ピロティ階判定における耐力壁配置と構造基準

ピロティ階判定における耐力壁配置と構造基準

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ピロティ階の判定基準

ピロティ階判定の重要ポイント
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構造条件の確認

RC造・SRC造であること、上階に壁があり下階に壁がない構造であることが判定の前提条件

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耐震性能の評価

Is値0.6未満が改修対象、0.3未満は倒壊危険性が高く速やかな対応が必要

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床面積算定の判断

外気開放度と屋内的用途の有無により床面積への算入が決定される

ピロティ階の構造要件と判定基準

ピロティ階の判定において最も基本となるのは、建築物の構造形式と階の壁量配置です。耐震診断の観点からピロティ階と判定されるためには、建物が鉄筋コンクリート造(RC造)または鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC造)であり、下階に壁が無く上階に壁がある構造であることが条件となります。この定義により、鉄骨造の建物は構造様式としてピロティであっても、耐震診断上のピロティ階には該当しません。
参考)https://taishinsekkei.com/info/pilotis/

ピロティ階の判定では、耐力壁の量が他の階と比較して著しく少ない階が対象となります。具体的には、ピロティ構面において上階の耐力壁を柱のみで支える構造形式のうち、所要の耐震性能に満たない階がピロティ階と呼ばれています。1階や2階などの下層階を店舗や自転車置き場として使用している壁抜けの階が典型例です。
参考)https://www.ur-net.go.jp/chintai_portal/chintai-taishin/chintai_003.html

建築物の各部分における剛性や強度の変化も判定要素として重要です。剛性や強度が急変する階を低層に有し、メカニズムが単独層で形成される場合、ピロティ形式の建築物として扱われます。ただし、2階に壁が無く窓だらけの構造であれば、1階にピロティがあってもピロティ階とは判定されないケースもあります。
参考)https://www.icba-info.jp/kijyunseibi/qa/kouzou.php?kaisetusyo_page=323amp;kaisetusyo_page1=amp;qid1=amp;qid2=amp;date1=amp;date2=amp;date=1amp;limit=10amp;order=koushin_dateamp;p_order=DESCamp;step=searchamp;page=5

ピロティ階の耐震診断におけるIs値判定

耐震診断におけるIs値(構造耐震指標)は、ピロティ階の安全性を数値化した最重要指標です。Is値は既存建物の耐震性能を表す指標で、数字が大きいほど耐震性能が高いことを示し、一般に基準値が0.6とされています。0.6未満の建物が改修対象となり、この基準は建築物の耐震改修の促進に関する法律(耐震改修促進法)の趣旨に従って設定されています。​
UR賃貸住宅の耐震診断では、判定基準が詳細に分類されています。分類Ⅰは「ピロティ階のIs<0.6」で、ピロティ階の耐震改修を速やかに実施することが必要とされます。分類Ⅰ Ⅱは「ピロティ階のIs<0.6かつ住宅階のIs<0.3」で、ピロティ階及び住宅階の耐震改修を速やかに実施することが必要です。分類Ⅰ Ⅲは「ピロティ階のIs<0.6かつ0.3≦住宅階のIs<0.6」となり、ピロティ階の耐震改修を速やかに実施し住宅階も改修が必要と判定されます。​
東京都の「命を守るためのピロティ階等緊急対策事業」では、Is値0.3未満を倒壊の危険性が高い階と定義しています。Is値0.4未満の場合でも倒壊・崩壊の危険性があるため、せめてこのレベルまで引き上げることが「命を守るため」の最低限の対応とされています。通常はIs値0.6以上で「倒壊・崩壊の危険性が低い=地震動に対して必要な耐震性を確保している」と判断されます。
参考)https://www.homes.co.jp/cont/press/buy/buy_01545/

UR都市機構の耐震診断結果分類基準では、ピロティ階と住宅階それぞれのIs値による詳細な判定方法が示されており、改修の優先順位判断に有用な資料となっています

ピロティ階の床面積算定における判定要件

建築基準法における床面積の算定では、ピロティが一定の要件を満たす場合に床面積に算入しない扱いとなります。具体的には「十分に外気に開放されている」ことと「屋内的用途に供しない部分」であることの両方の条件を満たす必要があります。この判定は建築確認における容積率計算に直接影響するため、設計段階での慎重な検討が求められます。​
「十分に外気に開放されている」の判定基準として、ピロティ部分がその面する道路、公園、広場、水面等の公共的空地(幅4m以上)と一体の空間を形成し、常時人又は車の通行が可能な状態にあることが求められます。神奈川県の取扱基準では、ピロティ部分の周長(建築物の屋内側の壁を除く)の1/2以上が公共的空地に面する場合がこれに該当すると明示しています。​
建設省住指発による通知では、「屋内的用途に供しない部分」について、その周囲の相当部分が壁のような風雨を防ぎ得る構造の区画を欠き、かつ、居住、執務、作業、集会、娯楽、物品の陳列、保管または格納その他の屋内的用途を目的としない部分と定義しています。ピロティ部分の周長の相当部分が壁のような風雨を防ぎ得る構造で区画されている場合など、十分に外気に開放されていると判断されないときは床面積に算入されます。​
国土交通省によるピロティに係る建築基準法上の床面積の取扱いガイドラインでは、ウォーカブル推進の観点から外気開放性と屋内的用途の判定基準が詳述されています

ピロティ階における独立柱の判定と設計留意点

ピロティ階の独立柱は構造設計上、特に慎重な判定と配慮が必要な要素です。独立柱とは、柱に壁が付いていない構造を指し、耐震基準要件には「ピロティ部分を要する場合は、建物の隅部分が独立柱になっていないこと」という記載があります。建物の隅部に独立柱が配置されると、地震時に大きなねじれが生じやすく、特に脆弱な構造となるためです。
参考)https://www.aiwasan-baibai.com/blog/piloti/

ピロティ階の独立柱は、他のフロアと異なり耐力壁が無いため変形が大きくなる特性があります。また他の階よりも剛性率が小さく、変形が集中することになります。従って、それらの応力が集中することを考慮し、十分な耐力をもたせる必要があります。一級建築士試験の出題でも、ピロティ階の独立柱の曲げ降伏による層崩壊を想定する場合、当該階については地震入力エネルギーの集中を考慮した設計が求められることが問われています。
参考)https://kakomonn.com/1kenchikushi/questions/58507

構造計算適合性判定の指摘事例では、ピロティ階を有する建築物の設計上の留意事項として、当該階において耐力壁、そで壁、腰壁、たれ壁、方立て壁等の量が適切に配置されているかの確認が重要視されています。中高層RC造ピロティ構造では、保有水平耐力計算においてピロティ階に損傷が集中することを考慮し、1階の必要保有水平耐力を算定する際に強度割増係数を考慮する必要があります。
参考)https://www.pref.osaka.lg.jp/documents/34495/zentai_1.pdf

ピロティ階判定における実務上の課題と対策

実務においてピロティ階の判定で最も注意すべき点は、屋内的用途への供用の有無です。事前に特定行政庁の判断を確認することが重要とされています。例えば、マンションで隣室との間の壁を取り除き広く事務所などにしている部屋がある場合、意図せずピロティを作ってしまう可能性があります。このような改修工事では、上階に壁が無く窓だらけになると、下階がピロティ状でもピロティ階の判定から外れるケースがあります。​
傾斜地に建てられているマンションでは、地下1階部分が実質的に地上1階となっているケースがあります。このような建築物の場合、「地下1階と地上1階」がピロティ階ということになり、Is値の基準を満たしていれば補助事業の対象となります。通常は1~2階を想定していますが、敷地の地形条件により判定階が変わる点に留意が必要です。​
耐震診断を実施した時点の法令等による診断基準に基づきIsが算定されるため、その後の診断基準の改定により耐震化に向けた設計検討に伴い、当初と異なるIsになる場合があります。この場合でも、当初の診断結果の有効性は変わりませんが、追加検討時には最新の基準に照らした再評価が望ましいとされています。木造2階建てで1階ピロティの場合、耐力壁の取付状態で充足率が取れない場合があり、この場合は偏心率0.3以下を確認することが推奨されています。
参考)https://question.realestate.yahoo.co.jp/knowledge/chiebukuro/detail/1265445992/

東京都マンションポータルサイトの命を守るためのピロティ階等緊急対策事業ページでは、補助金申請の具体的手続きと判定基準の詳細が掲載されており、実務者向けの有用な情報源となっています

ピロティ階における耐震補強工事の判定後対応

ピロティ階と判定された建築物の耐震補強では、壁の増設、鉄骨ブレース設置、開口部の閉塞、鋼板炭素繊維等による柱巻等の補強が一般的に想定されています。壁の増設や開口部の閉塞とは、ピロティ階で外部に開放されている部分を壁でふさぐ工事となります。この場合、補強後はピロティとしての開放性が失われるため、用途や動線計画への影響を事前に十分検討する必要があります。​
鉄骨ブレース設置は、開放されている部分に筋交いを入れて補強する工法です。柱の補強では、例えば炭素繊維シートをエポキシ樹脂で接着する工法が想定されています。補強工事に関しては、耐震診断の結果に基づき設計者から最適な工事内容が提案されることが一般的であり、管理組合としては提案を受けた際、完成後のピロティがどのような状態になるかしっかりイメージすることが重要です。​
ピロティ形式のマンションでは、ピロティ階に照明が設置されていない物件も多く存在します。壁増設などの補強により閉鎖的な空間となる場合、採光や照明計画の見直しも必要となります。また、既存の駐車場や自転車置き場としての利用が制約される可能性もあるため、住民への説明と合意形成が不可欠です。補強設計費用には指定機関による評定に係る手数料も含まれるため、予算計画においてこれらの費用も考慮する必要があります。​

補強工法 特徴 開放性への影響 コスト目安
壁の増設 耐震性能向上が確実​ 大きく低下
鉄骨ブレース 比較的開放性を維持​ 中程度
柱の炭素繊維巻 開放性維持可能​ 小さい
開口部閉塞 施工が比較的容易​ 大きく低下