国際電気標準会議規格と建築事業者の電気設備施工

国際電気標準会議規格と建築事業者の電気設備施工

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国際電気標準会議規格と建築電気設備

この記事でわかること
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IEC規格の基本

国際電気標準会議が定める電気設備の国際基準と日本での適用範囲

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建築業界での活用

建築電気設備における規格適用のメリットと実務上の注意点

安全性の確保

感電保護、過電流保護など安全保護の具体的な要求事項

国際電気標準会議規格の概要と目的

国際電気標準会議(IEC:International Electrotechnical Commission)は、1906年にイギリスのロンドンで創立された国際標準化機関です。電気及び電子技術分野における国際規格の作成を行い、各国の代表的標準化機関から構成されています。日本は創立当初から参加しており、日本産業標準調査会(JISC)が代表機関として活動しています。

 

IECの主な目的は、電気、電子及び関連する技術分野における標準化についてのあらゆる問題の解決に関し、国際協力を促進することです。これにより国際的相互理解を深め、主として国際規格であるIEC規格の発行を通じて目的を達成しています。2018年1月時点で加盟国は84か国(正会員+準会員)に達し、総発行件数は7,537件を超えています。

 

電気技術に関する全ての分野の国際基準・規格を作成するIECは、世界貿易機関(WTO)の取引基準として認識されており、欧州統合の重要な上級基準としても位置づけられています。ISO(国際標準化機構)との間では、電気及び電子技術分野の国際標準化に関するすべての問題はIECが担当し、その他の問題はすべてISOが担当するという合意原則が1976年から適用されています。

 

国際電気標準会議規格の建築電気設備への適用範囲

建築事業者にとって特に重要なのがIEC 60364規格群です。この規格は建築電気設備に関する国際標準であり、公称電圧交流1,000V以下、直流1,500V以下の電圧で供給される住宅施設、商業施設及び工業施設などにおける電気設備を適用範囲としています。

 

日本では1999年11月に電気設備技術基準の解釈第272条として取り入れられ、需要場所の低圧電気設備をIEC規格に基づいて施設できるようになりました。これは長年の課題であった電気設備技術基準とIEC規格との整合を実現する画期的な改正でした。ただし、電気設備技術基準の解釈第272条第1項ただし書きにより、電気事業者と直接に接続する場合は接地方式を同一にする必要があり、事実上TT接地方式に限られることになります。

 

IEC 60364規格群は第1部「通則」、第2部「用語定義」など複数のパートで構成されており、電気機器の選定及び施工、安全保護、過電流保護、熱の影響に対する保護など、建築電気設備の設計・施工に必要な事項を包括的に規定しています。また、電圧1kVを超える電気設備についてはIEC 61936-1が電気設備技術基準の解釈第272条の2として取り入れられており、変電所や発電所などの閉鎖電気運転区域における電気設備に適用されます。

 

国際電気標準会議規格を活用する建築事業者のメリット

建築事業者がIEC規格を活用することで得られるメリットは多岐にわたります。まず、設計・工事方法等の選択範囲が拡大され、安全かつ効率的な設備の形成に寄与します。従来の電気設備技術基準の解釈だけでなく、国際的に認められた基準に基づいて施工できることで、技術的な柔軟性が高まります。

 

海外での電気設備工事においては、その国の基準で行う必要がありますが、多くの国ではIEC規格が活用されています。IEC規格に精通していることで、海外プロジェクトへの参入障壁が低くなり、国際的なビジネスチャンスの拡大につながります。特にグローバルに展開する建設プロジェクトでは、IEC規格に基づいた設計・施工能力は競争力の源泉となります。

 

さらに、IEC規格は技術的根拠と工学的背景が明確に示されているため、安全保護の本質的な事項を理解しやすくなっています。感電保護、過電流保護、過電圧保護などの保護方法について、メカニズムと考え方が体系的に解説されており、技術者の知識向上にも貢献します。また、IEC規格準拠を明示することで、発注者や施設所有者に対する信頼性の向上も期待できます。

 

国際電気標準会議規格と日本の電気設備技術基準の違い

IEC規格と日本の電気設備技術基準の解釈には、いくつかの重要な違いがあります。最も大きな違いは接地方式です。IEC 60364では、TT接地方式、TN接地方式(TN-S、TN-C、TN-C-S)、IT接地方式など複数の接地方式が規定されていますが、日本の電気設備技術基準の解釈では主にTT接地方式が採用されています。電気事業者と直接接続する場合は、接地方式を同一にする必要があるため、実務上の制約となっています。

 

配線の許容電流の求め方にも相違があります。IEC規格では敷設方法、周囲温度、ケーブルの集合状態などの補正係数を用いて許容電流を算出しますが、電気設備技術基準の解釈では絶縁電線の種類と太さに基づいた許容電流表が提供されています。内線規程ではケーブルについて別の基準が設けられており、実務者はこれらの違いを理解した上で適切に選択する必要があります。

 

また、電気設備技術基準の解釈第272条第2項では、第3条から第271条の規定とIEC 60364の規定との混用が禁じられています。つまり、一つの電気設備において両方の基準を混在させることはできず、いずれかを選択して一貫して適用しなければなりません。ただし、IECに相当規格のない配線用遮断器、漏電遮断器、CVケーブルについては、電安法適合品、JIS規格品の使用が認められています。

 

国際電気標準会議規格に基づく電気設備の安全保護要求事項

IEC 60364規格群における安全保護は、感電保護、過電流保護、熱の影響に対する保護など、複数の側面から体系的に規定されています。感電保護については、直接接触保護と間接接触保護の二つの概念が重要です。直接接触保護は、通常の使用状態で充電部に人が触れないようにする保護であり、絶縁や筐体による保護が基本となります。間接接触保護は、故障時に露出導電性部分が危険な電圧となることを防ぐ保護で、接地と保護装置の組み合わせにより実現されます。

 

過電流保護では、配線設備の過負荷保護と短絡保護が規定されています。過負荷保護では、回路の設計電流、配線の許容電流、過負荷保護装置の定格電流の関係が明確に定義されており、配線が過熱して火災や劣化を引き起こさないようにする必要があります。短絡保護では、短絡電流が流れた場合でも配線やケーブルが損傷しないよう、適切な遮断時間内に保護装置が動作することが求められます。

 

熱の影響に対する保護については、電気機器から発生する熱又は熱放射の電気機器に隣接する人、固定機器及び固定された材料への有害な影響を防止することが規定されています。具体的には、材料の燃焼又は劣化、やけどの危険、設置された機器の安全機能の阻害を防ぐための措置が必要です。建築物内に設置される電気設備では、周囲の建材や内装材との関係も考慮し、適切な離隔距離や防護措置を講じることが重要となります。

 

国際電気標準会議規格を導入する際の建築事業者の注意点

建築事業者がIEC規格を導入する際には、いくつかの重要な注意点があります。まず、適用可能規格が制定年も含めて指定されているため、最新の規格改定状況を常に把握する必要があります。電気設備技術基準の解釈では、取り入れられるIEC規格のバージョンが具体的に指定されており、それ以外のバージョンを使用することはできません。

 

実務上の指針として、「IEC 60364 建築電気設備 設計・施工ガイド 電気設備の国際化のために」が出版されており、これを参考にすることが推奨されます。また、設計図書の作成と保管を確実に行い、電気設備を設置した建物の所有者および占有者に対してリスクを十分に周知することも重要です。特に接地方式や保護方式が従来の日本の方式と異なる場合は、保守管理者への十分な説明と教育が必要となります。

 

さらに、IEC規格に基づいて施工する場合でも、電気事業法、電気設備に関する技術基準を定める省令などの関連法令の遵守は必須です。内線規程、配電規程、系統連系規程、JISなどの国内外の民間規格も参照しながら、総合的な安全性を確保する必要があります。意外と見落とされがちなのが、既存設備の改修時の対応です。既存部分が従来の電気設備技術基準の解釈に基づいている場合、増設部分をIEC規格で施工すると混用禁止規定に抵触する可能性があるため、事前の十分な検討が不可欠です。

 

日本産業標準調査会(JISC)のIEC規格に関する情報ページ
IECへの日本の参加状況や最新の国際標準化動向を確認できる公式情報源です。

 

日本規格協会のIEC規格解説ページ
IECの基本的な役割とISOとの関係について分かりやすく解説されています。

 

経済産業省の電気設備技術基準関連ページ
電気設備技術基準の解釈へのIEC規格の取り入れに関する最新の改正情報が掲載されています。