国際標準化機構規格と建設業経営審査の加点

国際標準化機構規格と建設業経営審査の加点

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国際標準化機構規格と建設業

📋 この記事で分かること
🏗️
建設業での規格活用

国際標準化機構規格が公共工事入札や経営審査でどのように評価されるか

認証取得の実務

品質マネジメントシステムと環境マネジメントシステムの取得プロセス

💡
経営への効果

規格認証が企業の信頼性と競争力に与える具体的なメリット

国際標準化機構(ISO)が制定する規格は、建設業や不動産業界において企業の信頼性を示す重要な指標となっています。特に公共工事の受注を目指す建設事業者にとって、ISO規格の認証取得は経営事項審査(経審)での加点対象となるため、戦略的な経営判断として注目されています。国際標準化機構は1947年にスイスのジュネーブに設立された非政府組織で、世界中の標準化を推進することで国際取引の円滑化や品質向上に貢献してきました。日本国内では日本工業標準調査会(JISC)が国際標準化機構規格を翻訳したJIS規格として発行しており、両者は実質的に同じ内容として扱われます。
参考)https://activation-service.jp/iso/column/type-9001/423

国際標準化機構規格の種類と不動産業界での位置づけ

 

国際標準化機構が制定する規格は大きく分けて「モノ規格」と「マネジメントシステム規格」の2種類に分類されます。モノ規格は製品のサイズや形状、性能に関する世界共通の基準を定めるもので、身近な例として非常口のピクトグラム(ISO7010)やクレジットカードのサイズ規格(ISO7810)、A4用紙などの紙のサイズ規格(ISO216)があります。一方、マネジメントシステム規格は組織の活動や運営方法を標準化する規格で、建設業や不動産業界では主にISO9001(品質マネジメントシステム)、ISO14001(環境マネジメントシステム)、ISO45001(労働安全衛生マネジメントシステム)が重要視されています。これらの規格は企業が品質や環境配慮、労働安全などを体系的に管理する仕組みを構築するためのガイドラインとして機能します。
参考)https://www.mitsui-soko.com/column/2023/01

建設業界では2000年代初頭に国土交通省がISO9001認証取得を経営事項審査における加点対象としたことで、規格の取得が急速に普及しました。2004年3月時点で日本国内のISO9001認証取得企業約35,000社のうち、約13,000社を建設業が占めるという調査結果が出ており、製造業向けとして開発された規格であるにもかかわらず、建設業界での普及率が非常に高いことが分かります。不動産業界においても、賃貸物件や新築物件の提供において顧客満足度を向上させるためにISO9001を取得する企業が増えています。
参考)https://www.akiruno-ics.co.jp/company/iso9001/

国際標準化機構規格と経営事項審査の加点制度

公共工事を請け負う建設事業者は、必ず経営事項審査(経審)を受ける必要があります。経営事項審査は自治体などが競争入札に参加しようとする建設業者の経営状況、経営規模、技術力などを客観的に評価する制度で、その発注の合理性を保つために実施されます。総合評価点(P点)は以下の計算式で算出されます。
参考)https://activation-service.jp/iso/column/2819

P = 0.25×X1 + 0.15×X2 + 0.20×Y + 0.25×Z + 0.15×W
この計算式における各要素は次の通りです:
参考)https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001310003.pdf

  • X1:工事種類別年間平均完成工事高評点
  • X2:自己資本額および利益に関する評点
  • Y:経営状況分析評点
  • Z:技術職員および元請完成工事高に関する評点
  • W:その他審査項目(社会性)に関する評点

国際標準化機構規格の認証取得は、このW点(その他審査項目・社会性)の中の「国際標準化機構が定めた規格による登録の状況」という項目で評価されます。ISO9001とISO14001の認証を取得することで、それぞれ5点ずつ、合計10点が加点されることになります。W点全体の最高点は1,966点、最低点は▲1,995点となっており、ISO認証による10点の加点は決して小さくない影響力を持ちます。​
自治体によっては総合評価方式の入札において、ISO9001やISO14001の取得がさらに加点や評価の対象となる場合もあります。一部の地方自治体や発注機関では、特定の工事に対してISO9001の認証取得を参加条件として課すケースも見られます。このため、公共工事への参加を目指す建設事業者にとって、国際標準化機構規格の取得は競争力を高める重要な戦略となっています。
参考)https://activation-service.jp/iso/column/8399

国際標準化機構ISO9001(品質マネジメントシステム)の特徴

ISO9001は品質マネジメントシステム(QMS:Quality Management System)に関する国際規格で、数ある国際標準化機構のマネジメントシステム規格の中でも最も有名で取得件数が多い規格です。ISO9001の最終的な目的は「顧客満足度の達成」にあり、単に高品質な製品を作ることではなく、品質(Quality)、価格(Cost)、納期(Delivery)という3つの要素のバランスを重視します。いくら高品質であっても高額すぎたり納期に間に合わなかったりすると事業として成立しないため、この3つのバランスを最適化することが求められます。
参考)https://activation-service.jp/iso/column/1692

建設業においてISO9001を導入することで、工事の計画から引き渡しまでの全工程で徹底した品質管理が期待できます。具体的には、工期の厳守や施工精度といった品質要求に対応するため、現場ごとの品質ばらつきを防ぎ、業務標準化を実現します。施工計画書などの既存の現場文書をISO9001の仕組みに合わせて活用することで、無理のない運用が可能になります。また、発注者や取引先からの信頼性向上にもつながるため、競争力を高める上でも重要な規格といえます。
参考)https://civil-web.com/media/construction-iso9001/

ISO9001はもともと製造業向けの規格として開発されましたが、経営活動に即した考え方であるため、建設業や製造業をはじめとした幅広い業種で取得されています。日本国内ではJIS Q 9001として翻訳されており、JIS Q 9001の要求事項を満たすことでISO9001の認証を取得することが可能です。ISO9001:2015が2015年に改訂版として発行されたことに伴い、JIS Q 9001:2015として改正され、現在も継続的に更新されています。
参考)https://gcerti.jp/column/jisq9001-iso9001-chigai/

国際標準化機構ISO14001(環境マネジメントシステム)の重要性

ISO14001は環境マネジメントシステム(EMS:Environmental Management System)に関する国際規格です。ここでいう「環境」とは、組織を取り巻くさまざまなステークホルダーを指し、自然環境だけでなく近隣住民なども含まれます。ISO14001は企業活動が環境に与える影響を特定・評価し、継続的に環境負荷の低減を図るための管理体制を構築・運用することを求めています。​
建設業においては、騒音や振動、産業廃棄物、エネルギー消費など、環境に関わるリスクが多く存在するため、環境配慮への姿勢が強く問われる業界です。ISO14001を取得することで、環境法規制の順守はもちろん、地域住民や行政からの信頼を得やすくなります。最近では、カーボンニュートラルの推進や環境負荷の低減といった社会的責任が高まっており、建設業においても脱炭素経営やSDGs対応が求められています。このような背景から、環境問題への対応を明確に示すために、ISO14001を取得する企業が増加しています。​
企業の自主的な環境への取り組みは、官公庁案件の入札加点の対象となるため、ISO14001は経営事項審査でも加点対象となっています。環境配慮を示す国際標準化機構規格として、ISO14001は建設業や不動産業界において重要な位置を占めています。ISO14001の認証を取得した組織は、定期的な再認証監査を受け、常に規格に基づくマネジメントシステムを維持することが求められます。​

国際標準化機構規格の認証取得プロセスと実務対応

国際標準化機構規格の認証取得プロセスは、大まかに「構築」「運用」「審査」の3段階で進められます。まず構築段階では、取得するISO規格を決定し、適用範囲を明確にします。次にISO担当者を決め、規格要求事項を満たすようにマネジメントシステムを構築します。この際、コンサルティング業者に支援を依頼するかどうか、審査機関(認証機関)をどこにするかを決定することも重要です。
参考)https://civil-web.com/media/iso9001-acquire/

運用段階では、構築したマネジメントシステムを実際に運用し、PDCAサイクル(計画・実行・評価・改善)を回します。内部監査とマネジメントレビューを実施し、マネジメントシステムが適切に機能しているかを評価します。審査段階では、まず一次審査(文書審査)で品質マネジメントシステムの構築・運用において作成された文書や運用記録を確認し、マネジメントシステムの実態を確認します。その後、二次審査(現地審査)で審査員が組織を訪れ、経営者などの対象者と面談して要求事項との適合性を確認します。​
2つの審査で要求事項に適合していると認証されれば、ISO認証を取得できます。ただし、要求事項に対して重大な不適合と判断された場合には、是正処置の後に再審査を受ける必要があります。ISO認証の登録審査には約50万円から100万円の審査費用が必要で、認証取得後も維持するには定期的な審査費用が発生します。特に小規模な企業には大きな負担となる可能性があるため、費用対効果を十分に検討することが重要です。​
認証取得の主なステップ

  • 取得する規格の決定と適用範囲の明確化
  • ISO担当者の選定とマネジメントシステムの構築
  • PDCAサイクルの運用と内部監査の実施
  • 一次審査(文書審査)と二次審査(現地審査)
  • 認証取得後の定期的な維持審査

建設業に精通したISOコンサルタントのサポートを受けることで、建設業特有の業務プロセスや現場管理の実態を理解した上での支援を受けられ、社内の工数を大幅に削減しながら効果的なマネジメントシステムの構築・運用が可能になります。​

国際標準化機構規格取得の事業メリットとリスク管理

国際標準化機構規格を取得することで、建設業者や不動産事業者は複数のメリットを享受できます。第一に、品質向上と標準化の実現が挙げられます。ISO9001をはじめとする規格に準拠することで、工事の品質管理や業務手順の標準化が進み、施工のばらつきが低減し、品質向上につながります。第二に、信頼性の向上と受注機会の拡大です。ISO認証の取得は、顧客や発注者に対して企業の管理能力や安全性への取り組みを証明する手段となるため、入札や取引における優位性が高まります。
参考)https://isoconsulting-hikaku.info/column/iso/

第三に、環境・安全対応の強化が可能になります。ISO14001やISO45001の取得により、環境保全や労働安全衛生の体制が整い、法令遵守だけでなく社会的責任を果たすことができ、企業イメージの向上にもつながります。第四に、リスク管理能力の向上が期待できます。ISO認証を取得する過程で、リスク評価・対応や是正処置を継続的に実施するため、事故やトラブルの発生を未然に防止できる体制を構築できます。ホームページや営業活動においてISO認証の取得をアピールすることで、顧客からの信頼を得ることも可能です。​
一方で、デメリットも存在します。取得および維持にかかるコスト負担が大きく、特に小規模な企業には大きな負担となる可能性があります。また、マニュアル作成や記録管理、内部監査といったISO業務が増えるため、従業員の業務負担が増加し、本業における効率が低下するリスクも考えられます。ISO認証を取得するためだけの文書作成や手続き、作業が増えることで、現場にとって煩雑な作業が増えてしまい、情報を活用できなくなる「形骸化」のリスクもあります。​

メリット デメリット
品質向上と業務の標準化 取得・維持費用の負担(50~100万円)
入札や取引での競争優位性 従業員の業務負担増加
環境・安全体制の強化 マネジメントシステムの形骸化リスク
経営事項審査での加点(最大10点) 本業の効率低下の可能性
企業イメージと信頼性の向上 文書管理や内部監査の負荷

これらのメリットとデメリットを踏まえた上で、自社の状況に合わせた戦略的な判断が求められます。​

国際標準化機構規格と日本工業規格の関係性

国際標準化機構規格と日本工業規格(JIS)は密接な関係にあります。ISO規格は基本的に世界中で利用されるものであるため、英文によって策定されていますが、それを日本国内で円滑に利用する目的でJIS規格として翻訳し発行しています。例えば、ISO9001は日本工業標準調査会(JISC)によってJIS Q 9001として翻訳されており、両者は同一のものとして扱われます。JIS Q 9001の要求事項を満たすことでISO9001の認証を取得することが可能になります。
参考)https://activation-service.jp/iso/terms/3663

国際規格には、国際標準化機構(ISO)が制定するISO規格のほか、国際電気標準会議(IEC)が制定するIEC規格、国際電気通信連合(ITU)が制定する規格などがあります。日本ではこれらの国際規格に対応する国家規格としてJIS規格が制定されています。ISO、IECの規格番号から対応するJISを検索・閲覧することも可能です。JIS規格検索システムでは、規格番号や規格名称、キーワードから検索でき、JIS規格票の全文をPDF形式で閲覧できます(ただし印刷・保存はできません)。
参考)http://library.imr.tohoku.ac.jp/joho/search/standard.html

JIS Q 9001:2015は、ISO9001:2015が改訂版として発行されたことに伴い、その一致規格として改正されました。国際認定フォーラム(IAF)において、ISO9001認証の移行は、ISO9001:2015発行より3年と決められています。現在ISO9001:2008の認証を取得し、今後も継続して認証取得を考えている組織は、現在構築し実施している品質マネジメントシステムとISO9001:2015によって構築する品質マネジメントシステムとの差分を分析し、計画的にISO9001:2015への移行を進めることが期待されています。
参考)https://webdesk.jsa.or.jp/books/W11M0090/index/?bunsyo_id=JIS+Q+9001%3A2015

不動産業界においても、国際標準化機構規格とJIS規格の整合性を理解することは重要です。賃貸物件や新築物件、リフォームを提供する企業がISO9001(JIS Q 9001)を取得することで、国際品質規格に準拠したサービスを提供していることを顧客に示すことができます。国際標準化機構規格は国と国との取引を円滑にする目的や、生活を便利にする目的で制定されており、建設業や不動産業界においても重要な役割を果たしています。
参考)https://www.yks.co.jp/company/iso.php

日本工業標準調査会のJIS検索システムでは、JIS規格の詳細な情報を確認できます。
参考)https://www.city.yokohama.lg.jp/kurashi/kyodo-manabi/library/shirabemono/mikata/shizen/jiskikaku.html