電解法水素の設備導入と安全設計

電解法水素の設備導入と安全設計

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電解法水素

電解法水素:建築設備での要点
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設備導入の勘所

水電解は「電解槽」だけでなく、純水・電源・冷却・ガス処理・圧縮・計装までを一体で設計するのが基本です。

方式選定の考え方

アルカリ、PEM、SOEC、AEMで必要な材料・運用温度・変動対応が変わり、建屋計画や保守動線にも影響します。

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安全と法規の現実

高圧ガス保安法や建築基準法の観点で「貯蔵量」「設置区画」「換気」「離隔」「検査」を初期から織り込みます。

電解法水素の原理と水電解の方式

電解法水素は、水(H2O)に電気エネルギーを与えて水素と酸素に分解する「水電解」を指します。水電解は理屈だけ見れば単純ですが、実務では「どの電解質を使うか」「どの温度で動かすか」で装置構造も付帯設備も大きく変わります。とくに建築・設備側は、電解槽のカタログ仕様よりも、周辺設備(純水、冷却、ガス処理、計装、電源)の要求条件を先に押さえると失敗が減ります。
方式は大きく、AWE(アルカリ水電解)、PEM(プロトン交換膜)水電解、SOEC(固体酸化物)水蒸気電解、AEM(アニオン交換膜)水電解に整理されます。近年の整理では、AWEとPEMは商用域、SOECは実証〜商用手前、AEMは発展途上という位置づけで語られることが多いです。方式差は「設備計画の差」に直結し、例えばPEMはガスの封じ込め性能が良い一方で材料(触媒等)の制約が強く、AWEは構造が比較的堅牢だが電解液管理が絡みます。


建築従事者向けに噛み砕くと、方式選定は「電気の使い方」と「建屋の作り方」を同時に決める行為です。変動再エネに追従して動かすなら、起動停止や負荷変動での耐久性・運用設計が重要になり、単に“効率が良い方式”だけでは決まりません。国の技術ロードマップでも、起動停止・負荷変動・高電流密度運転などへの耐久性や、制御・付帯設備を含む課題が繰り返し示されています。


電解法水素の電解槽と付帯設備

建築・設備側の実務で一番大きいポイントは、「電解槽=機械室に置く箱」では終わらないことです。NEDOの整理でも、電解槽だけでなく、付帯設備(純水製造、水素精製、安全対策、計装、圧縮機など)と、それらが変動電力に追従するための制御が重要課題として挙げられています。つまり、建屋計画の初期からユーティリティの容量(電力、冷却水、排熱、給排水)と、機器の配置・保守スペースをセットで見積もらないと、後で配管・ダクト・電気が破綻します。
付帯設備で見落としやすいのが「純水」です。PEMは純水供給を前提とする話が多く、純水製造装置(イオン交換樹脂等)の更新計画、排水品質、薬品交換の動線が、地味に建築側の負担になります。さらに、水電解の水素は理論上クリーンでも、実設備では水分(ミスト)、微量の酸素混入、配管由来の不純物など“設備由来の品質劣化”が起こり得ます。ガス乾燥・精製・分析(酸素濃度計、水素濃度計など)をどこまで入れるかで、設備費も安全設計も変わります。


もう一つの落とし穴は「整流器(電源)」です。電解は直流が要り、整流器の高調波・リップルが電解槽劣化に影響しうる、という論点がロードマップでも課題化されています。建築・電気設計の側は、受変電設備の計画だけでなく、力率・高調波対策、部分負荷運転の効率、フィルタの設置スペース、発熱処理まで視野に入れる必要があります。


さらに、酸素の扱いも計画に入れると“意外に効く”ことがあります。ロードマップ上でも排熱・酸素の活用が示されており、酸素を屋外放散するだけなのか、他用途に回すのかで、配管・換気・区画・材料選定が変わります。酸素は可燃物ではない一方で支燃性が高く、濃度管理を誤ると火災リスク評価が難しくなるため、現場の安全文化に合わせた設計が必要です。


電解法水素の安全と法規

電解法水素の導入で最初に確認すべきは、設置形態が「製造」なのか「消費」なのか、そして貯蔵量・圧力域がどこに入るかです。水素は高圧ガス保安法の枠組みで整理され、一定量以上の貯蔵・消費では「特定高圧ガス消費者」としての規制が絡む場合がある、と案内されています。加えて、貯蔵量は建築基準法用途地域ごとの最大量が規制される、という整理も提示されており、建築計画(用途地域、敷地条件、建物用途)とガス計画が強く結びつきます。
現場で効くのは「許認可に必要な図面・資料の粒度を、設計の早い段階で固める」ことです。例えば、危険物の計画と同様に、水素も換気、離隔、漏えい検知、緊急遮断、耐圧・気密、放散経路など、設備単体ではなく“建物一体”で説明を求められる場面が出ます。水素関連の基準・法規・ガイドラインを俯瞰できるページもあり、まずそこで全体像をつかむと、手戻りが減ります。


建築従事者が特に注意したいのは、オンサイト型(需要地近傍での製造・供給)の場合、建築側の制約が強くなることです。規制資料では、用途地域によって「圧縮ガスの製造は不可」などの制約が示されるケースがあり、設備方式の選定と同時に立地・配置・区画を見直す必要が生じます。水素は“設備の話”に見えて、実は“建築計画の話”でもあるため、設備担当だけに任せず、意匠・構造・消防・電気を含めた協議体を早期に作るのが現実的です。


水素の基準・法規・ガイドラインの全体像(消費・貯蔵、建築基準法との関係)を確認する参考リンク
https://www.enaa.or.jp/WE-NET/rule/ht/syohi.html

電解法水素の建築設備設計

建築設備として「電解法水素」を扱う場合、設計は“水素機器を置く”ではなく、“水素を扱える環境を作る”が本質です。具体的には、機械室(または屋外スキッド)を中心に、①換気計画、②漏えい時の拡散を想定した区画と放散経路、③電気設備の防爆・防護思想、④保守点検の動線と退避動線、⑤将来増設(スタック増設、圧縮機増設、貯蔵増設)の余白、を同時に成立させます。
設備配置で効くテクニックは「危険源を分離して、非危険エリアを広くする」ことです。例えば、電解槽・ガス処理・圧縮・貯蔵を同一区画に押し込むと、区画全体が厳しい安全要件になりがちです。一方、工程を分け、換気と検知の“守りたい区画”を明確化できれば、点検性や将来改修が良くなります。設計思想としては、化学プラントほど大げさにせずとも、「プロセスの境界(バウンダリ)を建築図で表現する」ことが重要になります。


また、NEDOの課題整理でも付帯設備の標準化・モジュール化、予知保全、計装機器の低コスト化などが論点になっており、設備の“運用前提”が設計に入ってきています。建築設備の立場では、DCS/PLC盤の置き場所、配線経路、通信、停電時のフェイルセーフ(緊急遮断の電源、バックアップ)までを先に決めると、施工段階での事故・追加工事が減ります。


電解法水素の独自視点:二相流と気泡

独自視点として押さえたいのが、「水電解は、内部で気泡(ガス)が発生する二相流の装置」である点です。これは化学工学寄りの話で検索上位では前面に出にくいのですが、実は装置の性能・寿命・安全に地味に効きます。NEDOの資料でも、気液二相流解析や、気泡排出、溶存現象を考慮したメカニズム解明などが課題として繰り返し挙げられており、気泡の扱いは“研究者の趣味”ではなく産業装置の重要テーマです。
建築従事者にとってこの話が重要なのは、二相流の挙動が「配管の取り回し」「ドレン設計」「機器据付のレベル差」「停止時の液溜まり」など、施工品質に影響されるからです。例えば、停止・再起動を繰り返す運用(再エネ追従)では、内部状態が毎回同じにならず、局所的なガス滞留や濡れムラが劣化を加速することがあります。ここで言う“施工品質”は、配管の勾配・支持間隔・振動対策・断熱の連続性といった、現場が得意な領域です。つまり、建築・設備の丁寧さが、電解槽の「カタログ寿命」に効いてくる可能性があります。


もう一歩踏み込むと、将来のトラブルシューティングのしやすさも変わります。二相流が絡む系は、単純な圧力・流量だけでは説明できない不具合(異音、振動、流量計の乱れ、濃度計の瞬間値の跳ね)が出ることがあります。そこで、点検口の位置、ドレン回収のしやすさ、計装の冗長性(温度・圧力・差圧)、ログ取得設計まで含めて“診断できる設備”にしておくと、保全コストを下げやすくなります。


電解技術の課題整理(気液二相流解析、付帯設備、安全対策など)を確認する参考リンク
https://www.nedo.go.jp/content/100957124.pdf