

プラズマ溶接とTIG溶接、見た目は似ていても溶接コストが約9倍も変わります。
プラズマ溶接(Plasma Arc Welding:PAW)は、タングステン電極を使う点ではTIG溶接と同じです。しかし、決定的な違いはトーチのノズル構造にあります。通常のTIG溶接では電極から母材へ直接アークが飛びますが、プラズマ溶接は水冷された銅製ノズルの中心にある小さな孔にアークを通過させ、そこで「拘束」する仕組みになっています。
この拘束によって何が起きるのか、というところがポイントです。アークが細く集中するため、エネルギー密度がTIG溶接よりも格段に高くなります。温度は最高で約2万℃以上に達し、溶融部への熱集中が非常に鋭く、溶け込みが深く・幅が狭いビードが得られます。つまり、深くて細いアークが特徴です。
また、プラズマ溶接ではトーチに3種類のガスが使われています。
| ガスの種類 | 役割 | 主な使用ガス |
|---|---|---|
| プラズマガス | アークを発生・集中させる | アルゴン(Ar) |
| シールドガス | 溶接部の酸化を防ぐ | Ar、ArとH₂の混合など |
| パイロットアーク用ガス | アークスタートを補助する | 少量のアルゴン |
このうち特に重要なのがシールドガスです。ステンレス溶接では、溶融した金属が空気中の酸素や窒素と反応すると酸化・窒化が起き、耐食性が著しく低下します。アルゴン100%または水素(H₂)を数%混合したアルゴンガスを使うことで、溶接部をしっかり保護できます。シールドガスの選定は品質直結です。
もうひとつ知っておきたいのが、プラズマ溶接には「ナメ付け溶接」と「キーホール溶接」の2モードがある点です。プラズマガスの流量を少なくするとTIG溶接に近いナメ付け状態になり、流量を増やすと母材を貫通するキーホール溶接になります。この切り替えひとつで対応板厚の幅が大きく広がる、というのはあまり知られていない点でしょう。
日本溶接情報センター:プラズマ溶接とTIG溶接の特性比較(専門家向けQ&A)
通常、ステンレスの厚板(6mm以上)を溶接する場合、TIG溶接やMIG溶接では開先加工が必要です。V形やU形に板端を削り出してから複数パスで溶接するのが一般的な手順で、この開先加工工程だけでも時間と費用がかかります。しかしプラズマ溶接のキーホール溶接では、開先なしのI形突合せのまま片面1パスで完全溶け込み溶接(フルペネ)が可能です。開先加工が不要というのは現場にとって大きなメリットです。
具体的な板厚の目安を以下にまとめます。
| 材料 | キーホール溶接の適用板厚 | ナメ付け溶接 |
|---|---|---|
| SUS(ステンレス) | 3~9mm | 0.1~3mm |
| SS(軟鋼) | 3~6mm | 0.1~3mm |
SUS9mmを超えると、キーホール溶接単独での対応は難しくなりますが、ルート部にキーホール溶接を使い、残りを余盛溶接(MIG溶接やサブマージアーク溶接など)で補う複合工法が活用されています。たとえばY形開先のルート部6mmをプラズマで片面溶接し、上部の余盛をMIG溶接で行うという手順です。これによって開先あり厚板でも溶接パス数を大幅に減らすことができます。
ひずみが少ない点も大きな特長です。TIG溶接で4パスかける工程がプラズマ溶接では1パスで済むため、熱の入力総量が大幅に少なくなります。ステンレスは熱膨張率が高く、溶接ひずみが発生しやすい素材です。パス数を減らすことは、後工程のひずみ取り作業を削減または省略できることを意味し、トータルの施工コストに直結します。
つまり開先コスト+パス数コスト+ひずみ取りコストが一気に減るということですね。
建築の外装材や手すり、厨房機器の架台など、仕上がりの美観が求められるステンレス部品の溶接に、この特性は特に有効です。
日鉄溶接工業:キーホール溶接の原理・板厚適用範囲・コスト比較表(権威ある技術資料)
建築業に携わる方の多くが「プラズマ溶接は設備が高そう」という印象を持っています。確かに初期投資はかかりますが、ランニングコストで逆転することが多く、この点を正しく理解しておくことが重要です。
日鉄溶接工業が公開しているSUS304・板厚6mmの突合せ溶接1mあたりのコスト比較データが非常に参考になります。
| 溶接方法 | 1mあたりコスト | 所要時間(1m) | 溶接パス数 |
|---|---|---|---|
| プラズマ溶接 | 224円 | 約3.6分 | 1パス |
| MIG溶接 | 約1,027円(約4.6倍) | 約5分 | 2パス |
| TIG溶接 | 約1,943円(約8.7倍) | 約20分 | 3パス |
注目すべきは所要時間の差です。TIG溶接で20分かかる溶接が、プラズマ溶接では3.6分で完了します。これは約5.5倍の速度差になります。現場で1日に行う溶接長が長くなるほど、この時間差が積み上がり、作業者の人件費にも大きく影響します。
さらに、この比較にはMIG溶接でのスパッタ除去やスラグ清掃、ひずみ矯正の時間は含まれていません。実態はさらにコスト差が広がると考えられます。これは意外ですね。
プラズマ溶接では溶接後のスパッタ取り、スラグ処理が一切不要です。スパッタ防止剤の塗布工程もなく、ビードの余盛量をコントロールしやすいためビードカットの工数も削減できます。後工程も含めたトータルコストで判断することが、プラズマ溶接導入のポイントです。これが原則です。
ただし、プラズマ溶接機本体はTIG溶接機よりも構造が複雑なため、初期購入費用は高めです。また、消耗部品(ノズル、電極など)の点検・交換頻度もTIGより高い傾向があります。ランニングコストの内訳も把握した上で比較検討するとよいでしょう。
プラズマ溶接はTIG溶接よりもアークのエネルギー密度が高く、発生するアーク光も強烈です。遮光度番号の選定を間違えると、溶接後の夕方から翌朝にかけて激しい目の痛みと涙が止まらない「電気性眼炎(アーク眼炎)」が現れます。これは紫外線角膜炎とも呼ばれ、日中の作業中は症状が出にくいため、気づかないうちに目にダメージが蓄積します。遮光度番号の選定を誤ると翌朝に激痛が出ます。
プラズマ溶接に使用する遮光面は、使用電流に応じて以下を目安としてください。
| 電流範囲 | 推奨遮光度番号 |
|---|---|
| 〜100A未満 | 9〜11番 |
| 100〜200A程度 | 11〜12番 |
| 200A〜 | 12〜13番 |
TIG溶接では通常9〜11番を使う作業者も多いですが、プラズマ溶接では同じ電流でも1〜2番上の遮光度番号を選ぶのが安全です。自動遮光面(液晶フィルタ式)の活用も推奨されます。これは必須です。
また、プラズマ溶接で見落とされがちな危険が「高周波アーク点弧」です。パイロットアークを発生させるために高周波電流が瞬間的に流れます。ペースメーカーを使用している作業者は、プラズマ溶接機から一定距離を保つよう産業医・主治医に相談してください。
換気についても注意が必要です。ステンレスを溶接すると、クロムやニッケル由来の溶接ヒュームが発生します。特にクロムは六価クロムとして発生することがあり、2022年4月から強化された特定化学物質障害予防規則(特化則)の対象です。法令上、金属アーク溶接作業では有効な呼吸用保護具(防じんマスク)の着用が義務付けられています。単純なガーゼマスクでは法令違反になる点に注意が必要です。
保護具は「遮光面・防じんマスク・溶接用革手袋・革製前掛け」の4点セットが基本と考えてください。これだけ覚えておけばOKです。
日本建設業連合会:工事現場溶接におけるアーク光障害と遮光度番号選定の目安(建設業向けQ&A資料)
プラズマ溶接が「難しい」と言われる最大の理由は、セッティングパラメータがTIG溶接より多い点にあります。電流値・溶接速度だけでなく、プラズマガス流量・シールドガス流量・ノズル口径・スタンドオフ(トーチ先端と母材の距離)を適切に管理しなければなりません。どこか一つでもズレると品質が大きく崩れます。
特に狙い位置のズレに対してシビアな点は現場で体感して初めてわかります。TIG溶接ではトーチが数mm横にぶれても比較的ビードは安定しますが、プラズマ溶接では集中したアークの性質上、継手への狙い精度が厳しく要求されます。継手精度が悪いと溶接欠陥に直結するため、治具による母材の固定とガイドレールの活用を強く推奨します。
現場でよく起きる失敗と原因を以下に整理します。
初めてプラズマ溶接を導入する現場では、まずテストピース(実際と同じ板厚・材質)で条件出しを十分に行うことが大切です。条件出しの時間を惜しんで本番溶接を行うと、後工程での補修コストが膨らみます。条件出しが品質の鍵です。
プラズマ溶接機のメーカー(ダイヘン・日鉄溶接工業など)には技術サポート窓口が用意されていることが多く、導入初期は積極的に相談することをおすすめします。また溶接条件の管理には、溶接パラメータを記録できる溶接管理ソフトやデータロガーを組み合わせると、品質トレーサビリティが確保でき、施主や元請けへの説明資料としても活用できます。
川口液化ケミカル株式会社:ステンレスのプラズマ溶接の特徴と各種継手への適用性(ガスの専門商社による解説)

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