地震災害への備えと建築業者が知るべき現場リスク対策

地震災害への備えと建築業者が知るべき現場リスク対策

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地震災害への備えと建築業者が取るべきリスク対策

工事保険に加入していても、現場の地震被害は補償されません。


🏗️ この記事の3ポイント要約
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工事保険は地震に使えない

建設工事保険は地震・津波・噴火による損害を補償対象外としています。足場倒壊や近隣への損害賠償が発生しても、保険金は一切おりません。

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BCP策定は受注にも直結する

建設業のBCP策定率は業種別3位(55.1%)と高い水準ですが、中小建設業に限ると約17%にとどまります。未策定では受注競争でも不利になります。

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防災訓練と安否確認は法的義務に近い

労働契約法第5条の安全配慮義務により、安否確認体制が不備な場合は法的責任を問われる可能性があります。訓練の形骸化は会社リスクに直結します。


地震災害の備えで見落とされがちな工事保険の盲点


建設現場で働く人の多くは、工事保険に加入していれば地震被害もカバーされると考えています。しかし、これは大きな誤解です。


建設工事保険は、暴風雨・洪水・盗難などによる損害は補償しますが、「地震・噴火・津波」による損害は標準的な補償から除外されています。大手損保各社(損保ジャパン・東京海上日動・三井住友海上など)の工事保険約款に明記された事項です。つまり、震度6強の地震で仮設足場が倒壊して隣家に損傷を与えても、工事保険からは一円も支払われません。


これは深刻です。


たとえば、外壁リフォーム中に大地震が発生して3階建ての仮設足場が隣地に倒れ込んだとします。その場合、近隣住宅の修繕費はもちろん、ケガをした通行人への損害賠償も会社の実費負担になります。規模によっては数百万〜数千万円規模の出費に直結します。


請負業者賠償責任保険(通称:請負賠責)は工事作業ミスに起因する第三者への損害を補償しますが、「地震を直接原因とした損害」は多くのプランで適用外です。工事保険と請負賠責、両方に加入している現場でも、地震には対応できていないケースが少なくありません。


金銭的なダメージだけでないですね。


現場の地震被害は発注者や近隣住民からの「耐震対策が甘い会社」という評価にもつながります。近年は熊本地震(2016年)や能登半島地震(2024年)で建設業の現場管理能力が問われた事例も多く、一度ついた「管理の杜撰な会社」という評判は受注減に直結します。


こうしたリスクへの備えとして、まず「地震特約」付きの工事保険の有無を確認することが第一歩です。加入している保険の約款を確認し、地震補償の有無を今すぐチェックしてください。


工事中の地震は保険の対象外!リスクヘッジの方法を知ろう(保険ショップパートナー)
※建設業専門の保険代理店による解説。工事保険と地震補償の盲点について詳しくまとめられています。


地震災害への備えで現場の足場・資材を守る方法

建設現場の地震対策の中心は、仮設足場と資材の管理です。これが崩れると被害が一気に周囲へ広がります。


足場の倒壊リスクを下げるための具体策として、まず「継ぎ目のロープ固定」があります。足場の各継ぎ目部分をロープや緊結金具で二重に固定することで、横揺れへの抵抗力が大幅に高まります。また、足場と建物本体の壁つなぎ(壁つなぎ取り付け間隔の遵守)も重要です。建設工事公衆災害防止対策要綱では、壁つなぎの設置間隔に関する基準が定められており、この基準を下回る状態で地震に遭うと倒壊リスクが一気に高まります。


資材管理も重要です。


現場では複数の資材を積み上げて保管するケースがありますが、高く積みすぎた状態での地震は「ドミノ倒し」のように資材が崩れます。積み高さの制限(目安として1.5m以内)を社内ルールとして設けている会社は少ないですが、これが一つの現実的なラインです。やむを得ず高積みが必要な場合は、転倒防止チェーンや固定バンドで養生する習慣をつけましょう。


さらに、現場内の避難経路の確保も日頃から意識が必要です。狭い現場では資材が通路を塞ぎがちですが、地震発生時に人が通れる幅(最低60cm、できれば90cm)の避難経路を常に確保してください。建設現場の新人が地震時に逃げ場を失うのは、実は事前の通路管理の問題によるものが多いです。


これが基本です。


| 対策項目 | 具体的な内容 | チェック目安 |
|---|---|---|
| 足場の壁つなぎ | 基準間隔を守った固定確認 | 施工開始前・週次点検 |
| 資材の積み高さ | 1.5m以内を目安に制限 | 毎朝の朝礼時 |
| 避難経路の確保 | 幅90cm以上の通路をキープ | 資材搬入時 |
| 継ぎ目のロープ固定 | 二重緊結による補強 | 足場組み立て完了時 |


建築現場の足場、地震で倒壊する?建設作業員の安全対策(施工管理ナビ)
※足場の地震リスクと、実務的な安全確保の考え方についてまとめられています。


地震災害への備えに必須なBCP策定と建設業の現状

BCP(事業継続計画)という言葉を聞いたことがある建設業従事者は多いはずです。しかし、策定まで踏み切れている会社はまだ少数派です。


帝国データバンクの調査(2025年)によると、業種別のBCP策定率は、金融・保険業(69.2%)、情報通信業(57.6%)に次いで建設業が3位(55.1%)と比較的高い水準にあります。ただし、これは大企業を多く含む業種全体の数字です。中小企業に絞ると策定率は17.1%(帝国データバンク2025年調査)まで下がります。大手ゼネコンの数字が平均を押し上げているのが実態で、中小の建設業者の約83%はBCPを策定できていないということです。


厳しいところですね。


BCPを策定するメリットは、単に「大地震が来ても仕事を続けられる」だけではありません。国土交通省が推進する「建設会社BCP認定制度」では、BCP策定が認定条件の一つになっており、公共工事入札時の加点評価につながります。特に、官公庁の大型工事や災害復旧工事の受注では、BCP策定の有無が選定基準に影響します。つまり備えが受注力になります。


BCPに盛り込む内容として最低限押さえるべきポイントを整理します。


- 🔴 緊急連絡網:全従業員・協力会社の連絡先リストを常に最新状態に保つ
- 🔴 安否確認の手順:地震発生時に誰が・どのように確認するかを事前に決めておく
- 🟡 現場ごとの復旧優先順位:どの現場から再開するかの判断基準を明文化する
- 🟡 代替手段の確保:重機・資材・サプライヤーの代替ルートを最低1つ確保する
- 🟢 情報バックアップ:工事図面・契約書類をクラウドに保存する


BCPの策定に自社だけでのリソースが不足する場合は、中小企業庁が提供する「事業継続力強化計画」(通称:ジギョケイ)の認定取得が手軽なスタートラインになります。認定を受けると防災設備投資への税制優遇(特別償却20%)が適用されます。


中小企業BCP策定運用指針(中小企業庁)
※中小企業庁が提供する公式のBCP策定ガイド。テンプレートも無料でダウンロードできます。


地震災害への備えとしての防災訓練と安否確認体制の整備

「毎年1回、避難訓練はやっている」という建設会社は多いです。しかし、その内容が「避難場所まで歩くだけ」の形骸化した訓練であれば、実際の地震時には機能しません。


まず安否確認について整理します。労働契約法第5条では、企業に「安全配慮義務」が課されています。地震発生時に従業員の安否確認を行わなかった場合、この義務違反とみなされる可能性があります。法的に強制される明文の義務ではないものの、安否確認体制の不備で従業員が被害を受けた場合には損害賠償を問われるリスクがあります。これは法的リスクです。


建設現場が特に難しいのは、作業員が「複数の現場に分散している」「協力会社の作業員が混在している」という点です。地震が起きた瞬間に、誰がどこの現場にいるかを把握できている会社は少ないのが現実です。


防災訓練の実効性を高めるには、以下の要素を意識した構成にする必要があります。


- 📍 現場別の避難経路確認:オフィスだけでなく施工中現場ごとに避難訓練を実施する
- 📱 安否確認システムの実践使用:訓練で実際にシステムを動かし、手順の定着を図る
- 🧯 初期対応シナリオの練習:「足場に作業員がいる状態で震度6が来た」など現実的なシナリオを設定する
- 📋 協力会社を含めた連絡訓練:下請け会社・職人への連絡フローを実際に流す


安否確認の手段としては、専用アプリの活用が広まっています。「安否確認くん」「トヨクモ安否確認サービス」などは月額数百円〜数千円の費用で導入でき、地震発生と連動して自動で安否確認メッセージを送信してくれます。メール連絡網の手動更新とは比較にならない速度と確実性です。これは使えそうです。


大規模建築物を保有・管理する企業は、消防法第36条に基づき年1回以上の防災訓練が義務付けられています。建設業であっても、自社の拠点が一定規模の建物であれば同様の義務が生じます。訓練記録の保存も求められますので、実施内容を文書化しておきましょう。


建設業の三大災害とは?原因や対策を徹底解説(トヨクモ防災タイムズ)
※建設業特有の災害リスクと、BCP・安否確認の観点からの対策を詳しく解説しています。


地震災害への備えで建設業者が見落としがちな天井・内部の耐震化

建設業従事者は「耐震」というと、外壁や構造躯体に目が向きがちです。しかし、建物内部——特に天井——の耐震化が長年の盲点になっています。これは意外ですね。


株式会社桐井製作所が建設・建築業界に携わる340名を対象に実施したアンケート調査(2023年)では、「地震による建物内部(天井・壁・床等)の被害発生リスク」を認知しているのは約95%でした。ほぼ全員が知っているという数字です。しかし同時に、「建物内部の地震対策」が十分に実施されていないことも明らかになっています。


つまり「知っているが対策していない」という状態が業界に広がっています。


2011年の東日本大震災では、外部の構造被害がほとんどない建物でも、吊り天井の崩落による死傷者が複数発生しました。特に、体育館・大型ホール・大型店舗の天井は崩落リスクが高く、2014年以降「特定天井」として耐震基準が強化されています。建設業従事者としては、施工する建物の天井仕様が新基準に適合しているかを確認する責任があります。


天井の地震対策として現場で押さえておくべき点は以下の通りです。


| チェック項目 | 内容 |
|---|---|
| 天井下地の素材・固定方法 | 錆の進行、クリップやナットの緩みがないか |
| 吊りボルトの長さ・間隔 | 基準(900mm以内)を超えていないか |
| ブレース(斜め補強材)の有無 | 新耐震基準では必須の補強材 |
| 天井材の重量管理 | 2kg/㎡以上の重量天井は要注意 |


新築・改修を問わず、天井の定期点検と耐震化は今後の受注においても顧客への提案価値になります。発注者に「天井の耐震化まで提案してくれた」という安心感を与えられれば、競合との差別化にもなります。建物内部の耐震提案が付加価値になります。


天井耐震に関する最新の告示基準(平成25年告示第771号)は国土交通省のウェブサイトから確認できます。施工現場に関わる際の参照ポイントとして把握しておくと、顧客への説明にも役立ちます。


建設・建築業界の防災意識・建物内部の地震対策に関する調査(桐井製作所)
建設業界に従事する340名を対象にした防災意識の調査結果。天井耐震の認知度と実施状況の乖離が明らかになっています。




図解入門 よくわかる 最新地震・津波の基礎知識