サンドコンパクションパイル工法と液状化
サンドコンパクションパイル工法の要点
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実績No.1の液状化対策
振動を用いて地盤に砂杭を圧入し、密度を高めて液状化を確実に防止します。
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複合地盤の形成
砂杭による支持力強化と、周辺地盤の締固め効果を同時に得られる合理的な工法です。
🔇
環境配慮型への進化
従来の騒音・振動課題を解決した「静的締固め」技術も普及し、都市部での施工が可能です。
サンドコンパクションパイル工法の液状化防止の仕組みと原理
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サンドコンパクションパイル工法(SCP工法)は、日本国内において液状化対策として最も豊富な実績を持つ「締固め工法」の代表格です。この工法がなぜ液状化に対して強力な効果を発揮するのか、そのメカニズムは単に「地盤を硬くする」という言葉だけでは説明しきれない、土質力学的な複合効果に基づいています。
まず基本的な原理として、振動機(バイブロハンマ)を装着したケーシングパイプを地盤中に貫入し、パイプを通じて砂等の材料を地盤内に強制的に圧入します。このプロセスにおいて、以下の3つの物理的効果が同時に作用することで、液状化に対する抵抗力を劇的に向上させます。
相対密度の増大(締固め効果):
ケーシングの振動と砂の圧入により、緩い砂地盤の粒子配列が再構成され、間隙比(土粒子の隙間)が減少します。これにより相対密度(Dr)が上昇し、地震時の揺れに対しても粒子が移動しにくい安定した構造へと変化します。N値の目安としては、液状化対策において一般的にN値15〜20以上を確保することが目標とされますが、SCP工法ではさらに高い数値を安定して確保することが可能です。
水平土圧(K0値)の増大:
これが意外と見落とされがちな重要なポイントです。SCP工法では、地盤に砂杭を「割り込ませる」形で造成するため、周辺地盤に対して強力な水平方向の圧縮力が働きます。これにより、静止土圧係数(K0値)が増大します。液状化強度は拘束圧に依存するため、水平方向から強く締め付けられている地盤は、同じ密度であってもより液状化しにくくなります。
排水効果(圧密排水):
造成された砂杭自体が、地震時に発生する過剰間隙水圧を消散させる「ドレーン(排水路)」の役割を果たします。ただし、SCP工法の主目的はあくまで「締固め」にあるため、グラベルドレーン工法のように排水のみに依存するのではなく、締固めと排水のハイブリッド効果でリスクを低減させます。
これらの作用により、改良された地盤は「複合地盤」と呼ばれ、強度と排水性を兼ね備えた強固な基礎となります。
参考リンク:株式会社不動テトラ | 液状化対策の原理とSCP工法の位置づけに関する技術解説
※リンク先には、液状化対策の原理ごとの工事件数や改良体積のグラフがあり、SCP工法が締固め工法の主流であることが示されています。
サンドコンパクションパイル工法の液状化対策における特徴とメリット
SCP工法が長年にわたり信頼され続けている理由は、その汎用性の高さと確実性にあります。ここでは、現場視点でのメリットと、あまり知られていない材料活用の側面について解説します。
確実な改良効果と均一性:
薬液注入などの化学的改良とは異なり、物理的に材料を圧入するため、土質による改良効果のバラつきが極めて少ないのが特徴です。特に、土質が層状に変化している複雑な地盤であっても、砂杭の直径や打設ピッチを調整することで、計画通りの強度を均一に確保できます。
適用範囲の広さ(砂質土から粘性土まで):
液状化対策としての砂質土地盤の改良はもちろん、粘性土地盤における圧密沈下の促進やせん断強度の増加にも適用可能です。粘性土においては、置換率(地盤全体に対する砂杭の面積比)を高めることで、支持力を大幅に向上させることができます。
産業副産物の有効利用(意外なメリット):
近年注目されているのが、中詰め材料として「製鋼スラグ」や「再生砕石」「カキ殻」などを使用できる点です。特に製鋼スラグは、天然砂と比較して角張った形状をしているため、噛み合わせ効果(インターロッキング)が高く、より大きなせん断強度(内部摩擦角φの増大)が期待できます。これは環境負荷低減(SDGs)の観点からも、公共工事での評価ポイントとなります。
経済性と工期短縮:
深層混合処理工法(セメントミルクを使用する工法)と比較して、材料費が安価に済むケースが多く、大型施工機を使用するため施工スピードが非常に速いです。広大な埋立地や工場用地の造成においては、圧倒的なコストパフォーマンスを発揮します。
参考リンク:日本海工株式会社 | 陸上サンドコンパクションパイル工法の仕様と適用範囲
※リンク先には、標準杭径や仕様、中詰め材料にスラグ等が使用可能であるといった詳細なスペックが記載されています。
静的締固めサンドコンパクションパイル工法の液状化対応と環境配慮
従来のSCP工法には致命的な弱点がありました。それは「振動と騒音」です。バイブロハンマでケーシングを打ち込むため、住宅密集地や既設構造物の近接施工では採用が困難でした。この問題を解決し、独自の進化を遂げたのが「静的締固め(Static SCP)工法」です。これは検索上位の記事ではさらっと流されがちですが、現代の都市型工事では必須の知識です。
静的締固め工法(SAVE-SP工法、CPG工法など)の特徴:
回転圧入による無振動施工:
強制的な上下振動ではなく、ケーシングパイプを回転させながら、先端の特殊なヘッドで地盤を削りながら圧入します。これにより、周辺地盤への振動影響をほぼゼロに抑えることが可能です。
拡径制御による確実な締固め:
静的工法では、ケーシングを引き抜く際に、油圧ジャッキ等で強制的に砂を押し出し、杭径を拡大(拡径)させます。この「押し広げる力」が周辺地盤を静的に圧縮し、従来工法と同等以上の締固め効果を発揮します。
既設構造物直下への適用:
小型の施工機を用いることで、空頭制限のある場所や、営業中の工場の建屋近傍など、従来は施工不可能だったエリアでも液状化対策が可能になりました。
独自視点:静的工法における「マイルドな改良」の重要性
液状化対策において、地盤を硬くしすぎると、かえって地震動の短周期成分を増幅させ、建物へのダメージを大きくしてしまうリスク(剛性過多)があります。静的締固め工法は、砂の圧入量を細かくコントロールできるため、必要以上に地盤を硬くせず、液状化しないギリギリのラインで経済的に設計する「最適化改良」が容易である点も、設計者側から見た隠れたメリットと言えます。
参考リンク:株式会社エステック | 静的締固め地盤改良工法(SDP工法)の技術詳細
※リンク先には、低振動・低騒音のメカニズムと、静的エネルギーを使用した施工フローが詳しく図解されています。
サンドコンパクションパイル工法の液状化対策の施工手順と管理
SCP工法は、単に砂を入れれば良いというものではなく、厳密な「施工管理」が品質を左右します。特に「打戻し(うちもどし)」という独特の動作が重要です。ここでは、現場監督者が知っておくべき具体的な手順と管理ポイントを整理します。
施工手順(一般的フロー):
位置出し・セット:
施工機を所定の位置に据え付け、ケーシングパイプの垂直精度を確認します。
貫入(Driving):
バイブロハンマを作動させ、振動を用いながらケーシングを所定の深度(支持層など)まで貫入させます。この時、エアロックフィーダーを通じてケーシング内に砂が投入されます。
砂の排出・引抜き(Extraction):
所定深度に達したら、圧縮空気を送り込みながらケーシングを一定長(例:2.0m程度)引き抜きます。この際、ケーシング内の砂が地中に排出されます。
打戻し(Repress / Uchimodoshi):
これが最重要工程です。引き抜いた長さの半分程度(例:1.0m程度)、ケーシングを再度地中に貫入させます。この「打戻し」によって、排出された砂が強制的に拡径され、周囲の地盤を強力に締め固めます。
造成完了:
「引抜き」と「打戻し」を地表面まで繰り返すことで、連続した強固な砂杭が完成します。
ICT施工管理の導入(品質管理の深堀り):
最近の現場では、オペレーターの勘に頼らず、リアルタイムで施工データを監視するシステムが標準化されています。
深度計・流量計の連動: 砂の投入量とケーシングの深度を1秒単位で記録し、砂杭の直径が設計通り確保されているかをモニター画面で可視化します。
電流値管理: バイブロハンマの電流値の変化から、地盤の締まり具合(抵抗値)を推定し、不十分な場合は打戻し回数を増やすなどの自動制御が行われることもあります。
波形管理: 打設ごとの深度変化を波形として記録し、施工後の帳票として提出することで、不可視部分の品質を担保します。
参考リンク:土木学会 | 地盤改良工事の施工管理基準に関する文献
※リンク先はトップページですが、サイト内検索で「地盤改良 施工管理基準」等の文献を探すことで、詳細な許容誤差等の基準を確認できます。
サンドコンパクションパイル工法と他の液状化対策工法の比較
液状化対策を検討する際、SCP工法以外にも選択肢があります。現場の条件(コスト、環境、地盤条件)に最適な工法を選定するための比較指針をまとめます。
| 比較項目 |
サンドコンパクションパイル工法 (SCP) |
深層混合処理工法 (CDM) |
グラベルドレーン工法 (GD) |
| 原理 |
締固め(密度増大)+排水 |
固結(セメントによる地盤固化) |
排水(間隙水圧の消散) |
| 液状化防止効果 |
極めて高い(密度増大とK0効果) |
高い(地盤全体を固める) |
限定的(排水能力に依存) |
| 適用土質 |
砂質土、粘性土、腐植土など広範囲 |
粘性土、有機質土(砂質土も可) |
主に砂質土 |
| コスト |
安価~標準(材料が砂・スラグのため) |
標準~高価(セメント材が必要) |
比較的安価 |
| 施工速度 |
非常に速い |
標準 |
速い |
| 環境影響 |
振動・騒音が大きい(静的工法除く) |
排泥処理が必要、振動は少ない |
振動・騒音は中程度 |
| 懸念点 |
周辺地盤の隆起(ヒービング)への対策が必要 |
六価クロム溶出リスク、産業廃棄物の発生 |
細粒分による目詰まりリスク |
選定の決め手となるポイント:
広大な敷地でコスト優先なら: SCP工法一択です。材料費の安さとスピードが圧倒的です。
既設建物近くで変位を嫌うなら: 深層混合処理工法(格子状改良など)が選ばれます。SCPは地盤を押し広げるため、周辺地盤が隆起し、隣接構造物を持ち上げてしまうリスクがあるためです。
絶対に振動が出せない場合: 静的締固め(Static SCP)か、薬液注入工法になります。
工期が極端に短い場合: SCP工法の大型機による急速施工が最も有利です。
このように、単に「液状化を防ぐ」だけでなく、周辺環境への影響(振動・変位)とコストバランスを考慮して、最適な工法を選定する必要があります。SCP工法は、その歴史と改良技術の進化により、依然として液状化対策の「王道」としての地位を確立しています。
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打戻し施工によるサンドコンパクションパイル工法設計・施工マニュアル