

建築や鋼構造物で「錆止め塗料 最強」を狙うなら、単品最強というより、環境と素地調整レベルに応じて「ジンクリッチ」か「変性エポキシ(エポキシ樹脂系)」を主軸に組むのが現実的です。ジンクリッチは亜鉛粉末の犠牲防食(鋼より先に亜鉛が溶けて守る)を狙う考え方で、重防食の世界では王道です。実際、橋梁などの重防食仕様では、ジンクリッチ(有機/無機)を下層に置き、その上にエポキシ樹脂系を重ねる工程が組まれています。
一方で、現場が「部分補修」「既存塗膜が点在」「ブラストが取れずケレン中心」という条件なら、ジンクリッチ“だけ”で最強にはなりません。ジンクリッチは本来、清浄な鋼面+適正粗さ+所定膜厚が取れて性能を出しやすく、素地が甘いと欠陥部から早期に水・塩分が回ることがあります。そこで、密着性・防食性のバランスが良い変性エポキシ系のさび止め(またはそれに相当する下塗り)を選び、上塗りまで含めてシステムとして整える方が長持ちします。
さらに「最強」を議論するとき、意外に見落とされるのが“上塗りの耐候”です。エポキシは防食性が高い反面、一般に屋外の紫外線で劣化しやすいので、重防食では上塗りに耐候性の高い樹脂(例:ポリウレタン系など)を合わせる設計が多いです。つまり、錆止めは最強でも、上塗りが弱いとトータル寿命は伸びません。
錆止め塗料の性能差は、カタログの「防錆力」より、実務では素地調整の差で一気にひっくり返ります。重防食仕様で頻出するのがブラスト処理で、ISO Sa2 1/2相当を前提に「処理後4時間以内に塗装」など、再発錆(フラッシュラスト)を抑える運用がセットになっていることが多いです。実際に橋梁の塗装仕様でも、ブラスト(ISO Sa2 1/2)と時間管理が工程表に組み込まれています。
ケレン中心の現場では、同じ“ケレン”でもグレード差が出ます。国交省系の資料でも、1種ケレンはブラストに近い扱いで、ISO Sa2 1/2相当に言及されています。ここで重要なのは、ケレンの評価が曖昧だと「塗った直後は綺麗、数ヶ月〜数年で点錆」が起きる点です。上司チェックで突っ込まれやすいのも、実は塗料名ではなく“どの程度の素地調整をした前提か”です。
現場の落とし穴として、ディスクサンダーで黒皮・錆を均したつもりでも、谷部に残った錆や塩分が残留しやすい点があります。塩分は目に見えず、海沿い・凍結防止剤・工場地帯では再発錆を加速させます。最強を狙うなら、可能な範囲で「除錆」だけでなく「脱脂」「粉じん除去」「塩分管理」まで工程に入れてください。
参考:橋梁など重防食でのブラスト条件(ISO Sa2 1/2)や塗装工程・膜厚の考え方
https://www.nipponpaint.co.jp/products/large/specification-bridge/573/
参考:ケレンとISO Sa2 1/2の位置づけ(評価基準の考え方)
https://www.kkr.mlit.go.jp/plan/ippan/kensetsugijutsuten/ol9a8v000001uby2-att/a1572394456140.pdf
建築鉄部の現場で“迷ったら”軸になりやすいのが、変性エポキシ系(弱溶剤・2液/1液)のさび止めです。変性エポキシ相当のさび止め効果や、鉄だけでなくアルミ・ステンレス・硬質塩ビなど幅広い素材への密着をうたう下塗り材もあり、付帯部や異種素材が混在する現場で武器になります。たとえば日本ペイントのパーフェクトプライマーは、幅広い素材への密着性、変性エポキシ相当のさび止め効果、可とう性(耐屈曲性)を特長にしています。
ただし“最強”の条件は、適材適所です。変性エポキシは密着と防食のバランスが良い一方、重塩害や浸漬に近い環境では、ジンクリッチや重防食用の厚膜エポキシ(マスチック系)など、より強い設計が欲しくなるケースがあります。つまり、変性エポキシは万能に近いが「最高難度の腐食環境の最強」では“システム”で組む必要が出ます。
施工性の観点では、1液/2液も議論になります。一般論として2液は硬化反応で塗膜性能を出しやすい一方、混合・可使時間・希釈管理が増えます。逆に1液は作業性が高く、部分補修や短時間作業に向きますが、どの程度の耐久を狙うかで選定が変わります(現場の工期・人数・気温で最適解が変化します)。
参考:幅広い素材への密着、変性エポキシ相当のさび止め効果(パーフェクトプライマーの特長)
https://www.nipponpaint.co.jp/products/building/47/
上司チェックや施主説明で強いのが「規格で語れること」です。構造物用さび止めペイントとしてはJIS K 5551があり、橋梁・タンク・プラントなど鋼構造物や、建築金属部の塗装に用いる旨が示されています。錆止めの議論が“おすすめランキング”寄りになったときでも、JISで対象範囲や試験・品質の枠組みを押さえていると、説明が一気にプロ寄りになります。
ジンクリッチについても、JIS K 5552(ジンクリッチプライマー)では、鋼材の防せいに用いるジンクリッチプライマーを規定し、無機(アルキルシリケート系)など種類の定義が示されています。規格本文には、素地調整(ISO 8501-1 Sa2 1/2の言及)や表面粗さの考え方など、施工に直結する条件が含まれています。つまり「ジンクリッチが最強」という言い方をするなら、規格が想定する施工条件(素地調整・粗さ・混合・乾燥)までセットで語らないと、現場では再現できません。
ここで、あまり知られていない“言い方の工夫”があります。現場での説明は「最強=最高級」ではなく、「最強=条件が揃ったときに最長寿命を狙えるシステム」と定義すると、相手の納得感が上がります。規格やメーカー仕様は、その“条件”を具体的に埋める材料として使えます。
参考:JIS K 5551(構造物用さび止めペイント)の対象範囲
https://kikakurui.com/k5/K5551-2018-01.html
参考:JIS K 5552(ジンクリッチプライマー)の定義・種類・素地調整条件
https://kikakurui.com/k5/K5552-2010-01.html
検索上位では「ジンクリッチは亜鉛含有率が高いほど強い」という文脈が目立ちますが、現場の“長期安定”で見ると、それだけでは足りません。ジンクリッチは犠牲防食を狙うため、亜鉛粒子同士が電気的につながる「導通」が成立して初めて強みが出ます。ここで意外に効くのが、上塗り・中塗りの設計と、欠陥部(ピンホール、エッジ、ボルト周り)の作り込みです。
たとえば重防食の仕様では、ジンクリッチの上にエポキシ樹脂系を厚めに入れ、さらに上塗りを重ねる多層構成が一般的です。これは、犠牲防食“だけ”に頼らず、エポキシのバリア性(遮断性)も使って寿命を稼ぐ考え方です。研究分野でも、ジンクリッチエポキシ(zinc-rich epoxy)を改良する方向として、導電性フィラーやバリア性向上(例:グラフェン等の添加で腐食抵抗を高める)といったアプローチが報告されています。
もう一つ、現場目線で効くのが「エッジ処理」です。エッジは膜厚が乗りにくく、最初に錆が出やすい“最弱点”になりがちです。そこで、R面取り・パテ処理・刷毛の先行塗り(ダブルコート)でエッジの実膜厚を確保すると、同じ材料でも結果が変わります。これは検索上位の“製品比較”には出にくい一方、実務では最も費用対効果が高い工夫です。
仕上げに、建築従事者向けの判断フレームを表で置きます(現場での説明にも転用しやすいです)。
| 現場条件 | 「最強」寄りの考え方 | 落とし穴 |
|---|---|---|
| ブラスト可能(Sa2 1/2相当) | ジンクリッチ+エポキシ多層で重防食を組む | 処理後の放置でフラッシュラスト→性能低下 |
| ケレン中心(部分補修) | 変性エポキシ系で密着・補修性を優先 | 粉じん・油分残りで密着不良→点錆 |
| 異種素材が混在(付帯部) | 素材適応の広い下塗りで統一し、上塗りを揃える | 素材ごとに下塗りを変えすぎて管理不能 |
| 海沿い・凍結防止剤の影響 | 塩分・水の侵入経路を潰す(素地+膜厚+エッジ) | 「製品が最強だから大丈夫」で工程が甘くなる |
最後に、現場でそのまま使えるチェック項目を置きます。