

光ファイバーケーブルは「通信専用」だと思っていると、現場の安全管理コストで数百万円の差がつきます。
光ファイバーセンサーは、細いガラスまたは樹脂製の繊維(直径125マイクロメートル前後、人間の髪の毛とほぼ同じ太さ)の中を伝わる光の性質を利用して、さまざまな物理量を非接触・非破壊で計測するデバイスです。建築の現場で「センサー」というとひずみゲージや熱電対をイメージする方が多いですが、光ファイバーセンサーはそれらとまったく異なる動作原理を持っています。
基本的な原理は、光ファイバーに外部から力や熱が加わると、ファイバー内部を伝わる光の強度・位相・波長・偏光状態が変化するという現象を検出することです。つまり光そのものが「情報の運び手」であり、同時に「計測媒体」でもあります。
光の変化を捉える手法として代表的なものが3つあります。
- 強度変調方式:光の明るさの変化を検出する最もシンプルな方式。ファイバーが曲げられたり変形したりすると光が漏れて強度が落ちる現象を使います。コストが低い反面、絶対値計測には向きません。
- 干渉方式(位相変調):マッハ・ツェンダー干渉計やファブリ・ペロー干渉計の原理を応用し、2本のファイバーを通過した光の位相差から微小な変形・振動・圧力変化を検出します。サブナノメートルレベルの変位も計測可能です。
- 波長変調方式(FBGセンサー):ファイバー・ブラッグ・グレーティング(FBG)と呼ばれる、ファイバー内部に刻まれた格子構造が、特定の波長だけを反射するフィルターとして働きます。温度・歪みが加わると反射波長がシフトするため、そのシフト量を読み取ることで計測値を得ます。
FBGセンサーは現在の建築・土木分野で最も普及している光ファイバーセンサーの一種です。これは必須です。1点あたりの計測精度が高く、1本のファイバー上に複数のFBGを直列に並べることで多点同時計測が実現できます。
たとえば橋梁の主桁に沿って1本のFBGファイバーを配線するだけで、20か所・30か所の歪み分布を1台の計測器でリアルタイム取得できます。これは電気式ひずみゲージで同数のチャンネルをそろえるよりも配線の手間が圧倒的に少なく、ケーブルの引き回しコストも大幅に削減できます。
光を使っているため電気を一切流しません。これが建築現場で特に重要なポイントです。高圧送電線の近くや、溶接・大型電動機が動く環境では電気式センサーに電磁ノイズが乗って計測値が乱れるケースがありますが、光ファイバーセンサーは電磁界の影響をまったく受けません。防爆エリアでの使用にも適しており、トンネル工事現場でのガス環境下でも安全に運用できます。
光ファイバーセンサーには計測原理の違いから複数の種類があり、建築・土木の用途に応じて使い分けることが重要です。大別すると「点計測型」と「分布計測型」に分かれます。
点計測型の代表がFBGセンサーです。前述のとおり格子構造の反射波長変化を読み取る方式で、0.1μ歪み(マイクロひずみ)程度の高精度計測が可能です。ひずみゲージに換算すると、コンクリートが圧縮破壊に至る前の段階(おおよそ3,000μ歪み)を十分な余裕をもって検知できます。温度計測精度は±0.1℃前後で、1本のファイバーに最大100点以上のFBGを設置した製品も実用化されています。
一方、分布計測型の代表がOTDR(Optical Time Domain Reflectometry)とBOTDR(Brillouin Optical Time Domain Reflectometry)です。
OTDRは、光パルスをファイバーに打ち込んで「どこで光が散乱・反射して戻ってくるか」を時間で判定します。光の速度(ガラス中でおよそ毎秒20万km)を基準に、戻り時間から散乱位置までの距離を算出します。本来はファイバーの断線・劣化位置の診断に使われる手法ですが、曲げや変形による散乱強度の変化を分布的に取得することもできます。
BOTDRはOTDRをさらに発展させた技術で、ブリルアン散乱という現象を利用します。ブリルアン散乱とは、光がファイバー中の分子と相互作用して周波数が僅かにシフトする散乱現象のことで、このシフト量が温度と歪みの両方に比例して変化します。つまり、原理が少し複雑ですね。
BOTDRは1本のファイバーで数km〜数十kmにわたる「温度・歪みの連続分布」をミリメートル〜メートル単位の空間分解能で取得できます。長大トンネルの覆工変状モニタリングや、盛土・法面の変位検知など、広域かつ連続した構造物のヘルスモニタリングに絶大な威力を発揮します。
| 種類 | 計測方式 | 主な計測量 | 空間分解能 | 代表用途(建築・土木) |
|---|---|---|---|---|
| FBGセンサー | 波長変調 | 歪み・温度 | 点〜多点 | 橋梁主桁、基礎杭、RC構造物 |
| OTDR | 強度(後方散乱) | 変形位置 | 数cm〜1m | ファイバー健全性診断 |
| BOTDR/BOTDA | ブリルアン散乱 | 歪み・温度(分布) | 0.5〜1m | トンネル・ダム・盛土 |
| FODL(強度変調) | 強度変調 | 変位・圧力 | 点 | クラックセンサー、沈下計 |
種類の選択は「計測範囲の長さ」と「必要な精度」で決まります。数十メートル以内の構造物ならFBGで十分です。数kmに及ぶインフラならBOTDR一択と言えます。
建築現場で光ファイバーセンサーを採用する最大のメリットは「耐環境性」と「長距離多点計測の同時実現」にあります。これは使えそうです。
電気式ひずみゲージは1点あたりの精度は高いものの、配線が多くなるほどノイズ対策や接続部の防水処理に手間がかかります。大型建築物の施工モニタリングで50点以上の計測を要する場合、ゲージ本体の費用に加えてケーブル・アンプ・データロガーのコストが重なり、トータルコストが数百万円規模になることも珍しくありません。
対してFBGセンサーシステムは、1台の計測器(インテロゲータ)に1〜4本程度のファイバーラインを接続するだけで、そのライン上の全計測点を同時取得します。インテロゲータの価格は機種にもよりますが、産業用モデルで100万〜300万円前後。ただしセンサーポイントが増えても計測器を追加する必要がなく、スケールメリットが出やすい構造になっています。
耐久性の面でも優位です。ガラス製のシングルモードファイバーは適切に被覆されていれば、コンクリート中に埋め込んだ状態で30年以上の耐用が期待できます。実際、国土交通省が推進する「インフラ長寿命化計画」の中でも、橋梁・トンネルへの光ファイバーセンサー埋設によるSHM(構造ヘルスモニタリング)が標準的な技術として位置づけられつつあります。
以下に従来の電気式センサーと光ファイバーセンサーの主な比較をまとめます。
| 比較項目 | 電気式ひずみゲージ | 光ファイバーセンサー(FBG) |
|---|---|---|
| 電磁ノイズ耐性 | 弱い(シールド要) | 完全耐性 |
| 配線の複雑さ | 点数に比例して増大 | 1ライン上で多点対応 |
| 防爆・防水性 | 別途対策が必要 | 本質的に安全 |
| 長距離伝送 | 100m超で信号劣化 | 数km以上可能 |
| 耐用年数 | 5〜10年(接続部が劣化) | 20〜30年以上 |
| 多点化コスト | 点数に比例 | 計測器共有でスケールメリット |
注意点もあります。光ファイバーは金属に比べて曲げ・衝撃に弱い側面があり、施工中の踏み付けや機械接触によって断線するリスクがあります。現場での取り扱い研修と、被覆仕様の選定が導入前に必要です。
また、計測データの解析にはある程度の専門知識が求められます。波長データをひずみ値・温度値に換算する処理はソフトウェアが自動化しているものの、異常検知の閾値設定や温度補償の設計は、センサーメーカーや計測専門業者との連携を推奨します。これが原則です。
原理を理解したうえで、実際の建築・土木構造物でどのように使われているかを見ると、技術の具体的な価値がより鮮明になります。
橋梁のたわみ・疲労モニタリング
国内では高速道路会社や鉄道会社を中心に、老朽橋梁の主桁・横桁にFBGファイバーを貼り付けた常時モニタリングシステムの導入が進んでいます。たとえばJR東日本では複数の鉄道橋にFBGセンサーを設置し、列車通過時のたわみ応答を1ミリ秒(ms)以下のサンプリングで取得・蓄積しています。経年変化の傾向分析から、「目視点検では発見できない疲労亀裂の進展」を数ヶ月前に検知した事例も報告されています。
トンネル覆工の変状モニタリング
山岳トンネルの覆工コンクリートにBOTDRファイバーを埋設し、施工完了後に数kmにわたる歪み・温度の分布を継続計測する工法が普及しています。土被り変動・地山圧の変化があった箇所で局所的な歪み増大が観測されれば、そこを優先点検するという「状態基準保全(CBM)」への移行が可能になります。首都高速道路のトンネルや、北陸新幹線の一部区間でもこの手法が採用されています。
基礎杭の健全性診断
建物の基礎杭にFBGファイバーを取り付けることで、施工時および供用後の軸力分布を計測できます。杭の周面摩擦力・先端支持力の実測値が取得できるため、設計値との照合が可能です。地盤沈下が懸念される地区での新築建物や、近接工事が予定されている既存建物の保全管理に有効です。
コンクリートの温度ひび割れ対策
マスコンクリートと呼ばれる、ダムや大型基礎・厚い壁体などのコンクリートは、水和熱による内外温度差(最大で30〜50℃差になることがある)が原因で温度ひび割れが発生しやすい構造物です。打設中・養生中の温度分布をFBGセンサーやBOTDRでリアルタイム監視することで、散水・保温シートによる温度制御のタイミングを最適化し、温度ひび割れの発生リスクを大幅に低減できます。
これらの実例に共通しているのは「データの継続的蓄積と異常の早期検知」です。一回の計測で終わらせず、長期の時系列データとして管理することで初めてセンサーの価値が最大化されます。つまり、計測システムとデータ管理の設計を同時に行うことが成功の鍵です。
参考情報:国土交通省が推進するインフラ維持管理・更新等に係る技術開発について詳しくはこちら。
多くの解説記事では「光ファイバーセンサーの原理と種類」で終わっていますが、建築現場で実際に導入する側が最も悩むのは「どう選んで、どう施工するか」というプロセスです。ここでは現場視点の実務的ポイントを整理します。
センサー選定で見落とされがちな「温度補償」の設計
FBGセンサーは歪みと温度の両方に反応します。現場では「構造物の歪みだけを計りたい」場合でも、気温・コンクリート温度の変化によって波長がシフトするため、温度補償用のFBGを別途設置しないと正確な歪み値が得られません。温度補償なしで計測したデータを解析に使うと、季節変動が構造変状のように見えてしまうことがあります。これは誤った判断につながる深刻なリスクです。
温度補償の設計は、センサーメーカーの技術担当者との事前協議で仕様を固めるのが最も確実です。場面としては「機器の発注前」の段階でこの協議を行うことをおすすめします。後から追加するより工期・コスト面で有利です。
施工上の注意:被覆仕様と埋設方法のミスマッチ
光ファイバーは用途に応じて「裸ファイバー」「単心コード」「光ケーブル(多心)」など複数の被覆仕様があります。コンクリート埋設用には、セメントとの付着性が高いカーボンファイバー強化被覆(CFRPコーティング)タイプや、ポリイミド被覆タイプが適しています。一般的な通信用光ケーブルをそのまま埋設すると、コンクリートの体積変化に追随できず、計測精度が著しく低下したり断線したりします。
埋設位置の設計も重要です。スターラップ(あばら筋)の近傍に配置すると、コンクリート打設時の振動締固めでファイバーが押しつぶされるリスクがあります。主筋の側面に沿わせてタイバインド(結束線)で固定する方法が現場では主流です。
データ管理クラウドとの連携
2020年代以降、FBGインテロゲータをLTE/Wi-Fiルーター経由でクラウド計測プラットフォームに接続し、スマートフォンやPC上でリアルタイムダッシュボードを確認できる製品が増えています。現場に常駐しなくても遠隔で構造物の状態を監視できるため、人手不足が深刻な建設業界にとって親和性の高い仕組みです。
国内では東京大学発スタートアップや大手計測機器メーカー(横河電機、共和電業など)がこうしたIoTモニタリングサービスを提供しており、月額数万円程度から試験導入できるプランも登場しています。まず小規模な試験計測から始めて、効果を確認したうえでフルスケール展開するアプローチが、コスト的にも組織的にも受け入れやすい流れと言えます。
光ファイバーセンサーの技術は「特別な設備を持つ大企業のもの」から、中規模の施工会社・設備会社でも実用的に使えるフェーズに明確に移行しています。原理を正しく理解し、用途に合った種類を選び、適切な施工・温度補償設計を行うことが、現場での計測成功の条件です。
参考情報:FBGセンサーの技術解説や建設分野への適用について詳細な技術資料を公開しているJSCE(土木学会)の関連情報。
公益社団法人 土木学会(JSCE)

Zerodis デジタル光ファイバーセンサー高性能のための拡散反射光ファイバーセンサーイージーインストールプローブケーブル付きの