるだけでなく、こうした技術背景を理解し、施主に対して「将来の資産価値を高める設備」としてSOFCを提案できる知見を持つことが重要です。反応式一つをとっても、そこにはエネルギー効率の極限を追求する科学と、それを支える精密な材料技術が詰まっているのです。

 

 


PEM 水素燃料電池 固体高分子型燃料電池 新エネルギー 高校実験指導アクセサリー 50x50MM