塑性加工(鍛造)の種類と建築部材への強度・選び方

塑性加工(鍛造)の種類と建築部材への強度・選び方

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塑性加工(鍛造)の基礎と建築部材への種類・強度・選び方

切削加工で作ったボルトは、鍛造で作ったボルトより疲労強度が最大1.5倍も低く、振動の多い建築現場での破断リスクが跳ね上がります。


この記事の3ポイント要約
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鍛造は「叩いて強くする」塑性加工

金属を圧力で変形させる塑性加工の一種。熱間・温間・冷間の3種類があり、建築部材の用途に応じて使い分けが必要です。

鋳造より疲労強度が40〜50%高い

鍛造品は内部の気泡(鋳巣)がなく、金属組織が緻密。アンカーボルトや建築金物には鍛造製の転造ねじが使われており、切削ねじ比で強度が最大1.5倍になります。

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建築現場での「鍛造品」を見抜く目が必要

アンカーボルト・高力ボルト・ホールダウン金物など、建築現場の重要接合部品の多くは鍛造(塑性加工)で作られています。材料・工法の選定ミスは強度不足に直結します。


塑性加工(鍛造)とは何か―基本の仕組みと鋳造との違い


塑性加工とは、金属に外力を加えて変形させ、その形状を永続的に保持させる加工技術の総称です。鍛造はその代表格で、英語では「Forging(フォージング)」と呼ばれ、文字通り「鍛えて造る」という意味を持ちます。


金属は一定の力(弾性限界)を超えた変形を受けると、力を取り除いても元の形には戻りません。これを「塑性変形」と呼び、鍛造はこの性質を最大限に活用した加工法です。ハンマーやプレス機で金属素材を圧縮・打撃することで、目的の形状に成形していきます。


よく混同される加工法として「鋳造(ちゅうぞう)」があります。鋳造は金属を一度溶かして型に流し込み、冷却して固める方法です。複雑な形状を一体成形できる反面、凝固時に内部に小さな気泡(鋳巣)が生じやすく、部品の強度にばらつきが出ることがあります。


鍛造では固体のまま圧力を加えるため、こうした気泡が発生しません。それどころか、加工によって内部の金属結晶が整列・微細化し、「加工硬化」が生じて素材本来の強度を超える性能を引き出せます。つまり鍛造は「材料を削らず、強くしながら成形する」加工法です。


建築業に関わる方に身近な例を挙げると、アンカーボルトねじ山は多くが「転造(てんぞう)」という塑性加工で作られています。これは材料を削ってねじ山を作る「切削ねじ」と異なり、金属の繊維組織(ファイバーフロー)を切断せずにねじ山に沿って流すため、疲労強度が切削品より最大1.5倍強くなることが知られています。


建築鉄骨構造技術支援協会(SASST)の資料によれば、構造用アンカーボルトのABR規格品(転造ねじ)は軸部降伏後に約20%の伸び性能を発揮するのに対し、切削ねじのABM規格品では約9%の伸びに留まります。この差は地震時の変形性能に直結する重要な数値です。


建築鉄骨構造技術支援協会(SASST):アンカーボルト構造解説(熱間鍛造ボルト頭部・転造ねじの技術資料)




つまり「鍛造か鋳造か」は、部品の耐久性と地震安全性にも直結するということです。


塑性加工(鍛造)の3種類―熱間・温間・冷間の特徴と使い分け

鍛造は加工時の温度によって大きく3種類に分類されます。建築部材の仕様を確認・選定する際に必ず押さえておきたいポイントです。


熱間鍛造(ねっかんたんぞう)は、鉄鋼材料であれば約1,100〜1,250℃という高温に加熱して行う加工です。金属が柔らかくなるため、大きな部品や複雑な形状にも対応しやすく、少ない設備負荷で大型品を成形できます。建設機械のブルドーザー部品や大型シャフト、鉄骨柱脚のアンカーボルト頭部など、建築・土木分野の大型部品に広く採用されています。ただし加熱・冷却時のスケール(酸化皮膜)が生じやすく、寸法精度は冷間鍛造に劣ります。


温間鍛造(おんかんたんぞう)は600〜850℃程度の中間温度で行います。熱間鍛造より熱収縮が小さく寸法精度が高い一方、冷間鍛造ほど精密ではありません。複雑形状や難加工材に対応しやすく、自動車部品のほか難削材を使う建設機械部品にも活用されます。


冷間鍛造(れいかんたんぞう)は常温(またはそれに近い温度)で行う加工で、3種類のなかで最も寸法精度・表面品質に優れています。金型の形状がそのまま製品に転写されるため、高精度な建築ボルト類や小型金物の量産に最適です。材料が硬い分、成形には大きな力が必要となり、金型の摩耗も課題になります。また製造できる部品のサイズには制限があります。


冷間鍛造が最も強度が高い、と思われがちですが実は一概にはいえません。冷間鍛造は寸法精度と表面品質に優れますが、大型の構造部品では熱間鍛造のほうが適しているケースも多いです。これが条件です。


建築現場での判断基準としては、下表のイメージが参考になります。




























種類 加工温度 主な特徴 建築での用途例
熱間鍛造 1,100〜1,250℃ 大型・複雑形状OK、精度やや低め アンカーボルト頭部、大型金物
温間鍛造 600〜850℃ 精度と成形性のバランス型 難加工材の建設機械部品
冷間鍛造 常温〜 高精度・高表面品質、小〜中型向き 高力ボルト、転造ねじ類




ニチダイ:鍛造とは?種類・メリット・鋳造との違いまで基礎からわかりやすく解説(熱間・温間・冷間の比較表あり)


塑性加工(鍛造)が建築部材の強度を高める理由―加工硬化と組織変化のメカニズム

鍛造がなぜ部品を強くするのか。その核心は「加工硬化(かこうこうか)」と「金属組織の緻密化」にあります。


金属の内部は、原子が規則正しく並んだ「結晶粒」の集まりです。圧力を加えて塑性変形させると、結晶の中に「転位(てんい)」という微細な欠陥が多数発生し、互いに絡み合って動きにくくなります。これが加工硬化の正体で、変形が進むほど材料が硬く強くなっていきます。


加えて、鍛造では圧力によって金属内部の気泡・空隙が押し潰されます。鋳造品には避けられない「鋳巣(いす)」と呼ばれる内部欠陥がありますが、鍛造品にはそれがありません。気泡がないということは、荷重をかけたときに応力が集中する起点が少ないということであり、これが疲労強度の大幅な向上につながります。


具体的な数値として、鍛造品は鋳造品と比べて疲労性能が40〜50%向上するという研究データもあります(simis-manufacturer調べ)。静的強度の差は小さくても、繰り返し荷重に対する耐久性は大きく異なります。建築物は地震・風・交通振動など繰り返し荷重を常に受け続けるため、この差は現場で非常に重要です。


さらに鍛造では、金属内部の繊維状組織(ファイバーフロー・鍛流線)が製品の形状に沿って流れます。切削加工ではこの繊維が断ち切られてしまうため、同じ材料から作った部品でも強度に差が生まれます。アンカーボルトの転造ねじが切削ねじより強い理由も、ここにあります。


建築用アンカーボルトメーカー協議会(JFMA):転造ねじと切削ねじの強度比較データ(ファイバーフロー・伸び性能の解説)


建築に関わる方が「転造ねじのアンカーボルトにはこだわる必要がある」と知っているだけで、施工後の品質管理や不具合リスクの低減につながります。これは使えそうです。


加工硬化は冷間鍛造でとくに顕著に現れますが、熱間鍛造では加熱によって加工硬化がリセットされる(回復・再結晶が起こる)ため、代わりに「再結晶による結晶粒微細化」が起こり、同様に強度が向上します。どちらの温度域であっても、鍛造という塑性加工は金属を強くする方向に働く点が重要です。


塑性加工(鍛造)の成形方法の種類―型鍛造・自由鍛造・回転鍛造

温度による分類とは別に、鍛造は成形の方法によっても分類されます。建築部材の発注・確認時に理解しておくと役立ちます。


型鍛造(かたたんぞう)は、上下一対の金型で素材を挟んで圧力をかける方法です。金型の形状がそのまま製品に転写されるため、複雑な形状でも高い精度で量産できます。初期の金型製作コストはかかりますが、生産数が増えるほど1個あたりのコストは下がります。建築用の標準ボルト類、ホールダウン金物、柱脚プレートの量産品などに広く使われています。


自由鍛造(じゆうたんぞう)は金型を使わず、作業台と工具の間で素材を叩いて成形する方法です。金型が不要なため小ロット・試作品・大型品に適していますが、寸法のばらつきが出やすく精度は型鍛造より劣ります。大型橋梁や船舶のシャフト類、特注の重量鋼材など、一品もの・大型品の加工に向いています。


回転鍛造(かいてんたんぞう)は、材料または金型を回転させながら局所的に圧力をかける方法です。一度に全体を変形させないため装置への負荷が小さく、リング状・円筒状の部品や均一な肉厚が求められる部品に適しています。建設機械や橋梁部品のフランジ類などに使われる場合があります。


型鍛造が基本です。


建築現場で最も目にする機会が多いのは型鍛造品です。アンカーボルトのL字フック形状(ABR規格のねじ込み式)、六角頭部を持つ高力ボルト、ホールダウン金物のナット・座金類など、金型を使って大量生産された部品が建物の骨格を支えています。これらは規格品として品質が保証されていますが、施工時にはJIS B 1220などの規格品であることを確認することが基本の管理です。


キーエンス:鍛造の種類と変形方法(据え込み・押し出し・型鍛造・自由鍛造を図解)


建築従事者が見落としがちな塑性加工(鍛造)の独自視点―「鍛造品かどうか」を現場でどう判断するか

建築現場では日々多くの金属部品を扱いますが、「これは鍛造製か鋳造製か」を意識して確認している方は少ないのではないでしょうか。実は、この見極めが施工品質と長期耐久性に直結しています。


外見だけで100%判別することは難しいですが、いくつかの目安があります。鋳造品の表面には鋳型の合わせ目に沿った「パーティングライン(型割り線)」が残ることが多く、表面が比較的ざらついていることがあります。一方、鍛造品の表面は全体的に均一で締まった印象があり、冷間鍛造品はとくに滑らかな光沢があります。


より確実なのは製品の規格・仕様書を確認することです。建築用構造アンカーボルトであれば、JIS B 1220「構造用両ねじアンカーボルトセット」の規格対応品であるかを確認しましょう。ABR規格品(転造ねじ)とABM規格品(切削ねじ)の区別がそのまま工法・強度区分の違いに繋がります。


建築金物を調達する際に「安いから」という理由だけで鋳造品・切削ねじ品を選ぶのはリスクがあります。地震が多い日本では繰り返し荷重への耐久性が最重要なのに、疲労強度の低い部品を使ってしまうと、接合部が想定より早期に損傷するおそれがあります。塑性加工(鍛造)で作られた規格品を選ぶことは、コスト以上のメリットをもたらします。


また、転造ねじ・鍛造品の採用は「材料ロスが少ない」という環境面でのメリットもあります。切削加工では削り出した金属くずが廃棄物となりますが、鍛造は素材を変形させるだけなので廃材がほぼ出ません。SDGsや建設廃棄物削減の観点からも、鍛造品の採用は今後さらに注目される視点です。これはいいことですね。


現場での実践的な確認ポイントをまとめると次のとおりです。



  • 📋 アンカーボルトはJIS B 1220対応品か確認する(ABR=転造ねじ、ABM=切削ねじの区分を把握する)

  • 🔍 仕様書に「鍛造品」「転造ねじ」の明記があるか確認する

  • ⚠️ 設計図書で指定されている規格(ABR/ABM)と現場搬入品が一致しているか照合する

  • 📐 高力ボルトはJIS B 1186(F10T、F8T)などの認定品であることを確認する

  • 🔩 ホールダウン金物の認定番号・仕様が建築確認申請時の仕様と一致しているか確認する


鍛造製かどうかを確認する習慣が、建物の長期安全性を守る第一歩です。


日本建設連合会:転造ねじと切削ねじの違い・強度に関するQ&A資料(鉄骨工事技術Q&A)




鍛造 - 目指すは高機能ネットシェイプ - (新塑性加工技術シリーズ 9)