フェノール類とアルコールの違い、構造、性質、建築材料への応用

フェノール類とアルコールの違い、構造、性質、建築材料への応用

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フェノール類とアルコールの違い

この記事で理解できる3つのポイント
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化学構造の決定的な違い

ヒドロキシ基がベンゼン環に直接結合するかどうかで分類が決まります

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性質と反応性の相違点

酸性度、溶解性、検出方法など実務上重要な性質が異なります

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建築材料としての応用

接着剤、塗料、溶剤として異なる用途で活用されています

フェノール類の化学構造とヒドロキシ基の結合位置

 

フェノール類は、ベンゼン環に水酸基(ヒドロキシ基-OH)が直接結合した化合物の総称です。最も基本的な構造を持つ化合物はフェノール(C₆H₅OH)で、ヒドロキシベンゼンとも呼ばれます。フェノール類には、ベンゼン環以外にもナフタレンのように複数の芳香環が連なった構造にヒドロキシ基が結合したものも含まれます。重要な点として、ベンジルアルコール(C₆H₅-CH₂OH)のようにベンゼン環とヒドロキシ基の間に炭素原子が入っている場合は、フェノール類ではなくアルコール類に分類されます。
参考)https://www.try-it.jp/chapters-9788/sections-9987/lessons-10019/

フェノール類の代表例としては、フェノール本体のほかに、パラ位にメチル基が結合したパラクレゾール(p-CH₃C₆H₄OH)や、ヒドロキシ基とカルボキシ基を併せ持つサリチル酸などがあります。これらは慣用名で呼ばれることが多く、配置位置によって呼び名が変わります。ベンゼン環への直接結合という構造的特徴が、後述する独特な化学的性質の原因となっています。
参考)https://fromhimuka.com/chemistry/509.html

アルコールの化学構造と脂肪族炭化水素基

アルコールは、脂肪族炭化水素(鎖式炭化水素)の水素原子がヒドロキシ基(-OH)で置換された構造の化合物です。一般式はR-OHで表され、Rは飽和脂肪族炭化水素基を意味します。メタノール(CH₃OH)やエタノール(C₂H₅OH)が代表的な例です。アルコールは分子中のヒドロキシ基の個数によって一価、二価、三価に分類され、これを価数による分類といいます。
参考)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%84%82%E8%82%AA%E6%97%8F%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%82%B3%E3%83%BC%E3%83%AB

二価アルコールの例として1,2-エタンジオール(別名エチレングリコール)、三価アルコールの例として1,2,3-プロパントリオール(別名グリセリン)があります。また、ヒドロキシ基が結合している炭素原子に、他の炭素原子が何個結合しているかによって第一級、第二級、第三級という級数による分類も行われます。炭素数が5以下のアルコールを低級アルコール、6以上を高級アルコールと慣用的に呼びます。
参考)https://tekibo.net/aru/

フェノール類とアルコールの酸性度の違いと原因

フェノール類とアルコールの最も顕著な違いは、その酸性度にあります。アルコールは中性を示すのに対し、フェノール類は水溶液中でわずかに電離して弱い酸性を示します。フェノールの電離は次の式で表されます:C₆H₅OH ⇌ C₆H₅O⁻ + H⁺。このとき生成するC₆H₅O⁻は「フェノキシドイオン」と呼ばれます。実際、フェノールはエタノールに比べて約100万倍も強い酸です。
参考)https://kimika.net/fenol.html

この酸性度の違いは、プロトン(H⁺)が脱離した後のイオンの安定性によって説明されます。フェノキシドイオンでは、酸素原子上の余剰な負電荷がベンゼン環の共鳴構造によって非局在化(delocialization)され、オルト位とパラ位に分散することで安定化します。一方、アルコールから生成するアルコキシドイオン(RO⁻)は、負電荷が酸素原子上に固定(局在化)されるため不安定であり、H⁺が脱離しにくく中性を示します。
参考)https://elementchemistry.mints.ne.jp/lectures/2018/org1846.pdf

酸の強さの順序は以下の通りです:塩酸・硫酸(強酸) > カルボン酸 > 炭酸(第1電離) > フェノール > アルコール。フェノールは水酸化ナトリウム水溶液に溶けてナトリウムフェノキシド(C₆H₅ONa)を生成しますが、このナトリウムフェノキシド水溶液に二酸化炭素を通すと、より強い酸である炭酸によってフェノールが遊離します。この性質は、フェノールが炭酸よりも弱い酸であることを示しています。​

フェノール類の検出方法と塩化鉄による呈色反応

フェノール類を検出する代表的な方法として、塩化鉄(Ⅲ)水溶液(FeCl₃水溶液)による呈色反応があります。フェノールにFeCl₃水溶液を加えると紫色に呈色し、この反応はフェノール類の特徴的な検出反応として利用されます。クレゾールなどフェノール類の種類によっては青色を示すものもあります。一方、アルコールはこの呈色反応を示しません。
参考)https://x.com/kagaku_y_test/status/1782747515403870329

この検出方法により、ベンジルアルコールがフェノール類ではないことを確認できます。ベンジルアルコールはベンゼン環に-CH₂-OHが結合した構造を持ち、ヒドロキシ基がベンゼン環に直接結合していないため、FeCl₃水溶液を加えても呈色反応を示しません。この塩化鉄(Ⅲ)による呈色反応は、フェノール類かアルコールかを判別する実験において非常に有用な手法です。
参考)https://www.try-it.jp/chapters-9788/sections-9987/lessons-10019/practice-3/
​youtube​

フェノール類とアルコールの共通点と反応性

フェノール類とアルコールには、どちらもヒドロキシ基を持つことから生じる共通の性質もあります。その一つが金属ナトリウムとの反応です。フェノールは2C₆H₅OH + 2Na → 2C₆H₅ONa + H₂の反応でナトリウムフェノキシドと水素を生成し、エタノールは2C₂H₅OH + 2Na → 2C₂H₅ONa + H₂の反応でナトリウムエトキシドと水素を生成します。​
また、エステル生成反応も共通点の一つです。アルコールは氷酢酸と比較的容易にエステルを生成しますが、フェノールは無水酢酸との反応でエステルを生成します。フェノールと無水酢酸の反応は次式で表されます:C₆H₅OH + (CH₃CO)₂O → C₆H₅OCOCH₃ + CH₃COOH。この反応で生成するC₆H₅OCOCH₃は酢酸フェニルです。フェノールがアルコールほど容易にはエステル化しない理由も、ベンゼン環による電子的な効果に関連しています。​

フェノール類の物理的性質と水素結合

フェノールは常温常圧で白色結晶として存在し、分子量94.11に対して融点が約43℃、沸点が約182℃と非常に高い値を示します。この高い融点・沸点は、フェノール分子同士がヒドロキシ基を介して分子間水素結合を形成するためです。水素結合は、ヒドロキシ基の酸素原子が持つ孤立電子対と、他の分子のヒドロキシ基の水素原子との間に形成される相互作用です。
参考)https://note.com/whiskymesi/n/na0229b9ad928

フェノールの水に対する溶解度は限定的ですが、水酸化ナトリウム水溶液には塩を生じて良く溶けます。一方、アルコールも分子間水素結合を形成するため、炭素数が小さいものは水に良く溶けます。水-エタノール混合溶媒中では、水とエタノール分子が複雑な水素結合ネットワークを形成し、溶存する酸、塩、フェノール類などの成分がこのネットワークに影響を与えることが研究で明らかにされています。​

建築材料におけるフェノール樹脂接着剤の応用

フェノール類は建築分野において、フェノール樹脂接着剤として非常に重要な役割を果たしています。フェノール樹脂(フェノール-ホルムアルデヒド樹脂)は、フェノール類とホルムアルデヒドの重合反応により合成される熱硬化性樹脂で、ベークライトとも呼ばれます。合板工業では、特類合板(屋外や常時湿潤状態で使用される構造用合板)の接着剤として水溶性・加熱硬化型のレゾールタイプが使用されます。
参考)http://sekigin.jp/science/chem/chem_06_05_02_01.html

フェノール樹脂接着剤の特徴は、極めて高い耐水性と耐久性です。JAS特類に規定される72時間連続煮沸試験やスチーミング繰り返し試験に合格する性能を持ち、構造用合板、足場板用合板、船舶用合板などに使用されます。近年では環境配慮の観点から、植物由来のリグニン(バイオマス原料)を15%以上配合したリグニンフェノール樹脂接着剤も実用化されています。これにより化石燃料由来原料の使用を削減し、持続可能な建築材料の供給が可能となっています。
参考)https://www.aica.co.jp/products/news/detail/20220606lvl.html

合板・LVL用バイオフェノール接着剤の詳細(アイカ工業の環境配慮型製品情報)

建築現場におけるアルコール類の溶剤としての用途

建築分野では、アルコール類が主に塗料の溶剤や着色剤として活用されています。アルコール系顔料着色剤は、木部専用の浸透性着色剤として木製建築物、家具、調度品などの屋内外木部に使用されます。アルコール系着色剤は木部に対する浸透性と耐候性に優れ、木目を生かした美しい仕上がりが得られるという特徴があります。ただし、木地に直接塗装する着色剤であるため、既に塗装された面には塗れず、必ず上塗りにクリヤー塗料を施す必要があります。
参考)https://www.paint-works.net/tatemono/wood/yno/index.htm

塗料成分としては、溶媒が大きく溶剤と水に分かれ、溶剤はさらに炭化水素系、アルコール系などに分類されます。また、環境配慮型のアルコール系塗膜はく離剤も開発されており、建築構造物、鋼道路橋、鉄道車両などの維持保全において塗膜を除去する際に使用されます。従来の溶解型とは異なり、塗膜全体を軟化変質させる方式で、環境や人への安全性に配慮した製品となっています。
参考)https://www.baiohakuri-aq.com/pdf/aq_doc2.pdf

フェノール類とアルコールの安全性と取り扱い上の注意点

建築現場でフェノール類やアルコール類を扱う際には、それぞれの特性に応じた安全対策が必要です。フェノールは水生生物に対して強い急性毒性を示し(GHS急性毒性区分カテゴリーII)、塩素化フェノール類は発がん性、急性毒性、生殖毒性などの有害性が指摘されています。接触した細胞への影響があり、特に眼に入った場合は容易には回復しない影響を及ぼします。ビスフェノールAなどのフェノール誘導体については、食品容器への使用に法規制が設けられており、食品中への移行量が厳しく管理されています。
参考)https://johokiko.co.jp/chemmaga/pov_007/point_of_view/

一方、アルコール類、特にエタノールは揮発性が高く、蒸気は可燃性で火源があると引火する危険性があります。アルコールの炎は青白く見えにくいため、火災時の発見が遅れる可能性があります。建築現場での溶接作業時には特に注意が必要で、アルコール蒸気の爆発範囲(約5~8%)に濃度が入ると爆発性混合気体が生成し、火花で爆発する事故例が報告されています。消防法では、アルコール類は引火点11~23℃程度の危険物に分類され、適切な保管と取り扱いが求められます。
参考)https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen_pg/sai_det.aspx?joho_no=100839

塗装業務においては、有機溶剤中毒予防規則や特定化学物質障害予防規則に基づき、エチルベンゼンなどの有機溶剤を含む塗料の使用時に作業環境管理、作業管理、健康管理が義務付けられています。屋内作業場、タンク内部などの通風が不十分な場所での塗装作業では、換気設備の設置や保護具の使用が必要となります。
参考)https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei48/dl/anzeneisei48-08.pdf

フェノール類とアルコールの環境中での挙動と排水管理

建築現場や工場からの排水管理において、フェノール類とアルコール類の環境中での挙動を理解することが重要です。フェノール類は自然水中に通常含まれませんが、ガス工場排水、化学工場排水、洗炭排水、アスファルト舗装道路洗浄排水、鉄管内塗装料から水中に含まれることがあります。PRTR制度(化学物質排出移動量届出制度)では、フェノール類が対象物質として指定されており、取扱量の把握と届出が義務付けられています。
参考)https://www.mlit.go.jp/river/shishin_guideline/kasen/suishitsu/pdf/s05.pdf

有機溶剤を含む塗料や接着剤を使用する際には、揮発性有機化合物(VOC)の排出管理も必要です。建築物の新築・改修時には、ホルムアルデヒドやベンゼンなどの化学物質が建材や装飾材料から放散され、室内空気質に影響を及ぼす可能性があります。フェノール樹脂接着剤を使用した合板については、F☆☆☆☆(フォースター)規格に対応した低ホルムアルデヒド放散製品が開発されており、室内環境への配慮がなされています。
参考)https://www.hro.or.jp/upload/10258/31497003001.pdf

建築現場での識別と用途に応じた選択基準

建築業従事者にとって、フェノール類とアルコールを正確に識別し、用途に応じて適切に選択することが重要です。接着剤としてはフェノール樹脂接着剤が優れた耐水性・耐久性を発揮し、構造用途や屋外使用に適しています。合板のJAS規格では、特類(フェノール樹脂接着剤等)、1類(メラミン樹脂接着剤等)、2類(ユリア樹脂接着剤等)と接着剤の耐水性によって分類されています。
参考)https://taniyo.com/wooden_knowledge/plywood/

溶剤や塗料用途では、アルコール系溶剤が浸透性と乾燥性に優れ、木部着色などに適しています。ただし引火性が高いため、火気のある場所での使用には十分な注意が必要です。材料選択の際には、安全データシート(SDS)を確認し、含有成分、危険性、取り扱い方法、保護具の使用などの情報を把握することが法的に義務付けられています。
参考)https://www.tfd.metro.tokyo.lg.jp/content/000012710.pdf

現場での実務では、フェノール類は主に接着剤の主成分として、アルコール類は主に溶剤として使い分けられており、それぞれの化学的特性を理解した上での適切な使用が求められます。
参考)https://www.hro.or.jp/upload/11392/08117024001.pdf


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