

工場の会話で混乱が起きやすい原因は、「生産」と「製造」の守備範囲が重なりつつも同一ではない点にあります。一般的な整理としては、生産は“生活に必要な物資(広くはサービスも)を作り出す活動”を指し、製造は“原料に手を加えて製品にする加工”に焦点が当たります。つまり、工場で行う「製造」は「生産」の一部として説明されることが多いです。
一方で、行政や統計の世界では、言葉がさらに厳密に使われます。たとえば経済産業省の工業統計調査では、製造業を「主として新製品の製造加工を行う」などの条件で定義しており、ここでいう新製品は必ずしも完成品だけでなく、鋳放しの機械部品のようなものも含む、と説明されています。現場で「これは完成品じゃないから製造じゃない」と誤解しがちな部分ですが、統計・制度上は“半製品でも新製品の範囲に入り得る”という点が意外な落とし穴です。
さらに、賃加工(材料は支給され加工賃を受け取る形態)も、定義上は製造業として扱われるケースが示されています。設計部門や施工部門が「外注=製造ではない」と雑に切り捨てると、実務上の品質責任・トレーサビリティ責任が曖昧になりやすいので、用語の境界を最初に揃えておくことが重要です。
製造業(統計)に関する権威的な定義(新製品・卸売などの条件)の参考。
経済産業省「工業統計調査の用語について(製造業の定義)」
工場の実務で分かりやすい切り分けは、「製造=加工・組立・検査など“現物を変化させる工程”の中心」「生産=それを成立させる“前後も含む全体の流れ”」です。たとえば、材料調達、受入検査、製造計画、加工、組立、検査、梱包、出荷は、どれも“製品価値を成立させる連鎖”ですが、一般に「製造」と言うと加工・組立のイメージが強くなります。すると、調達遅延や段取り不備など、現場の遅れの原因が“製造外”として扱われ、改善が進まないことがあります。
ここで効くのが「工程」という視点です。JISの生産管理用語では、生産管理は需要予測から計画、実施、統制までを含む活動として説明され、工程管理は狭義の生産工程の統制として扱われます。現場で「製造が遅い」と言われたとき、実際には“工程設計(ライン編成・スケジューリング)”や“前工程の品質ばらつき”が原因であることも珍しくありません。言葉を「工程(プロセス)のどこが詰まっているか」に寄せると、責任追及ではなく改善議論に切り替えやすくなります。
また、建築従事者の視点では、工場製作(プレファブ、金物、配管ユニット等)と現場施工(建設)の境界がプロジェクトごとに揺れます。製造(工場)と施工(現場)の境目で、図面の版管理・検査基準・出荷判定がずれると、現場で“納まらない”“手戻り”に直結します。だからこそ、生産=工場内に閉じず、設計・調達・出荷・現場受入までを含めた一連として捉えるのが安全です。
生産管理・工程・JIS用語の参照(用語の定義が載る)。
JIS Z 8141:2001 生産管理用語(簡易閲覧)
「生産管理」と「工程管理」を混同すると、工場のKPI設計が壊れます。生産管理は、需要や納期に合わせて、人・物・設備・情報を使い、計画から統制までを回す“全体最適”の領域です。これに対して工程管理は、製造ライン(加工・組立など)の作業順序、段取り、進捗、停滞、仕掛の滞留を扱う“現場最適”の領域として理解すると整理しやすいです。
たとえば「納期遅れ」という同じ事象でも、原因が営業受注の変動・資材不足・外注遅延なら生産管理側の課題が大きいです。一方、チョコ停・段取り替えロス・不良多発で流れが止まるなら工程管理(現場の流れ設計や標準作業)の課題が中心になります。言葉を分けるメリットは、対策が“会議体・責任者・改善手段”に自然に紐づく点です。
建築関連の工場(鉄骨、建具、サッシ、設備ユニット等)では、図面変更が多く、手配・製作・検査の順序が乱れやすい傾向があります。ここで重要なのは、製造側だけを締め上げるのではなく、生産管理として「変更の凍結点(いつ確定するか)」「手配のリードタイム」「検査成績書の発行タイミング」まで含めて設計することです。結果として、現場の手戻りや追加費用の発生率が下がり、関係者の心理的負担も軽くなります。
意外に見落とされがちなのが、「品質管理」と「出荷」が“生産”には深く関係するのに、「製造」だけで語ると抜けやすい点です。製造現場は加工・組立が主戦場ですが、顧客に届く価値は“要求品質を満たした状態で出荷できること”で完成します。つまり、検査・試験・記録・梱包・出荷判定まで含めて設計しないと、現場の頑張りが納品不適合で無駄になり得ます。
経済産業省の用語説明には「製造品の出荷」についての扱いもあり、所有する原材料によって製造されたものの出荷をどう数えるか、などが示されています。統計の話に見えるのですが、実務では「出荷を“単なる物流”とみなすか、“品質保証の最後のゲート”とみなすか」で、工場の文化が変わります。出荷前に最終検査を置くのか、工程内品質で出荷検査を簡略化するのかは、生産(全体)設計の問題であり、単なる製造(加工)改善だけでは片付きません。
建築向け製品では、現場での受入検査・立会検査・ミルシート等の要求が絡むことが多いです。ここで「製造は終わったのに書類が揃わず出荷できない」という事態が起きると、工場内の稼働率は良くても、プロジェクト全体では遅延になります。出荷判定の条件(図面版、検査記録、是正の完了、梱包仕様)を、最初から生産管理の項目として明文化しておくと事故が減ります。
検索上位であまり語られにくい独自視点として、建築従事者が知っておくべきは「工場の生産と、建設の施工は、現場条件の不確実性の扱いが違う」点です。工場は工程を固定化しやすい一方、施工現場は天候・搬入制約・他職種干渉など変動が大きく、同じ“ものづくり”でも管理の設計思想が変わります。それでも、プレファブ化が進むほど、工場側に“施工の不確実性”が逆流し、製造だけの最適化では破綻しやすくなります。
ここで有効なのは、「製造(工場内の加工)」「生産(調達~出荷+現場受入まで)」に加えて、プロジェクトの“インターフェース管理”を生産の一部として扱うことです。具体的には、取合い寸法の責任分界、アンカー・スリーブ等の先行条件、仮置きスペース、搬入順序、現場での再加工可否を、生産計画の入力条件として固定します。これを曖昧にしたまま工場を回すと、納品時点で「付かない」「干渉する」「逃げがない」が発覚し、現場で“緊急加工=品質リスク”が増えます。
さらに、用語のズレが事故を生む例として、「生産=工場内の数量達成」「施工=現場での取り付け完了」という別KPIで走ると、工場は前倒しで大量出荷し、現場は置き場不足で荷崩れ・キズ・紛失が起きる、といった事態が起こり得ます。生産を“工場出荷”で終わらせず、“現場で価値が成立する地点”まで含めて捉えると、工場と施工の対立が減り、結果的に安全・品質・工期が安定します。