

建築物の資格を持っていても、工作物の調査は違法になります。
2026年1月1日、石綿障害予防規則の改正により、工作物の解体・改修工事においても「工作物石綿事前調査者」による事前調査が義務化されました。これは建築業に関わるすべての事業者にとって、無視できない重大な制度変更です。
そもそもアスベスト(石綿)は、1970〜80年代を中心に断熱材・耐火材・パッキン類として広く工業設備に使用されてきました。建築物への使用は2006年9月以降全面禁止となりましたが、それ以前に設置されたボイラーや配管設備、発電設備などには今も石綿含有材が残存しているケースが非常に多く、解体・改修時に粉じんが飛散すると中皮腫や肺がんといった重篤な健康被害を引き起こします。
建築物については、2023年10月1日から「建築物石綿含有建材調査者」による事前調査が義務化されていましたが、工作物への対応は遅れていました。工作物は配管・機械・プラント設備など構造が複雑で、目に見えにくい部位にアスベストが潜むリスクが高いにもかかわらず、専門知識を持たない担当者が経験則で判断してきたケースが後を絶たなかったからです。
そこで厚生労働省は工作物に特化した新資格「工作物石綿事前調査者」を創設し、2026年1月1日以降の着工工事からは有資格者による調査を義務付けました。これが原則です。
この改正の影響を受けるのは、建設会社・プラント工事会社・設備工事会社・解体業者など、工作物の工事を行うすべての事業者です。対応が遅れると工事停止や罰金という深刻なリスクに直結します。
参考:厚生労働省・工作物石綿事前調査者に関する公式情報
https://www.ishiwata.mhlw.go.jp/investigator-structures
「工作物」という言葉は聞き慣れない方も多いかもしれません。法律上の定義を正確に理解しておくことが、現場でのミスを防ぐ第一歩です。
石綿障害予防規則において「建築物」とは屋根・柱・壁を持つ建物とその建築設備(給排水・換気・暖冷房設備など)を指します。一方、「工作物」はそれ以外のもの——土地・建築物・工作物に設置されているすべての人工構造物を指します。
ここで多くの現場担当者が驚くのが、「建築物の中に設置されているものでも工作物になる」という点です。たとえば建物内に設置されたボイラー、非常用発電設備、エレベーターのかご部分は、石綿法令上は「工作物」として扱われます。建築物の中にあるからといって、建築物調査の資格で対応できるわけではありません。
つまり、建築物ということですね。
| 区分 | 具体例 | 必要な調査資格 |
|---|---|---|
| 建築物 | オフィスビル・マンション・工場棟・建築設備(空調・給排水など) | 建築物石綿含有建材調査者 |
| 特定工作物(群1) | 反応槽・加熱炉・ボイラー・配管設備・焼却設備・貯蔵設備・発電設備・変電設備・配電設備・送電設備(計10種) | 工作物石綿事前調査者のみ |
| 特定工作物(群2) | 煙突・トンネル天井板・プラットホーム上家・遮音壁・軽量盛土パネル・駅地下構造の壁/天井板・観光用エレベーター昇降路囲い(計7種) | 工作物石綿事前調査者または建築物石綿含有建材調査者 |
| その他の工作物 | 塗料・モルタル・コンクリート補修材などの除去を伴う工作物 | 有資格者による調査が必要 |
特定工作物は合計17種類に分類されており、群1に分類されるボイラー・配管・発電設備などは「工作物石綿事前調査者」の資格を持つ者しか調査できません。建築物の調査資格(一般・特定建築物石綿含有建材調査者)を持っていても、群1の特定工作物には対応不可です。これが原則です。
群2については工作物石綿事前調査者に加え、一般・特定建築物石綿含有建材調査者も調査できますが、群1と混同して誤った資格の調査者を現場に投入するミスが起きやすいため注意が必要です。
また、2006年9月以降に設置された工作物であっても「使用していないことの確認」のために調査と記録・報告は必要です。新しい設備だから不要、という判断は法令上認められません。
参考:アスベスト情報ナビ・建築物と工作物の違いについての解説
https://asnavi.cersi.jp/777/
「工作物石綿事前調査者」の資格を取得するには、厚生労働省に登録された講習機関が実施する講習を受講し、修了試験に合格する必要があります。更新は不要です。一度取得すれば有効期限はありません。
受講には以下のような実務経験要件があります。
「実務経験がないと受けられない」ということですね。建設・プラント・設備関連の実務に長く携わってきた人材が主な対象です。
講習の内容は2日間・合計11時間で行われます。
講習修了後には筆記の修了試験が実施されます。試験は30〜50問の四択式で1〜2時間程度。合格基準は全科目の合計得点が満点の60%以上です。合格率は公式発表こそありませんが、7〜9割程度とされており、講習内容をしっかり聞いていれば合格は十分に狙えます。
受講費用は機関によって異なりますが、テキスト代・修了証費用を含めて30,000円〜60,000円程度が相場です。東京技能講習協会では45,000円(税込)、CIC日本建設情報センターでは55,000円(税込)などの例があります。
なお、2025年9月末時点で本講習の修了者はすでに16,788人に達しており、資格取得の動きは着実に広がっています。ただし、工事の繁忙期には講習の予約が集中するため、早めに申し込んでおくことが重要です。
参考:厚生労働省・工作物石綿事前調査者講習機関一覧
https://www.ishiwata.mhlw.go.jp/course/#c03
2026年1月1日以降、無資格者が工作物の石綿事前調査を実施した場合、その調査結果は法令上無効と扱われる可能性があります。罰則は明確です。
特に元請事業者・発注者は「調査を誰が実施したか」について管理責任を負います。「知らなかった」では法的に免責されません。厳しいところですね。
現場でよく起きる落とし穴が、「いつも頼んでいる調査会社が工作物の資格を持っていなかった」というケースです。建築物の調査実績が豊富な会社であっても、工作物石綿事前調査者の資格を持つ担当者がいなければ、特定工作物(群1)の調査は法令上対応できません。発注前に必ず資格の保有状況を確認することが必要です。
また、工事自体は別の担当者が進めていて、後から「調査記録がない」「報告書に修了番号がない」と判明するケースも実務では起きています。調査結果の報告書には調査者の氏名・講習修了年月日・修了番号の記載が必須です。この3点が欠けていると、報告書の不備として是正を求められます。
コンプライアンスリスクを回避するために、調査会社へ依頼する際は「工作物石綿事前調査者の資格証の写し」を提出してもらう運用ルールを社内で定めることをおすすめします。こうした管理体制が、元請事業者としての責任を果たす具体的な行動の一つです。
参考:2026年法改正・無資格調査のリスクと罰則に関する解説
https://capital-law.net/kaisei-asubesuto/
工作物のアスベスト事前調査は、単に「アスベストがあるかどうか見る」というだけではありません。法令に基づいた一連の手順を踏むことが求められます。
調査は大きく「書面調査 → 現地目視調査 → 分析調査(必要な場合)→ 報告書作成・報告」という流れで進みます。
ステップ1:書面調査
設計図書・修繕履歴・竣工図面などをもとに、石綿含有材が使用されている可能性をスクリーニングします。過去の施工記録が残っていれば、使用材料の特定に役立ちます。工作物は建築物に比べて図面が整備されていないケースも多く、この段階で情報が不十分な場合は目視調査の重要度が上がります。
ステップ2:現地目視調査
資格者が実際に現場へ出向き、設備の状態・設置状況・損傷の有無を目視で確認します。ボイラーのパッキン・配管の保温材・電気設備の絶縁材など、外観からは分かりにくい部位も対象です。見落としが後の飛散リスクに直結するため、調査者の経験と専門知識が特に問われます。
ステップ3:分析調査(必要な場合)
目視のみでは石綿含有の判断ができない建材については、現物をサンプリングして専門分析機関に分析を依頼します。1検体あたりの分析費用は2.5万〜5万円程度が相場です。含有が確認されれば、除去・封じ込めなどの措置が必要になります。
ステップ4:報告書作成と行政報告
調査結果を報告書にまとめ、作業現場の見えやすい場所への掲示が義務付けられています。一定規模以上の工事(請負代金100万円以上など)は、石綿事前調査結果報告システムを通じて労働基準監督署・都道府県に電子報告する必要があります。
報告書には調査者の氏名・修了年月日・修了番号の3点が必須です。また、石綿が「使用されていない」という結果であっても、調査を実施した記録の保存・報告は省略できません。これが条件です。
書面・目視調査の費用相場は5万〜15万円程度、建物全体の調査では8万〜20万円が目安ですが、工作物は対象設備の種類・規模・点数によって費用が大きく変動します。複数設備を持つ工場やプラントでは、調査費用が数十万円規模になることも珍しくありません。これは使えそうです。
調査会社に依頼する際は、書面調査・目視調査・分析調査・報告書作成・行政報告のどこまでを委託するかを事前に明確にしておくことで、作業の抜け漏れを防ぐことができます。
参考:厚生労働省・石綿事前調査結果報告システム
https://www.ishiwata-houkoku.mhlw.go.jp/
ここは多くの現場担当者が見落としやすいポイントです。「建築物石綿含有建材調査者(一般・特定)」と「工作物石綿事前調査者」は、まったく別の資格です。
一般建築物石綿含有建材調査者は、マンションや事務所ビルなどの一般的な建物を調査できます。特定建築物石綿含有建材調査者は、より規模の大きな複雑な建築物に対応できる上位資格です。しかしどちらの資格であっても、特定工作物(群1)の10種類——反応槽・ボイラー・配管設備・発電設備など——への事前調査は法令上対応できません。
| 資格名 | 主な調査対象 | 特定工作物(群1)への対応 |
|---|---|---|
| 工作物石綿事前調査者 | 全ての特定工作物(17種類) | ✅ 対応可 |
| 特定建築物石綿含有建材調査者 | 大規模・複雑な建築物 | ❌ 群1は対応不可(群2は可) |
| 一般建築物石綿含有建材調査者 | 一般的な建築物・マンション等 | ❌ 群1は対応不可(群2は可) |
| 一戸建て等石綿調査者 | 一戸建て住宅・共同住宅の住戸内 | ❌ 対応不可 |
設備工事や解体工事を多く手がける会社においては、社内に工作物石綿事前調査者の資格保有者を置くことには大きなメリットがあります。外部調査会社への委託費用(1件あたり数万〜数十万円)を節約できるうえ、工事スケジュールに合わせた迅速な調査が可能になります。
また、厚生労働省は「調査対象が建築物か工作物か判断が難しい場面では、両方の資格を取得することを推奨している」と明示しています。たとえば建築物内に設置されたエレベーターのかご部分は工作物ですが、昇降路の壁面は建築物です。同じ現場で両資格が必要になるケースもあるということです。意外ですね。
資格を持つ人材を社内育成することは、長期的な競争力の観点からも有効です。受講費用は1人あたり3万〜6万円程度ですから、外部委託費用との比較でも投資対効果は高いといえます。社内で育成するか外部業者と連携するか、現在の受注状況を踏まえて判断しましょう。
参考:工作物石綿事前調査者と他資格の比較・制度詳細
https://alfred-lab.co.jp/asbestos-pre-investigation-specialist-for-structures/