応力緩和クリープ違いと建築材料の時間依存性

応力緩和クリープ違いと建築材料の時間依存性

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応力緩和とクリープの違い

📋 応力緩和とクリープの基本的な違い
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応力緩和

一定のひずみ(変形)を維持したとき、材料内部の応力が時間とともに減少する現象

クリープ

一定の荷重(応力)を加え続けたとき、ひずみ(変形)が時間とともに増大する現象

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粘弾性特性

どちらも材料の粘弾性に起因する時間依存性の現象で、表裏一体の関係

応力緩和の定義とメカニズム

応力緩和は、材料に一定のひずみ(変形)を与えて保持したとき、内部で発生する応力が時間の経過とともに小さくなっていく現象です。プラスチックのような粘弾性体では、変形を維持するために必要な力が徐々に減少していきます。
参考)クリープ性とは ~応力緩和との違い~ - 株式会社 大野社

この現象は、マックスウェルモデルと呼ばれる力学モデルで説明できます。材料を変形させた直後は弾性的な応力が発生しますが、時間経過とともに分子が再配列され、ポテンシャルエネルギーの低い状態に移行することで応力が低下します。応力緩和のグラフは経過時間を対数で表すと直線状になり、温度が高いほど緩和速度が速くなるという特性があります。
参考)製品設計の「キモ」(12)~プラスチックの応力緩和~

ラケットのガットを張った直後は強い張力がありますが、時間とともに弛んでくるのは、応力緩和の典型例です。見た目の変形は変わらないのに、内部の応力だけが減少している状態で、外部から観察しにくいのが特徴です。​

クリープの定義と発生条件

クリープは、材料に一定の荷重や応力を持続的に加え続けると、時間の経過とともにひずみ(変形)が増大していく現象です。コンクリートや木材などの建築材料では特に顕著に見られ、構造設計において重要な考慮事項となります。
参考)コンクリートのクリープ現象ってなに?│いまさら訊けない建築構…

コンクリートのクリープは、主にコンクリート内部の水分移動が原因です。荷重により内部の水分が移動し、セメントゲルの構造が変化することで徐々に収縮していきます。このため、周辺が乾燥しているほど、部材寸法が小さいほど、水セメント比が大きいほど、クリープが大きくなる傾向があります。
参考)公益社団法人 日本コンクリート工学会

コンクリートのクリープ限度は、コンクリート強度のおよそ75~85%程度とされています。この限度を超えると、時間の経過とともに破壊に至る「クリープ破壊」が発生する可能性があるため、設計時には十分な安全率を確保する必要があります。​

応力緩和とクリープの関係性

応力緩和とクリープは、一見すると全く異なる現象に見えますが、実は材料の粘弾性特性という同じ性質を異なる視点から見たものです。どちらも時間依存性の変形挙動であり、材料内部の分子運動や構造変化に起因しています。
参考)https://www.jsme.or.jp/jsme-medwiki/doku.php?id=10%3A1002549

両者の違いを簡潔にまとめると、応力緩和は「一定のひずみ → 応力が減少」、クリープは「一定の応力 → ひずみが増加」という条件と結果が逆転した関係にあります。実際の建築現場では、ボルト締結部では応力緩和が、コンクリート構造物ではクリープが主に問題となります。​
測定方法も異なり、応力緩和は一定の変形を与えたときの応力変化を測定するのに対し、クリープは一定の荷重下でのひずみ変化を測定します。どちらも温度が高いほど現象の進行が速くなるという共通点があり、設計時には使用環境温度を考慮する必要があります。
参考)応力緩和とは何か? 内部応力、残留応力とは? わかりやすく説…

応力緩和が問題となる建築部材の事例

建築現場で応力緩和が深刻な問題となるのは、ボルトやネジによる締結部です。締結部材がプラスチックや木材の場合、時間の経過とともに応力緩和が起こり、軸力が低下して締結部分が緩む「非回転緩み」が発生します。この現象は、ボルトが回転しなくても進行するため、通常の緩み止め製品では対処できません。
参考)https://monoist.itmedia.co.jp/mn/articles/2111/16/news009_2.html

ガスケットの締付部でも応力緩和は重要な問題です。ガスケットが圧縮されると反発力が発生してシール性能を維持しますが、時間経過とともに反発力が低下し、シールに必要な締付力を下回ると漏えいが発生する可能性があります。特にPTFEガスケットなど粘弾性の高い材料では、応力緩和の挙動を十分に理解した設計が必要です。
参考)https://www.nichias.co.jp/cms/nichias/pdf/report/2018/381_04.pdf

建築の穴埋めキャップや目地・シール部品も、応力緩和により部品外れや浮き、ガタツキのトラブルが多発します。これらの部品は反力を利用して固定されているため、応力緩和により反力が低下すると機能を失います。対策としては、反力に頼らないスナップフィット構造の採用や、応力緩和特性に優れた材料の選定が推奨されます。​

クリープによる建築構造物への影響

コンクリート構造物では、クリープにより時間とともにたわみが増大し、ひび割れの拡大や構造物の耐久性低下につながります。特に長いスパンの梁やスラブ、高層建築では、クリープの影響が顕著に現れるため、設計時に十分な配慮が必要です。
参考)https://ameblo.jp/kagakusyanotamago12345/entry-12884379295.html

実務では「変形増大係数」を用いて、あらかじめクリープによる変形の増大量を見込んで断面の大きさを決定します。この係数は、コンクリートの材齢、部材寸法、環境条件などを考慮して設定され、長期的な構造性能を確保するための重要な設計パラメータとなっています。
参考)コンクリートのクリープってなに?その原因と、変形増大係数の関…

鉄筋コンクリート構造では、クリープの進行により鉄筋が負担する圧縮応力が徐々に大きくなります。そのため、圧縮鉄筋を適切に配置することで、相対的にコンクリートに作用する圧縮荷重を軽減し、クリープの影響を抑制することが一般的な対策となっています。​
コンクリートのクリープ現象の詳細メカニズムと実務での対処法

応力緩和とクリープの測定方法と評価

応力緩和の測定では、試験片に一定の変形を与え、規定温度・規定時間その変形を維持したときの応力変化を測定します。初期応力に対する経時的な応力低下率を評価することで、材料の応力緩和特性を定量的に把握できます。JIS K 7143などの規格に基づいた試験方法が確立されています。
参考)301 Moved Permanently

クリープ試験には、引張クリープ試験、圧縮クリープ試験、曲げクリープ試験の3種類があります。それぞれの試験では、一定の荷重を加え続けながら、時間ごとにひずみ(変形率)を測定します。試験片の形状や寸法は試験方法によって規定されており、圧縮クリープ試験では応力を受ける面が25cm²以上の正方形または円形の試験片を使用します。​
両者の測定データは、時間-応力曲線や時間-ひずみ曲線として表され、対数グラフにすると直線的な関係が得られることが多くあります。これらのデータは、材料選定や構造設計において、長期的な性能予測に活用されています。
参考)コンクリートのクリープと収縮を押さえる

建築材料における応力緩和とクリープの対策

応力緩和対策として最も効果的なのは、材料選定です。応力緩和特性に優れた材料を選ぶことで、締結部の長期的な性能を維持できます。ボルト締結部では、座面を大きくして発生する応力を小さくする設計や、皿ばね座金の使用により緩みを抑制できます。通常のばね座金では応力緩和対策として不十分ですが、皿ばね座金(重荷重用)を使用すると、初期締結時に対して約17%の軸力低下に抑えられます。​
クリープ対策では、まず材料選定が重要で、特別な添加剤を含むコンクリートや高強度の鋼材を使用することが推奨されます。構造設計の段階では、荷重を均等に分散させる設計や、クリープに強い形状を採用することが効果的です。高層RC造ビルでは、早期プレストレス導入と高弾性モルタルの併用により、たわみの進行を30%以上抑制した成功事例も報告されています。​
施工段階での対策も重要です。大面積の土間コンクリートでは、誘発目地と繰返し散水養生を徹底することで、ひび割れを防止できます。また、施工時の温度記録と収縮率測定を組み合わせ、適時な養生切替や追加補修を行うことで、全体の品質が向上します。​
プラスチック材料の応力緩和特性と製品設計での具体的対策

粘弾性材料の時間依存性と設計上の考慮点

建築材料の粘弾性特性は、温度依存性と時間依存性の両方を持っています。材料の変形挙動がひずみ速度(変形速度)によって変化するため、設計時には使用条件を十分に考慮する必要があります。特に高温環境では分子が動きやすくなり、応力緩和やクリープの進行速度が著しく速くなります。
参考)https://www.cerij.or.jp/service/05_polymer/rheology_time-dependence-S.html

プラスチック成形時の残留応力を取り除くアニール処理は、高温で素早く応力緩和ができる性質を利用したものです。このように、粘弾性特性を理解することで、材料の特性を有効活用した加工や処理が可能になります。​
設計者にとって重要なのは、プラスチック材料にできるだけ常時荷重や常時変形を発生させないことです。これにより、応力緩和やクリープによるトラブルを根本的に回避できます。建築事業者は、最新の規準(JASS5やJCIガイドライン)や研究動向に注目し、常にアップデートされた知識を現場に活かすことが求められます。​

現象 条件 結果 主な問題箇所 測定対象
応力緩和 ひずみ一定 応力が減少 ボルト締結部、ガスケット 応力の時間変化
クリープ 応力一定 ひずみが増加 梁、スラブ、高層構造物 ひずみの時間変化