

建築業界において「エコ塗料」という言葉は広く使われていますが、その定義は多岐にわたります。一般的には、環境負荷を低減する機能を持つ塗料全般を指しますが、クライアントへの提案時には、具体的にどの機能を指しているのかを明確にする必要があります。大きく分けて、物理的に熱の移動を制御する「機能性塗料(遮熱・断熱)」と、化学物質の放出を抑える「自然塗料・低VOC塗料」の2つの側面があります 。
参考)エコ塗料とは?|外壁塗装110番
特に混同されやすいのが「遮熱塗料」と「断熱塗料」の違いです。これらは夏の暑さ対策として一括りにされがちですが、そのメカニズムと効果を発揮するシーンは決定的に異なります。
断熱塗料と遮熱塗料のメカニズムの違いと年間を通じた省エネ効果についての詳細な解説
以下の表は、クライアントへの説明時に役立つ比較表です。
| 機能 | 遮熱塗料 | 断熱塗料 |
|---|---|---|
| 主なメカニズム | 太陽光の反射(鏡のような効果) | 熱伝導の抑制(魔法瓶のような効果) |
| 夏場の効果 | 高い(屋根表面温度を大幅低下) | ある(熱の室内侵入を遅らせる) |
| 冬場の効果 | なし(むしろ太陽熱を取り込めない) | 高い(室内の保温効果がある) |
| 結露対策 | 効果なし | 効果あり(内装使用時) |
| 汚れの影響 | 汚れがつくと反射率が落ち、効果激減 | 多少汚れても断熱層の厚みで効果維持 |
| 価格相場 | 比較的安価 | 高価な傾向にある |
また、シックハウス症候群対策としての「自然塗料」や「低VOC塗料」もエコ塗料の重要なカテゴリーです。亜麻仁油や蜜蝋などを主成分とした自然塗料は、廃棄時の生分解性が高く環境に優しい反面、乾燥時間が長く、施工スケジュールに余裕を持たせる必要があります 。
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エコ塗料を採用することは、施主にとって光熱費削減や快適性向上という直接的なメリットがある一方で、施工側が事前に説明しておくべきデメリットやリスクも存在します。これらを正しく理解し、メリットがデメリットを上回る提案を行うことが、クレーム防止と信頼獲得につながります。
メリット:LCC(ライフサイクルコスト)の低減
初期費用は一般的なシリコン塗料などと比較して高額になりがちですが、耐用年数が長い製品が多く(特にフッ素や無機配合の遮熱塗料など)、長期的なメンテナンスサイクルを延ばすことができます。加えて、遮熱・断熱効果による冷暖房費の削減効果(一般的に10〜15%程度と言われます)をシミュレーションし、10年、20年スパンでのトータルコストメリットを提示することが重要です 。また、企業クライアントに対しては、SDGsやカーボンニュートラルへの取り組みとして、工場の屋根塗装などによるCO2削減効果をCSR活動の一環としてアピールできる点も大きな付加価値となります。
参考)断熱塗料と遮熱塗料の違いと省エネ効果
遮熱塗料のメリット・デメリットおよび、断熱塗料と比較した際の費用対効果についての考察
デメリットと注意点
エコ塗料、特に遮熱・断熱塗料や自然塗料は、一般的な汎用塗料とは異なる物性を持っていることが多く、施工には専門的な知識と厳密な管理が求められます。機能性を100%発揮させ、早期剥離などの不具合を防ぐためのプロ向けの技術ポイントを深掘りします。
1. 温湿度管理と乾燥時間の厳守
水性のエコ塗料や自然塗料は、溶剤系に比べて環境要因の影響を強く受けます。JIS規格やメーカー仕様書にある「気温5℃以上、湿度85%以下」という条件は絶対です。特に冬場の施工や梅雨時は、指触乾燥していても内部乾燥が不十分なケースがあります。この状態で上塗りを行うと、水分が閉じ込められ、後の「膨れ」や「剥がれ」の直接的な原因となります。乾燥時間はメーカー規定の倍以上の余裕を見るなど、現場判断での安全策が必要です 。
参考)外壁塗装でできる環境配慮!エコ塗料活用ガイド
気温や湿度が塗料の乾燥に与える影響と、プロが実践する厳密な施工管理テクニック
2. 専用プライマーと膜厚管理
遮熱・断熱塗料の効果は「膜厚」に大きく依存します。特に断熱塗料は、指定された塗布量を守り、十分な厚みを確保しなければ断熱性能が発揮されません。規定の缶数を使い切るように管理(缶数管理)し、平米あたりの塗布量を厳守してください。
また、旧塗膜との相性も重要です。遮熱塗料の下塗りには、それ自体にも遮熱機能を持たせた専用のホワイトシーラーやプライマーが指定されていることが多く、これを汎用品で代用すると、システム全体の遮熱性能が低下します。さらに、整備工場などの床塗装にエコ塗料(低VOCエポキシなど)を使用する場合、油分が浸透しているコンクリート面への密着確保のため、高浸透性プライマーの選定や徹底した脱脂・研磨処理が不可欠です 。
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3. 攪拌(かくはん)の徹底
遮熱顔料や断熱ビーズは、比重の関係で沈殿したり浮上したりしやすい性質があります。使用前の十分な攪拌はもちろん、作業中も定期的に攪拌しなければ、塗り始めと塗り終わりで性能(ビーズの密度)や色味にムラが生じるリスクがあります。電動攪拌機の使用を標準とし、手混ぜだけで済ませないことが品質確保の鍵です。
エコ塗料の提案において、最大の障壁となるのが「コスト」です。しかし、2025年現在、国や自治体は脱炭素化に向けた住宅リフォーム支援を強化しており、これらを活用することで実質の負担額を汎用塗料並みに抑えられる可能性があります。
費用相場の目安(材工共、足場代別途)
断熱塗料は機能性が高い分、単価も高額になりますが、ここで重要になるのが「補助金・助成金」の活用です。
2025年の助成金トレンド
「住宅省エネ2025キャンペーン」をはじめ、既存住宅の省エネ改修に対する支援は継続・拡大傾向にあります。
2025年版外壁塗装に使える補助金・助成金の詳細条件と、賢い塗料選びのポイント
提案のポイント
見積書には、「通常塗装プラン」と「エコ塗料+助成金活用プラン」の2パターンを用意することをお勧めします。「助成金を使えば、ワンランク上の遮熱フッ素塗料が、通常のシリコン塗装と変わらない金額で施工できます」というアプローチは、施主にとって非常に魅力的であり、単価アップの有効な手段となります。
最後に、既存の「遮熱・断熱」の枠を超えた、最先端のエコ塗料技術について紹介します。これらはまだ一般的ではないかもしれませんが、他社との差別化を図るための「話題」として、あるいは感度の高いクライアントへの提案材料として非常に有効です。
1. 構造発色(顔料を使わない塗料)
千葉大学などが開発を進めている技術で、モルフォ蝶の羽のように、光の反射・干渉によって色を見せる「構造色」を利用した塗料です。従来の塗料は顔料(化学物質)を含んでおり、紫外線による退色(チョーキング)が避けられませんでした。しかし、構造発色塗料は顔料を含まないため、理論上、紫外線による退色が起こりません。さらに、顔料を製造・廃棄する際の環境負荷もゼロにできる、究極のエコ塗料と言えます 。
参考)https://monoist.itmedia.co.jp/mn/articles/2501/31/news026.html
2. ナノテクノロジーと自己洗浄機能
ナノレベルで表面構造を制御した塗料は、超親水性(水が膜のように広がる)や超撥水性(ハスの葉のように水を弾く)を持ちます。これにより、雨水だけで汚れを洗い流すセルフクリーニング機能が飛躍的に向上しています。汚れは遮熱性能の大敵であるため、この技術は遮熱塗料の性能維持に直結します。また、従来の塗料よりも石油系樹脂の使用量を抑えた製品も登場しており、CO2排出量削減に貢献します 。
参考)外壁塗装ではナノテクノロジー塗料がおすすめ!高性能、エコな塗…
VOC排出量を大幅に削減する超臨界二酸化炭素塗装などの革新的技術の事例
3. 超臨界二酸化炭素塗装
これは塗装方法の革新ですが、塗料を希釈するシンナー(有機溶剤)の代わりに、特殊な状態(超臨界状態)にした二酸化炭素を使用する技術です。VOC(揮発性有機化合物)の排出を大幅に削減できるだけでなく、乾燥エネルギーの削減にもつながります。工場塗装などの分野で実用化が進んでおり、将来的には建築現場向けの応用も期待されています 。
参考)東北発の技術を世界へ! 有害物質の出ない革新的塗装技術
このように、エコ塗料は単なる「夏の暑さ対策」から、「建物の長寿命化」「メンテナンスフリー」「環境負荷ゼロ」を目指すハイテク素材へと進化しています。常に最新情報をキャッチアップし、施主の建物に最適な「未来の当たり前」を提案できるかどうかが、選ばれる施工店になるための条件と言えるでしょう。