
ア樹脂接着剤は、尿素(ユリア)とホルムアルデヒド(ホルマリン)を原料とする熱硬化性樹脂です。この接着剤は、多くのプラスチックが石油由来であるのに対し、比較的安価に安定供給される尿素を主原料としている点が大きな特徴です。
製造過程では、尿素とホルムアルデヒドを一定の割合で混合し、pH調整を行いながら反応させます。この反応によって生成される初期縮合物が、ユリア樹脂接着剤の基本となります。一般的な製品の物性値は以下の通りです。
ア樹脂接着剤には、未濃縮タイプ、濃縮タイプ、粉末タイプの3種類があります。未濃縮タイプは加熱接着用で、合板やパーティクルボードの製造に使用されます。濃縮タイプには、不揮発分60%程度の加熱接着用と、不揮発分70%程度の常温接着用があり、それぞれ用途が異なります。
ア樹脂接着剤は木材工業において非常に重要な役割を果たしています。全体の約90%が木材接着用途に使用されており、特に合板や集成材、内装材などの製造に広く活用されています。
【利点】
【欠点】
らの特性から、ユリア樹脂接着剤は主に内装用途や造作用途に適しており、屋外で使用する製品や構造材料への利用は避けるべきとされています。特に耐水性の問題から、JASの規格では2類合板(準耐水)までの使用に制限されています。
ア樹脂接着剤の最大の問題点の一つは、ホルムアルデヒドの放散です。ホルムアルデヒドは刺激臭があり、シックハウス症候群の原因物質の一つとして知られています。
ては接着性能の向上のために、ユリア樹脂が反応できる以上のホルマリンを添加することがありました。これにより、未反応のホルムアルデヒドが遊離して外部に放散しやすくなっていました。特に密閉された室内環境では、健康への悪影響が懸念されます。
では、室内空気質に関する規制が厳しくなり、建築基準法や住宅品質確保促進法などで、ホルムアルデヒド放散量に基づく建材の等級制度(F☆☆☆☆など)が設けられています。これにより、ユリア樹脂接着剤を使用した製品も厳しい管理下に置かれるようになりました。
環境への配慮から、以下のような対策が取られています。
らの取り組みにより、ユリア樹脂接着剤のホルムアルデヒド放散量は大幅に低減されてきましたが、完全にゼロにすることは難しく、近年ではその使用量が減少傾向にあります。
シックハウスに関する動向調査レポート(住宅リフォーム推進協議会)
ア樹脂接着剤の欠点を補うため、さまざまな改質技術が開発されています。これらの技術により、耐水性や耐久性などの性能を向上させることが可能になっています。
【メラミン樹脂との共縮合】
ア樹脂接着剤と同じくアミノ樹脂系のメラミン樹脂は、ユリアよりも高い耐熱性や耐水性を持っています。しかし、メラミン樹脂単体では高価で取り扱いが難しいため、ユリアと混合した「ユリア・メラミン共縮合樹脂接着剤」として使用されることが多いです。これにより、耐水性が必要な合板などに適した接着剤となります。
【レゾルシノールの添加】
ルシノールを添加することで、ユリア樹脂接着剤の強化が図られます。レゾルシノールはフェノール類の一種で、ユリア樹脂と相互作用することで接着強度や耐水性を向上させる効果があります。
【充填剤の活用】
ユリア樹脂接着剤に各種充填剤を添加することで、物性の改良が可能です。充填剤の役割は以下の通りです。
剤としては、でん粉質系物質、木粉、綿繊維などが使用されます。特にでん粉はホルムアルデヒドと反応してヘミアセタール構造を形成し、接着剤の性能向上に寄与します。
【フルフリルアルコールの添加】
ア樹脂接着剤の硬化物は体積収縮が比較的大きく、ひび割れしやすい傾向があります。これを防止するために、フルフリルアルコールを添加することがあります。フルフリルアルコールは植物由来の化合物で、樹脂の柔軟性を向上させる効果があります。
らの改質技術により、ユリア樹脂接着剤の欠点を補いつつ、その利点を活かした使用が可能になっています。
や健康への配慮から、ホルムアルデヒドを含むユリア樹脂接着剤の使用量は近年減少傾向にあります。代わりに、以下のような代替接着剤が注目されています。
【フェノール樹脂接着剤】
耐候性・耐水性・耐久性を持ち、構造用の木質材料に適しています。構造用合板や構造用LVLなどに使用されます。フェノール樹脂はユリア樹脂と異なり、一旦硬化すると化学的に安定した状態になるため、時間経過とともにホルムアルデヒドが放散するリスクが低いとされています。ただし、褐色で接着層が目立つこと、高価であることが欠点です。
【レゾルシノール樹脂接着剤】
ノール樹脂と同等の高い耐水性や耐久性を持ちながら、室温で硬化する特徴があります。構造用集成材のように大きな断面を持つ材料の接着に適していますが、硬化までに1昼夜程度の時間を要します。
【水性高分子・イソシアネート系接着剤】
「水性ビニルウレタン接着剤」または「水ビ」と呼ばれ、ホルマリンを全く使用しない点が大きな特徴です。レゾルシノールと同様に常温で硬化し、さらに硬化時間が30分程度と短いため、生産効率が高いのが利点です。1990年代半ばから構造用集成材の生産に導入され、生産効率を飛躍的に向上させました。ただし、レゾルシノールに比べると若干耐候性に劣るため、大断面構造用集成材や屋外用構造用集成材には使用が制限されています。
【天然系接着剤】
・環境への配慮から、カゼインやマンナンといった天然由来の接着剤が再び注目されています。これらは化学合成接着剤に比べて環境負荷が低いとされていますが、耐水性や耐久性に課題があります。
は、環境負荷の低減と性能の両立を図った新たな接着剤の開発が進むと予想されます。特に、バイオマス由来の原料を活用した接着剤や、ホルムアルデヒドを使用しない接着システムの研究が活発化しています。
業界においては、使用する接着剤の選定にあたり、用途や要求性能、環境影響などを総合的に判断することが重要です。特に住宅建築では、居住者の健康に配慮した材料選びが求められています。
現代社会を支える木材接着剤の種類と特性についての詳細解説
木材接着剤の選定においては、以下のポイントを考慮することが重要です。
らの要素を総合的に判断し、最適な接着剤を選ぶことが、高品質で安全な建築物の実現につながります。