

災害対応は「現場の頑張り」だけでは回りません。特に大規模災害では、複数省庁・自治体・指定公共機関・民間企業が同時に動き、誰が何を決め、どこへ指示を落とすかが曖昧だと、復旧の着手が遅れます。そこで今回の改正の目玉として、内閣府に次官級相当の「防災監」を置き、国の司令塔機能を明確化する方向が示されています。
内閣府に「防災監」新設の概要(改正案の柱)
建築・建設の実務に置き換えると、「発災直後に、どのルートで要請が来るのか」「どの様式で、何を、いつまでに返すのか」が変わり得ます。行政からの応急危険度判定、仮設・応急修理、復旧工事の調整は、従来も災害対策本部や自治体の危機管理部門が担ってきましたが、国側の調整が強化されると、自治体の動きも標準化・高速化しやすくなります。つまり、企業側は“その速さに追随できる体制”が必要です。
具体的には、次の「連絡・合意形成」を事前に作るほど、現場の混乱が減ります。
意外と盲点なのは、「行政の司令塔が明確になるほど、民間側の“回答責任”も重くなる」点です。要請に対して「できる/できない」を早く返すほど、全体最適の組み替えが可能になります。つまりBCPは“社内向け”だけではなく、“行政・地域の調整に乗るための仕様書”としての側面が強まります。
近年の改正議論では、避難所を「寝る場所」ではなく「生活の場」として扱う方向がより鮮明です。被災者支援の充実、広域避難の円滑化、支援の担い手を増やす制度などが論点として整理され、災害対応を“場所の支援から人の支援へ”寄せる考え方が強調されています。
改正の背景と被災者支援・広域避難の論点整理
建築従事者にとって重要なのは、「避難所の性能要件」が実質的に上がることです。例えば、福祉的支援が前提になると、段差・動線・トイレ・プライバシー確保・換気・暑さ寒さ対策・充電や通信といった要素が、単なる“あると良い”から“運用上不可欠”へ移ります。すると、自治体が公共施設の改修や備蓄(間仕切り、簡易ベッド、衛生設備等)を進める局面で、建築側の提案領域が広がります。
実務に落とすと、設計・施工・維持管理それぞれで次の観点が効きます。
また、広域避難が円滑化されると、被災地外の施設が“受け入れ側避難所”になるケースが増えます。つまり、災害が起きていない地域の建築担当者でも、避難所運用や施設改修の相談が突然来る可能性があります。BCPは「自社拠点が被災した場合」だけでなく、「自社地域が受け入れ側になった場合」のシナリオも入れると、上司・発注者からの評価が上がりやすいです。
改正の柱には、インフラ復旧・復興の迅速化が含まれ、水道復旧の迅速化、宅地の耐震化(液状化対策)推進、復興拠点整備のための都市計画の特例など、復旧から復興への移行を早める発想が見えます。
復旧・復興の迅速化(インフラ・宅地・都市計画特例の論点)
また、令和7年改正として「災害対策基本法等の一部を改正する法律(令和7年法律第51号)」が公布され、施行日も示されています。
令和7年法律第51号(公布日・施行日)
建築・建設の現場では、「応急対応」と「復旧工事」が連続して起こり、しかも人員・資材は有限です。ここで差が出るのが、“復旧の初動”を速くするための事前合意です。行政が復興計画や復興拠点を急ぐほど、測量・調査・設計・許認可・施工の順番も圧縮されます。すると、通常案件と同じ段取りでは間に合いません。
この局面で、企業が準備すべきは「供給制約を前提にした施工計画」です。次のように、平時の計画を災害モードへ切り替える仕組みを用意します。
見落とされがちですが、復旧迅速化の議論が進むほど「現場の情報整備(被害台帳、写真、位置情報、優先順位)」の品質が問われます。施工が速くても、根拠資料が追いつかなければ、後工程(補助金、保険、監査、精算)で詰まります。建築側で、発災時の記録ルール(撮影角度、スケール、位置情報、時刻)を統一しておくと、結果的に復旧全体が速くなります。
災害対策基本法では、公共的機関や公益的事業を営む法人のうち、防災行政上重要な役割を持つものを「指定公共機関」として内閣総理大臣が指定する枠組みがあります。
指定公共機関の定義(災害対策基本法第2条第5号)
建設業そのものが直ちに指定公共機関になるケースは多くありませんが、指定公共機関(電力・ガス・通信・交通など)の復旧工事に建設会社が関与することは日常的です。ここが重要で、指定公共機関が「防災業務計画」に基づいて動くほど、発注の条件や優先順位、現場の安全条件が“計画に書いてある通り”になりやすい。つまり元請・下請の現場でも、相手方の計画思想に合わせた施工・報告ができるかがスピードを左右します。
建築従事者が押さえるべき実務ポイントは次の通りです。
参考として、災害対策基本法に基づく防災基本計画の文脈で、企業がBCPを策定・運用することの重要性が整理された資料もあります(建設業界向け)。
建設BCPガイドライン(BCPの概念と継続的改善)
検索上位の解説は「改正内容の要約」で終わりがちですが、建設現場で効く独自視点は“法改正を、図面と段取りに翻訳する”ことです。特に、被災者支援の充実や復旧迅速化が進むと、「避難所」「仮設」「復興拠点」の3つが同時並行で動きます。ここで現場が詰まる典型は、資材・人員ではなく「意思決定の順番」が崩れることです。
そこで、建築従事者向けに、改正ポイントを受けた“段取りの作り方”を提案します。
意外な効果があるのは、避難所の「音」と「光」の設計です。大部屋避難では照明が明るすぎると睡眠障害が増え、暗すぎると転倒が増えます。また、音が反響する空間はストレスが増し、トラブルが増えます。これは法律条文そのものではなく“人の支援”を実現するための設計配慮ですが、改正の思想と整合します。建築従事者がここまで踏み込むと、単なる法令解説では出せない価値になり、提案が採用されやすくなります。