宅地造成等規制法と建築許可の規制区域内工事

宅地造成等規制法と建築許可の規制区域内工事

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宅地造成等規制法と建築工事の規制

宅地造成等規制法の基本
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目的

宅地造成に伴う崖崩れや土砂流出による災害を防止し、国民の生命・財産を保護すること

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対象となる工事

一定規模以上の切土・盛土工事や土地の形質変更を伴う宅地造成工事

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規制の内容

規制区域内での工事には都道府県知事等の許可が必要で、技術基準に適合する必要がある

宅地造成等規制法の概要と規制区域の指定基準

宅地造成等規制法は、1961年(昭和36年)に全国的な梅雨前線豪雨による崖崩れや土砂流出の災害を契機として制定されました。当時、急速な都市化に伴い丘陵地などでの宅地開発が進み、適切な規制がないまま造成工事が行われていたことが大きな被害につながったのです。

 

この法律の主な目的は、宅地造成に伴う崖崩れや土砂の流出による災害を防止するため、宅地造成工事に必要な規制を行うことです。特に注目すべきは、この法律における「宅地」の定義です。一般的に考える居住用の土地だけでなく、農地・採草放牧地・森林・公共施設用地以外の土地を指し、登記簿上の地目とは関係ありません。

 

宅地造成工事規制区域は、都道府県知事等が以下の条件を満たす区域を指定します。

  1. 宅地造成に伴い災害が生じるおそれが大きい市街地または市街地となろうとする土地の区域
  2. 宅地造成に関する工事について規制を行う必要がある区域

規制区域の指定状況は自治体によって異なりますが、例えば静岡県では6市3町で合計359.93平方キロメートルが指定されています。各自治体のホームページで規制区域図を確認することができます。

 

2021年の静岡県熱海市での土石流災害を受け、2022年に法改正が行われ、「宅地造成及び特定盛土等規制法(通称:盛土規制法)」として2023年5月に施行されました。この改正により、従来の宅地造成だけでなく、農地や森林、土砂の一時的な堆積等も規制対象となりました。

 

宅地造成等規制法における許可が必要な建築工事の条件

宅地造成工事規制区域内で建築工事を行う場合、以下の条件に該当する工事には都道府県知事(または政令指定都市等では市長)の許可が必要です。

  1. 切土による工事:高さ2メートルを超える崖ができる切土工事
  2. 盛土による工事:高さ1メートルを超える崖ができる盛土工事
  3. 切土と盛土の複合工事:盛土部分に高さ1メートル以下の崖が生じ、かつ切土と盛土を合わせた部分に高さ2メートルを超える崖ができる工事
  4. 面積要件:上記に該当しなくても、切土または盛土を行う土地の面積が500平方メートルを超える工事

ここで重要なのは「崖」の定義です。法律上、地表面が水平面に対して30度を超える角度をなす土地を「崖」と定義しています。これらの崖は、法律で定められた技術基準に適合する擁壁で覆う必要があります。

 

許可申請の手続きは、通常、正本1部と副本2〜3部(申請地面積によって異なる)を市町村経由で都道府県知事等に提出します。申請書には、設計図書や地盤調査結果など必要な書類を添付する必要があります。

 

また、都市計画法による開発許可を受けた宅地造成工事については、あらためて宅地造成等規制法による許可を受ける必要はありません。これは二重規制を避けるための措置です。

 

宅地造成等規制法の技術基準と擁壁設置の要件

宅地造成等規制法では、安全な宅地造成を確保するために詳細な技術基準が定められています。特に重要なのが擁壁の設置に関する基準です。

 

擁壁設置が必要となるケース。

  • 切土により生じる高さ2メートルを超える崖
  • 盛土により生じる高さ1メートルを超える崖
  • 切土と盛土を合わせて高さ2メートルを超える崖

ただし、切土により生じた崖については、以下の場合は擁壁の設置が免除されることがあります。

  • 土質が岩盤や固結した土で、崩壊のおそれがない場合
  • 土質が風化の少ない岩で、勾配が60度以下の場合
  • 土質が風化の著しい岩や砂利・真砂土・関東ローム等で、勾配が40度以下の場合
  • 土質が粘土・その他の土で、勾配が30度以下の場合

擁壁の構造については、建築基準法施行令第142条の規定が適用されます。擁壁は、鉄筋コンクリート造、無筋コンクリート造、練積み造などの構造とし、土圧、水圧、自重などに対して安全な構造である必要があります。

 

また、擁壁の基礎については、良好な地盤に設け、基礎の根入れ深さは擁壁の高さの1/5以上(最小30cm)とすることが求められています。擁壁の裏面には、水抜き穴を設けて排水を確保することも重要です。

 

地盤の安定性に関しても、盛土の場合は地盤の滑動や沈下を防止するために、盛土の高さや勾配、締固め方法などについての基準が設けられています。特に、盛土の締固めは十分に行い、必要に応じて地下水排除工を設置することが求められます。

 

宅地造成等規制法における工事完了検査と検査済証の重要性

宅地造成等規制法に基づく許可を受けた工事が完了した際には、工事完了検査を受ける必要があります。この検査は非常に重要で、検査に合格しない限り、その宅地を使用することができません。

 

工事完了検査の流れは以下の通りです。

  1. 工事完了後、完了検査申請書を提出
  2. 都道府県知事等による現地検査の実施
  3. 技術基準に適合していると認められた場合、検査済証の交付
  4. 検査済証の交付を受けた後、宅地の使用が可能に

検査済証は、その宅地が法律の技術基準に適合していることを証明する重要な書類です。中古物件を購入する際にも、この検査済証の有無を確認することが重要です。検査済証がない場合、違法な造成工事が行われた可能性があり、将来的に改善命令を受けるリスクがあります。

 

特に注意すべきは、検査済証と現況が一致しているかどうかです。検査後に無許可で改変が行われていないか確認することも大切です。例えば、擁壁の撤去や変更、排水設備の改変などが行われていると、安全性に問題が生じる可能性があります。

 

また、宅地造成工事規制区域内の宅地所有者等には、その宅地を常時安全な状態に維持する義務(宅地保全義務)があります。所有者等がこの義務を果たさず、危険な状態となっている宅地については、都道府県知事等が適正な防災措置をとることを勧告または命令することができます。

 

このような防災工事を行う場合、住宅金融支援機構から「宅地防災工事資金融資」を受けることも可能です。これは、がけ崩れ等の災害を生じるおそれが著しい区域内において、災害の発生を防止するための工事に要する資金の貸付制度です。

 

宅地造成等規制法の改正による盛土規制法への変更点と建築実務への影響

2021年7月に静岡県熱海市で発生した大規模な盛土崩落災害を契機として、宅地造成等規制法は抜本的な改正が行われました。2022年5月に「宅地造成及び特定盛土等規制法(通称:盛土規制法)」として改正され、2023年5月に施行されました。この改正は建築実務に大きな影響を与えています。

 

主な変更点は以下の通りです。

  1. 規制対象の拡大:従来は宅地造成工事のみが対象でしたが、改正後は農地や森林、土砂の一時的な堆積等も規制対象となりました。これにより、土地の用途に関わらず危険な盛土等を包括的に規制することが可能になりました。
  2. 規制区域の再編:従来の「宅地造成工事規制区域」に加え、「特定盛土等規制区域」が新設されました。都道府県知事等は基本方針に基づき、基礎調査の結果を踏まえて区域を指定します。
  3. 経過措置の設定:改正法附則第2条第1項により、改正前の宅地造成等規制法に基づく宅地造成工事規制区域内においては、改正法の施行日から2年を経過する日(または新規制区域指定の公示日の前日)までは、改正前の法律による規制が適用されます。
  4. 技術基準の強化:盛土の安全性確保のため、技術基準が強化されました。特に、盛土の締固め方法や排水設備の設置などについて、より厳格な基準が設けられています。

建築実務への影響としては、以下の点が挙げられます。

  • 許可申請の増加:規制対象が拡大したことにより、これまで規制対象外だった工事も許可申請が必要になるケースが増えました。
  • 調査・設計の負担増:技術基準の強化に伴い、地盤調査や設計の負担が増加しています。
  • 工期・コストへの影響:許可手続きや技術基準への適合のため、工期の長期化やコストの増加が見込まれます。
  • 既存不適格物件の取扱い:法改正前に造成された宅地で、現行基準に適合しない物件(既存不適格)の取扱いが課題となっています。

建築従事者は、この法改正の内容を十分に理解し、適切な対応を取ることが求められます。特に、規制区域内での工事計画がある場合は、早めに自治体に相談し、必要な手続きや技術基準について確認することが重要です。

 

また、建築主に対しても、法改正の内容や必要な手続きについて適切に説明し、理解を得ることが大切です。法令遵守は安全な建築物を提供するための基本であり、建築従事者の責務と言えるでしょう。

 

国土交通省による宅地造成等規制法(盛土規制法)の概要と施行状況の詳細情報
宅地造成等規制法は、安全な宅地造成と災害防止のための重要な法律です。建築従事者にとって、この法律の理解と遵守は、安全な建築物を提供するための基本となります。特に規制区域内での工事を計画する際には、事前に自治体に相談し、必要な手続きや技術基準について確認することが大切です。

 

また、中古物件の取引に関わる場合も、その物件が宅地造成工事規制区域内にあるかどうか、検査済証が交付されているかどうかを確認することが重要です。これにより、将来的な問題を未然に防ぐことができます。

 

法改正により規制が強化されていますが、これは安全な国土づくりのための必要な措置です。建築従事者は、これらの規制を単なる制約と捉えるのではなく、安全な建築物を提供するための指針として活用することが求められています。

 

最後に、宅地造成等規制法に関する情報は定期的に更新されるため、常に最新の情報を入手し、適切に対応することが重要です。各自治体のホームページや国土交通省のウェブサイトなどを定期的にチェックし、情報を更新することをお勧めします。