透過型電子顕微鏡と走査型電子顕微鏡の違いと建築での使い分け

透過型電子顕微鏡と走査型電子顕微鏡の違いと建築での使い分け

記事内に広告を含む場合があります。

透過型電子顕微鏡と走査型電子顕微鏡の違いと建材解析での活用

SEMで「表面を見た」だけでは、アスベスト繊維の種類を完全には同定できず、見落としによる30万円以下の罰金リスクがあります。


🔬 この記事の3ポイント要約
📌
SEM(走査型)は「表面」、TEM(透過型)は「内部」を見る

SEMは試料の表面形状・組成の観察に特化し、TEMは試料内部の原子レベルの構造解析が得意。建築材料の解析でもこの違いが用途の分かれ道になります。

⚠️
アスベスト分析では「どちらを使うか」で精度が変わる

建築物の解体・改修工事では、石綿障害予防規則に基づく事前調査が義務。SEM法とTEM法では検出精度が異なり、用途に合った選択が法令遵守の鍵になります。

💡
分解能の数字を押さえると使い分けがわかりやすくなる

TEMの分解能は0.1〜0.3nm、SEMは0.5〜4nm。この差が「何を見るか」の選択基準になり、コンクリート劣化診断から繊維材同定まで幅広く関わります。


透過型電子顕微鏡(TEM)と走査型電子顕微鏡(SEM)の基本的な仕組みの違い


電子顕微鏡は大きく「透過型(TEM:Transmission Electron Microscope)」と「走査型(SEM:Scanning Electron Microscope)」の2種類に分類されます。どちらも光の代わりに電子線を使う点は共通ですが、観察の原理がまったく異なります。


TEMは、薄く加工した試料に電子線を「透過」させ、透過した電子をレンズで拡大して像を得る顕微鏡です。光学顕微鏡で言えば、スライドガラスの上に薄い標本を置いて光を透過させてみる方法と発想が似ています。試料の内部構造、結晶格子の配列、ナノ粒子の形状まで原子レベルで観察できるのが最大の強みです。


一方、SEMは細く絞った電子線を試料の表面に「走査(スキャン)」しながら当て、そこから放出される二次電子や反射電子を検出して表面の立体像を構築します。直感的には「表面をくまなくスキャンして凸凹の3D地図を作る」イメージです。倍率は数十倍から最大100万倍程度まで対応し、表面の微細な形状や組成の分布を幅広い倍率で観察できます。


つまり「内部を見るならTEM、表面を見るならSEM」が基本です。












































項目 透過型電子顕微鏡(TEM) 走査型電子顕微鏡(SEM)
観察対象 試料内部の構造 試料表面の形状・組成
電子線の使い方 試料を透過させる 試料表面を走査する
分解能 0.1〜0.3nm 0.5〜4nm
最大倍率の目安 5,000万倍超 100万倍程度
加速電圧の範囲 30〜300kV 1〜30kV
試料の厚さ要件 100nm未満に薄切り必須 基本的に制限なし
主な用途 結晶構造解析・内部欠陥観察 表面形態観察・元素分析(EDX)


電子顕微鏡の性能を語るうえで「分解能」という指標が重要です。分解能とは、隣り合う2点を分離して見分けられる最短距離のことで、数値が小さいほどより細かいものが見えます。TEMの分解能は0.1〜0.3nm(ナノメートル)、SEMは0.5〜4nmです。


「nm(ナノメートル)」はイメージしにくい単位ですが、髪の毛1本の直さが約70,000nmと考えると、0.1nmがいかに微細かわかります。TEMはその髪の毛を70万等分した幅まで見分けられる解像力を持っています。これが原因となり、TEM観察のためには試料を100nm未満の厚さに薄切り加工する工程が必要になります。


参考:電子顕微鏡の原理と特徴(一般社団法人 日本分析機器工業会)


https://www.jaima.or.jp/jp/analytical/basic/em/principle/


透過型電子顕微鏡(TEM)の分解能と試料作製の特徴

TEMが他の顕微鏡と一線を画す最大の特徴は、その圧倒的な分解能にあります。加速電圧300kVで動作するTEMでは、電子線の波長が約0.00197nmにまで短くなり、これは可視光線(400〜800nm)と比べると実に数十万分の1以下の短さです。この極短波長によって、結晶の原子配列をそのまま視覚化することが可能になります。


TEM観察で得られる倍率は最大で5,000万倍を超えることもあります。5,000万倍とは、1mmのものを50kmスケールで拡大するほどの解像力です。東京から名古屋の距離よりやや短い感覚で、どれほど細かいものを見ているかが伝わります。


高分解能が使えるということです。ただし、その高性能を引き出すためには、試料を100nm未満の厚さに薄切りする「薄片化加工」が必須です。これはFIB(集束イオンビーム)装置などを用いた精密な加工技術が必要で、試料作製に時間とコストがかかる点がデメリットになります。


さらに、TEMは試料の「断面の一部を見る」機器です。試料が本当にボール状の粒子なのか、それとも棒状のものを輪切りにした断面なのかは、像だけでは判断できません。東海電子顕微鏡解析の解説では、「切片として切り取られた一断面の見え方にすぎない」と明記されており、観察方向と試料形状を合わせて考える必要があることが示されています。


建築関連分野では、セメント水和物の結晶構造解析や、骨材とペーストの界面(ITZ:界面遷移層)のナノスケール観察にTEMが使われます。コンクリートの強度低下につながるアルカリシリカ反応(ASR)でもゲル生成のメカニズムをTEMで解明する研究が行われており、材料の深部にある損傷原因を突き止める際に欠かせないツールです。


参考:TEM・STEM解析技術(日本製鉄株式会社 技術開発本部 解析センター)


https://www.nstec.nipponsteel.com/technology/physical-analysis/observation/observation_03_tem.html


走査型電子顕微鏡(SEM)の表面観察と元素分析(EDX)の強み

SEMは試料表面を電子線で走査し、放出される「二次電子」と「反射電子」を検出して像を作ります。二次電子像は試料の凹凸(トポグラフィー)を鮮明に映し、反射電子像は構成元素の平均原子番号の違いをコントラストとして表示するため、重い元素(原子番号が大きい元素)の分布を一目で確認できます。


SEMが建築・土木分野で広く採用される理由として、試料の前処理が比較的容易なことが挙げられます。TEMが100nm未満の薄片化を必要とするのに対し、SEMでは試料をそのままの形か、適度な大きさに切り出して台にセットするだけで観察が始められます。コンクリートコアや建材の断片をそのまま持ち込んで分析できる点は、現場寄りの解析を行う建築業従事者にとって大きなメリットです。


SEMの使い方はそれだけではありません。SEMにEDX(エネルギー分散型X線分析)装置を組み合わせると、観察しながら同時に試料の元素分析が行えます。コンクリート劣化診断の場面では、SEM-EDSを用いてゲル状の析出物の元素組成(カルシウム・シリカ・アルミニウムの比率など)を調べることで、ASRや遅延エトリンガイト生成(DEF)などの劣化メカニズムを特定できます。これは使えそうです。


SEM観察の倍率は40倍から10万倍(用途によっては100万倍以上)まで柔軟に対応でき、鉄筋腐食産物の形態観察、塗装膜の剥離状況確認、仕上げ材表面の微細クラック観察など、幅広い建築材料の品質管理に活用されています。



  • 🔩 鉄筋腐食生成物(さびの結晶構造・元素組成)の観察

  • 🧱 コンクリート表面の微細クラックや空隙の形態確認

  • 🧪 SEM-EDXによるASR・DEFなどの劣化原因元素の特定

  • 🏗️ 溶接部・鋼材破断面の破壊形態解析(延性・脆性・疲労)

  • 🌡️ 断熱材耐火被覆材の材質確認


参考:コンクリートの劣化機構解明のためのSEM観察事例(国土交通省九州地方整備局)


https://www.jtccm.or.jp/sites/default/files/2025-07/kisochishiki_vol1-13_20250723.pdf


建築物のアスベスト分析でSEMとTEMをどう使い分けるか

建築業従事者にとって最も身近な「電子顕微鏡の使い分け」の場面が、アスベスト(石綿)の分析です。結論から言うと、SEM法とTEM法では検出できる繊維の細さと同定精度が異なり、用途に応じた使い分けが求められます。


厚生労働省が公表する「石綿則に基づく事前調査のアスベスト分析マニュアル(第2版)」では、電子顕微鏡によるアスベスト分析としてSEM(走査電子顕微鏡)を用いた定性分析法が採用されています。SEMにEDX(エネルギー分散型X線分析)を組み合わせたA-SEM法は、アスベスト繊維の形態(長さ・幅・アスペクト比)と元素組成を同時に確認できるため、建材中の石綿種類の同定に有効です。


SEMが使える場合は多いです。一方、空気中に浮遊するアスベスト繊維のモニタリングや、より細い繊維(直径0.1μm未満)の検出が必要な場面では、TEM法(A-TEM法)が用いられます。TEMはSEMより高い分解能を持つため、SEMでは見逃してしまうような極細の繊維まで検出・同定が可能です。帝人エコサイエンス株式会社は、TEM法によって「極微量のアスベストの有無が判定できる分析技術」を確立しており、SAED(制限視野電子回折)によって繊維の結晶構造を確認する手法を採用しています。


2023年10月1日より、建築物の解体・改修工事を行う際は「建築物石綿含有建材調査者」などの有資格者によるアスベスト事前調査が法令上の義務となっています。無資格者による分析は法令違反となり、30万円以下の罰金が科される可能性があります。分析をどの機関・手法に委託するかも含め、SEMとTEMの違いを正しく理解しておくことが、建築業従事者としての法令遵守につながります。



  • 📋 建材の定性分析(アスベストの有無・種類の特定)→ SEM-EDX(A-SEM法)が主流

  • 🌬️ 空気中の浮遊繊維・極細繊維の検出 → TEM(A-TEM法)が推奨される場合もある

  • ⚖️ JIS A 1481規格群に準拠した分析が法令上の基準


参考:石綿則に基づく事前調査のアスベスト分析マニュアル 第2版(厚生労働省)


https://www.mhlw.go.jp/content/000919437.pdf


参考:TEMによるアスベスト測定(帝人エコサイエンス株式会社)


https://www.teijin-eco.jp/product/analysis/analysis05.html


透過型・走査型電子顕微鏡の選び方:建築現場の実務で役立つ独自視点

建築現場や設計・施工管理の実務において、「どちらの電子顕微鏡を選ぶか」という判断は、分析会社への依頼の場面でも必ず問われます。実際、多くの建築業従事者は「電子顕微鏡に頼む」という判断まではできても、SEM依頼とTEM依頼で何が変わるのかまでは把握していないケースが少なくありません。ここでは、実務的な選択基準を整理します。


「何を知りたいか」が選択の出発点です。試料の「どんな表面形状をしているか」「どんな元素が含まれているか」を調べたいならSEM(SEM-EDX)が適切で、「内部にどんな結晶構造があるか」「原子配列に欠陥があるか」「繊維の結晶系を厳密に特定したいか」といった問いにはTEMが対応します。


コスト面での違いも見逃せません。TEMは試料薄片化の工程が必要なため、SEM分析より分析コストと時間がかかります。一般的にSEMによる観察・元素分析は数万円程度から受託している機関が多いのに対し、TEM分析は試料作製費を含めると費用が大きくなる傾向があります。アスベスト建材分析の委託先を選ぶ際は、分析方法(SEM法かTEM法か)と適用規格(JIS A1481の何部に準拠しているか)をあらかじめ確認することをおすすめします。


試料の状態も重要です。現場から採取した建材の塊や粉末サンプルは、そのままSEMで観察可能な場合が多いです。一方、TEMで観察するためには専用の前処理が必要なため、試料の採取方法や保存状態についても分析機関と事前に相談しておく必要があります。


近年注目されているのがSTEM(走査透過型電子顕微鏡)という第三の選択肢です。STEMはTEMの高分解能とSEMの走査機能を組み合わせた装置で、0.05〜0.2nm程度という極めて細い電子ビームスポットで試料を走査します。複数の検出器から異なるコントラストの像を同時に取得でき、元素分析の空間分解能もTEMより高い情報が得られます。建材や金属材料の先端研究では、このSTEMが標準的な分析手段になりつつあります。



  • 🔍 表面・組成を調べたい → SEM(+EDX):コストを抑えやすく建材の日常的な品質管理に向いている

  • ⚛️ 内部構造・結晶解析が必要 → TEM:試料作製が必要でコストは高めだが、原子レベルの情報を取得できる

  • 🧬 高精度な元素マッピングと構造解析を両立させたい → STEM:研究開発・材料開発用途での最先端オプション

  • 📦 分析委託前に確認すべき事項:適用規格(JIS A1481の部番)・試料前処理の要否・納期・費用


建築物の品質管理や法令対応の観点から見ると、「自分が委託している分析がSEM法とTEM法のどちらか」を把握しておくことは、分析結果の信頼性を正しく解釈するためにも重要です。特にアスベスト事前調査では、分析結果の判定根拠となる分析方法を発注者に報告する義務も生じているため、分析機関との連携において双方の理解が欠かせません。


参考:SEMとTEMの違い(一般社団法人 日本分析機器工業会 JAIMA)


https://www.jaima.or.jp/jp/analytical/basic/em/principle/


参考:アスベスト分析義務化の最新情報(2026年最新版)


https://www.cic-ct.co.jp/column/ishiwataall-column/ishiwataall-column-column29/




SKYBASIC Wifi デジタル顕微鏡 2MP 50-1000倍電子顕微鏡 拡大鏡 ポータブルハンドヘルド顕微鏡カメラマイクロスコープ 、8 LED 、iPhone、Android、iPad、Windows、Macコンピューターと互換性あり、肌チェック/回路基板修理/生物観察/楽しいホリデーギフト白