

膜構造建築物は、2002年の建築基準法改正により、特殊な構造方法を規定していた第38条が削除され、告示化によって他の一般的な構造方法と並ぶ位置づけとなりました。現在は国土交通省告示第666号と第667号が膜構造建築物の主要な技術基準となっており、厳格な建築基準法の中で構造・材料としての評価を受け認定を得た「建築物」として扱われています。
参考)https://08tent.co.jp/guide/law/kenchiku-kijun/
2024年6月28日には膜構造の告示が改正され、投影面積の制限が大幅に緩和されました。これまでは投影面積1,000㎡より大きい膜構造建築物は支点間距離4m以下の単純な形状の骨組膜構造に限定されていましたが、改正後は設計自由度が大幅に向上し、サスペンション膜構造も可能になっています。
参考)https://www.taiyokogyo.co.jp/membrane_public_notice/
平成12年建設省告示第1446号により、膜構造建築物に用いる膜材は建築基準法第37条第二号の規定に基づき「指定建築材料」として大臣認定された材料でなければなりません。大臣認定された膜材には認定書と構造計算に必要な基準強度を指定した指定書が発行され、設計時にはこれらの書類の確認が必須となります。
参考)https://www.taiyokogyo.co.jp/membrane_structures/
告示第666号は膜構造建築物全般に適用される基準で、骨組膜構造とサスペンション膜構造の2種類が規定されています。骨組膜構造は、鉄骨造などの骨組に膜材料を張り、骨組と膜材料を一体化して荷重を負担する構造です。
骨組膜構造の投影面積は原則1,000㎡以下とされていますが、構造計算によって安全性が確認できれば制限がなくなります。ただし、1,000㎡を超える場合は、骨組等に囲まれた膜面の投影面積が300㎡以下、膜面における支点間距離が4m以下、屋根形式が切妻・片流れ・円弧のいずれかという条件を満たす必要があります。
建築物の高さは13m以下が基準ですが、構造計算によって構造耐力上安全であることが確認された場合はこの限りではありません。膜材料は鉄骨造などの骨組に2m以下(多雪区域では1m以下)の間隔で定着させることが求められますが、こちらも構造計算で安全性が証明されれば柔軟な対応が可能です。
告示第667号はテント倉庫を簡易に建築できるための緩和措置がなされた基準で、用途は倉庫に限定され、延べ面積1,000㎡以下、軒高5m以下という制約があります。この緩和措置により、一般の建築物と比べて低コスト・短工期を実現できます。
テント倉庫の構造要件として、階数は1階のみ、固定式の場合は最大スパン30m、伸縮式の場合は最大スパン20mとされています。屋根形式は切妻(標準)、片流れ、円弧屋根面のいずれかで、膜材料等は桁方向に1.5m以下の間隔で鉄骨造の骨組に定着させる必要があります。ただし、構造計算で安全性が確認できれば3m以下の間隔での定着も認められます。
風荷重については、各地域の基準風速に0.8を乗じた数値(28未満の場合は28)とすることができ、風荷重を低減した場合は出入口等にその旨を表示する必要があります。可燃物収納倉庫の場合は、屋根内膜材としてガラスクロス(認定品)を設置することが義務付けられています。
膜材料は大臣認定品の使用が義務付けられており、主に3種類に分類されます。第一にガラス繊維+四ふっ化エチレン樹脂の組み合わせで、高い耐候性と透明性を持つ材料です。第二にガラス繊維+塩化ビニル樹脂、第三に合成繊維+塩化ビニル樹脂があり、それぞれ用途や要求性能に応じて選択されます。
参考)http://www.makukouzou.or.jp/quality/material/
膜材料の基準として、厚さは0.5mm以上、質量は1㎡につき550g(合成繊維糸による基布の場合は500g)以上であることが求められます。引張強さは幅1cmにつき200ニュートン以上、破断伸び率は35%以下、引裂強さは100ニュートン以上かつ引張強さの15%以上が必要です。
2017年からは、高い耐候性と透明性を持つETFE(エチレンテトラフルオロエチレン)フィルムなどの新しい膜材料も使用可能となっています。伸縮式(蛇腹式)のテント倉庫にはガラス繊維膜を使用してはならず、膜材料の選定には用途と構造形式の両面から慎重な検討が必要です。
膜構造の構造計算は、建築基準法施行令第82条各号および第82条の4に定める構造計算と同等以上に安全性を確かめることができる方法で行います。具体的には、荷重及び外力並びに膜面の張力によって構造耐力上主要な部分に生ずる力を計算し、長期及び短期の各応力度を算出します。
構造耐力上主要な部分ごとに、計算した長期及び短期の各応力度が、それぞれ長期または短期に生ずる力に対する各許容応力度を超えないことを確認する必要があります。膜材料の引張りの許容応力度は、接合状況に応じて異なり、接合部のない場合や接合幅が40mm以上の場合は基準強度を厚さで除して安全率で割った数値となります。
暴風時には、屋外に面する膜面における支点及び周囲の膜材料の部分について、風圧力に対して安全上支障がないことを確かめる必要があります。膜面における支点間距離が4m以下の場合、積雪時及び暴風時の相対変形量が支点間距離の1/15及び1/20以下であることを確認します。
膜構造建築物も通常の建築物と同様に建築確認申請が必要で、建築主事による建築確認を受けなければなりません。かつては建築基準法第38条に基づく建設大臣認定が個々の建築物ごとに必要でしたが、現在は一定の技術基準が整備され、一般社団法人日本膜構造協会の設計審査を経た後、他の一般的な構造と同様に建築確認だけで建築が認められるようになりました。
参考)https://08tent.co.jp/2020/12/04/post_530/
確認申請に際しては、使用する膜材料の大臣認定書と基準強度を指定した指定書の内容を確認する必要があります。会社名や指定内容が適切であることを事前に確認しておくことで、申請手続きをスムーズに進められます。
設計を行う際は、中小規模膜構造建築物及び特定膜構造建築物の設計及び工事監理について、膜材料で造られた部分以外の部分の構造を当該建築物の構造とみなして建築士法に基づく資格要件を判断します。構造計算適合性判定が必要な規模の建築物では、構造設計一級建築士の関与または構造計算適合性判定機関による判定が求められる場合があります。
参考)https://sakura-kozo.jp/kozo-web/kozoweb_0025/
将来的に大規模な増築や改修を行う際、違反建築物があると確認申請を受け付けてもらえないため、最初の段階で適切に確認申請を行うことが重要です。
参考)https://big-tent.net/introduction/kakuninshinsei/
国土交通省告示第666号全文
https://www.mlit.go.jp/notice/noticedata/pdf/201703/00006526.pdf
膜構造の構造方法に関する安全上必要な技術的基準の詳細が記載されています。
一般社団法人日本膜構造協会 技術基準
http://www.makukouzou.or.jp/archives/788/
膜構造建築物・膜材料等の技術基準及び同解説が掲載され、設計時や確認申請時に活用できる公的解釈が提供されています。