

SS400の板厚が40mmを超えると、降伏応力が245から215N/mm²に下がり、許容応力度の計算がそのままでは使えなくなります。
降伏応力とは、材料が弾性変形の限界を超えて塑性変形に移行するときの応力のことです。記号は「σy(シグマワイ)」、単位は一般的に【N/mm²(MPa)】が使われます。英語では「yield stress(イールドストレス)」と呼ばれます。
降伏応力を求めるための基本計算式は以下の通りです。
| 計算方法 | 計算式 | 使う場面 |
|---|---|---|
| 応力の基本公式 | σ = P / A | 引張力Pと断面積Aがわかるとき |
| フックの法則 | σ = E × ε | ひずみεとヤング係数Eがわかるとき |
| ひずみの計算 | ε = ΔL / L | 変形量ΔLと元の長さLがわかるとき |
「σ = P / A」のPは引張力(単位:N)、Aは断面積(単位:mm²)です。つまり、どれだけの荷重で部材が降伏し始めたかを面積で割ると降伏応力が求まる、というシンプルな関係です。
例を挙げると、断面積200mm²(おおよそ1円玉を少し大きくした程度の面積)の鋼材が49,000Nで降伏したとすれば、σ = 49,000 / 200 = 245N/mm² となります。これがSS400の典型的な降伏応力の値とほぼ一致します。
フックの法則「σ = E × ε」を使う場合は、鋼材のヤング係数E = 205,000N/mm²(205GPa)を用います。これは鋼材の種類によって変わらない一定値です。ひずみεはひずみゲージなどで実測するか、応力ひずみ曲線のグラフ上で直線部分の傾きから読み取ります。
基本計算式だけ覚えておけばOKです。
建築構造の専門サイト「建築構造の基礎知識」:降伏点の意味・求め方・単位をわかりやすく解説した参考ページ
降伏応力を正確に計算・確認するには、応力ひずみ線図(SS曲線)の読み方を理解しておくことが不可欠です。引張試験で得られるこのグラフには、材料の挙動が段階的に記録されています。
応力ひずみ線図には、大きく次の4つのゾーンがあります。
重要な点として、この「ガクッと落ちる」降伏現象は、すべての金属材料に現れるわけではありません。炭素鋼のような特定の材料でのみ見られる現象です。
アルミニウム合金やステンレス鋼(SUS304など)では、応力ひずみ曲線がなだらかな「丸屋根型」になり、明確な降伏点が存在しません。意外ですね。
このような材料では、降伏応力の代わりに「0.2%耐力(オフセット耐力)」を使います。具体的には、横軸のひずみ0.2%(=0.002)の位置から弾性域の直線に平行な線を引き、SS曲線と交わった点の応力を「降伏応力に相当する値」として扱います。ステンレス鋼では0.1%耐力が基準となる点も覚えておくと、実務で役立ちます。
TOKKIN(金属材料メーカー):0.2%耐力の定義・求め方・引張試験との関係を詳細に解説したページ
建築設計の実務で降伏応力を計算・参照する際、鋼材の種類と板厚によって値が変わることを必ず確認しなければなりません。これを見落とすと、構造計算書の数値が不正確になります。
主な建築用鋼材の降伏応力(降伏点)の一覧は以下の通りです。
| 鋼材種類 | 降伏応力(N/mm²) | 備考 |
|---|---|---|
| SS400・SN400 | 245(板厚16mm以下) 235(16〜40mm) 215(40〜100mm) |
板厚が増すほど降伏応力が低下 |
| SS490・SN490 | 325〜445以下 | 高強度鋼材 |
| SR235(丸鋼) | 235以上 | 鉄筋コンクリート用 |
| SD295A(異形鉄筋) | 295以上 | RC構造の主筋用途 |
| SD345(異形鉄筋) | 345〜440以下 | 高強度鉄筋 |
| SD390(異形鉄筋) | 390〜510以下 | 高強度鉄筋 |
特にSS400の「板厚による降伏応力の変化」は、見落としやすいポイントです。板厚が大きくなると、製造時の冷却に不均一が生じやすく、鋼材の内部組織が粗くなるため、同じ鋼材グレードでも降伏点が低下します。板厚40mmを超えると、最大で245から215N/mm²まで、約12%も降伏応力が下がる計算になります。
これは構造計算書での許容応力度にも直結するため、柱や梁の鋼材板厚が厚い場合は特に注意が必要です。
また、構造設計の実務ではJISの規定値(245N/mm²)ではなく、構造関係技術基準解説書に基づくF値(235N/mm²)を使う点も重要です。JISの値と実務値で10N/mm²の差があります。これが基本です。
TAC建築士試験ブログ:板厚と降伏点・引張強さの変化を比較暗記で整理した解説ページ(建築士試験対策にも有用)
降伏応力の値を求めたあと、実際の建築構造計算でどう使うかを理解しておくことが重要です。降伏応力はそのまま設計値として使えるわけではなく、「許容応力度」に変換して使います。
許容応力度の計算式は以下の通りです。
SS400を例にとると、F値 = 235N/mm²ですから、長期許容応力度は約156N/mm²、短期許容応力度は235N/mm²になります。長期は常時荷重(建物の自重など)、短期は地震や強風などの一時的な荷重に対して使い分けます。
「なぜ安全率が1.5なのか?」という疑問を持つ方も多いはずです。実は、この1.5という数値は1950年の建築基準法制定時に定められたものですが、確率統計的な根拠があるわけではありません。戦前に使われていた安全率2.0と、戦時下の安全率撤廃という経緯の末、長期と短期を区分した際に「2と1の間をとった」数値であると考えられています。厳しいところですね。
それでも、この安全率1.5は半世紀以上にわたって建築設計で使われ続け、実際の建物被害を引き起こしたことがないという実績で正当性が支持されています。また、武藤清博士の研究では、降伏応力の約3分の2程度(安全率1.5換算)の応力レベルで鉄筋コンクリート部材のひび割れが始まることが確認されており、変形抑制の観点からも合理的な数値であることが示されています。
許容応力度計算の実務では、長期・短期それぞれに荷重の組み合わせを想定し、各部材(柱・梁・ブレースなど)の応力度がこの許容値を超えないことを確認します。これが降伏応力を構造設計に活かす具体的な流れです。
構造の専門家サイト「structure.jp」:長期安全率1.5の歴史的背景と工学的意味を詳しく考察したコラム
降伏応力を正確に扱うには、混同しやすい関連用語との違いを整理しておく必要があります。これらを混同したまま計算を進めると、設計値に大きな誤りが生じる可能性があります。
| 用語 | 意味 | SS400の代表値 |
|---|---|---|
| 降伏応力(降伏点) | 弾性変形の限界。塑性変形が始まる点の応力 | 245N/mm²(板厚16mm以下) |
| 引張強さ(引張強度) | 材料が耐えられる最大の応力。降伏後さらに荷重を加えたときの最大値 | 400〜510N/mm² |
| 0.2%耐力 | 降伏点が明確でない材料(アルミ・ステンレスなど)の代替降伏指標 | SUS304で約205N/mm² |
| 降伏比 | 降伏応力 ÷ 引張強さ の比率。靭性の目安 | SS400で0.6前後 |
降伏応力と引張強さは、どちらも鋼材の「強さ」を示す指標ですが、設計で使う場面がまったく異なります。降伏応力は「ここを超えると元に戻れない」限界点、引張強さは「ここを超えると破断する」最終限界です。構造計算では基本的に降伏応力を基準に設計し、引張強さはあくまで安全の確認に使います。
降伏比は靭性の判断に使う指標です。降伏比が低い(0.7以下が目安)ほど、降伏してから破断するまでに余裕があり、粘り強い挙動を示します。鉄骨造の耐震設計では、この降伏比が重要な指標になります。
0.2%耐力については、アルミニウム合金の場合、置換型固溶体合金が多いため、炭素鋼のような明確な降伏現象(コットレル雰囲気)が起きません。これがアルミニウムに降伏点を定義しにくい理由です。0.2%耐力が条件です。
これらの用語を明確に使い分けるために、「建築構造基礎用語集」のような参考資料を手元に置いておくと、実務での確認作業がスムーズになります。
建築構造の専門解説サイト:0.2%耐力の意味・求め方・降伏点との関係を図解でわかりやすく説明したページ