

中粘度エポキシ注入材は、建築補修用・補強用エポキシ樹脂を定めるJIS A 6024の中で「硬質型(中粘度型)」などとして位置付けられ、主としてコンクリートやモルタルのひび割れ補修に用いられます。
この硬質型(中粘度型)は、低粘度型に比べて粘度が高く、ひび割れ幅がある程度大きい場合や、空隙が連続していても樹脂が一気に抜け落ちにくいという利点があり、浮き補修や厚みのある部位への注入でも「ダレにくさ」を活かして使われます。
JIS A 6024では、ひび割れ補修・浮き補修・アンカーピン固定などを想定してエポキシ樹脂の品質(硬化特性・強度・粘度など)が規定されており、特に道路や首都高速道路株式会社の規格適合品では、低粘度型・中粘度型・柔軟性付与型などが使い分けられています。kikakurui+2
現場で製品カタログに「建築補修用注入材(JIS A6024 硬質型(中粘度型))」と明記されていれば、設計側・監理側に性能根拠を説明しやすくなり、公共工事や大規模改修でも採用しやすいという実務上のメリットがあります。sb-material+1
中粘度型には揺変性(シアシニング)を付与したタイプもあり、静置時はゲル状でダレにくく、圧力をかけて注入すると一時的に流動性が上がるため、縦面や天井面のひび割れで「流下させずに隅々まで充填したい」ときに重宝します。lpis+1
こうした揺変性付与注入材は、表面からの低圧注入工法で0.2mm以上のひび割れに対応しつつ、施工時間の短縮や材料ロスの低減にもつながるため、仮設足場の有効期間が限られる改修工事では、工程短縮の切り札として検討する価値があります。sb-material+1
アイカ工業のJBXシリーズのように「中粘度かつ伸び50%以上」といった延性をもたせた注入材もあり、今後のひび割れ進展が完全には止められない箇所に対して、ある程度の追従性を持たせつつ補修する、といった使い方も提案されています。
参考)https://www.aica.co.jp/volume/00014/imag/file0014/t010000001311.pdf
これは「硬くて強い」だけでなく、温度変化やわずかな変形に追随できることが求められる部位で、クラックを単純に固定してしまうのではなく、長期的なひび割れ挙動を見越して材料を選ぶという、やや高度な設計思想に繋がります。committees.jsce+1
エポキシ樹脂注入工法では、一般に「低粘度→中粘度→高粘度」の順に粘度を切り替えながら注入するシステムも提案されており、ひび割れ幅や注入状況に応じて最適な粘度を選定するのが基本とされています。
例えばひび割れ幅0.5mm程度では、初期段階で低粘度を流し込み微細部分を充填し、不足部位や空隙が大きい箇所には中粘度を追加することで、流下を抑えながら全体を確実に埋める、といった運用が可能です。
低粘度エポキシは、0.2mm程度の微細クラックにも入り込みやすく、構造クラックの一体化やタイル・石材の微小浮き押さえに適していますが、その反面、裏面に抜けやすく注入管理が難しい場面もあります。mirix+1
一方、中粘度エポキシ注入材は、ひび割れ幅が0.3〜1.0mm程度の範囲で、かつ裏面への抜けや漏れを抑えたいときに有利で、JIS A 6024硬質型の中でも「粘稠液状」と記載されたタイプは、垂直面・天井面におけるひび割れ注入材としても採用されています。bsys+1
高粘度あるいは「高粘度型エポキシ」と呼ばれる材料は、アンカーピンニング工法で穿孔した孔内への注入や、モルタル浮き補修におけるピン固定部への注入など、ほぼ局所的な空隙充填を狙う用途に向いています。yuukisougyou+1
このため、コンクリートのひび割れ補修で「クラック幅が大きく、かつ裏面が開放されていない」ケースでは、中粘度と高粘度の境をどう使い分けるかが設計・施工のポイントになり、メーカーの推奨表や技術資料を参照して判断するのが安全です。yabuhara-ind+1
注入材選定の基本は「目的>下地の状態>ひび幅・空隙の大きさ>含水状態>必要強度>作業条件(温度・時間)」という優先順位で考えるのがわかりやすいとされており、構造補修なのか、仕上げ材の浮き抑えなのかで、粘度だけでなく樹脂種そのもの(エポキシかウレタンか)も含めて比較検討する必要があります。livingcolor+1
特に漏水箇所では、一次止水に発泡ウレタンを用い、二次的にエポキシ樹脂を注入して剛性を確保するなど、「止水」と「構造回復」を別工程として組み立てる考え方が一般的であり、中粘度エポキシは主に後段の「構造的な接着・一体化」を担う材料として位置付けられます。livingcolor+1
コンクリートひび割れエポキシ樹脂注入補修工法では、ひび割れ部に注入口(パッカー)を一定間隔で設置し、表面をシール材で塞いだ上で、ゴム・バネ・空気圧などを利用した低圧注入器を用いてエポキシ樹脂を0.4N/mm²以下の圧力で注入することが標準的な手順とされています。
このとき、裏面に注入材が漏れるおそれがある場合は、監督職員と協議のうえ裏側に仮止めシールを行うか、裏面より流出しにくい粘度の注入材を使用するよう規定されており、中粘度エポキシ注入材はまさにこの「裏面流出を抑えつつ確実に充填したい」ケースで有効です。
施工手順としては、まずひび割れ箇所の周囲をワイヤーブラシや圧搾空気で清掃し、付着しているレイタンス・脆弱部・汚れなどを除去したうえで、注入孔位置をマーキングし、穿孔または表面パッカーを取り付けます。yuukisougyou+1
続いて、ひび割れ線上をシール材で連続的に被覆し、シール材の硬化を待ってからエポキシ樹脂を注入器具に入れ、ひび割れの下端または片側から順次注入し、注入口からの樹脂の立ち上がりや隣接パッカーからの溢れ具合を確認しながら、適切な量を充填していきます。livingcolor+1
中粘度エポキシ注入材の硬化養生中は、注入器具を取り付けたままにしておくことで、内部の圧力を保持しながらひび割れ内部への樹脂の浸透を促すのが一般的であり、硬化後に仮止めシール材と注入器具を撤去し、表面を研磨・補修して仕上げに備えます。yuukisougyou+1
この際、注入完了の確認として、樹脂の注入量が計画値に対して過不足ないか、注入孔からの戻りや漏れがないか、周辺部の打診で空隙音が消えているかなどを総合的にチェックし、必要に応じて追加注入を行うことが求められます。yabuhara-ind+1
意外に見落とされがちなポイントとして、注入圧が高すぎるとひび割れがさらに広がったり、シール部から樹脂が吹き出したりするリスクがあるため、「時間をかけて低圧でじわじわと」注入することが、結果として補修品質の安定につながるとされています。mirix+1
また、ひび割れ幅や深さに応じて注入量を調整する必要があり、一律の圧力・時間ではなく、実際の樹脂の吸い込み具合や温度条件(樹脂の可使時間)を見ながら「どこで止めるか」を判断する技能が、施工者側の腕の見せ所になります。lpis+1
中粘度エポキシ注入材は、コンクリートひび割れだけでなく、モルタルやタイル仕上げの浮き補修にも広く用いられており、モルタル浮き補修のアンカーピンニング部分エポキシ樹脂注入工法などが代表的な適用例です。
この工法では、ハンマー打診により浮き範囲を特定し、スプレーペンキやチョークでマーキングしたうえで、計画本数(一般部で16本/㎡程度を目安)でアンカーピンの孔を穿孔し、その孔に高粘度〜中粘度のエポキシ樹脂を注入してからアンカーピンを挿入し、既存仕上げと下地を一体化させます。
外壁のクラックや仕上げ材浮きに対しては、表面から低圧注入器を用いて中粘度エポキシ樹脂を注入する工法もあり、座金付き注入器に剥離シール材を充填してクラック線上に取り付け、200mm程度の間隔で複数設置したうえで、クラック線をシールしてから注入する方法が紹介されています。
参考)エポキシ樹脂注入(外壁浮き・クラック)|山形の塗装・防水工事…
注入後は剥離シール材と注入器を撤去し、下地調整・パテ処理を行ってから塗装・仕上げに進むため、外観上は補修跡を目立たせずに浮きやひび割れを補強できる点が、改修工事における大きなメリットです。livingcolor+1
中粘度エポキシ注入材を浮き補修に使う際に重要なのは、「どこまで樹脂を行き渡らせるか」という設計思想で、浮き範囲全体に均一に行き渡らせたいのか、ピン周りだけを確実に固めればよいのかで、粘度や施工方法が変わってきます。mirix+1
揺変性を持つ中粘度材であれば、水平面・垂直面問わず空隙内にとどまりやすく、重力による抜け落ちやダレを抑えつつ、必要な範囲に樹脂をとどめることができるため、既存仕上げを壊さずに「内部だけ補強したい」場面で特に有効です。sb-material+1
アンカーピンニング工法では、樹脂の充填と同時にアンカーピンを設置することで、単なる接着だけでなく、機械的な拘束力による一体化も期待できるため、外壁タイルやモルタルの剥落防止対策として、公共建築物や集合住宅などで多用されています。yabuhara-ind+1
ただし、穿孔による既存仕上げの損傷や、鉄筋との干渉リスク、施工本数の増加によるコストアップなども考慮する必要があり、「注入だけで足りる部位」と「アンカーピンまで必要な部位」を切り分ける判断が、調査・診断段階での重要な検討事項になります。committees.jsce+1
中粘度エポキシ注入材は、低粘度材に比べてダレにくく扱いやすいイメージがありますが、実務上は「温度」と「時間」に非常に敏感で、可使時間を超えて粘度が上がり始めたタイミングで無理に注入を続けると、配管内でゲル化してしまい、器具の詰まりや不完全充填の原因になります。
特に冬季の低温下では硬化が遅れる一方、夏季の高温現場では可使時間が極端に短くなるため、単に取説どおりの混合比を守るだけでなく、「何kgを何分で打ち切るか」を事前にシミュレーションし、1回の練り量を控えめに設定するなどの工夫が求められます。
また、中粘度エポキシ注入材は、裏面抜けを抑えられる半面、ひび割れ内部の埃・レイタンス・湿気が残っていると、樹脂が内部まで十分に入り込まず、表面付近だけを埋めてしまう「表面だけ接着」になりがちです。mirix+1
圧搾空気やブロワによる清掃は当然として、必要に応じて乾燥期間を確保したり、含水率が高い場合は別の工法(セメント系充填材やウレタン系樹脂)に切り替えたりする判断が求められ、「とりあえずエポキシ」という選定は避けるべきだと各種ガイドラインでも指摘されています。committees.jsce+1
もう一つの意外な落とし穴は、「中粘度=万能」という誤解で、実際にはひび割れ幅0.2mm未満の微細クラックや、漏水が続いている部位には不向きであるにもかかわらず、現場の在庫品だけで対応しようとして失敗するケースです。lpis+1
構造クラックの補修では、ひび割れ幅・深さ・分布を調査したうえで、場合によっては低粘度エポキシと組み合わせる、あるいは一部を切り欠いてグラウト充填に切り替えるなど、「材料主導ではなく目的主導」の補修計画を組むことが重要です。committees.jsce+1
品質管理の観点では、使用する中粘度エポキシ注入材がJIS A 6024や各発注者(道路会社など)の規格に適合しているかを確認し、製品ラベルに記載されたロット番号・製造年月・使用期限を記録しておくことが、将来のトレーサビリティ確保につながります。kikakurui+1
さらに、試験打設やモックアップで注入状況と硬化後の状態を事前に確認し、必要に応じて抜き取り試験やコア採取を行うことで、「図面上の仕様」と「実際の充填状況」のギャップを最小化することができます。committees.jsce+1
中粘度エポキシ注入材を扱う現場では、作業員への安全教育も見逃せず、エポキシ樹脂の皮膚感作性や、溶剤系のにおいによる体調不良なども含め、適切な保護具(手袋・保護メガネ・防毒マスク)の使用と換気計画を徹底することが求められます。livingcolor+1
特に改修工事で居住者が近くにいる場合、臭気クレームやアレルギー反応のリスクが高まるため、作業時間帯の調整や、低臭タイプの材料選定など、補修そのもの以外の「周辺環境への配慮」も、施工者の腕の見せどころとなるでしょう。mirix+1
中粘度エポキシ注入材による補修は、一度打てば終わりではなく、その後の長期的なひび割れ挙動や仕上げ材の挙動をどうフォローするかが、本当の意味での「補修の成否」を左右します。
コンクリートのひび割れ対策に関する土木学会の資料でも、クラック補修後の再ひび割れや新規ひび割れの発生をどう監視・評価するかが重要とされており、単に「埋めたかどうか」だけではなく、構造物全体としてのひび割れパターンを追跡する視点が求められます。
中粘度エポキシ注入材を用いた部位では、定期点検時に以下のような観点で確認すると、長期性能の把握に役立ちます。
独自視点として、ひび割れ補修を「一次対応」と「二次対応」に分け、一次対応では中粘度エポキシ注入材で構造的な安全性と仕上げの剥落防止を図り、二次対応として劣化要因(排水計画・防水層・外装ディテール)を見直す、という「時間をずらした二段構えの補修計画」を組む方法があります。mirix+1
これにより、限られた工期や予算の中でも「まず落下・剥落リスクを抑える」「次の大規模改修で根本対策を行う」という優先順位付けが可能になり、中粘度エポキシ注入材はその中で「一次対応の要」として位置づけられます。yuukisougyou+1
また、JIS A 6024に適合したエポキシ樹脂を使用していても、将来の改修時にエポキシが「硬くて切りにくい」「ハツリにくい」という問題が発生することがあり、構造補修で多用した部位では、次回改修工事の施工性に影響する可能性があります。kikakurui+1
設計段階で、将来の改修や増築を見越したうえで「どこまでエポキシで固めるか」を決めておくことは、短期的な補修品質だけでなく、ライフサイクル全体のコストや施工性を左右する重要な視点と言えるでしょう。lpis+1
建築現場の実務としては、中粘度エポキシ注入材の施工記録(使用量・ロット・注入位置・クラック図)を、図面だけでなく写真や3Dモデルと紐づけて残しておくことで、将来の診断や補修計画に活かしやすくなります。livingcolor+1
BIMや点群データと連携させた「補修履歴の見える化」はまだ一般的ではありませんが、今後の大規模修繕では、こうした情報が発注者・管理組合にとっての重要な意思決定材料になり、中粘度エポキシ注入材のような見えない部分の補修こそ、デジタルで残す価値が高い領域だと言えるでしょう。lpis+1
コンクリートひび割れ対策の体系化や補修工法の整理がまとめられている技術資料。中粘度エポキシ注入材の位置づけや長期的な補修戦略を考える際の参考になります。
JIS A 6024 建築補修用及び建築補強用エポキシ樹脂の概要と規格内容