

温度が1℃変わるだけで、あなたの測定値が11μεもズレて構造安全判断を誤る可能性があります。
ひずみゲージの原理を理解するには、まず「ひずみ」そのものを正確に把握しておく必要があります。ひずみとは、材料に外力が加わったときに生じる変形量を、元の長さで割った比率のことです。単位がない無次元量で、非常に小さな値を表すために「με(マイクロひずみ)」が使われます。たとえば、長さ1,000mmの鉄骨が1mm伸びた場合、ひずみは0.001、つまり1,000μεという値になります。この0.001という変化を、肉眼やノギスで直接測るのは困難です。
ひずみゲージはこの「小さすぎる変化」を、電気抵抗の変化として捉えることで解決しています。金属は引き伸ばされると断面積が小さくなり、長さが増えるため電気抵抗が大きくなります。逆に圧縮されると抵抗は小さくなります。ひずみゲージはこの性質を利用したセンサーで、構造物の表面に専用接着剤で貼り付け、構造物が伸び縮みするとゲージの金属箔も同じように変形し、抵抗値が変化する仕組みです。
つまり「電気抵抗の変化=ひずみの量」というのが基本原理です。
この抵抗変化と実際のひずみの関係を表す定数を「ゲージ率(Gauge Factor)」と呼びます。式で表すと、ゲージ率 K = (ΔR/R) ÷ ε です。ここで ΔR は抵抗変化量、R は元の抵抗値、ε はひずみです。一般的なひずみゲージのゲージ率はおよそ2.0前後に設定されており、この値が大きいほど感度が高く、わずかなひずみでも検出しやすくなります。
建築業で使われる鉄骨や鉄筋に500μεのひずみが発生した場合、抵抗値120Ωのゲージであれば変化量はたった0.12Ωという非常に微小な数値です。ハガキ1枚分の厚み(約0.1mm)に相当する変化を測るようなイメージです。ゲージそのものは非常に薄く、面積も小さなセンサーで、構造物の応力状態をほぼ乱さずに測定できるのが大きな強みです。
東京測器研究所:ひずみゲージの基本原理・構造・優位性を詳しく解説したページです。ひずみゲージの原理を体系的に把握したい方の参考になります。
ひずみゲージ単体でも電気抵抗の変化は起きますが、0.1Ω程度の変化を直接測るのはきわめて困難です。そこで活用されるのが「ホイートストンブリッジ回路」です。これは4本の抵抗を四角形に配置した電気回路で、微小な抵抗変化を電圧の変化として正確に読み取るための仕組みです。ブリッジが平衡状態(バランス)にあれば出力電圧はゼロになり、ひずみゲージが変形して抵抗が変わるとそのバランスが崩れて電圧が出力されます。
この出力電圧もμV(マイクロボルト)単位と非常に小さいため、測定機器内のひずみアンプを使って5,000倍から10,000倍に増幅します。これで初めて、デジタル数値として表示できる値になります。増幅後のデータがデータロガーや表示器で記録・確認できる状態です。
ブリッジ回路が基本です。
ブリッジ回路への結線方法は、使用するゲージの枚数によって「1ゲージ法」「2ゲージ法」「4ゲージ法」に分かれます。1ゲージ法は最もシンプルで、1枚のゲージをブリッジの1辺に接続する方法です。引張りや圧縮の基本的な応力測定に使われます。2ゲージ法では、2枚のゲージを隣辺または対辺に配置することで、温度補償効果や出力の増幅が可能になります。4ゲージ法はすべての辺にゲージを使い、最も高い精度と出力感度が得られます。
建築現場では、橋脚の曲げ応力測定や鉄骨柱の軸力確認のような用途に2ゲージ法が多く選ばれます。片面に引張ひずみ、反対面に圧縮ひずみを同時に検出することで、不要なノイズ成分を打ち消しながら出力を2倍にできるためです。これは使えそうです。
| 結線方法 | ゲージ枚数 | 主な用途 | 出力感度 |
|--------|----------|--------|--------|
| 1ゲージ法 | 1枚 | 基本的な引張・圧縮測定 | ×1 |
| 2ゲージ法(A) | 2枚 | 軸力・曲げ測定、温度補償 | ×2 |
| 2ゲージ法(B) | 2枚 | ポアソン比補正を含む測定 | ×(1+ν) |
| 4ゲージ法 | 4枚 | 高精度・変換器製作 | ×4 |
リード線が長い場合は線抵抗による誤差も出ます。現場で10m以上のケーブルを使う際は、リード線の抵抗値をブリッジ計算に含めた補正が必要です。3線式結線法を採用すれば、リード線の温度影響をキャンセルできます。長いケーブル延長時には3線式が原則です。
共和電業:ひずみゲージのブリッジ回路と各種結線法について図解付きで詳しく説明されています。現場での回路選定に役立つ参考情報です。
建築現場でひずみゲージを使う際に見落としがちな落とし穴が「温度の影響」です。金属材料は温度によって膨張・収縮するため、外力がかかっていなくても温度が変わるだけで抵抗値が変化します。これを「見かけひずみ(熱出力)」と呼び、実際には発生していないひずみとして誤った数値が表示されてしまいます。
具体的な数値を挙げると、鉄の場合は1℃の温度変化で1メートルあたり約11μεの見かけひずみが生じます。屋外の建築現場では夏場に気温が35℃を超えることも珍しくなく、朝と昼の温度差が10℃以上になるケースもあります。そうなると見かけひずみだけで110με以上の誤差が出ることになり、実際の構造応力の測定値が大きく狂う可能性があります。厳しいところですね。
この問題への対策として主に使われるのが「自己温度補償型ゲージ(セルフコンペンセーティングゲージ)」です。これは、ゲージの抵抗材料の熱処理条件を調整し、測定対象物と同じ線膨張係数に合わせることで、温度変化による見かけひずみを自動的にキャンセルする特殊なゲージです。市販されているひずみゲージの多くは、鉄(線膨張係数 約11×10⁻⁶/℃)、ステンレス(約16×10⁻⁶/℃)、アルミ(約23×10⁻⁶/℃)向けに製品化されています。形式名の末尾に「-11」や「-16」などの数字が付いているものがそれにあたります。
| 測定対象材料 | 線膨張係数コード | 代表的な建築用途 |
|------------|--------------|-------------|
| 鉄・鋼材 | -11 | 鉄骨柱・梁・鉄筋 |
| ステンレス | -16 | SUS配管・特殊構造部材 |
| アルミニウム | -23 | アルミサッシ・軽量部材 |
| コンクリート | -12 | コンクリート躯体の応力監視 |
もう一つの補償方法が「ダミーゲージ法」です。実際に応力を受ける部材(アクティブゲージ)と同じ材質の別の片に、応力を受けない状態でゲージ(ダミーゲージ)を貼り付け、ブリッジ回路に組み込みます。2枚のゲージが同じ温度変化を受けることで、温度成分だけをキャンセルできます。自己温度補償型ゲージが入手しにくい材料や複雑な環境条件下では、このダミーゲージ法が現場での現実的な対策になります。
東京貿易テクノシステム:ひずみ測定における温度補償の方法と、接触式・非接触式の測定技術の違いについて実用的にまとめられています。
ひずみゲージの性能を最大限に発揮させるには、原理の理解と同じくらい「貼り付け作業の精度」が重要です。どれほど高品質なゲージを使っても、接着が不完全であれば正確なひずみは伝わらず、測定値に大きな誤差が生まれます。
まず行うのは測定部位の選定と表面処理です。ひずみゲージは測定対象物の表面ひずみを拾うセンサーのため、貼り付け位置の表面状態が測定精度に直結します。鉄骨や鉄筋の場合はサンドペーパー(#240〜#400程度)で表面をならし、脱脂洗浄を行います。コンクリート面に貼る場合はより丁寧な下処理が必要で、表面の凹凸やレイタンス(表面に浮き出たセメント成分)を除去してから貼り付けます。
次に接着剤の選択です。常温環境で一般的な応力測定を行う場合は、瞬間接着剤(たとえば共和電業のCC-33Aなど)が多く用いられます。硬化時間が短く、接着から約1時間で測定を開始できるため作業性に優れています。ただし、長期計測や高温環境下では専用のエポキシ系接着剤を選ぶ必要があります。接着剤の選択は条件次第です。
貼り付けの際はゲージの方向(角度)にも細心の注意が必要です。測定したいひずみの方向に対してゲージの受感軸(格子方向)を正確に合わせなければなりません。ゲージの角度が1°ずれると、実際のひずみ値との差が数%以上生じる場合もあります。貼り付け後は防湿処理も必須で、建築現場のような湿気が多い環境ではゲージが水分を吸収して絶縁抵抗が低下し、信号にノイズが混入します。シリコンゴムやコーティング材で防湿処理を施すことが必要です。
🔧 ひずみゲージ貼り付けの基本ステップ
| ステップ | 作業内容 | 注意点 |
|--------|--------|------|
| ①表面処理 | サンドペーパーで研磨・脱脂 | コンクリートはレイタンス除去が必要 |
| ②位置マーキング | 測定方向に合わせて基準線を引く | 角度ズレは数%の誤差につながる |
| ③接着剤塗布 | ゲージ裏面または対象物に薄く塗布 | 気泡が入らないよう押しつけながら貼る |
| ④硬化待ち | 接着剤の種類に応じた養生時間を確保 | 瞬間接着剤は約1時間で測定開始可能 |
| ⑤防湿処理 | シリコンゴムなどでゲージを覆う | 長期計測ほど防湿処理が重要 |
共和電業:ひずみゲージの接着法の手順と接着剤の選び方を実例付きで解説したページです。現場作業の参考として活用できます。
建築業で「ひずみゲージ=研究室で使うもの」というイメージを持つ方は少なくありません。ところが実際には、建設現場や構造検査の現場でも確実に使われています。むしろ、現場で適切に使いこなせる技術者は少数派であり、その知識が「設計と現実の乖離を発見できる強み」になります。
ひずみゲージは1938年にアメリカでSimmons氏とRuge氏によって同時に発明され、日本では1962年に箔ひずみゲージとして国産製造が始まりました。現在では0.3mmから5mm程度の受感長で100万分の1(1μεレベル)の変形を検出でき、超高層ビルの鉄骨接合部や橋梁の桁応力のリアルタイム計測に活用されています。
建築の構造健全性モニタリングにひずみゲージが使われる場面として代表的なのは以下のような状況です。
- 鉄筋計としての埋設使用:コンクリート打設前に鉄筋に鉄筋計(ひずみゲージ内蔵型センサー)を取り付け、コンクリートが固まった後も継続的に応力をモニタリングします。杭基礎や地中梁の長期応力管理に有効です。
- 鉄骨接合部の応力確認:完成した建物の鉄骨柱・梁の接合部に貼り付け、地震や風荷重による動的ひずみを記録します。設計計算値と実測値を比較することで、想定外の応力集中を発見できます。
- すべり係数試験での活用:日本建設業連合会の基準資料によれば、高力ボルトのすべり係数試験においてひずみゲージが実際に用いられており、建築鉄骨の品質管理に直接関わる場面でも使用実績があります。
- 地盤沈下や変位の間接測定:構造部材のひずみを継続測定することで、基礎の変位や地盤の不均等沈下を早期に検知できます。
ここで注目したいのは、ひずみゲージが出力する電気信号はデータロガーにより記録できるという点です。現在は無線対応の小型ユニットも市販されており、100点以上の計測点を同時にモニタリングするシステムも実用化されています。建築物のSHM(構造ヘルスモニタリング)の分野では、ひずみゲージを核としたセンサーネットワークが、予防保全の重要な手段となっています。
また、ひずみゲージの測定データはヤング率(縦弾性係数)と組み合わせることで応力値に変換できます(σ = E × ε)。鋼材のヤング率は約206,000N/mm²(MPa)なので、1,000μεのひずみが測定されれば、応力は 206,000 × 0.001 = 206N/mm²(MPa)と計算できます。鋼材の降伏応力(SS400で約245MPa)に近い値が出た場合は、設計上の注意が必要なサインです。これは覚えておけばOKです。
「手が届かない高所の鉄骨にゲージを貼り付けるのは難しい」という現場の声もよくあります。そのような状況では、デジタル画像相関法(DIC)と呼ばれる非接触式のひずみ測定技術も選択肢に入ります。カメラで撮影した画像を解析してひずみ分布を取得する方法で、ひずみゲージが貼れない複雑な形状や高所部材の評価にも対応できます。ひずみゲージ原理の理解は、こうした代替手段を選ぶ判断基準にもなります。
昭和測器:ひずみゲージによる引張・圧縮・曲げ・ねじり応力の測定方法と計算式が実例付きで解説されています。建築構造物の応力計算を行う際の参考として最適です。